32.no title 後編
心地よい風が部屋の窓から入ってきて昼寝していた俺のところまで届く。
・・・なんだろう、懐かしい夢を見た気がする。
俺はそのまま起き上がり、部屋を出てテラスまで向かい空を眺めることにした。
小屋の二階にあるテラスから見える景色は俺の一番のお気に入りだからだ。
なんてったってもう見えないから。
二つの国を分断する結界が。
昔住んでいた小屋からは見えない景色だ。
そんなテラスの扉を開け、外に身を乗り出すとすでに先客がいた。
彼女は物憂げに煙管を燻らしていた。
「・・・なんだ、ご主人起きたのか。いい夢でも見れたか?」
「シズクか、君も外の空気を吸いに?」
「まぁな。最近は人間に勧められたこれにはまってたんだが中で吸うと臭いって言われるからここで吸ってんだ」
「そうなんだ。・・・夢というか、昔の事を思い出したよ。一回目に転生した時の」
ーそう、俺ことフィセルは二回目の転生を果たして今ここにいる。
あの星夜の話し合いの後、俺は人間の国へと帰り再び元の生活に戻った。
変わったところといえば、勉強に必死でとり組むことになったってこととエルフの国にも行けるようになったこと。そしてルリ伝いに他のエルフにも家がばれて俺の応援をしてくれるようになったことくらいだ。
高校を卒業した俺はそのまま大学校へと入学し、この国の歴史や今の情勢を学ぶことにした。
ただの人間である俺にできることは少なかったけど、人間とエルフが手を取ることの大事さを伝えたりと貧しい人への支援などやれることは学生時代にも多くの活動に取り組んだ。
そして俺は学生生活を終え、人間とエルフの仲を取り持てるようにどちらの種族にもなりつつ世界に働きかける傍らシズクとともに『後天的に勇者の力を付与する研究』を続けていき、俺が50歳の時には何とかギリギリかけれるところまで到達することができた。
そのためエルフィセオでもエルフたちとは連絡を取り合って会ったり、一緒に行動したりもしていた。
ヴェルを除いてだが。
それでもバンやシズク伝いに彼女がやっていることを聞いたり、目にしたりはしたため彼女も自分の意志で動き始めていることはわかった。
なんでもすべてのエルフと一度話すことにしたとか。
人間からしたらなんて無謀なことをと思うかもしれないけど彼女たちの寿命からしたら可能な事なのかもしれない。
人間の国でもアイナやルリ、ダニングとも会ったりしたしルリに至っては三日に一回は顔を見せるほどだった。
部屋のドアを開けたらすでにいるなんてことはもう最初の一年で注意するのを諦めたほどだ。
アイナとダニングはその分常識があったほうだと言えよう。
仕事があるっていうのもあるが。
そして俺は普通に寿命を全うしー。いや平均よりは少し早いかもしれないが俺は生まれて70年で2回目の人生をアイナとルリ、そしてダニングに見守られるようにして終えた。
体に再び転生魔法をかけて。
こうして俺は再びこの地に蘇った。
*******
「昔? あぁ1回目の転生した時か。あの頃はまだ人間の国とエルフの国は分断されてたからな。でも今はもう無くなった。人間の国とエルフの国が一つになって手を取り合う社会ができた」
「そうだね。話によると俺が二回目死を迎えてから30年近くかかったんだろう? 結界が無くなって一つの国になったのは」
「大体そんなもんだな。まあ早いほうだったんじゃないか? 私たちだけじゃない、みんなの頑張りのおかげだ。あとは時間も多くを費やしたってのもあるかもな。あの頃を生きたエルフは確かに人間に嫌な思いをさせられたけど、次の世代を生きる奴らは何も関係ねーから」
「・・・シズクも丸くなったね。最初に会った時とは大違いだ」
「誰の所為だか。っともうこんな時間か、ちょっと私は出かけてくる。無理するんじゃねえぞ」
「はいはい、わかってるって」
シズクが先にテラスから出ていく。
シズクも言った通り俺は2回の転生の影響か、そもそも魔力を作り出す器官がないという原因不明の病気にかかっており本当に何もできない。
原因不明というか、単純に転生の代償なんだろうけど。
それに伴って過去2回の人生においても貧弱だった俺の体はさらに貧弱になった。
だから俺は2回目の死んでから100年後の世界で再び目覚めたあと、義務教育の分は学校に通いそれからは今のこの王都からは離れた田舎で過ごしている。
今度の人生はその魔力を作り出す器官がないから親に見放されて勝手に生きろって言われるくらいには悲しき人生だ。
それでも金は・・・まぁ想像通りエルフに養ってもらっているから問題はない。
俺は30歳独身無職だけど。
なんというか、ひたすらに忙しかった過去2回の人生とは大違いだ。
そして国が変わればあの時世界の中心だった彼女たちの立場もある程度変わるわけでー。
「たっだいまー! ってなんだろこの匂い!! ダニングおじちゃん何作ってるのー?」
「手を洗わずに厨房へ入ってくるな!! アイナ、ルリを連れていけ!!」
「ルリ! いつも言ってるでしょう、帰ってきたら手洗いうがいですよ」
「それにしてもいい香りだねダニング、今日のご飯はー」
下の方でなにやら騒がしい声が聞こえる。
そう、世界の中心だった彼らは今その立場を次の者たちに託して隠居し始めているのだ。
彼女たちはまだ世界の中心であることには変わりはないがそれでもあの頃よりは忙しくない。
そして隠居先、ないし住処ははもちろん・・・。
「まったく、こんなところにいらしたのですか。探しましたよ」
下から流れてくる声に耳を傾けていると背後からも声が聞こえる。
・・・君はいつでも俺の背後を取るのが得意だな。
「アイナたちが騎士団の訓練から帰ってきたんです。ちょうどご飯もできたようですから食べましょう。シズクは出かけてしまいましたが」
「まったく、君だってずっとここに居なくてもいいんだよ? やりたいこととかないのかい?」
「今は人間の方がこの国を回してくれていますし、エルフの代表も違う者に引き継がれました。私は今戦争を起こしたものとしてそれほどよく思われていないですしね。ですので私がやることと言えば無職で寿命の短いご主人様の面倒を見るくらいです。私くらいですよ? ここまで甲斐甲斐しくお世話をいたしますのは」
「はいはい、助かってますよと。よし、行こうか」
「お手を」
「いいって、まだ俺普通の人間なんだからね!?」
「いえ、・・・これからは私がご主人様を引っ張っていくと決めましたので」
強引に俺の右手を取り、そして両手で優しく包む。
彼女はこうしていつでも俺の手を取りたがるが原因はよくわからない。
聞いてみてもふてくされて答えてくれなかったから未だに未解決だ。
ただ確かに、過去二回の人生で彼女の手を引いた記憶は残っている。
「やっぱり少し恥ずかしいけど・・・、まあいいか、よろしく頼むよ」
今度の人生くらいはゆっくり過ごさせてもらおうか。
最強の仲間たちと共に。
これにて一旦の区切りとなります。
今迄応援ありがとうございました。
この物語の続きについて、この小説に対する自分の想いなどはまた近いうちに活動報告を使って伝えられたらと思います。
追伸)あげました。
これからも最強エルフをよろしくお願いします。




