カミングアウト
ユートが目を覚ますと自分がふかふかのソファーの上に寝かされていたことを知る。横にはリィカとレンも寝かされている。
知らない部屋だ。どこか上等なホテルのような部屋だ。この世界にホテルなんぞあったっけ?とユートは首を捻る。
ここはどこだろう?と耳を澄ますとテラスの方から幾人かの笑い声が聞こえてきた。
「笑い事じゃないよ。大事な息子を娘に変えられたんだよ。いつかぶっ殺してやるわ世界樹のやつ」
「ハイエルフの呼び出しに応じなかったあんたのせいだとサークライには聞いたけどね?めんどくさがりのあんたのとばっちりを受けたんでしょユートくん。かわいそー」
「しかし魔王の長男が長女になってしまうとは…のちのち影響はでかくなるのではないか?…跡継ぎ問題とか」
「この国は貴族制でもなんでもないから跡継ぎなんか関係ないわよ」
テラスで話しているのはサークライと…『真・魔王の眷属』のメンバーだった。
ん?それよりさっき気になる言葉を聞いたぞ?ユートはついソファーから立ち上がり声を荒げて自分の母に問いかける。
「魔王の長男って誰だよ?!」
テラスでワイングラスを傾けている『真・魔王の眷属』一堂が振り向く。しかし肝心のユートの母・グリュエラは事も無げに言う。
「あんたの事だよ」
何ということでしょう、あの魔王が?! あの七人も嫁がいて子供にも逢わず逃げ回っているいう男としてサイテーなリィカとレンの親父が?!
俺の親父?!
あまりの事実にユートはすぐに声も出なかった。そして更に事実に気付く。
「ちょっと待てよ?てことはリィカとレンは俺の妹?! 」
そう叫ぶとリィカの母、龍妃が答える。
「そうじゃな。魔王マサオ=モンマには七人の嫁と七人の子供がおる。一番早く産まれたのがお主じゃ。お主が長男、いや今は長女というところじゃの」
そういってユートのすぐそばまでにじり寄る龍妃。ものすごくユートを見つめてくる。目付きが妖しい。獲物を捕らえた蛇のような、いやドラゴンのような目だ。すると鬼の母も豪快にユートのそばにやって来てこっちはいきなり抱き締める。
「いやしかしユートくん、こんなにマサオにそっくりに育ってるなんて思わなかったぞグリュエラ。どこから見てもマサオじゃないか」
そう言ってユートに頬擦りする鬼の女戦士。力がものすごいので痛い。
すると龍妃
「ずるいぞトーカ!! 妾がグリグリしたかったのじゃ」
と言ってユートに抱きついて頬にスリスリしながら長い舌をチョロチョロ出してユートをペロペロ舐め出した。
2人を見てグリュエラさんが煽る。
「うらやましいだろ。あたしは何時でもマサオと一緒にいるようなもんだしな」
何となくぐぬぬと声が聞こえそうな龍妃と鬼の女戦士。
そこにサークライまでが調子に乗って
「おほう、僕にもユートくんに頬擦りさせてもらいたいですね」
ニコニコしてそう言うと三母が声を揃えて
「すんな!! この変態!!」
となじる。
「…母上…何をしておるのじゃ?」
「お母様…ユートに何を?」
そこに目を覚ましたリィカとレンがやって来る。もうわやくちゃだ。
しばらく気持ちを落ち着けると自己紹介が始まった。ユートとリィカとレンはそれぞれ母親の隣に座る。
リィカの母の黒龍さんはドレスティアさんという龍族の貴族らしい。黒いドレスに豊満なボディを詰めていらっしゃる。リィカを膝に抱えて撫で撫でしている。いいようにされているリィカだんまりである。借りてきた猫、いや借りてきた龍である。
レンの母の鬼さんはトーカさんといい、鬼族の屈強なSクラス冒険者だそうだ。闘気でバンバン攻めるアグレッシブなスタイルらしい。その逞しい腕でレンを抱き寄せて撫でている。レンの首がぐりんぐりんしてる。貧弱なレンと対象的な豪快さだ。
ユートの母はグリュエラ。エルフらしい薄い胸に薄い尻、華奢で白い肌だが鍛えられた肉体で筋肉はついている。ロングの金髪とエルフらしい美形でとても美しい女性なのだが。
女になった息子の胸や腰をこれでもかと撫で回している。
いやらしさとかではなくどうやら悔しいらしい。そうですね、典型的なエルフ体型ですものね母さん…
三者三様の家庭円満を横目で見つつニタニタ笑ってるサークライ。やっぱりというか、【魔術大会】で『魔王の眷属』を観た瞬間にピンと来て『真・魔王の眷属』と連絡を取ったそうだ。特にユートの顔がハイエルフなのに魔王そっくりだったもんで大笑いしたとか何とか。
で、だ。そもそもユートの旅の目標は『母親のいる元の世界に帰る為、魔王に会って【転移門】を使わせてもらう』だったのだが。
母親自身が【転移門】を持っていて元の世界とこの異世界を行き来できる。そもそも向こうにいる母ちゃんが心配だから帰りたかったのだから…ユートは目標がすっかりなくなってしまった。
と思ったのだが。
「バカ言ってんじゃないよ。何の苦労もなく国家機密級の魔道具を使わせてたまるか。実力で魔王に会って交渉しな。」
は⁈ 何ソレグリュエラさん⁈
「日本に帰るなら自力で帰りなさい。だいたいあんた今帰っていいの?妹達を放って置いて? あんなに欲しがっていた妹よ?まさかゲームの続きが気になるから帰りたいとか言うんじゃないよね?」
うん、正直転移した当初はソシャゲもテレビも途中まで読んでた漫画の続きも気にはなってたが数ヶ月こちらで過ごして割とどうでもよくなった。慣れって恐ろしい。
確かに妹を放って置けない。突然知らされた事実だがユートにはこの異世界に血を分けた妹がいるのだ。ここに2人。そして全部で6人も。
死ぬほど妹が欲しかったユートは嬉しさで天にも昇る気持ちなのだ。
ユートが姉、いや元々は兄と聞いて戸惑いを見せたリィカとレンだが、ユートの顔が魔王マサオにそっくりだと聞いて途端に食いついてきた。ユートににじり寄り
「これが父上の顔…」
「父様…」
などと言いながらポカポカユートを殴り付けるリィカとレン。いや、怒りをぶつけるのは本人に会ってからにして。痛い。痛いから。
何だかんだで顔がそっくりだということも相まってユートの魔王に対する怒りはさらに増大したのだ。
直接会ってぶん殴らないと気がすまない。
という訳で結局このまま学院で最優秀生徒を目指し魔王に会うのが『魔王の眷属』の最優先事項となった。




