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妹は天使 前編

 夏休みである。

夏期休暇にギルド学院に残っている生徒はあまりいない。長期クエストをこなすチャンスなのでほとんどのパーティーは遠征に出ているのだ。

 だがユートと言えば未だ戻って来ない妹達を待ちながら暇つぶしにギルド学院に残ってる学生相手に食事作ったりおやつ作ったりしてる。食堂のおばちゃんに混ざって。スキルアップも兼ねていた。


 今宵も月が綺麗だ。

 そう言えばこないだサイクロンを吹き飛ばした夜、全ての雲が吹き飛んででっかい二つの月が空にかかっていた。この世界の月は二つ。どちらも地球の月より大きい。

 しばらく月を見ていたらどこからか囁く声が届いた。聞いたことのない声だった。



不思議に思っていると


ーくすくす。ユートぉ聴こえた?ー


一体化している風の精霊がささやいた。


(知っているのか風の精霊よ)


某剣桃◯郎風に聞いてみる。


ーいまのは月の精霊よ。貴方に興味を持ったみたいね。ー


(月の精霊?)


ー月は【隠・闇】を司るわ。逆に太陽は【陽・光】ね。この世界には【七つの精霊】が存在するわ。月火水木金土日。

ハイエルフが七つ全ての精霊を使役出来る様になったら…ふふ、さらに上位のエルフになれるわよ。ー


爆弾発言である。とんでもない情報を聞いた。ハイエルフに上位種があるのか。

まあ、知ったからって使役する方法がわからない。すぐに出来る訳でもないのでその内先輩エルフのグリュエラさんにでも聞いてみよう、とユートは思った。




 夏期休暇も半ばを迎えた頃、魔導王サークライからギルド学院寮に使者がやって来る。ユートの呼び出しだ。ユートは早速魔王宮まで足を運ぶ。なんやかんやで既に顔パスだ。


相変わらずの涼しい顔でユートにお茶と甘いものを薦めるサークライ。

話を切り出す。


「【天使族】の魔王の妻ガブリールと連絡が取れたよ。彼女達親娘は天使族の里にいるようた。」

「天使族の里って…高山地帯ですよね?」


高山地帯は魔王都の南西にある山岳地帯だ。サバンナを抜けた先である。


「そうだね。だが君には事前に言っておく事がある。実は…エルフと天使族は仲が悪い。種族的にもライバル関係だが…特にグリュエラとガブリールは仲が悪いんだよ。困った事に。」

「…」


【魔王国十傑】である前からエルフのグリュエラさんと天使のガブリールさんは冒険者としてもライバルだった。どちらがSクラスに上がるのが早いか争っていた。……魔王の正妻の座も争っていたらしい。もっぱらガブリールさんが意地になって張り合ってたようだが。

まあ、あのグリュエラさんが向きになって争うとは思えないしな。


「だから君が天使族の里に行けば十中八九闘いを挑まれるだろう。覚悟はして起きたまえ。」

「…天使族って強いんですか?」

「別名【殱滅天使】って言われてるくらいだからね。バトル脳筋の代表だ。鬼と合わせて戦闘狂の代表だね。」

「…そんなとこにこんなか弱いエルフを送り込むんですか。」

「だね。気をつけてね!」


 サークライはにっこり微笑みながら軽く言い放った。コンチクショウめ。取り敢えず役立つかどうかわからないがユートはサークライから紹介の手紙を書いてもらう。


 気が乗らないがユートは王都を飛び立った。

天使族の里は魔王都より南西の高山地帯にある。いつものように飛んで行く。最近跳躍力が伸びたように思える。精霊との深度が深まったからかも知れない。ユートは今度一柱毎に名前でもつけようかとほくそ笑む。

 サバンナを抜け、高山地帯のある辺りから空気が一変する。トゲトゲしい空気。結界という程ではないが全方位にケンカ売ってるような空気だ。結界のようなものに触れたのだろうか、南の方角から槍を構えた翼人が数人一直線に飛んで来る。第一里人発見。ユートはアプローチを試みる。…が。

 翼人はユートを見るなり問答無用で槍を振りかざして来た!


「何用だ!?このエルフめ!!」


危ないっ‼︎ ユートは空気の壁を作り防御。そのままカウンターで風刃を飛ばし槍の柄を切り刻む。槍が無くなった翼人は高速のヒット&アウェイで短刀をかざしてチクチクユートを攻撃してくる。全く会話にならない。ユートの空気の壁は全ての攻撃を弾いている。


