俺、人のいる街道に出る
エルフの里は嫌いじゃないが閉鎖的だ。とにかく外界の情報が入って来ない。知りたい魔王の情報など皆無だった。なので一月程世話になったエルフの里をユートは出る事に決めた。
もう一月帰っていないのだ。何も出来ない母が心配…というか多分ぶん殴られる。
出ていくことを長老に告げるとそうか元気でな、としょっぱい対応。エルフの性がこうなんだろうな。そんな中でも知っているありったけの情報を教えてくれた。
『魔王は魔王国の魔王都に住んでいる』
『外の世界は冒険者社会。人々が魔物を狩って売って生活している』
つまり外は剣と魔法の世界なわけだ。どう考えても文化レベルは中世以前ということだろうな。気が萎える。エルフ里には風呂もなかった。みな水浴びなのだ。ユートが魔法でお湯を沸かしてかぶっていたら驚かれた。
冒険者社会に馴染めるかどうかわからないがハイエルフであることには早く馴染もうとユートは思う。だが自分の身体には未だに馴染めていない。とにかく邪魔なのだ。胸が。ぶるんぶるん揺れる胸が。エルフの服文化にはブラジャーはなかった。なおさら酷いことになっている。せめてニプレス的なものが欲しい。
荷物を整理する。転移した時に持っていた制服、鞄、スマホも『収納』に入れてある。ユートが門馬優斗(男)である証拠だ。写真付きの生徒手帳も入ってる。
あと、エルフの薬学を教わって薬草から作った異世界定番のポーション、魔力ポーション、解毒ポーションなどとニナに解体してもらった魔熊の肉と魔石や売れる部位。
それとエルフの里で手に入ぬった小麦粉始め野菜等食材と調味料。長老が泣きながら提供してくれたものだ。これでパンもどき(パン麹がないのでパンにならない)が食える。
ユートは里のエルフみんなにお世話になったお礼をいって次の日の早朝里を旅立った。
ちなみに世界樹はガン無視だ。あれから何も語りかけてこないし連れてきた責任も取らない。これ以上関わりたくないのが本音だった。
結構な数のエルフ達か名残惜しそうだったことにはユートは気付いていなかった。
とにかく森を出て人の通りそうな街道を見つける事が先決だとユートは森を西の方向に飛ぶ。魔王国の方向だけは長老が知っていた。ただ距離がわからない。何日飛べばいいのかわからないのだ。今身体には風の精霊が降りて来ている。風の精霊に聞いてみる。が、
「あたしにわかるわけないでしょ魔王の国なんて」
とにべもない。どうせチートなら大賢者が欲しかったと思うなろう脳のユートだった。
エルフの里のある森を抜けるのに丸1日かかった。ずっと飛んでいたのにだ。歩きだったら何日かかったことだろう。やはりこの世界移動には時間がかかりそうだ。ようやく森を抜けたらその先はサバンナのような平原が広がっていた。魔獣もうようよいる。 平原の入口にあった大樹の上に野営用の寝袋(エルフの里で売ってた)を敷いて夜を過ごす。一人の夜は寂しい。しかも未知の土地だ。ユートはちょっと申し訳ない気分で話し相手に四柱の精霊を呼び出した。
精霊達相手に自分の事や母親の事、日本の社会の事、帰りたい事、世界樹への愚痴等話していた。チャチャを入れられたりばかにされたりするかと思ったら彼女達は静かに聞き入ってくれた。ユートが元々男だと言うと今更ながらに驚いていたが。
サバンナは森より広かった。ニ昼夜飛んで移動したが人が使っていそうな街道にはぶつからなかった。仕方がないのでユートはサバンナの魔獣の群れやライオンもどきのハンティングを眺めてこの世界の自然を堪能していた。
3日目にようやく道らしきものを見つける。馬車の轍らしき跡で荒れている。その道沿いに移動を続けると馬車の様なものを見つける。馬車と違うのは籠を引っ張っていたのがサイのような魔獣だったことだ。
サイ車?の周りには二本脚の小型の乗用蜥蜴に乗った人間達か囲んでいる。これはもしかして…異世界テンプレのひとつ、『盗賊に襲われる馬車』というやつではないだろうか!?
