俺、『砂塵の輩』と語らう
遅くなりました。コロナワクチンの注射とか色々こなしてました。
「あの。道を訪ねたいんだけどいいすか? お…私
、魔王国に行きたいんですが…」
「おお、私どもも魔王国に帰る途中なのです。そうだ、何かお礼もしたい、我々と一緒に参りませんか?」
と言うわけでユートもサイ車にご一緒することになった。
うーむ正直馬車の速度に合わせて移動するのは苦痛。跳んで移動してきたからなぁ。どうお断りしようかと考えていたら…ケモ耳少女が怯えたような瞳で俺を仰ぎ見、俺の服の裾をぎゅっ握る。
「…一緒に行こ?お姉ちゃん…」ぐすっ…
ユートは少女の涙には弱いのだ昔から。
「この辺りりからだと魔王都までまだ3日はかかるぞ。君は魔法に長けているようだが女性の一人旅は危険だ。我々と一緒に魔王都に行かないか?」
護衛のパーティーのリーダーが言う。
「てな事言ってるけどリーダーはあんたの戦力をアテにしてるんだ。あんたみたいに使える奴がいると本当に助かる。」
少女の頭のもふもふを撫でながら同行を承諾する。この世界のエルフ以外の人との初コンタクトだ。出会いは大切に。
「俺はこのパーティー『砂塵の輩』のリーダー、ディックだ。」
虎っぽい親父が名乗る。
輩って。どんなネーミングだよ⁈
「アタイはキャトー。こっちの斥候がサブナな」
キャトー。猫娘はまんまな名前だった。
ユートも自己紹介をする。
「私はユート。見ての通りごく普通のエルフです。」
「…いやごく普通のエルフは土魔法なんか使わないだろ?」
鋭い返しがディックから返ってくる。
サイ車の中では少女に根掘り葉掘り質問責めに会った。ユートは差し支えのない範囲で身の上話をする。
初めてエルフの里を出た、とか理由があって魔王に会わなければならない、とか。
「ほう、この時期に魔王様に会いたいという者はみんな王立ギルド学院を目指すものだと思っていたが…君はギルド学院の入学試験は受けないのかね?」
ヒムラーさんがいきなり気になる事を言う。
「王立ギルド学院…ってなんですか?」
「おおう、知らんかったようじゃな。無理もないエルフの里を出たことがないのであればな。」
話を聞くと、魔王国は冒険者立国だと言う。冒険者が狩る魔物等の素材が産業の柱。故に様々なギルドが冒険者に仕事を依頼するシステムでそれを国が全面的に支援している。冒険者の教育にも熱心だ。王立ギルド学院は国が作った冒険者教育機関なのだ。
ちょうどこの時期は入学試験のシーズンなのだという。
冒険者か…その選択はなかったなあ。てか冒険者か。異世界テンプレ来ましたなあ。
などとひとりごちていたら
「王立ギルド学院は毎年優秀な成績を取った者は魔王様に謁見を許される栄誉を受けるというぞい」
マジすか?もしかして魔王までの最短距離?
