表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/34

21:祓い師


 葵衣と話をした俺と柚梨は、その足で集合場所まで移動をすることにした。


 気を逸らせるような話題も思い浮かばずに、道中は何も話さずにいたのだが。

 不安げな柚梨の手は、ずっと俺のコートの裾を握っていた。


「樹、柚梨ちゃん、こっち!」


 待ち合わせ場所に指定されたのは、俺たちが最初に出会ったカフェだった。


 先に到着していた葵衣が声を掛けてきたので、店員に待ち合わせであることを伝えて、そちらの席へと足を向ける。

 今日の葵衣は、制服を身に着けていた。


「お前……そういえば学校は?」


「抜けてきたわよ。授業受けてる場合じゃないでしょ」


「いや、そうだけど……」


「とりあえず、いいから座れや」


 俺と柚梨もサボりなので人のことは言えないのだが、葵衣はまだ高校生だ。


 こんな風に授業を抜けさせていいものかと思ったが、彼女の隣に座る丈介は特にそれを気にした様子もなく、俺たちに席につくよう促した。


「アンタに心配されなくたって、少し休んだくらいで成績が落ちるようなバカな頭はしてないから」


「ごめんね、葵衣ちゃん。こんな風に巻き込んじゃって……」


「柚梨ちゃんは気にしなくていいの! っていうか、巻き込まれたわけじゃなくて、アタシにだって関係あるんだからね」


 申し訳なさそうにする柚梨に、彼女のせいではないのだとフォローを入れた葵衣は、こちらにメニュー表を押し付けてくる。


 ひとまず飲み物を注文すると、俺たちは買い替えたばかりのスマホを二人に見せた。


「ホントだ、アプリ入ってる……」


「本当に、オメェらがインストールしたわけじゃねえんだよな?」


「はい。設定しようと思って電源を入れたら、もうこの状態でした」


 信じられないのも無理はないが、俺たちだって目を疑ったのだ。


 試しにアプリを起動してみると、すでにログインされた状態となっていて、自分の入力した会員情報を見ることができるようになっている。


 データの引き継ぎをしたのであればまだしも、アプリに紐づけされるような情報は何もないのだ。


「身代わり人形もダメ、スマホを壊してもダメ。……一筋縄じゃいかないっていうのはわかってたけど、しつこすぎるでしょ」


「スマホを持たずに一生過ごすって手もあるかもしれないけど……現実的じゃないよな」



 これは俺の予想でしかないのだが、スマホを手放せば良いのなら、ガラケーを使い続ければいい。

 けれど、ガラケーだっていつかは無くなる。


 それに、スマホを手放したところで、このアプリはパソコンやその他の電子機器を介して、俺たちに近づこうとしてくるような気がしてならないのだ。


 やはりどうにかして、根本的な原因を解決する必要がある。


「人形での身代わりがダメなら、他の人間を身代わりにするっつー手もあるがな」


「ちょ、丈介さん……!? 何言ってるんですか!?」


「たとえばの話だよ。人形を使ったとき、一時的にとはいえ逃れることができたんだ。それが本物の人間だったなら、正式な身代わりになるんじゃねーかと思ったんだよ」


 確かに、丈介の言うことも一理あるのかもしれない。


 身代わり人形で祝言を挙げた時、怪異は俺たちの前からその姿を消したのだ。間違いなく、効果はあったと言っていい。


 それならば、その身代わりが生身の人間であったとしたら……彼の言う通り、怪異は満足してくれるのかもしれない。


「そんなのダメです……!」


 ほんの一瞬、揺らぎかけた俺の思考を現実に引き戻したのは、柚梨の声だった。


 この状況から一番逃げ出したいであろう彼女が、気丈にもひとつの案を否定していた。


「私が助かるために、他の人を犠牲にするってことですよね? そんなの、絶対にダメです……死にたくないけど、そんな手段を使ってまで、生きたいとは思いません」


「柚梨……」


 ほんの僅かでも、身代わりの案を検討すべきかもしれない。そんな風に考えた自分が恥ずかしかった。


 柚梨は誰かを犠牲にして、自分が助かって喜ぶような人間じゃない。そうなるくらいならむしろ、自分から怪異に身を捧げるような奴だ。


