スタンビード
遅くなりました
魔王都から東南に位置するジャングルの入り口にある獣人の村。
割りと難易度の低い魔獣が棲息するため低レベル冒険者が集まるメッカとなって栄えていた。
今日もユート達は学院内で受けられる最上位クエストを受けてここへ来た。討伐対象はウイルバード二体、Dクラス魔獣である。
朝からリィカとレンは装備のチェックに余念がない。気合いを感じる。
だが、ユートだけが様子が違った。
ユートの周りに降りている四柱の精霊がユートに危険を伝えているからである。
気になったユートは集落の端で風魔法の気配察知をかけてみる。
すると尋常じゃない数の魔獣がジャングルの奥から一斉に移動している。大小数千から万単位の魔獣だ。なんだこりゃ。
だんだん空気が怪しくなってきた頃、ジャングルの中央から満身創痍の冒険者が死に物狂いで駆け出して来る。みんなベテランだが泣き叫ぶ者もいる。阿鼻叫喚とはこの事か⁉︎
「ま、魔物の暴走だ‼︎ 何があったかわからんがジャングルの中心部から魔物が一斉にジャングルの外に向かって移動している‼︎ 逃げろ‼︎」
「な、何だと⁉︎」
「うわああああっ」
集落の住人や冒険者は一気にパニックになり逃げ惑う。だが一般人の足など魔獣にすぐ追いつかれるだろう。
「助けてぇ‼︎」
逃げる途中つまづいて転ける熊獣人の幼女。すかさず助け起こすユート。
ようじょが危ない‼︎
なんとかせねば。
ユートは『魔王の眷属』に指示を出す。
「リィカ‼︎ 君の結界術はこの集落を包めるか⁈ コテージの例を見ると一晩は保つよな⁈」
「そうじゃな。大抵の魔獣だと一晩と言わず一年は保つが、龍の強度を超える相手だと一瞬じゃ。」
「逃げて来る人をこの集落に集めて直ぐに結界を張ってくれ。」
「解りました。手を尽くします。」
何処からかミヤマさんが現れすぐに消える。ニンジャか⁈ネコニンジャか!? 便りにはなるが。
「レンは怪我してる冒険者達を治療してやってくれ。 後は私何とか防ぐ」
「⁈ 何とかって…⁈」
「私は飛べるからそうそう簡単にはくたばらない。」
そう言ってユートはジャングルの中に飛んで行った。
後ろからユートを呼ぶ叫び声が聞こえるが時間がない。
ユートは自分の魔力の底を知らなかった。大抵の人間は『収納』の内容量が魔力量を測る基準になると言う。…だが。ユートの『収納』の容量は無限に近い。だから一度全力で魔法を使って見たかった。自分の限界を知りたかった。
逃げ遅れた冒険者はどうやらいないようだ。みな獣人の集落に籠ったことだろう。
ユートはまず飛びながらジャングルの外縁を土魔法で一気に底無し沼に変える。外縁に向けて逃げ出す魔獣達は突然足元を泥に取られ転げ回りあるいは泥沼に沈んでいく獣、叫び声をあげて阿鼻叫喚のうちに土に埋まっていく。飛べる者以外は足止めになる。
波のような魔獣の群れが押し寄せるタイミングに合わせて何度も底無し沼を発生させるユート。
すると目の前に飛んで来る魔獣の群れを見つける。飛行魔獣も盛りだくさんだ。
ユートの頼みは風魔法の気配察知。風の精霊の力を使うとマーキングしてホーミングで魔法が撃てる。
ユートは急いで、しかし冷静にマーキングする。千を超えた辺りで攻撃魔法の用意だ。マーキングに合わせてエルフサンダーを食らわす。ワイバーンをも黒焦げにする雷だ。みるみる飛行魔物が落ちて行く。一度やってみたかったマーキング攻撃。成功だ。ユートは自分がフリーダムガンダ◯にでもなった気分だった。
続けて地上の泥沼に足を取られた魔獣達にもマーキング。そしてエルフサンダー‼︎ 力の限りマーキング、エルフサンダー‼︎ マーキング、エルフサンダー‼︎
20発ほど放ったあたりでユートはちょっと目眩を覚えた。
さすがに魔力は無限という訳ではないようだ。自分の限界が解ってよかった。
外縁に向けて暴走していた魔獣の姿はもう見えない。ジャングル内に散り散りに逃げる個体がちらほら見えるだけだ。少なくともあの集落の方向は無事だろう。
暴走ー【スタンピード】はその地域に居座るボス級の魔物に何かあった場合起こると言われている。前ボスが死んだりいなくなったりして新たなボスを選ばなければならない時とかに起こりやすい。ジャングル中心部で何か異変があったのだろうか。
波を乗り切ってホッとしていたユートの目前に巨大な腕が伸びて来る。ギリギリで避けるユート。彼の前に50mはありそうな巨大な四本腕の猿が現れた‼︎
こいつこのジャングルのボスじゃないのか⁉︎ 暴れてるって事はこいつも追い出されて来たのか⁉︎
上空に跳んで逃げるが同時に巨猿もジャンプして跳ぶ‼︎
ユートは 気◯斬を放つが巨猿の巨木の様な腕が風魔法を地面に叩き落とす。
こいつ、ヤバい‼︎
巨猿の四本の腕が凄まじい連撃を繰り出す。風バリアを纏うユートに直撃はないが当たれば間違いなく粉々の肉片だ。
ユートは全方位から土魔法で作り上げた弾丸を巨猿に飛ばす。腕を振り回して弾丸を弾く巨猿。
だがそれは囮だ。
ユートは『収納』からセラミックソードを取り出し、空気中の微小な水を凍らしぶつけ電子を散らし…セラミックソード全体を帯電させて巨猿の心臓目掛けて高速で撃ち出す‼︎
超特大のレールガンだ。
打ち出されたセラミックソードが一瞬にして巨猿の胸にでかい穴を開ける。折角作ったセラミックソードだが跡形も無く粉々になった。また作らないと。
巨猿の巨体はずずんと地面に倒れ伏せる。どうやら倒しきったようだ。
ユートはホッと息をつく。
魔力の底が見えた状態で無理をした。もう浮いていられないほど疲労している。ここまで魔力を使い切ったのは初めてだった。
「グォオオオオオオオオ‼︎」
と、顔を振り上げた先にもう一体。今の奴よりもう一回りでかい四本腕の巨猿が現れた。
まだ残っていたのか…くそ、魔力は…もう無い…
ごめんな母ちゃん…帰れそうもないわ
ユートは万策尽き正直生きるのを諦めた。ここで俺の人生終わりか、そう思って目を閉じた。
だが巨猿はいつまでたっても動かない。
なぜなら巨猿の首は胴体からはなれユートの足元に転がっていたからだ。
そのまま魔力切れで倒れるユート。
遠のく意識の中で最後に見た光景は。
「こ、こんなとこにエルフ? しかも知らないエルフ⁈ いったい誰だ?」
上空には巨大な剣を抱えたエルフが浮かんでいた。




