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人類絶滅  作者: とり千代
3/9

ニ日目 人間が思うほど人間は賢くないのである。

 なんか、こうなってから人間には馬鹿が増えた気がする。ま、もとから人間は馬鹿だったけどさ。

 のどが渇いたから、水を飲もうと蛇口を捻った。けど、何もでない。そうだった。水道、終わったんだった。ちなみに、電気もガスも終わってる。止まってるんじゃなくて、終わってる。人間が働かないから、水道も電気もガスも作れない。だから、家庭にも送れない。こうなってから思うけど、先進国の設備って案外脆いよね。こんな風に人間を弱体化させる制度を作るなんて、やっぱり人間は馬鹿だった。

「平和さん、飲み物ある?」

「酒しかねーよ」

「それで良いよ。チューハイとかある?」

「あんじゃね?」

 足元の棚をあされば、出てくる出てくる。焼酎。ビール。ワイン。あ、チューハイ発見。缶ジュースなんかも大量に詰め込まれていた。え、なんでこんなに大量に買い込んでるの?

「ばーか、そんなに買うわけねーだろ。一瞬で財布が空になるっての」

「え、じゃ、何で?」

「いち早くこうなることを察知して、コンビニからパクっといたんだよ」

「あはは! 犯罪者ー!」

「バレねーよ。バレたってどうしようもねーし?」

「あ、カップ麺もあるー! 缶詰も! スナック菓子もたっくさん!」

「俺、準備良いだろ?」

「ほんと。これなら、食料に困ったりしなさそうだね」

「褒めろ褒めろ」

「ラッキー! これもらうよ」

 ピンクの缶のチューハイを一つ持って、彼の隣へ戻った。彼は可愛い猫の柄がついてるガラスのコップに透明な液体を注いだ。水なんかこいつが飲むわけ無いし、そもそもあるわけ無いから、どうせ酒だろう。ぷしゅ、と音を立ててプルタブをあける。ごくごくとのどをならして飲めば、乾いた身体にアルコールが染みるようだった。

 昨日配給所へ二人で足を運んだときのこと。配給所と言う存在は、もう、すでに跡形も無く消え去っていた。人っ子一人おらず、凄惨な場所になっていたのだ。二人で荒れた公園にあるテントを見て、そして顔を見合わせて、あの冗談がほんとになったね、と笑いあった。声をあげて笑えば、どこからか煩い、という怒号。まだ笑いが収まらず、二人とも肩を震わせながら家路についた。

「なぁ、美世、暇」

「うん。だろうね」

「することねーし。ヤろ」

「これ飲み終わってからね」

「あー! 暇!」

「叫ばないでよー。その辺の漫画でも読んでたら?」

「つーかこれ、俺のだし。全部読んだし」

「ばかものー。単行本を買ったなら、キャラクターのセリフを一言一句すべて暗記できるくらい読まんかー」

「え、それ何キャラ?」

 チューハイを逆さまにして飲み干した。ふっても何もでてこない。どうやら、飲み終わったらしい。平和さんを見れば、早くも手を回してきた。まったく、手が早いなぁ、この変態。

 私と彼は付き合っているわけじゃない。現に、私には彼氏という存在が居たし。ま、こんな騒ぎが起きて、あっけなくもすぐに連絡がつかなくなり、それっきり。どこに行ったのかな。私みたいに誰か他の人間と一緒に居るのかな。それとも、逃げた? 此処じゃない何処かへ? そうかもな。彼は、昔から臆病で馬鹿で浅はかだったから。

 ま、そんなこんなで、暇つぶしにヤりたかった平和さんと出会い、住む場所がなくなった私はなんやかんやで一緒に住むことになり。彼と私の考えは似ていたし、このゆるい関係がなかなか心地良かったし、しかも此処には食料がたくさんある。平和様万々歳だ。彼にとってもヤりたいときにヤれる私の存在はなかなか便利であろう。つまり、二人の利害一致だ。そんな感じで、きっと私たちは最後の時までなんとなく一緒に居るのだろう。

「美世、」

「何?」

「煙草、なくなりそうだな」

「コンビニからパクらなかったの?」

「パクったけど。計算ミスった」

「全部吸ったんだ。馬鹿?」

 こんな風になんでもないような会話を繰り返して、私たちは死ぬのだろう。この地球の上にいるすべてに訪れる終わりから逃れる事も無く。逃れようともせず。なんとなく死んでいくのかな。なんか、まだ実感が湧かないなぁ。ほんとに、世界は終わるの? ……って、そんな事考えるだけ無駄だね。既に世界は終わってるようなもんじゃん。道路に転がる死体。どこからか聞こえる金切り声の喧嘩の声。店という店はだいたい荒らされていて、既にこの日本は政府からも見放された。終わってるよ。この世界でまともなのが、私たちなんて。

 この世界で正常なのは、私たち? それとも、包丁を振り回すあの男?


 人類が絶滅するまで、あと五日。

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