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人類絶滅  作者: とり千代
2/9

一日目 人間が思うほど人間は丈夫ではないのである。

 朝起きれば、昨日と全く同じ光景がそこにあった。くだらないなぁ、と思って煙草を吸うためにベランダに出る。道路には、ゴミ、死体、ゴミ、ゴミ。死体をゴミと分類するのなら、その上にはゴミしか無い。そんな光景にも、もう見慣れてしまった。見慣れてしまってるのにも、大分問題はあると思うけど。でも、私はこの世界でまともな方だ。死体を見ながら煙草を吸えるのが、この世界ではまともと分類されるなんてね。変なの。

美世みよ、はよ」

「おはよー、平和ひらかずさん」

「一本くれ」

「ん」

 彼は私が差し出した煙草の箱から、一本とりだした。セブンスターはやだとか言うくせに、いっつも私の煙草をもっていく。ちなみに彼はマイルドセブン派だ。

「ん? 死体増えてんじゃね?」

「え、なんでそんなのわかんの?」

「ほら、増えてるって。あの金髪の女」

「やっぱり女関係なんだ」

「あったりまえだろ。男の死体数えて何が楽しい」

「死体数える時点で正気じゃないよ」

「それ、あの女殺したやつに言ってやれよ。多分彼氏だから」

 なんで分かるの? と思ったけど、あの金髪の女の人が平和さんの知り合いだったことに気付いて、口をつぐんだ。そっか、ミチルさん、世界を終わりを待たずに逝っちゃったんだね。ご愁傷様。そういえば、あの人の彼氏はまえから誰かを殺したがってた危ないやつだったっけ。そりゃ殺されるわ。

 紫煙を肺に溜め込んで、吐く。吸う、吐く。そんな単純なことを繰り返して、私の肺は不健康に侵されていく。でも、ま、今更健康に気を使ったってね。長生きできないんだし、無意味無意味。

「お腹すいたなぁ」

「もう食いもんねーぞ」

「うっそ、配給所行く?」

「まだ機能してんのかね? こんなときまではたらかないといけないなんて、政府の人たちも大変だ」

「まったくだねー」

 はは、と笑う。平和さんも煙草を片手に笑っていた。私の吸っていた煙草は大分短くなってしまったので、下に落とした。ちょうど落ちた所にミチルさんの死体があって、そのお腹と心臓から流れ出ていた血で煙草は消えたようだった。

「あ、美世、配給所に行く前に一回ヤらせろ」

「はぁ? 起きたばっかじゃん」

「いいだろ、配給所なんて急ぐもんでもないし」

「急ぐ急ぐ。お腹空いたし、いつまで配給やってるかわかんないし」

「ふむ。一理あるな」

「今ごろ、配給所でみんなして鬼みたいな顔で殴り合ってたりしてね」

「在り得る」

 平和さんは、煙草をもった右手ではなく、左手で私を引き寄せ、半ば強引にキスをした。右手に持った煙草は、私と同じように下に落とした。何の音も聞こえないけど、たぶんミチルさんの血で消えたことだろう。ありがとね、ミチルさんがこの下で血を流して死んでくれたお陰で、このアパートは火事を出さないでいられそうだよ。なーんて。そんなことを考えるなんて、ミチルさんに失礼?

 彼は空いた右手で私の身体を触り始めた。やっぱりするんかい! と心の中でツッコミをいれて、部屋の中に戻ろうってどうやって提案しよう、と口を塞がれたままぼんやりと思った。ボロアパートの二階、右から二つ目の部屋のベランダにて。


 人類が絶滅するまで、あと六日。

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