妹はリトルマーメイド
夏期休暇。要するに夏休みだ。魔王国は四季に恵まれているらしく冬には雪山、夏には避暑地に人が集まる。魔王国の北側には避暑地で有名な港街【クリイド】がある。その先の海に住む民族・魚人との中継地でもある。
ユートは一人でこの街に来ている。てっきり『魔王の眷族』全員で行動すると思ってただがしかし。。
…リィカがね…ママ上に会いたいって泣き出したんよ。…こないだちょっと再会出来て一気にホームシックに襲われたっぽい。しょうがないよね。妹の涙には弱いよね。
…レンはね、なんか夏祭りがあるって強引にトーカさんに連れていかれたんよ…鬼は【祭り命】の民族なんだってさ。
ちょっと寂しいよね…ユートも母ちゃんに寂しくないか聞いてみた。そうしたら…
「久しぶりにサイ◯リヤ三昧ですごく楽しいー」
グリュエラさんはジャンクフード大好きで特にサイ◯リヤがお気に入り。放っておくとと三食サイ◯でも平気な顔してるのでユートが毎日飯を作って自炊してたんだけど…ユートが居なくなって欲望のままに行動を始めたようだ。
残念な母である。
という訳でユートは一人で避暑地【クリイド】に来ている。
ここにいるという魔王の妻の名は『シトリージュ』、職業は海の民族の総領事だという。外交官だ。ユートは自分なんぞに会ってもらえるのか不安だった。一応保険にサークライからの手紙を預かっているが…
港街【クリイド】は魔王都の北側50Km辺りにある貿易港だ。元は小さな漁港であったが海の民との交易が始まり彼らとの貿易・観光が今の主な産業となっている。地球でいうと地中海気候の様でバカンスで賑わう地でもある。
【クリイド】にある海の民族の領事館を訪れる。
「なんだ貴様は」
いきなりである。三又の槍・トライデントをかざした耳がヒレっぽい魚人の衛兵ユートは平静を装う。
「総領事のシトリージュさんにお会いしたい。私は魔王都S級冒険者グリュエラが一児ユート。 これは魔導王サークライからの紹介状です。」
手紙を渡す。係員はお待ち下さいと一言言って奥に消えた。しばらくして戻ってくる。
「お待たせしました。こちらにどうぞ。」
問題はないようだ。
面会室のような部屋に通される。無駄のない白い部屋だ。しばらくしてメガネの仕事が出来るOLみたいな女史がやって来た。ブルーのロングヘアが美しい。耳はヒレだけど。
「初めまして。私の名はシトリージュ。魔王国十傑のひとりだ。しかし君は…びっくりするくらいマサオに似てるな。まさしくマサオの子供だ。しかしグリュエラの子供は男の子だったと記憶しているが…?」
グリュエラさんの子供が男子だった事を知っているようだ。
ユートは世界樹の策略で女にされたことを話す。シトリージュはなんとも言えない顔をする。
そしてあまりにもマサオに似ているユートを見つめるとそのまま抱きつきその豊満な胸をユートに押し付ける。そしてキスまで求めてきたのでユートは慌てて止める。
「あ、あの、よく似てるらしいですけど親父じゃないんで…」
「‼︎ ごめんなさい。」
我に帰るシトリージュさん。ユートを見る目が非常に優しい。
「…全くグリュエラはズルいわね。離れてるくせにこれじゃ毎日あの人と暮らしてるようなもんじゃない。もう。」
うーん。そういやグリュエラさんめ酔うとたまに抱きついて来たな、とユートは思う。なんか複雑な気分だな。
「あの…聞いていいのかわからないんですけど…魔王の奥さん達の仲は悪くないんですか?関係性が全然わからないんですけど。」
正直他の奥さん達とグリュエラさんが仲がいいのかどうなのかまるでわからない。もしかしてヤバい人にヤバい質問してるのかも知れない。
「少なくともあたしとグリュエラは仲悪くないわ。グリュエラは気性がさっぱりして分かり易いしね。」
「さっぱりしすぎて困り物ですけどね。」
グリュエラさんは大事な事を全く言わない。
「で、手紙の内容だが。来春に魔王に謁見する可能性が出来たから兄妹全員で対面したいがどうか、と書いてあるのだけど。」
「…もしかしてシトリージュさんも娘さんに一人っ子と言って育てて来た口ですか…?」
こくん、と肯く。むう。どういう事かな。もしかして魔王の子供というのは思ったよりも危険な存在で隠蔽されてるのかな。
「静かに暮らしたいからそっとしておいてくれ…とか?」
「ううん、実家の都合で話してないだけ。そうねえ折角の【家族】のイベントだからねぇ。うちだけ参加しないのも寂しいわね。何よりあたしが魔王と逢いたいのよ。問題は父親の事何も知らない娘にどう切り出すかよね。困ったわねぇ。…ねえ、ユートくん。君に丸投げしていいかしら?」
「へ?」
娘にお父さんがいる事、他にも兄妹がいる事、それらを説明してやってくれという。あの、それめっちゃ
大仕事ですよね?