 だからこそ、俺は柚梨を守りたいと思ったのだから。


「悪い、オレも実際にそんなことやろうと思ってねェよ。第一、誰を身代わりに連れてくんだって話だしな」


「いえ、私もムキになってしまってごめんなさい……」


 肩を竦めて見せた丈介は、それ以上身代わりの話を続けるつもりはないらしい。

 柚梨の謝罪をもって、この話題は終わりとなった。


「なあ、葵衣が言ってたお祓いって……?」


 今日はそれを聞くためにこの場所に来たようなものなのだ。身代わりの話に心を揺らがせている場合ではない。


 運ばれてきたカップが並べられている間、葵衣は自身のスマホを何やら操作していた。


「アタシも、調べただけだから確実かどうかはわからない。だけど、祓い師をやってるって有名な人がいるって、聞いたことがあったんだ」


「祓い師?」


「悪霊とか、そういうのを祓ってくれるんだって。謝礼はそれなりに必要になるけど、ネットじゃ有名な人みたい」


 そう言って見せられたのは、あるホームページだった。


 真っ黒な背景に赤い文字で『祓い師・呪離安凪の館』と書かれている。


 その周りには、『驚異の依頼達成率!』『お困りの方は即日ご連絡を』などといった文言(もんごん)も記載されていた。


「祓い師、のろ、り……?」


「ジュリアンナ! ハンドルネームみたいなもんでしょ。ホラ、この人」


 葵衣が指差した先には、ゴテゴテとした宝石で着飾った、濃い化粧の派手な女性が映っていた。


 恰幅(かっぷく)のいいこの写真の女性が、恐らく呪離安凪(ジュリアンナ)なのだろう。


「……何か、胡散臭(うさんくさ)くないか?」


「…………」


 俺だけではない。間違いなく、この場にいる全員がそう思っていたのだろう。


 だが、他に案があるかと問われれば、俺も口を閉ざすしかなくなる。


「見た目は確かに胡散臭いけど、人は見かけによらないかもしれないでしょ! 丈介を見なさいよ!」


「オメェはナチュラルに失礼だな」


 失礼だとは思ったが、確かに丈介さんに対する印象も、初対面から随分変わったのは否定できない。


 この呪離安凪(ジュリアンナ)という女性も、胡散臭さは全開だ。


 だが、実際に彼女に依頼をした人から、評価を受けていることも間違いないらしい。


 どれほど怪しい人物だったとしても、この怪異から逃れる方法があるのなら、試してみる価値はあるのかもしれない。


「連絡、取ってみようか」


「そうだね。まずは会ってみないと、どんな人かもわからないし」


 柚梨もそれを嫌がる様子はなかったので、俺は早速ホームページに記載されている番号に電話をかけてみることにした。


 一度店の外に出て電話をすると、対応をしてくれたのは男性だった。


 恐らく、呪離安凪(ジュリアンナ)のところで働いている、事務員か何かなのだろう。


 人気がある人物なら待たされる可能性もあると思ったのだが、意外にもすんなりと予約を取ることができた。


「今日にでも来てくれていいって」


「マジ!? ならグズグズしてらんない、さっさと行くわよ!」


 驚きはしたものの決断が早い葵衣は、飲みかけのカップもそのままに立ち上がる。


 俺たちもそれに続いて会計を済ませると店を出て、丈介が駐車場に停めていた車へと乗り込んだ。


 呪離安凪(ジュリアンナ)の指定した場所は、隣の県だ。車でなら、二時間も走れば到着する距離だった。


「……柚梨、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。お祓い、上手くいってくれるといいね」


「そうだな」


 後部座席に座った俺は、隣に座る柚梨の顔色を窺う。


 平気なふりをしているが、実際は昨日までの恐怖が蘇ってきているのだろう。


 このお祓いが上手くいくことを願いながら、俺たちは車が現地に到着するのを待った。


お読みくださってありがとうございます。

【☆☆☆☆☆】を押したり、ブックマークなどしていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