姉妹会議
ユート達が運び込まれたホテルのようなところはなんと魔王城の一室だった。なんせ魔王の奥さんは全員【魔王国十傑】なのだ。国の重鎮だ。
その夜は一晩親と一緒に王城に泊まった。
微妙な空気のままで。
翌日、ギルド学院寮に戻ったユート達は緊急会議を開く。
「でだ、兄上。…『兄上』でよいのか?それとも『姉上』か?」
「お兄ちゃんか…へへ…憧れてたでござるよ…でも女装癖のヘンタイ兄貴かぁ…」
とんでもないことをレンが言う。いや女装じゃないよ⁈ 不可抗力で変身させられたんだよ⁈ その辺を何度も言い含めるユートだががあまり妹達は納得してないようだ。
「めんどくさいからユートでいいよ。私も皆を名前で呼ぶから」
で、再確認事項がある。魔王モンマは十傑の内七人を嫁にした、という。で。その七人全員に子供がいるらしい。
「…みんな知ってた?他に兄妹いるって…」
「知らなかったでござる。ずーっと一人っ子だと思って育って来た。本当許せないでござるよ! ちっちゃい頃のリィカとか見たかった‼︎」
「待てぃレン‼︎ 同い年じゃろが‼︎ お前もちっちゃかったろうが‼︎ だいたい 何月生まれじゃ⁈ 我の方が姉じゃろ⁈ 我は☆の月産まれじゃ!! 」
「某、◇の月でござるよ。某の方がお姉ちゃんでござるな。くひひひひ。」
はしゃぐレン。珍しい光景だ。身内と分かって何となく壁が一枚取れたような感覚だ。
で、だ。王城を去る時に魔導王サークライがとんでもない条件を突き付けて来た。
「折角魔王と子供達が対面する可能性があるなら、三人だけじゃなく七人全員と対面させたいですね。そっちの方が面白い。 ねえ、ユートくん。長子の君が全員を連れて来てくれないかな? 半年後の卒業の祭典に間に合うように」
…半年後の卒業の祭典に他の兄妹を連れて来い…だと⁈
この人絶対俺になんか恨み持ってんだろ⁈
…アレか親父に似てるから坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつか…親父め…会った事ないのに憎しみばかり募るぜ…。
ユートはさらに父親を憎んだ。
貰った奥さんの情報では…あとの四人の奥さんの出身種族は【魚人】、【天使族】、【ドワーフ】、【人間】。それぞれ子供を育てる為に何処かへと散らばっているそうだ。問題はうちのグリュエラさんの様にこの世界とは限らない所なのだ。
グリュエラさんはエルフの里、特に世界樹にプライバシーを縛られるのがイヤで子供が出来た時モンマに連れて行って貰った故郷の異世界を生活の場所に選んだ。
まあ、居場所の探索に関しては魔導王サークライが全面協力してくれる、というので場所の情報が入るまでは学校行事に集中しようとユート達は決めた。
季節は夏、長期休暇の前の最後の行事が【全校生徒参加迷宮キャンプ】である。
目的の【緑の迷宮】は魔王国の南、サバンナの中央にある。普段ギルド学院の学生はどんなに高ランクであろうと入るのは禁止にされている。潜れるチャンスはこのキャンプのみなのである。工業クラスの連中は採掘中心、農業クラスは採取、商業クラスは買取・取引、そして冒険者クラスは彼らの護衛がキャンプ中の仕事だ。
『魔王の眷属』も無事この行事に参加していた。
一階、地下一階と順調に採掘・採取が進み、冒険者もそんなに手強くない魔獣達が相手でサクサク進んでいた。
そうして本日の夜営の準備に入った頃だった。突然地下二階に繋がる階段の下から下層に住む魔獣達が続々と駆け出して来たのだ。
この現象は見覚えがある。【スタンピード】だ。迷宮で起こる現象としてよく取り上げられるので覚悟は皆しているが今回前兆はまるでなかったはずだ。学院のキャンプが可能なぐらいだったのだから。
慌て惑う後衛組を必死に落ち着かせる教師陣、盾になる前衛組。
ユートは咄嗟に前衛組の冒険者クラスメイトに指示を出す。
「リィカ! 階段に結界を張って封鎖しろ! レン、敵にデバフ、一体ずつ結界から引きずり出して麻痺毒を使え!うちのクラスメイト全員で囲んで叩く! 出来るな⁈みんな‼︎」
「「「おう‼︎」」」
みんな指示通りに冷静に魔物を退治していく。様子を伺っていた他クラスの生徒も退治された魔物を解体し素材を回収していく。いいペースだ。対応出来ている。
するとあれだけ沸いていた魔物が突然砂に変化して跡形もなく崩れた。そして全ての魔物がいなくなった。
引率の教師の顔が青ざめる。
「全員出口に向かって走れ‼︎ 迷宮が消滅するぞ‼︎」