「お願い、お兄ちゃん♡」
お兄ちゃん!いや、今はお姉ちゃんですけども! わかりました!
お兄ちゃんが妹を説得します!
妹の名はマリージュ、10歳。海の里に住んでいるそうだ。…海…水の中?
「海の中、入れる?理由がないと未成年の海の民を陸に揚げる事は禁じられてらるのよ。先ずは会いに行って貰う必要があるわ。」
試したことはないがハイエルフは四代精霊に愛されているので水との親和性も高い。精霊に頼めば出来るんじゃないかな。とユートは思う。
仕事終わりのシトリージュさんに併せて海に潜る事にした。夕陽が西の海に沈みゆくと同時に海中に淡い光の外灯が点る。海の里へのペイブメントが海中に続いている。海の民はそこを歩いて陸に通っているそうだ。
ユートは水の精霊にお願いをする。
ブルーのロングヘア、薄水色のマーメイドドレスを着たたおやかな少女が降りて来る。
「海中で行動出来るような加護を頂けませんか?」
「OK、まかせてー」
彼女はフランクに答えて俺の身体に融合した。
どうやらこれでOKらしい。
ペイブメントを進むシトリージュさんの後に着いて海に入る。うん息が出来る。海に潜るとシトリージュさんの脚が魚のヒレ状になり進むスピードが上がる。水の精霊の力を借りスピードアップする。
2、30分くらいすると目の前に美しい光眩い水中都市が見えて来た。
「で、マリージュちゃんは何処にいるんですか?」
「王宮よ」
「お…王宮?…なんで?」
「だって、王女だもん。」
おうじょ…? なんで? シトリージュさんは女王ではありませんよね…?
シトリージュさんは心無しかためらいながら話す。
海の里の女王はシトリージュさんの母、マリージュちゃんの祖母だそうだ。シトリージュさんが里を出て魔王の子供を身篭った時に女王と揉めたという。里を出て好き勝手やったシトリージュさんを女王とその派閥は激怒し許さなかった。なので次期女王候補から外し里の思惑を外れた行動をさせないように娘のマリージュちゃんを王女として王宮に閉じ込める事になってしまったという。いわば人質である。
…酷い事するなあ女王。
しかしそんな人がマリージュを魔王都まで出掛けさせてくれるんだろうか? ユートは気分が重くなった。
海の王国の王宮にたどり着いた。王宮内の王女の部屋に直接入れるそうなのでシトリージュさんに続く。やがて白い10畳くらいの小さな部屋に着くと深い紺色のストレートヘアーをした小学生中学年くらいのちんまりとした人魚の女の子が本を読んでいた。
「母様、お帰りなさいませ。…後ろにおられる方はどなたでございますか?」
「ただいまーマリー♡」
シトリージュさんが抱きつく。顔を真っ赤にして抵抗するマリージュ。
「お、お客様の前でやめて下さい母様」
うむ、かわいい。妹センサーがビンビン振り切れそうである。
ユートを見つめてマリージュが挨拶をする。
「初めまして、マリージュと申します。」
「初めまして。私はユート=モンマ。ギルド学院の学生です」
「はあ…」
怪訝な表情でユートをみる少女。
ユートはお近づきの印に、と『収納』から定番の手作りクッキーを取り出す。おやつの時間にお食べ下さい、と言い含めて渡す。すぐに食べたそうだがお母様の顔を見て我慢するマリージュ。うんかわいい。
苗字のモンマを名乗ったがマリージュから反応はなかった。やはり魔王の名前も父親の事も知らないようだ。
ゆるゆると仲良くなって春頃に魔王都にお母様と遊びに来ないか、と提案する方向で行こうか…と決めた頃、ドカドカと乱雑に彼らがやって来た。この城の近衛兵である。
「お客人、女王様の謁見の準備が整いました。どうぞ此方へ。」
「え?」
「お前達、そのお方は…」
「殿下、女王様の御命令でございます。」
強引に王女から引き離される。このまま本当に女王の間に連れて行かれるようだ。慌ててシトリージュさんも着いて来る。穏便に…という訳には行かないのかな。やだなぁ揉め事は、とユートは項垂れた。




