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魔剣アノマロカリス

 S級防具アブソリュートが手に入ってしまった。

 これがあれば、義理の妹・ステュクスの病を止められる。

 俺は急いで屋敷へ戻った。


 玄関からそのまま妹の部屋へ。


 だが、部屋の前にはメイドが立っていた。俺の存在に気づくとお辞儀をしてこう言った。


「おかえりなさいませ、カロン様。ただいま、ステュクス様との面会はできません」

「なぜだ。今日は体調も良かったはず」

「旦那様の言いつけです」


「親父の? 知ったことか。こっちは急いでいるんだ」



 構わず部屋に入ろうとしたら、肩を掴まれた。振り返ると、そこには険しい表情の親父がいた。いつの間に……。



「カロン、勝手に部屋に入るな」

「親父……俺はついにアイテムを完成させたんだ」


「まだそんな戯言を。お前がブラックスミスギルドに入り、病を遅らせる防具を作ろうとしているのは知っている。だが、カロン……お前に鍛冶屋は無理だ」


「無理かどうかなんて分からないさ。それに――」

「無理だ。我が公爵家は代々魔術師の家系ではあるが、お前にその力が目覚めることはなかった。だから、せめて我が家の体裁を保つために義理の妹・ステュクスを迎え入れたのだ」


 親父はいつしか言っていた。

 ステュクスは『聖女』だって。

 でも“未知の病”のせいで魔力がどんどん低下してしまい、その力を発揮するどころか病弱になっていく一方だった。


 このままでは余命幾許もないという。もって一年だろうと……。


 そんなのはあまりにも悲しすぎる。

 俺に生きるきっかけをくれたステュクスを死なせたくはない。なぜ、義妹だけが不幸な目に遭わなきゃならない。そんなの間違っている。


 寿命をわけてやれるのなら、俺の命をあげたいくらいだ。でも、それは不可能だ。そんな都合の良いアイテムも能力(スキル)も存在しない。


 ステュクスの(かか)った“未知の病”は、ヒールなどの治癒スキルでも治せない。


 だから書物でも見つけた『アブソリュート』を追い求め続けた。それが今は偶然にしろ、俺の手の中に。



「親父、俺は作ったんだよ。病を緩和する『アブソリュート』を」

「カロンよ……とうとうトチ狂ったか。お前はブラックスミスギルドを追放されたと聞いたぞ」


「なぜそれを!」


「街の噂は早い。私の耳にも入ったのだよ。もういい、お前は大人しくしていろ。これ以上、妹を苦しめるのなら……公爵家から追い出す。いいな」



 親父は、逆らうなと厳しい口調で言い、背を向けて去ろうとする。……諦められるかよ。あと一歩なのに邪魔されてたまるか。

 相手が親父であろうとも。



「……親父。親父! これを見ても分からないのか!!」



 俺は作ったばかりの魔剣『アノマロカリス』を抜いた。



「なにを――む!? そ、その禍々しい力……まさか」

「こんな魔剣は帝国では売っていない。俺が作ったんだ」


「これは古代王の剣か。見事だ……贋作(ニセモノ)ではない。本物の魔剣だ」



 驚きながらも魔剣を吟味する親父。

 親父は魔導具とかを専門にしているアイテムコレクター。親父の目に狂いはない。



「信じてくれ。俺は妹を助けられる」

「そうか、カロン。お前の力は覚醒していたのか……」

「詳しいことは後だ。ネックレスを渡したい」


「……よかろう。お前のステュクスを助けたいという思いは私以上に強かった。お前には無理だと思っていたが、ここまで必死な姿を見せられては……いや、もう何も言うまい。カロン、お前の好きにするがいい」


「ありがとう、親父。信じてくれて嬉しかった」

「なぁに、今までお前には冷たくしていてばかりいた。そのお詫びだ。だが、気をつけろ……。ブラックスミスギルドには不穏な動き(・・・・・)がある」



 不穏な動き?

 ロブソンさんのことかな。

 追放されちゃったし、俺には関係ないかな。

 それよりも、ステュクスだ。



 * * *



 義妹の部屋に入ると、窓辺に立つステュクスの姿があった。

 窓を開け、風を感じているらしい。


 サラサラの銀髪が揺れて幻想的な光景を映し出す。白い肌が陽射しで反射する。俺の気配に気づいて振り向くステュクス。

 エメラルドグリーンの瞳が宝石のように輝く。



「兄さん、おかえりなさい」

「寝ていないとダメじゃないか、ステュクス」

「外の風が気持ち良かったもので」


 微笑むステュクス。

 この表情には負ける。

 全てを許したくなってしまう。


「そうだ、これを受け取ってくれないか」

「わぁ、綺麗なネックレス……どうしたのですか?」

「これはステュクスの病を遅らせる特別なネックレスなんだ。俺が作った」


「まあ、兄さんが? 凄いです」

「これで少しでも延命できるはずだ。でも、俺はステュクスの病を治したい。今はこれで少しでも長く生きて欲しい」


「ありがとう兄さん……。わたし、凄く嬉しいです……」


 ぼろぼろ泣き出すステュクスは、背を向けて両手で顔を覆っていた。喜んでもらえて良かった。

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