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人類絶滅  作者: とり千代
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四日目 人間が思うほど神様は甘くないのである。

 ぐしゃり、と煙草の箱を握りつぶした。ああ、ついに来てしまった。いつかこんな日が来るとは思っていたけれど、やはり、ダメージは大きい。ついに。ついに、煙草が切れてしまった。

「平和さん、どうしよう、煙草なくなっちゃった」

「げ、マジで? どうすんだよ?」

「あと三日もあるよ? 三日間禁煙する?」

「絶対無理! どっかのコンビニに置いてあんじゃねーの? 探しに行くか」

「そだね」

 そう言って、彼は立ち上がった。私も立ち上がろうとしたが、今の服装を見て、このまま外へ出て行くことに違和感を感じる。彼はいつもの格好のままビーサンを履こうとしていた。

「ねえ、平和さん」

「ん?」

「このまま外に行くの?」

「あー、嫌か?」

「そうだね、できれば着替えたい」

「まーな、久しぶりだし。着替えるか」

 彼は部屋の中に戻って来て、クローゼットの中をあさった。女物の服なんてあったかなぁ、なんてぼやいている。まぁ、別にいざとなったら男物の服でも良いよ、と一応言っておく。後ろからクローゼットの中を覗いたら、本当にスーツがかけてあった。それを見て、コレを着て欲しいかも、と思ったけど言うのはやめておいた。だって、このゆるいイメージの平和さんが壊れたらやだし。

「わり、これしかなかった」

「ううん。ありがと」

 そう言って彼が手渡したのは、細身のジーパンとティーシャツとジャケットだった。ジーパンはともかく、上は男物だった。そうか、そうなんだろうなぁとは思ってたけど、平和さん、彼女いないんだな。

 と思ったことも口にはださず、着替えた。意外にも大きさはバッチリだった。……ってか、これ誰の服? どう考えても身長的に平和さんじゃないし。男物だし?

「おい、美世、行くぞー」

「あ、うん」

 手を繋いで、階段を下りて。道路へ出れば、酷い悪臭と乾いた血、死体。まったく、改めて見ると、酷い有り様だ。

「臭い」

「まったくだな」

「はー、コレが見慣れた景色だったとはねー」

「世も末だな」

「お、ちょっとうまい」

 近所のコンビニへ行けば、入口は割られていた。辺りにガラスが散らばっている。危ないなぁ。平和さんはビーサン履いてきたみたいだけど、足切ったりはしてないみたい。そして、中へ入れば案の定、食べ物や飲み物類が置いてあったであろう場所は綺麗に何もなかった。煙草を探せば、運良く新品のセブンスターが三個転がっている。ざっと見る限りではマイルドセブンは見当たらない。

「なんだよ、セブンスターだけじゃん」

「ラッキー」

「一個寄越せ」

「あ、セブンスター嫌いって言ってたのに!」

「いいじゃんか、けちけちすんなよ。三日で三箱消費するわけじゃないだろ?」

「まぁ、そりゃそうだけど」

 しょうがなく一個渡す。ことごとく彼はマイルドセブンに縁がないらしい。ま、結局は彼も煙草の銘柄なんてなんだって良いんだよね。彼はさっそく煙草を開けてライターを取り出した。が、どうやら壊れてるらしく火がつかない。

「ああ、ったく!」

 彼は苛立ちながらそのライターをぽい、と投げて別のを探し出した。すると、レジの上にライターを見つけたらしく、嬉々としてそれに飛びつき火をつけた。シュボ、と音がして煙草がジジ、と赤く染まった。

「あー、ライターあってラッキー」

「うん。何だかんだでラッキーだよね」

 帰ろう、と言い出したので私もそれに続こうとする。けど、お金を払っていないことに気付いて一万円札をレジの上に置いた。当然のことながら店員なんて居る訳無いし、ネコババしたってバレやしない。でも、そこは日本人としてのモラルの問題だ。

 何でも買える魔法の紙切れ。世界が壊れる前には、誰もが血眼になってそれを集めていたというのに、今ではほんとうに紙切れ扱いだ。お店がもう何処にもないんだから、お金があったって使う場所がない。ほら、がめつい大人の皆さん、そこのコンビニのレジに一万円札が放置してありますよ? そんなこと言ったって、もう誰も金を追わない。紙切れに価値は無くなった。

 だって、この世界中の誰もが欲しいものは、金なんかじゃ買えない。それとも神様に命を売ってもらう? そんなの無駄だ。無理だ。

 この地球上のすべての人間が知っている。神様なんて存在しない。

 本当に居るとしたら、人間が壊れてくのを見て楽しんでる悪魔だけでしょ?


 人類が絶滅するまで、あと三日。

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