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その後② ダニングー懐かしい関係

ヴェルが机を綺麗に拭き終わった後、俺らは先ほどと同じ席に着いた。

そして俺は両手を顎の前で組んで問題の彼について言及することにした。


「では、被告人。弁明を聞こうか」

「いやちょっと待て、何だそのキャラは」

「私語を慎め被告人!! これ以上罪を重ねるな!!!」

「だからちょっと待てって!! なんだこの状況!? 俺悪いことしてないよな!?」


バンッと机をたたいて周りを見渡すダニングだったがみんな素知らぬ顔でスルーしている。

なんとこの話、リアルタイムでみんな知っていたらしい。

そりゃそうか。

ただ今はみんな俺側についてくれているみたいだ。


「御託はいいから早く話せ。人間と同棲したとかいう話を!!」

「いや、特に話すことはねぇよ。俺がまだ王城で料理人をしていた時に仲良くなった人間の女性がいて一時期一緒に暮らしていただけだ」


「どれくらいの年月だ?」

「4年・・・くらいか」

「いや、長っ!!! おまっ、人間の4年間って相当だぞ!? なんで別れたんだよ」


「別に・・・。向こうの両親がエルフと結婚することを頑なに拒否して最終的に実家に連れていかれただけだ。それ以来俺はあいつと会っていない」


「そんな・・・」


バンは先ほど言った。

人間とエルフの結婚はタブーとされていると。

そしてそれは当事者だけが関わる問題ではない。


「もう十分か? そんな感じで色々諦めて結局俺は今ここにいるってわけだ」

「そんなの・・・あんまりすぎるよ。ダニングは悔しくないの?」


いつの間にかキャラを忘れて素の俺に戻ってしまっているがもう気にしないことにした。

俺の胸がチクチク痛んでそんなことどうでも良く思えてきたから。


「別に。仕方がないことだろう。今人間とエルフは共存出来ているがまだ抱える問題はいくつもある。それに人間同士でも身分の違い、経歴の違いでこういった問題はあるだろう? 今に始まったことじゃない」


空気が静まり返る。

確かにそうだけど、あんまりだ。


「私も人間の国に仕えていたので何度かお会いしたことがありますがいい人でしたよ、ダニングさんも楽しそうでしたしお似合いでした。元気いっぱいで猪突猛進という言葉が合うようなお方でしたね」


「アイナは会ったことがあるのか。まぁダニングにはそういう風に引っ張ってくれる人が合いそうだしな」


「それは知らんが、まぁ楽しかったのは否定しない」


「じゃあさ、なんでそんなに割り切れてるの? おかしいと思わないの?」


俺はこぶしを握り締めてダニングの方を見た。

だってこの男はもうあきらめているような口ぶりでさっきから話すから。


「無理なものは無理だ。向こうには向こうの事情があるし、俺には俺の。駆け落ちをするべきだったとでも言いたいのか?」


「・・・・でも、シズクとかヴェルの力を使えば出来たよね? 彼女たちは元国王なんだし今もシズクなんかは王城に出入りしている。その気になれば何でもできたはずだ」


「まぁ、そうだな。私の手にかかれば個人情報の奪取なんて容易いもんだ、今も昔も」


シズクが腕を組みながらそう答える。

なんて頼もしい。


「じゃ、じゃあなんでその時・・・」

「でもそれとこれは話が違う。これはダニングが決めたことであって、ご主人が口を出すことじゃねえ」


「な、なんでだよ!? みんな悔しくないの!? こんな風に種族の壁で打ち砕かれて、俺が目指したのはもっと平等で・・・」


俺はシズクの方を向いて声を荒らげてしまった。

そんな俺の目を見て彼女は冷静に、冷徹に口を開く。


「ご主人は何か勘違いをしている。どれだけ平等な世界を目指したとして、すべてがうまくいくわけじゃねぇよ。ダニングも言ってただろ? たとえ同じ種族でもこういう問題は起こるもんだ。それをどうするかは外野が口出すべきじゃねえよ。それにご主人がいろいろ言ったところで過去は変わらねえ」


「わかってる、わかってるよ・・・。でも・・・、これじゃあダニングがあんまりだ・・・」


「言っただろ? もう諦めたって。それに俺と結婚しなくったってお互いは幸せになれる。駆け落ちなんて社会の流れに逆らって泳ぎ続けるようなもんだ。・・・幸せにはなれねえよ」