「どういうこってすか⁈」
「誰かが最下層の【迷宮核】を破壊したんだ!学校行事がある事は周知されてるはずなのに、なんて事しやがるんだ‼︎」
迷宮は【迷宮核】で管理されているらしい。しかもここの迷宮は魔王国が【迷宮核】を掌握して安全に運営していたはずなのだ。
その【迷宮核】が破壊された⁈
洞窟の壁も鉱脈も採取場も全て砂になって崩れて行く。急いで生徒達が洞窟を駆け出る。 生徒全員が外に出た時にはもう迷宮は存在してなかった。全ては砂の中に埋れていた。
キャンプは当然中止になり、魔王都から調査隊が入った。魔王国に入り込み管理されてる迷宮核を破壊した者が存在するのだ。緊急事態である。
しかしギルド学院生は学院寮に待機だ。つまりヒマだ。
この時間を使って迷宮で活躍したクラスメイトを労わろうとユートは考えた。、ちょっとしたおもてなしをしよう。
寮の食堂の厨房を少し借りる。ユートは自分の『収納』から卵・羊乳・小麦粉・蜂蜜を取り出しみんなが喜びそうな菓子を作る。今日はカステラを焼いてみる。卵黄液を作りメレンゲと合わせ、生地を練り上げる。土魔法でケースを作り、生地を流し込む。焼成途中にお湯を差し入れ蒸し焼きにするコツを忘れずに。仕上げに美味しいお菓子を作る時の儀式を行う。
「美味しくなーれ もえもえきゅん」
甘い匂いが食堂に漂う。匂いに引き寄せられ。ぞろぞろ野次馬も集まる。冒険者クラス以外の生徒もいるようだ。まあこんな時の為に以前クッキーを大量に焼いておいたので配る。事前に『収納』に保存していたので焼き立て同然のクッキーだ。野次馬共がぱくぱく食らい付く。
「うめえ!ユートちゃんこんなのも作れんの?すげー!」
「あら本当、お店のクオリティ超えてない⁈」
「あ、あたしもちょうだいっ」
皆囮のクッキーに夢中だ。俺は焼き上げたカステラを持って自室に戻る。ますはリィカとレンと三人でお茶会だ。
カステラを見るや否やすごい勢いでカステラにパクつくリィカ。ちまちま味わって食べるレン。どちらも可愛い。
「おいふぃい〜‼︎」
「美味しいでござる。何処のお店のスィーツで… えっ自分で作った⁈ じ、自分で作れる…ま、毎日作れるでござるかっ⁈」
妹達は手足をバタつかせて大はしゃぎである。
これから毎日これが食べられると思っているらしい。
うむ、一緒に作るのもアリかな、とついニヤけてしまう。とことん妹に甘いユートだ。
「素朴な味わいですが確かな技術が絶品に仕立て上げていますね。」
ミヤマさんが批評する。いつの間に食ってんだ、あんた?!
しかし常に外の甘味屋を食べ歩いてる人の意見だ。素直に嬉しい。皆でほわほわと過ごした。クラスメイトには後で切り分けたカステラを配った。上々の評判だった。
数日後、『魔王の眷族』はサークライに呼び出さた。
なんか難しい顔をしている。
「どうやらね、今回の迷宮の件、【勇者】の仕業らしいんだ。」
「ゆ、勇者⁈」
そんなもんいるのか、この世界。
サークライの話によると、【勇者】は西の人間の帝国に所属している。人間の帝国の為に働き、他国には災厄でしかない存在だ。もちろん目的は『魔王の討伐』であるという。
圧倒的な戦闘能力で人間の帝国の論理、すなわち『人間以外は全て下等動物』で動くので他国の決め事、ルールがまるで通じない。好き勝手に暴れているそうだ。
それにどうやらあのジャングルの【スタンピード】もその勇者が原因である可能性が高いという。
あんな魔王国のお膝元で【勇者】が暴れていたのか。振り返って見るとあのジャングルにSクラス冒険者である母・グリュエラが派遣されていた理由もそれか。
迷惑なのがいるなぁ。
「人間の帝国には気をつけてね。元々亜人に対する偏見が酷いんだけど、魔王が戦争の末、亜人の権利を勝ち取り亜人の国を立ち上げてからも魔王と魔王国に対する恨みをさらに募らせている。本当は関わって欲しくない国なんだけど…」
そうはいかないらしい。魔王の嫁の一人がどうやら人間の帝国にいるという報告が上がってるからだ。つまりユートが妹に会うなら人間の帝国に行かないといけない。
「まあ、もっと詳しい報告はこれから上がる。それまでは他の妹達と親交を深めたまえ。まずは【魚人村】とかどうだい?夏だしね。いいよね海。」
「【魚人】の奥さんの情報はあるんですか?」
「少しだけね。彼女の仕事先は元々把握している。後は君に任せるよ。」
という訳で『魔王の眷族』は夏期休暇の間にまず【魚人村】に向かう事になった。




