「迫り来る魔の手」 都市伝説ネタ9 「殺人鬼」より
時刻は深夜に差し掛かっている。走っている道が山道であるために車通りは極端に少ないのだが
外灯がほとんど無く、おまけに全体の8割はカーブだ。もはや車のヘッドライトだけが頼りと言えよう。
それでも秀人と清美のテンションは高いままだ。
観光名所の帰り道と言う事も手伝ってか、車内の話題は昼間訪れた名所の話で持ち切りだった。
「それにしても暗いな」
ヘッドライトしか明かりの無い状況見て、秀人が言った。
「たまに見える小さな脇道とか何であるんだろうね。ちょっと怖い気がするけど」
「多分抜け道とかのためにあるんじゃないか?山も所有地だからな」
「そうだけどほとんどが通れない場所じゃない。立ち入り禁止のテープが貼ってあったり」
「俺もその辺は良く分からないけどね」
その時だった。突然車の前に何かが飛び出してきた。
「危ない!!」
「うわっ!!な、なんだ!」
それは小さな女の子だった。幼稚園くらいの女の子で髪が酷く乱れており、肩で息をしている。
「ひ、ひぃ!!」
「ま、まさか、幽霊・・・」
幽霊・・・清美の言葉に恐怖を覚えた秀人は女の子を避け、一気にアクセルを踏んだ。
バックミラーで後ろを見ると、女の子は必至に両手を振ってこちらへ走ってくる。
「な、なんだよ!!」
秀人は更にアクセルを踏んだ。徐々に女の子は小さくなり、やがて消えた。
車のスピードに追いつけるはずも無かった。
「なんだったの、あの子・・・」
「さ、さあな・・・お前も見えたよな」
「見えたわよ。だけど幽霊には見えなかったような気がする」
「どうして?」
「だってちゃんと足あったもん。ヘッドライトに照らされて影も出来てたし」
「影がないと幽霊なのか」
「それは分からないけど・・・」
そうしている間にも車はどんどん先へと進んだ。
「ねぇ、ちょっと変じゃない?」
「なにが?」
「だってこんな真夜中にこんな山道に女の子が一人でいるなんておかしいわ」
「そ、そりゃまあそうだけど」
「もしかしてあの子、道に迷っていたんじゃない?」
「どうしてこんな時間に道に迷うのさ」
「だから昼間からずっと迷っていて、夜になってしまったのよ」
「おい、あれ見ろよ。誰かいるぜ」
「えっ?」
見ると前方にかなり大柄の男が立っているのが見えた。男は手を振っており、頭を何度も下げている。
どうやら止まって欲しいようだ。
「どうしたんだろう?」
秀人は男の横に車を止めると、ウインカーを開いた。
「申し訳ありません。この辺で小さな女の子を見ませんでしたか?」
「女の子・・・ああ、もしかしてさっきのあの子かな」
「見たんですね。実はこの山道を歩いている途中で娘とはぐれてしまったのです。
もうずっと探しているんですが、昼間から必至で探していたんです」
なるほど、と言う事は先ほどの女の子はこの男の娘か。
あの子は父親とはぐれて困っていたのだろう。やはり止まってあげれば良かったと秀人は思った。
「この道をまっすぐ行った場所で見掛けました。すいません、止まって上げれば良かったです」
「いえいえ、とんでもない。ありがとうございます」
「もし良かったら乗って行かれますか?大体の場所は分かりますので」
「いや、さすがにそこまでしていただくわけには行きません。自分で行きますので。
本当にありがとうございました」
男は軽く頭を下げると、凄まじいスピードで走り去って行った・・・・。
それからしばらく経ったある日、清美は秀人の家でテレビを見ていた。
秀人はキッチンでサイフォンを使ってコーヒーを淹れている。
テレビはニュースに切り替わり、メインキャスターが殺人事件の犯人が逮捕された事実を報道している。
幼女誘拐殺人事件のようで、画面には逮捕された男の写真が映し出された。
何気なく視線をそっちに移した時、清美の身体は一瞬にして凍り付いた。
「秀人!!秀人!!」
それはいつもの清美の声ではなかった。
「どうした?」
「これ・・・これ見てよ・・・・」
清美はテレビ画面を指差している。
「なんだよ・・・・」
意味の分からないまま、秀人がテレビに視線を移した。
だがそこで清美が何故動揺しているのか、その意味がはっきりと分かった。
画面に映し出された犯人の顔は、先日、山道で出会った男の顔だったのだ。
更に画面が切り替わり、殺害された幼児の写真が写る。
それを見て二人は更に愕然とした。
殺害された幼児は女の子・・・。あの山道で突然現れた女の子だったのだ。
「あの二人・・・親子なんかじゃなかったんだ・・あの子は殺人鬼の手から逃げようとしていた・・あの時、もし俺たちが車を止めていたら、あの子は・・・・・」
END