 鬱陶しいので翼人の翼に向かって土魔法で泥を投げ付ける。


「うわっ卑怯だぞ!!」

そう叫んで羽ばたけなくなった翼人が落ちていく。


 殲滅天使の里の門に辿り着くと更に大勢の翼人が槍を持って取り囲んでいる。そうしてようやく翼人の長らしき男が口を開く。


「エルフが天使族の里に何用だっ⁈」


先に問答無用で手を出して置いてこれだ。論理が破綻してる。なるほど【殱滅天使】と呼ばれる由縁か。


「魔王都からここに居るという天使族…ガブリール殿に会いに来た。魔導王の紹介状もある」


サークライの書いた紹介状を掲げる。翼人の一人が手紙を奪うように回収し、長に見せる。


「これを直ちにガブリール様に」


里内に飛んで行く使者。 しばらくして奥から光り輝く光輪を頭に乗せた金髪ストレートヘアーの清楚な美女天使がやって来る。鍛えてある肉体なのが節々からわかる。バストサイズはささやかなようだ。正直言ってとても美しい。尊いとも言える。その清楚美女が…


「お初にお目に掛かる、私が天使の里の天使長、Sクラス冒険者ガブリールだ。【長男】殿。貴様がグリュエラの息子か。クククよく来たな。なんで女エルフの格好をしているのか知らぬが。趣味か。難儀な性癖じゃのう」


矢継ぎ早に言いたい事を言ってニヤニヤ笑ってる。この人絶対性格悪い。


「クク。そんな顔をするな。他の天使族がギラついた目をするのは勘弁してくれ。知っての通り天使族とエルフは仲が悪い。昔からの因縁でな。我々天使族は世界樹を怨敵と定めておるのだ。私は歓迎するぞ。何しろ愛しい魔王の長男だからな。さあこちらへ。」


 ガブリールさんの後について里の中に入る。高山地帯は雪まみれなのに里の中は暖かい。何かの結界の作用だろうか? 緑の木々もあり何かを栽培している様子もある。あまり見てると天使族の住民が睨んでくる。小さな幼女まで睨んでくる。…これは悲しい。地味に心にくる。


ユートは前を歩くガブリールさんに重要な事を聞いてみる。


「あの…ガブリールさん。…娘さんはどこまでご存知なんですか? 自分に他に6人兄妹がいる事とか、…父親の事とか…?」

「全部知ってるおるよ。兄妹に会うのを楽しみにしておるよ。常々他の兄妹に負けるなと私が日々鍛え上げておるからな。クク。」


…なんですと?


「特にグリュエラの息子ユート。貴様を叩きのめすのが楽しみで堪らぬわ。」


 クソ脳筋である。天使族がここまでとは思わなかった。

 やがて一軒の豪邸に案内される。召使いが現れガブリールさんに挨拶、ユートガンを飛ばし去っていく。徹底している。


 中央の階段を見ると両腕を組んだ白い天使装束を着た金髪美少女が立っている。偉そうだ。瞳は焦げ茶色。誰かの目元に似てる。…ユートは自分か、と一瞬思うが正確には親父に似てるのだろうと悟る。


「うちの娘、アリエルよ。歳は12、ギルド学院には来年行かせる予定。そして必ず最優秀生徒の座を戴くわ。もちろんその力はあるぞ。クク。」


階段を優雅に降りて来るアリエル。うむ かわいい子だ。正に天使だ。

12歳というがリィカより大きいぞ。リィカがちんまいだけか。


「お母様、そのハイエルフは?無謀にもわざわざ敵地に殴り込みに来るなんて腰抜け種族の中で多少の勇気がお有りのようですが。」

「お兄ちゃんがわざわざ会いに来て下さったのですよ。ご挨拶なさい。」

「…?お兄ちゃんって…女の方じゃないですか。」


 理由があって、と軽く女にされたいきさつを説明する。

途端に表情を険しくするガブリールさん。


「世界樹め…相変わらず外道を繰り返しておるのか…」


そう言いながら俺の頰に両手を当てて撫でてくる。


「ユートよ。つらい目におうたのう……。しかしお主本当にマサオにそっくりに育ったのう。瞳など全く同じじゃ。ほんと引き込まれるようじゃわ…」


そういってユートの腰を抱き締める。

あの、嫌になるくらい奥さん達の反応が同じなんですけど‼︎

みんな親父にメロメロなのかよっ?!


「母上、このエルフをお兄様と呼べと言いますか?!だいたいお姉様じゃないですか?!」


アリエルは文句を言いながらもユートの顔をチラチラ見て顔を赤らめている。魔王にそっくりだというのがかなり気になるらしい。

 そのまま屋敷のリビングに案内される。お茶とお茶受けが出てもてなされる。ツンデレすぎるなこの親子…


ユートは来春の事を話す。


「き、兄妹みんなと…お父様に会えるんですの⁈」

「うん。是非魔王都に来て欲しいんだ。」

「行きますわ! 絶対行きますわ‼︎」


アリエルは二つ返事でOKしてくれた。やはり他の兄妹に会いたかったんだなぁ。


「兄妹全員叩きのめしてやりますわ! 天使族が最強だと教えて差し上げます!」


ニヤリと笑うアリエル。あか〜んこの子あか〜ん。

 一通り話して落ち着いた頃、アリエルが立ち上がり


「ではお兄様。早速対戦と行きましょう。武闘殿に案内いたしますわ。」


戦うの?! そんなに天使族は戦いが好きなの?!


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