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30.ワタシ

「・・・やっと二人きりになれたな」


満点の星空を見上げながら200年前と同じように運動場に座り込む。

多少見てくれは変わっているが何となく面影が感じられるのが嬉しい。


「・・・・・」

「・・・・・」


無言の時が流れる。

ヴェルは必死で言葉を探しているようだった。


「ヴェル、思うがままにしゃべっていいよ。昔の君は思ったことを歯に衣着せずしゃべってたじゃないか。あの頃は一応ご主人と従者だったんだよ? 今のほうが普通はしゃべりやすいじゃないか」


言った後に自分の発言の可笑しさに気づく。

今俺の前にいるのはエルフの国の王だというのに。

まあこの場なら別にいいか。


「・・・多分さっきの続きだろ?」


またしても沈黙が流れる。

多分これは肯定の沈黙だ。


「・・・私は今エルフィセオの国王を務めさせていただいています」

「そうだね、会った時はびっくりした」


「なぜ、私がそのような位についているかはご存じですか?」

「いや、まったく。戦争で一番頑張ったから?」


「・・・まぁそういう事にしておきましょう。もう少し付け加えるのなら、あの戦争のすべてを動かしたのが私だからというのもありますね。それでです、今エルフィセオは大いに栄えていますし人間とも悪くない関係を保てています。・・・ですが、エルフは寿命が長いです。だから・・・あの戦争に関わったもののほとんどが人間にひどい扱いをされていたのです。私たちが甘い思いを過ごしていた中で、彼らは人間に憎悪を燃やし続けていたのです。そして彼らの多くは今も生きています。だからこそ、エルフィセオ内は人間の立ち入りを禁止しているんです。まだ憎悪に満ちたものが多くいるので。」


「・・・・・」


「・・・たくさんの人間を殺める『戦争』という作戦を発案した時点で私はある決意をしました。それは私がエルフの長になってもし人間に勝てたら私自身が平和条約を結びに行くこと。そうしなければご主人様の言った通り人間が奴隷のようになる恐れがありましたから。それに伴って条約を結んだ私がエルフの希望の象徴、見本になることも。そうしなければ人間と平和条約を結んだということに疑問を持つものが現れる恐れがあったからです。『人間にやられたことをやりかえせ。平等? ふざけるな』と言うエルフも多かったですからね」



「つまりは人間を滅ぼさないために、エルフの希望の象徴になったってことか。そしてエルフの希望の象徴というのは・・・」



「人間に媚びず、格上であり続けることです。だから多くの人間を殺しました。・・・実績が必要だったんです。私が人間を何とも思っていないと見られるような。利用したんです、人間の死を」


「・・・」


「それに今はっきりと言います。私自身、人間に復讐出来て喜びを感じました。私の計画によって崩れ行く人間の国を見てざまぁみろと思いました。もうここまで言えばおわかりですか? 私は・・・人間であるご主人様と再び平和に過ごす権利もなければ自由もないんです」



「そ、そんなことはない!」



「・・・私は戦争という手段を取ったことを後悔はしていません。エルフを助け、ご主人様の夢を果たしたという面では。そして後悔しております。生まれ変わったご主人様と・・・前のように接することができなくなりましたから。だってご主人様は私が葬り去った土地で生まれ育ったのだから。ご主人様は疑問に思わなかったのですか? ご主人様が死んで200年経つというのに人間の国がそこまで発展していないことに」


「・・・・・」


「私が一度、滅ぼしたからなんですよ」


「・・・気にするなって言っても無理があるか。戦争ってそういうもんだもんな。俺も話を聞いて考えたんだ。俺はあの時人間の欲深さが嫌になって、エルフがあまりにかわいそうだと思って君たちが革命を起こすための道具を作った。でも、そういう欲深いのは一部の金持ちとかだけかもしれない。他の平民、回復薬を開発する前のころの俺のような普通の人は何も悪くないんじゃないか? って思って」



「そうですね。それにあの戦争では・・・多くの一般市民が犠牲になりました。だから・・・私はエルフからしたら英雄ですが人間からしたら仇に思われているでしょうね。もっとも戦争終結から50年は経っていますが」


「俺も思ったんだ。もしかしたら俺こそがすべての元凶なんじゃないかって。多くの人間を殺したのは君かもしれないけど、その弾丸を作ったのは俺なんだ。だから君たちは俺に嫌われるんじゃないかっていう不安を抱かなくていいし、何も間違っていない」