これはいい話を聞いた。
日が暮れて来た。サイ車は停車してみんなで野営の準備に入る。夕食はみんな干し肉と乾燥野菜。旅の間は皆こんな程度らしい。味気ない。しかしユートは料理少年だった。家族はともかく自分もとにかく上手いものが食いたいという向上心がそうさせた。なのでこの異世界の野営飯には我慢ができなかった。『収納』をまさぐり素材を引っ張り出す。世話になってる礼にと手持ちの魔熊肉や野菜、羊乳、岩塩等を使ってシチューを作る事にした。。
土魔法で竈を作り鉄鍋を生成。水魔法で煮炊用の水を生成し火魔法で加熱、土と風の混合、重力魔法で加圧をかけてトロトロに煮込む。たかが料理だが四柱の精霊の力をフルに使わせてもらっている。ユートは料理は妥協しないのだ。精霊魔法が使えるようになってからはさらに応用が効くようになってエルフの里でも毎日料理当番をやってた。エルフのみんなにも評判良かったのだ。別れ際にエルフが残念がった理由もそこである。
暖かいシチューを土魔法で作った器に盛ってみんなに差し出す。
「‼︎」「なんだこれ美味いっ」「美味しいー」
大絶賛である。いやおっさんたちはどうでもいい。ケモ耳少女が本当に美味そうに食べてくれるのがなによりのユートへのご褒美なのだ。
「おかわりいる?」
「うん!」
「こらユキ!遠慮なさい!」
まあまあ爺さんも遠慮せずに。
腹が一杯になってみんな眠りにつく。ヒムラーさん達はサイ車、他は野宿。『砂塵の輩』は交代で見張りに立つ。ユートも一緒にサイ車で眠る事になった。『砂塵』の人達には申し訳ない。少女が一緒に寝ようと手を離してくれなかったのだ。今の季節はいつなのかまるでわからないが夜は肌寒い。サイ車の中、ケモ耳幼女が震えて丸まっている。
ユートは『収納』から魔熊の皮を鞣して拵えたゴージャスな毛布を幼女にかけてやる。表情一変ぬくぬく顔である。
「あったかい…」
ユートも満足気であった。ごめんなさいヒムラーさんの分はありません。と隣の爺さんに頭を下げる。
それから何度か遭遇した魔物を『砂塵』のみなさんと共に狩ったりしながら進んだ。このパーティーは相当成熟していて随分勉強になる。特にリーダー・ディックの統率力がすごい。獲物の追い詰め方、皮や素材を傷付けない狩り方とか血抜き、解体も丁寧に教えてくれた。
全てが異世界から来たユートにとって初体験だった。
こっちが余りに素人過ぎて申し訳なくなってユートは解体を真剣に学んだ。。熟練した冒険者はユートのかっこうの教科書だった。
彼らはユートが魔王に会いに行くと聞いてアドバイスをくれた。
「魔王様は滅多に人前に出てこないし本当にいるのかさえ疑われてるくらいだ」
とサブナ。
「アタイだって会ったことなんかないよ‼︎」
とキャトー。
「まあ、実在するのは確かだ。俺がギルド学院にいた頃に会った事がある」
とディック。
ディックは王立ギルド学院を主席で卒業したそうだ。卒業式で魔王と謁見を果たした。
ユートはディックに聞く。
「じゃあギルド学院に入学して成績優秀者を目指すのが一番手っ取り早いと?」
「てか他の手が思い付かん。とにかく魔王様は気まぐれ過ぎて魔王都で落ち着いているとこを見た事がない。」
ギルド学院か。異世界に来てまで学校か。
ん? そもそも俺とか受験資格あるのか?
ユートは悩む。
「入学試験って…なんか資格とか条件とかあるんですか?」
「ん、13歳以上なら特に条件はないぞ。他国民でも大丈夫だ。ただ…」
「ただ?」
「そろそろ今時が入学試験のはずだぞ。毎年一回この時期だったな。」
えっ ヤバいっ 早く魔王都に行かないと
「大丈夫、もう魔王都だほら。」
丘を越えて城下が見えて来る。白く巨大な城塞都市。
高くて白い街全部を覆う城壁が特徴だ。もしかしてこの異世界では当たり前なんだろうか。サイ車のまま国境門をくぐる。入国の手間とかなかった。ヒムラーさんはこの国でも有力な商会の会長なのだそうだ。
目的の店に到着し、幾ばくかの御礼をヒムラーさんから戴く。ユートは遠慮したが当然の権利だ貰っとけ、とディックに嗜めらる。
そしてとうとうキツネ耳少女とお別れ。泣きながらぶんぶん手を振る少女。ユートも見えなくなるまで手を振った。ああもっと
モフリりたかった…
ユートは『砂塵の輩』と共に冒険者ギルドに向かう。入学試験の手続きはギルドで出来るという。『砂塵の輩』は依頼完了の報告だ。
初めての異世界の街並みにユートの心には期待と不安が入り雑じっていた。
次話は明日にでも。