認めたくないけどすべて事実だ。

そしてシズクが言ったように、俺が口を出していいことじゃない。

ダニングは自分の中でもう完結したのだから。

これじゃあただ駄々をこねる子供みたいだ。


「・・・・・ごめんダニング、君の気持を踏みにじるようなことを言って。少し熱くなっちゃった。過去は変えられないのに・・・」

「いや、いい。ここまで言っていなかった俺も悪いしな」


世の中にはどうすることもできないことは山ほどある。

でも、目に見える範囲だけは何とかしたかった。たとえ無理でも。

俺がダニングに頭を下げて拳を見つめていると、凛としたヴェルの声が俺の横から響いた。


「今、そのお相手様はおいくつくらいなのでしょうか?」

「今は・・・大体70過ぎくらいか。もうばあさんになってることだろうよ」


「そうですか。でも私は一度会ってみてもいいと思いますけどね」


ヴェルの言葉でみんなの頭に?が浮かぶ。


「ヴェル? それはどういう・・・?」


「別に結婚だけがすべてじゃないでしょう? 今会いに行って少しおしゃべりするくらい良いでしょうに。先ほど言った通り私たちの力があれば特定することは簡単ですし。少し会いに行って、昔を馳せながら語り合う。そんな関係も悪くないと思いますよ」


「だ、だが・・・」


「ダニング、あなたも馬鹿ではないのだからこういう考えは浮かんだに違いありません。でもそう言った行動をしなかった。それはなぜです?」


「・・・俺が行くことによって今幸せな彼女が崩れるかもしれないだろ? 昔の男が会いに来たところで何になるっていうんだ。それに・・・もう過去の事だ」


「確かに、そうかもしれませんね。ですがあなたはもう少し我儘になっていいと思うんです。この家でもみんなに振り回されて、みんなの期待に応えてみんなのために・・・。本当のあなたはどこにいるんでしょう。あなたは何がしたい?」


「・・・・・・」


「別にもうよぼよぼな彼女に会いたくないというのならそれは一つの答えです。でももう70を超えているその女性は暇じゃないでしょうかね、私は経験したことないからわかりませんが。本当にあなたが会いたい。もう一度話したいというのなら私はいつでも力を貸しますよ」


「まっ、ダニングの頼みなら私も一肌脱いでやるからよ」


「ふふっ、あなたがどのような思いで今まで生きてきたか、彼女を諦めたかは知りませんが後悔はなさらないように。あの日伝えそびれたこと、渡しそびれたもの、後悔のまま終わっているモノ。人間にはとても速い寿命がありますけど今なら間に合いますからね」

「・・・・・わかった。胸にとどめておこう」


ようやく空気が和やかなものに戻り、みんなの顔が明るくなる。


「それとご主人様? あなたの熱、私たちに伝わりましたよ。ですがやっぱりまだお子ちゃまですね」

「上手いことヴェルにまとめられちゃったな・・・。やっぱり君達には敵わないよ。よし、じゃあ今日も午後から頑張りますか!!」


こうして今日もいつもの日常が始まる。


**********


それから少しあとの事ー。


「ねえおばあちゃん! 見てこれ!! すごいでしょ、このきれいなお花!!」

「まぁまぁ、綺麗なツユクサの花だこと」

「おにいちゃんともっとつんでくるね!!」

「ありがとうねぇ、でも急ぎすぎて転ばないようにね」


王都から離れたとある小さな町に俺は来ていた。

周りを見渡せば自然があふれており、風で花も草も揺れている。

ここに来るのは初めてだ・・・。


シズクからもらった紙を片手に俺はその街の中を抜けていくとやがて小さな小屋に着いた。

ノックするかどうかためらうが、その前に中側から急に扉が空いて子供が二人、飛び出してくる。


「おわっ!?」

「うわぁ! びっくりしたぁ・・・。おじちゃんだぁれ?」

「俺・・・? 俺は、その・・・」


なんて答えるか迷う。

だが考えている最中に部屋の奥の方からもう一人、誰かが出てきた。


「どうしたんだい? お客さんかね? ・・・あらまぁ、これはこれは懐かしいお客様だこと」

「・・・顔だけ見れたら十分だ。俺はこれで」


「待ちなさいよ、あなたはいつもそうだったわね。ぶっきらぼうで人をよりつけようとしないで、でも優しくていつも人の事ばかり考えているエルフ様?」


「・・・」


彼女と目が合って昔の記憶が鮮明によみがえってくる。

嬉しいことも、悲しいことも。

憎んだことも、愛したことも。


「少し話をしようじゃないかね。どうぞお入り、中には誰もいないから」


俺は一言も発することなく、一歩を踏み出す。


止まったはずの俺の何かが、再び動き出したような気がした。

活動報告にて今後?について軽く書いてみたので、もし宜しければちらっと覗いて頂けると嬉しいです。

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