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人類絶滅  作者: とり千代
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三日目 人間が思うほど人生は簡単ではないのである。

 いい加減、暇だ。暇は人を殺せるだろうか。殺せるのなら、私はとっくに死んでいる。まぁ、あと四日後にはみんな平等に死ぬので、今死んでも死ななくともたいして変わりは無い。

「トランプ。ババ抜き、ジジ抜き、神経衰弱、大富豪、七並べ、ポーカー、ブラックシャック」

「なんの暗号だよ」

「今までに二人でしたトランプのゲーム」

「だいたいさ、二人でババ抜きとか、つまんなすぎるだろ。ジョーカーの押し付け合い?」

「七並べだって似たようなもんだよ」

 テーブルの上に散らばっているトランプを眺めて、彼とやろうかどうか悩んで、やめた。どうせ一回で終わる。つまり、トランプなんて飽きたんだ。他に暇つぶしの道具は無いのかと聞いたら、無言で漫画本を指差す。そんなもの、とっくに全部読んだ。もの凄く霊感の強い男子学生が死神になって戦う漫画も読んだし、魂が内蔵されている対人間相手の兵器を壊す少年の物語の漫画も読んだ。つまり、漫画も飽きたし、トランプも飽きたし、やる事ない。暇。ひまー!

「ってか、何やってんの、平和さん?」

「んー? 漫画本を綺麗に並べてる」

「よっぽど暇なんだね。平和さんって絶対O型でしょ?」

「よくわかったなー。ってかさ、お前すっげー図々しいのに、平和さんって違和感在り過ぎ」

「えー? だって、多分年上でしょ?」

「そうなのか? ちなみに俺二十六」

「私二十一だよ」

「マジで? 全然みえねー」

「うわ、ひど。私、これでも現役大学生だかんね?」

「大学生? まじで? 普通に会社員やってると思ってた」

「やだ、私大人っぽい?」

「……というよりは、老けてる」

「さいてー!」

 手元にあった適当な雑誌で彼の頭を叩く。バン、と音がして彼のいて、という声が聞こえた。その拍子に一巻から積み重ねていた漫画が崩れたが、私はそれを見てみぬフリをした。いくらなんでも、女の子に向かって老けてるは無い。デリカシーのかけらも無い。

 あー、と気の抜けた声をあげて、彼は散らばった漫画本を拾い集める。適当に重ねただけみたいで、表裏や上下はバラバラだった。その辺に適当に置いた。綺麗に重ねるのはもう良いみたい。忍者の少年が描かれている表紙が見えた。続きが読みたかったなぁ。どんな風に終わるんだろう。ま、世界がどんな風にひっくり返ったって私はこの漫画が完結したところを見ることは出来ないのだろうから、想像したって意味が無い。適当に自分の中で最終回を作るだけだ。それしかできない。それで満足するしかない。

「これでもさ、俺なかなか真面目な職業ついてたんだぜ?」

「嘘だ」

「ほんとほんと。当ててみる?」

「真面目なんて、うっそだ! 信じらんない」

「えー? 俺、ほんとに弁護士だったんだけど?」

「それこそ信じらんない! いち早くコンビニから泥棒する人が弁護士になれるわけない!」

「ま、それはそれ。プライベートと仕事はきちんと分けるの、俺」

「だから、プライベートで犯罪起こしてるんでしょ?」

「いいじゃん、別に。もう二度と仕事しないなって誰よりも早く察したの、俺は!」

「んー、まあ、それは正しかったんだけどさ」

「そうそ。だから、今俺たち食べ物に困ってないんだよ?」

「うーん。でも、信じらんない。平和さんが弁護士?」

 想像してみる。

 スーツをびしっと着こなして、ネクタイ締めて、きちっとしながらテレビみたいな裁判所に座ってて……ダメだ、無理がある。まず、スーツを着ている時点で想像できない。笑っちゃう。弁護士……弁護士。ぷぷっ!

「なんか、それもそれで良いかもね。裁判に緊張感が無くってさ」

「なんだよそれ。俺、仕事中は結構真面目なキャラだったんだからな?」

「昔からこんなセックスの事ばっかり考えてる変態じゃないと?」

「そういうこと」

「初めて私に声かけてきた時の事忘れたの?」

「忘れたな」

「痴呆症」

「まだそんな年じゃない」

 彼は立ち上がって、カップ麺を取りにいった。カップ麺と言っても、電気が無くてお湯が出来ないし、水道も無いから水も無くて、ラーメンにして食べる事なんて出来やしない。だから、スナックのようにぼりぼりと食べるしかないのだ。まぁ、水ならなんとか水道が止まる前に確保しといたし、ライターや燃料はあるから、やろうと思えばお湯を沸かす事もできるのだが、そんな気力私も彼も無い。食べれるんだから、それで良いじゃないか。

 残る時間を有意義に過ごそうとしても、いつかどこかで行き止まりができるのだ。水は無いし電気もガスも無いし。こんな生活じゃ、あの日本の生活をした事のある私や平和さんじゃ、満足できるはずも無いんだ。だったら、不便だなんて思わずだらだらと過ごせば良い。

 起きて食べて喋って食べてセックスして寝て。それで時間は過ぎていくのだから。

 そうやって時間を潰せば、私たちは確実に死の瞬間に近づいていく。そして四日後には、はい人生終了!

 ほらね。仕事場で真面目ぶらなくても、大学で友達と話をあわせようと努力しなくても、有意義でも、そうじゃなくても、人生なんてみんな同じように終わっていくでしょう?


 人類が絶滅するまで、あと四日。

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