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流れる星にかける思い

わたしのお父さんはいろんなところへ連れていってくれた。

お父さんは自然が好きで、森の中へ行ったり、ちょっとした山に登ったりしてて、

それについて行くことがわたしも好きだった。


ある冬の土曜日、お父さんが「今日は夜に出かけよう」といった。

そのときのわたしは、夜に遠くまで出かけたことはなくて、どこに行くのか全然わからなかった。


夕食をすませて、お父さんは「寒いからしっかり服を着込むんだよ」という。

―たぶん、お外でなにかあるんだ と思って、いつもの助手席に座った。


お父さんは、街灯もない小さなキャンプ場の駐車場で車を止めた。

ドアを開けたら、西からの風がとても冷たかった。


すると、お父さんは車のボンネットの上に寝ころんで、

「今日は月が明るいな」と、あまり嬉しくなさそうに言った。

わたしはきれいに丸くなった月を見て、「満月。きれいだね」とつぶやいた。


それを聞いていないのか、お父さんは何も言わないまま空をながめていた。

何が見えるのかなと、わたしもお父さんをまねて夜空を見上げた。

2人の吐く息が月明りで白く上がるのだけが見えた。


「お月さまを見に来たんじゃないの?」わたしはそう思いこんでいた。

「そうだね。お月さまは丸くて明るくてきれいだけど、

 今日、パパが本当に見せたいものじゃないんだ」と残念そうだった。


「もう今日は帰ろうか。次は夏休みに一緒に出かけよう」

よくわからないけどお父さんとそんな約束をした。



新しい学年に上がって、夏休みがやってきた。

「きっと次はうまく見られそうだな」とお父さんは自信ありげに言ったけど、

「ほんとにー?」とわたしはあまり期待していなかった。


8月になって、ある晴れた日に車で行くことになった。

途中でおにぎりやパンと飲み物を買って、“目的地”に着いた。

まだ夜まで時間はあったけど、お父さんはいろんな話をしてくれた。


わたしも、お父さんに普段はしないような学校でのできごとや友だちのことを話したくなった。

お父さんは恥ずかしがり屋で、目を合わせてくれないけど、きちんと聞いてくれた。


日が傾いて、だんだんと暗くなり始めた。一番星が西の空に輝いている。

「あともう少しで始まるよ。」今日のお父さんは楽しそうだった。

「今日はお月さま出てないね。」とわたしが言うと、

「それがいいんだよ」と返ってきた。


冬とは違って寒くはないけれど、ここにも街灯はないし、月明かりもない。

気がつくと、不安になるくらい真っ暗闇の中だった。


「よし、見上げてみようか。」

お父さんは前と同じように、車のボンネットの上に寝ころんだ。

わたしもすぐにお父さんのまねをした。


「あ、何かが光っていったよ!」とわたしはお父さんに聞いた。

「見えた? いま光ったのが流れ星だよ」

「流れ星?!」わたしは初めて見れたことがうれしくて興奮して聞き返した。


お父さんもうれしそうに、

「次に流れ星を見つけたら、おねがいごとを言ってみて」と言った。

「おねがい?」と急に言われても困った思い出がある。

「そう。消える前に3回言えたらかなうんだってさ」

「パパはおねがいしないの?」

お父さんはそんなことを信じていないことはわかっていた。

まったく夢がないなと思ってた。



「パパがママに『結婚しよう』って言うときに、ここに来たんだ」と教えてくれた。

そして、お母さんに「この星空を見上げてどう思う?」と尋ねたんだって。

お父さんは、わたしにも同じ質問をしてきた。


わたしはすぐに答えられなかった。

お母さんはこんなことに興味がありそうじゃないし。

でも、わたしはこの星空を見上げて、すごくキレイって思った。


「パパは、そのときに流れ星を見つけて『結婚してください』って3回言ったんだ」

お父さんは照れくさそうに言った。

「それで結婚できたの?」

わたしはワクワクするような、ドキドキするような気持ちになっていた。


「ママは何も言ってくれなかったんだ。」

わたしには期待外れな答えが返ってきたが、

そんなお母さんの気持ちもわからなくもなかった。


「でも、その日だけ一緒に車の上で流れ星を数えてくれたんだよ。」

結局、お父さんののろけ話を聞かせられたのだった。


―結局、お母さんもお父さんが好きなんじゃん

そう思って「はぁ・・・」とため息一つしたら、また一つ星が流れていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラブラブですね。 楽しく読ませていただきました。
2022/01/04 12:58 退会済み
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