「そんなことはありません。私が、私が選んだ道です。多くの人間を殺すという手段を取ったのは私です。だから、私は今日以降ご主人様には合わない心もちで臨みました。ご主人様の目には無意識にでも私が同胞殺しに映るかもしれないから。血にまみれたこの手でご主人様を迎える勇気がなかったから。もしかしたら、『ご主人様の夢を果たすために人間を多く殺した』というのも私にとって都合の良い言い訳なのかもしれません。自分の復讐心をごまかすための。そしてエルフの国王という面でも、もう個人の人間とは会うことが出来ません。・・・どうかこれを受け取ってください」



そういってヴェルがポケットから取り出したのは小さな瓶であった。

この形状、何か見覚えが・・・。


「人間をエルフにする薬です。といってもご主人様が作り出したように耳がとがるだけですし、一滴で一日しか持ちませんが」


「えっ!? そ、そんなもの作ってたのか!?」


「はい。シズクと私でご主人様の薬の構成を解読して逆のものを作りました。これがあればご主人様はエルフの国へ入ることができます。ただ、寿命が延びたりとかはしませんけど。そして他にもエルフィセオ内にご主人様が住める家とお金をご用意させていただいております」


「は? えっ、ごめんまったく意味が分からない」


「さっきも言ったようにこれは姿が若干エルフのようになるだけです。門番は人事異動をすれば問題はないのですが王城の者たちは一度ご主人様の顔を見ています。なのでおそらくその周辺に近づくと怪しまれてしまいますが、遠くならこれでエルフとしての暮らしもできます。これを使ってご主人様は人間の国とエルフの国の両方を味わっていただけたらと思いまして。ですが私は会えません。ご主人様が、私が命運を握るエルフィセオで少しの間でも過ごしていただけたら私はもう満足です。それに私は世継ぎを産まなければなりませんので。ですが、シズクとバンとは・・・」



「ちょっと待って、なんでそんな悲しいこと言うの? 君がそういう風に人間である俺から離れようとするのは人間を滅ぼした罪悪感から? エルフの国の代表になった以上人間と関われないから? でも後者ならおかしいよね。だってエルフになれる薬を開発できたんならエルフになった俺とエルフィセオで会えばいいもんね。エルフの国王になったから、人間なんかとは一切かかわりませんていうのなら別だけど話聞いてる感じそうでもないし」


「・・・」


「それにもう本当に会う気がないのなら今日この場に来てないよね? シズク辺りにしゃべらせればよかったし。でも今日来たってことはまだ迷いがあるんじゃないのか? 抱いた決意に」


「それは、今日この場に来たのはこれが最後だから・・・」


「違う、本当のお前はそんなこと思っていない。本当は別に言いたいことがあるはずだ」

「違いません!!」

「じゃあなんで泣いてるんだ?」


「!? ・・・これは違います、雨です」

「降ってない。満天の星だ。降るとしたらまだ星屑のほうが可能性はある」

「・・・」



「君は今、他のエルフからしたら希望の象徴なのかもしれない。君らが俺を見る目と、他のエルフが君たちを見る目は同じだと思うよ。命の恩人だからね。でも・・・、他のエルフが見ている君は本当の君じゃない。君は自分を捨てて俺の約束を守って、国王として鎮座しているんだ。君は特殊メイクで人間になったと言ったね。でもその下にももう一枚仮面があったんじゃないのか? 本当の自分を隠す仮面が」



「そ、そんなの分かってます!! 言ったじゃないですか決意したって!!! この200年間ずっと、ずっと自分を騙してきたんです!!!! もう会えなくなる覚悟もしてたんです!!! なのに・・・なんでご主人様は、ご主人様はここまで私を乱せるのですか!? 200年と今のこの数時間ですよ!? どうして!!!!」


「あの20年間が、本当の君だからだ。そして今も心のどこかで戻りたいとも思ってるはず」


「っ! ・・・私がいなくてもほかにエルフは5人もいます。なら・・・みんなが幸せになれるのなら私一人が犠牲になればそれでよかった。・・・私はこの作戦を思いついた時点で悟りました。あれは誰が欠けても成功しないこととを。そして・・・私が汚れ役をかぶり、エルフの王になることで歯車が噛み合うことも。いや、汚れ役なんかじゃありません。ご主人様の残した魔法具を自分の復讐に使ったんです、当然の報いです」



