勇者来襲
あけましておめでとうございます。こちらもよろしくお願いします。
「ものすごいスピードで人間がこの里にやってきます!! 」
驚く長老。
「人間だと? 結界が働いとるからこの里は視認される事はないはずじゃ。」
「しかし、真っ直ぐにこの里に向かっています。木々をなぎ払って一直線に‼︎」
別の気配探知が使えるエルフが叫ぶ。
「凄まじいスピードで迷いの森を一直線にこの里を目指しています。。魔猪並みの移動速度です。人間ではあり得ない!」
ユートは嫌な予感がする。もう奴が来たのかも知れない。
【勇者】が。
ユートは勘を信じる。
「長老、すぐに里の人々を避難させて。出来るだけ遠くに。私時間を稼ぐ。援護するなら長距離から。エルフ兵のみんなは決して近づかないで!」
「ユート⁈ 1人で行く気か⁈」
「世界樹から頼まれたんでね。今ここにはハイエルフは私1人しかいないんでしょ?出来るだけの事はやるよ。」
「バカもん‼︎ お主は違う世界の住人じゃ‼︎ 何の責任もありゃせん‼︎ さっさと逃げろ‼︎」
「私はこの世界の住人でハイエルフだよ」
そう言って里を飛び出す。
里の後の事は曾祖母さん達に委ねる。
四大属性精霊を自分に降ろし最大強化。出来るだけ里から離れる為超速で前に出る。遥か西方からブルドーザーが森を掻き分けるかのように何かが接近して来るのを感知する。あの速度とても人間技とは思えない。ユートは覚悟を決めてその前へ飛び出す。
そこには12、3歳に見える人間の少女がいた。金髪の美しい少女だが高級そうな胸当てに虹色に光る大剣を持っている。
後ろに神官風の二十代の男、ローブを纏った十代後半に見える女。どちらも人間のようだ。
少女が口を開く。
「エルフか。どけ。亜人如きに我の進撃は止められん。」
ユートは気を落ち着かせて彼女に問う。
「魔王国内のいろんな場所で暴れ回る人間とはお前か。何者だ?」
予想は付くが聞いてみる。まさかこんな少女とは思わなかったが。
「我は聖グローザム帝国所属、【勇者】アベリア。教皇の命にてこの世界の亜人文化の殱滅を行なっている。」
「文化の殱滅⁈」
「この世界には人類以外に文明を持つ者はいらない。それが我がグローザム聖教の御心だ。冒険者文化?はっ魔獣を大切にしろ?馬鹿馬鹿しい!! 全て駆逐してやる!! もちろん最終的には魔王国をも滅ぼしてやるわ。ハハハ‼︎」
なるほど、西の人間の帝国は危ないと聞いていたがこんな考えの国か。こんな国に妹がいるのか。…と暗澹たる気持ちになるユート。
「どけ羽虫よ!我ら神の使いの行軍を邪魔するなら…殺す‼︎」
とローブの女が言うと同時に火炎魔法を飛ばす。森の中なのに平気で火炎魔法を放つのかよ。ユートは怒りに震える。
しかしユートは避けない。
ユートに火炎が当たると同時に火炎は消滅する。
「⁈ どういう事⁈」
驚愕するローブの女。当たり前だ四大精霊を纏ったユートには安易な魔法など効かない。ムカついているユート間髪入れず三人に向けて問答無用に雷を落とす。
「ぐあっ」
「ぎえええっ」
神官の男とローブの女は直撃を食らってその場に倒れる。が。
勇者アベリアは高々と剣を掲げて雷に耐えた。
凄い輝きを見せる剣だ。由緒ある聖剣か何かだろうか? 神聖なものを感じる。何となくだがアレはヤバい。
と思った次の瞬間、ユートの目の前に剣を振りかざしたアベリアの姿が。避けるユートには風の防壁が働いている…はずなのに奴の剣はそれを貫いてユートの肌を掠る。精霊の加護が斬り裂かれた⁈
アベリアは続け様に剣を振り回して来る。ざくざくユートの肌に傷がつく。この剣の能力で防壁が消されているのか? ユートは『収納』から自分で土魔法で鍛えたセラミックソードを取り出して剣戟を防ぐ…が。重量が違う。あっという間に大剣に刀身が削られセラミックソードが使い物にならなくなる。
剣の能力か勇者のポテンシャルかこの組み合わせは最悪だ。ここで止めないとエルフの里は焼かれ世界樹は切り倒されてしまうだろう。
だからと言って12、3歳の少女の生命を奪うことも出来ない。ユートはあくまでも楽しくこの世界を生き抜きたいのだ。
あの剣を何とかしよう。取り上げてへし折れないか。ユートは剣戟を防ぎながら方法を考える。ひたすら考える。
「しつこい羽虫め! 我の必殺剣を受けて死ね‼︎」
いくつもの残像を残して猛烈な突きが
ユートの腹に突き刺さる‼︎
「がはっ…」
アベリアがニヤリと笑う。勝利を確信した歪んだ笑いだ。
ユートの腹を貫通する剣。 血が流れる。赤い血だ。ハイエルフになっても血は赤いんだな…
もう一度意識をはっきり持ってユートは上空に急上昇する!