厨ニ精神が疼く。襲われてる彼らに悪いが心踊るユートだった。
ユートは空から様子を伺う。するとサイ車の車軸が狙われたらしく停車してしまうサイ車。護衛の冒険者らしきパーティーが追いすがる盗賊達を追い払っているようだが盗賊達は十数名、多勢に無勢だ。あ、パーティーの一人が魔法を放った。派手だなあ。
よく見ると襲われてるサイ車の中には老人と幼女が。耳が頭に生えている。獣人というやつではないだろうか。そういえば守っているパーティーのメンバーも獣人だ。
対して襲う盗賊はどう見ても人間。盗賊の割には統率が取れているのが気になる。
ユートは獣人達を助けてやりたいが事情がわからない。手を出して良いものだろうか悩む。
だが見ているうちにサイ車の御者が切りつけられ護衛の女獣人も矢を受ける。命に関わる。ユートは獣人達を助けることに決めた。ユートは四柱の精霊を呼び出してその精霊魔法を行使する。
「はっはー!!街道を利用する獣人は全て狩れ!!街道は我ら人種のものだ!!」
そう叫ぶ盗賊の頭はやけに装備が充実している。プレートメイルに鋼の剣。回りの部下達も盗賊とは思えない武装の充実ぶりだ。どうやら盗賊に偽装した人間種の獣人狩りのようだ。
ユートはまず土魔法で押し寄せる盗賊の乗用蜥蜴の足元の地面を泥沼に変えた。蜥蜴はどんどん泥に沈む。底無し沼だ。盗賊達は慌てて蜥蜴から飛び降りるが泥に足を取られ自分達も沈んでいく。プレートメイルなどつけていたら尚更ずぶずぶ沈む。
「な、なんだこりゃ?」
「た、助けてくれー!!」
ユートは盗賊連中が首まで泥に埋まったところで土魔法を解く。なんと盗賊全員が首だけ出した形で地面に埋まっていた。
獣人の護衛のリーダーは訳がわからずそのさまを眺めていたがそんな呆然とした彼の前に空から人が降りてくるのが見えた。黒髪・短髪だが耳に特徴がある森の人特有の民族衣裳。
「あんたエルフか。珍しい」
ユートは護衛のリーダーらしき虎の獣人に声をかける。
「大丈夫でしたか?怪我人がいるようですが治療しましょうか?ポーションをいくつか持っているので」
「ありがとう、流石はエルフだ。だがこちらにも治癒魔法が使える者がいるので大丈夫。」
そう言って虎獣人は怪我をした従者と矢が刺さった女猫獣人に魔法を唱える。
「エリアヒール」
えぐれた肉がみるみる盛り上がって傷が塞がる。そういえば治癒魔法は初めて見るユートだった。
「すごいですね。初めて見ましたヒール」
「何言ってんだこっちこそあんな土魔法を広域で使うエルフなんか初めて見たぞ」
「エルフって風魔法か水魔法しか使えないって聞いてたけど?」
猫獣人が目を見開いてユートに聞いてくる。そういえば里でも土魔法が使えたのはゾンデだけだった。今更ながら少し戸惑うユート。ハイエルフというのは言ってはいけない気がしてる。トラブルの元だ。
「で、リーダーこの人間どもどうします?全員息の根止めますか」
猫獣人が素敵な笑顔で飛んでもないことを言う。
「このままでいい。その内帝国の兵士が見つけるだろう。その前に魔獣に襲われるかも知れんがそこまでは知らん。自業自得だ」
ん?どうやらこの世界『魔王国』と『帝国』が存在するらしい。そうこうしてるとサイ車の中からキツネ耳の老人と5、6歳の少女が現れる。
「助かりましたのじゃエルフのお嬢さん。タンザで買付を終えた所で人間種の盗賊団に狙い打ちされたようです。あ、私どもは魔王都にて商会を営むヒムラーと申します。こちらは孫娘のユキですじゃ」
キツネ耳の5、6歳の少女。可愛すぎる!!妹にしたい!!てかモフりたい!!
挨拶がすんで先を急ごうかと思ったがヒムラーさんが是非御礼をしたいので魔王都まで一緒にサイ車に乗って行こうと誘われた。キツネ耳の少女を見るとユートに憧れの目をぶつけている。どこがそんなに気に入られたのだろうか?…ユートは知らなかったがこの世界土魔法と言えば石礫か壁を作るくらいしか使われない。広域で底無し沼を作るなど規格外過ぎてまさに魔法を見るようだったのだ。しかも空を飛んでやって来た。少女には黒髪・短髪の麗人に見えたようだ。
結果、ユートはサイ車の中で少女に質問責めに会う。