「そんなわけないだろう、誰か一人が不幸になって得る幸せなんて虚しいだけだ。罪悪感があるのなら俺が一緒に背負ってやる。すべての元凶の俺が。だから一緒に今から変えよう。本当に、エルフと人間が心の底から分かり合える世界にするんだ。お前はいつも一人で抱え込みすぎなんだよ! どうせ誰にも言ってないんだろう。みんなに言ったら『私たちも同罪です』っていうもんなどうせ」



「違います・・・。すべて私が悪いんです、私が他の5人を動かしたんです・・・。私が・・・計画段階で人間に最高の復讐ができることに気づいてしまったから。だって・・・その証拠にご主人様は直接戦争に関わるものは一切発明しなかったじゃないですか。人間のようになる薬、位置が分かる魔法、瞬間移動できる魔法具、そして傷ついた者をいやす回復薬」



「そうかもしれない。でも他の5人だってその作戦に乗ったんだろう? ならなんでヴェルがそこまで抱え込む!? そんなことお前だってわかってるだろう!? いつまで自分に嘘をつき続けるんだ!!!」



「・・・・・・・・・」



「ヴェル、俺はお前が変わったとは思ってないし今ならまだやり直せる。それに他のみんなもそう思っているよ。でもこのままだと君は死ぬ時まで仮面をかぶったままだ。もしかしたらエルフにとってはそのほうがいいのかもしれない。でも、俺は君に幸せになってほしいんだ!! 俺の夢に巻き込んでしまった君に。だから、だから戻ってこいヴェル! お前は今逃げているだけだ、自分の醜い部分を知られるのを。でも俺はお前を絶対に否定しない。ありのままのお前を受け止める、お前の罪は俺の罪でもあるんだ。それにヴェル、君はもう俺と会えなくなってもいいのか!? いやならこの手を取れ!!! 後悔のまま終わっていいのか!?」




*******


「いやならこの手を取れ!!!」


ご主人様が立って私に手を差し伸べる。

この手を取れば私の覚悟は全て無駄になる。


ご主人様が生まれ変わって初めて城に来た時、嬉しかったと同時に怖かった。

事実を知ったらご主人様はどう思うんだろうって。


貴方の暮らした200年前の国は私が破壊したということを。

貴方が望んだエルフの国はたくさんの人間の屍の上に建っていることを。

戦争という手段を取った中に、私の人間に対する私的な憎しみが含まれていたことを。



そうなるのを危惧して私はあの時決意したはずだ。

人間として生まれ変わったご主人様とは会わないと。

同胞の大量虐殺の先導者としてご主人様に映ることが怖かったから。

だがそれでよかったのだ、他の5人がご主人様と幸せに暮らせるのなら。



でもあなたと会って、一瞬でその決意は揺らいだ。

音を立てて崩れ去った。

200年かけて固まっていたものが、たったの数時間で砕け散った。


会いたい。一度だけなら・・・。

城で会った後、何度も頭を駆け巡り、そして誘惑に負けた。

その結果がこれだ。

もう何もわからない。

言ってることもやっていることも全てがちぐはぐだ。


たった一人の人間のせい(おかげ)で。


・・・逃げている?

そうなのかもしれない。

醜い私を見られたくなくて「エルフの国王だから」という建前で逃げようとしているのかもしれない。

ご主人様の計画に、ご主人様の魔法具に復讐を混ぜ込んだ醜い私を。

人間を滅ぼすことで快感を覚えていた私を。

ご主人様を利用した私を。



《運命の時です。あなたはどうしますか? イヤ、『ワタシ』ハドウシタイ?》



ドクン


ご主人様、いまあなたの目に私はどう映っていますか?


ドクン


あの頃のヴェルとして映っていますか?


ドクン


この手を取れば戻れますか?


ドクン


『私は決意しました。もうご主人様とは会わないと』


ドクン


『なんでこの数時間で決意が揺らぐんですか!?』


ドクン


『戻ってこい、ヴェル!!!』




私はこの手を…トル? トラナイ?




右か、左か。

彼女はどちらを選ぶのでしょうか。


4/16(追伸)

誠に勝手ですが、次の最新話更新まで感想の受付を停止させていただきます。

(私の思い描く未来を先読みされるのが怖いというのと、自分が思っていたことを書けなくなるのを防ぐためです)

最新話更新とともにまた受け付けますのでよろしくお願いいたします。

誤字脱字はこれからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歯に衣着せぬじゃない?
[一言] 僕はヴェルが手をとらない未来が見たいです
[一言] いつも楽しく読ませてもらってます。 左の未来がいいです。
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