剣を握ったままのアベリアも一緒だ。アベリアは慌てて剣を抜こうとするが俺の血で滑って剣から手を離してしまう。
「ああああああっ‼︎」
森へ落下して行くアベリア。勇者なんだからこの高さでも死ぬ事はないだろう。
高高度の空中で腹に刺さった剣を抜く。ぶしゃあああと血飛沫が舞う。全身に力を入れて四大精霊に意識を託す。
まずは火の精霊。剣を超高熱に熱する。溶鉱炉をイメージして火の精霊に伝える。赤く赤く、やがてオレンジを通り越して金属の塊が黄色く染まる。
続いて水の精霊。黄色い塊を超急速冷凍!ひたすら超低温、絶対零度をイメージする。
仕上げは土の精霊。ユートは己れの拳を鋼鉄化する。ひたすらハンマーの様に硬く、硬くイメージする。
そして剣の横っ腹に向けて渾身のハンマーパンチ‼︎
ガキィイイイン‼︎‼︎
勇者の剣は真ん中からパッキリ折れた。
上空から勇者達がいる森へ戻る。アベリアは怪我一つ無さそうだ。けっこう高いとこから落ちたのに頑丈な女の子だ。
「き、貴様っ我が聖剣を返せっ‼︎ 卑怯者っ‼︎」
涙目で噛み付いてくる。むう、なかなか可愛い娘じゃないか。幼さが残る少女か。 ユートはそんなアベリアの目の前に二つに折れた聖剣を放り投げる。
「‼︎‼︎」
なんか凄くショックだったようだ。肩が震えている。
あ、ぼろぼろ泣き始めた。
「か…母様から頂いた…大切な…聖剣が…ああああ…うえええええええええん」
猛烈に泣きじゃくるアベリア。ちょっと気が引ける。声を掛けづらい。黙って立っていると…雷で麻痺していた神官風の男がアベリアとフードの女を掴み、呪文を唱えた。魔法陣が形成され、三人が光の柱中に消えて行く。
「こ、この屈辱、必ず晴らさせてもらう‼︎」
どうやら転移魔法陣らしい。勇者パーティーは逃げ出してくれたようだ。
ホッとしたと同時に腹が焼けるように痛いのに気付く。だらだらと溢れる鮮血に下半身が染まっていく。
あー。ヤバい。…これヤバい。
戻らなきゃ。みんなの所に… と思ったところでユートの意識が途切れた。
意識が霧の中に溶けていく感覚。どこだろう。でも周りに精霊を感じる。いつもは元気で明るい火の精霊。静かに佇む水の精霊。無口だが気持ちの優しい土の精霊。そして…俺を膝枕して撫でている今にも泣きそうな風の精霊。四柱とも皆心配そうな顔でユート見ている。
その遠目に知らないけど知っている感覚。知らない精霊がいる?
サイクロンを吹き飛ばした時にも感じた。漆黒の空に淡く輝く月の光。月の精霊。月の精霊もユートを見ている。
月が浮かぶ反対の空に太陽。眩しく大きい太陽。月の精霊に寄り添うように並んでユートの顔を覗き込んでいる。
あれは日の精霊。
傍らでボロボロになったセラミックソードをさすりながら知らない小さな精霊もユートを心配そうに見ている。恐らく金の精霊だ。金の精霊は鍛冶の精霊とも呼ばれドワーフに愛されている。見よう見まねで剣を作っていたユートの元にも舞い降りて来てくれたようだ。
みんなが見ている…七柱の精霊がユートを見守っていた。




