20.裏側
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無人島に滞在しがちな私の心を引き留めてくれています。
これからもよろしくお願いします。
フィセルが家に帰った少しあと、エルフィセオ王国城の一部の者しか知らない隠れ部屋にて。
「ただ今帰りましたよシズク、ヴェル」
その部屋にいる二人の女性に話しかける。
二人とも狭い部屋においてある机に突っ伏しており顔はよく見えないが多分泣いていたんだろう。
まぁ想像通りだが。
あの後俺が主を送っている間に何があったのかわからないがおそらくジジイどもにこってり絞られたのであろう、疲労感が二人から漂っている。
挙句床には何本も酒瓶が転がっているから多分出来上がっているなこれ。
「・・・・・ご主人様は怒っていましたか? すぐに追い返した私を」
「いや、事情は分かっているみたいだったよ。ただまぁびっくりしていたけど」
「はぁあああああ、やっぱりそうですか。流石に周りからしたら見ず知らずの人間を王国内にとどめておくのは不信感が募ってしまうから・・・、それにほかのエルフと早く再会してほしかったし・・・、それでもやっぱり一日くらいは・・・」
「ごちゃごちゃ煩いが元はといえばヴェルがあんな約束事を作らなければこうはなっていなかったんだぞ」
「そうだね。『主が生き返ったら本人の足で各々のエルフに会ってもらう』っていうのは確かに俺らも喜びが段違いになるし平等だからいいとは思ったけど流石に女王様にそれは無理があったんじゃないか? 騎士団長とかならギリギリなんとかなるけれど・・・。それにかなり冷たかったしね」
「だって急に来るんだもの!! びっくりして涙をこらえてたらあんな風になっちゃったのよ!! 想像の何十倍もびっくりしましたしシズクも使い物になりませんでしたし!」
「おいこら、私を巻き込むな」
「だからその約束を作ったのは君だろう? 事前の連絡なしで会いに来てもらうという」
「だってあの約束立てたころの私はこんな風に女王になるつもりはなかったんだもの!!!! それに私以外のみんなだけ感動できるなんて不公平だから別にいいじゃないそれくらいは!!」
「はぁ、また始まった。でもあの状態では君がなるしかなかったじゃないか」
「私だってこんなことになるとは思っていなかった。気がつけばこんな乳臭い娘のお目付け役になんかなっちまってたけどね」
「シズク、あなたって私とあまり生きてる年月変わらないわよね? まぁいいわ、・・・私は普通のエルフになって普通の生活を送って普通にご主人様を迎えたかった!!! でも、でも・・・」
「俺らの革命において精神的支柱および絶対的強者が必要だった。そしてそれがヴェル、君だった。ご主人様が開発したエルフ専用の魔法や魔法具を一番使いこなせた君が。そんな君が初代国王になるのは必然だろう。新しい国の象徴となった君が。だからこそ今の国がある、絶対的な経済力と武力を持ったこの国が」
「私はエルフの国なんてどうでもいいの!!! ご主人様と平和な日常が暮らせればそれでよかったの!!!! ご主人様のために計画を実行しただけ!!!」
「おーっと、大分酔いが回ってるなこれ。シズク、ヴェルは今日そんなに飲んだのか?」
「大分飲んでいたぞ。かなりのハイペースでな。しかもさっきエルバードにご主人様について執拗に聞かれてな、中々参っているみたいだ」
「確かに今まで俺ら6人以外には主の事を伏せてきたけどそう言い始めたのは君だよね、ヴェル? 主は言っていたよ、あぁ、俺いないことになってんだぁ。みたいな感じで」
「だって・・・・、私たちのあの日々をほかのエルフに言ったらおそらく非難すると思うの。私たち以外のエルフの大抵は人間にひどい扱いを受けてきたしエルバードたちも例外じゃない。そんな中で私たちが人間のおかげで何とかなりました!! っていうのは簡単だけど多分彼らはご主人様の事を否定すると思う。いづれはケチつける輩が出てくるに決まってるわ。・・・そんなことさせるものですか。あの思い出は私たちだけのもの。だから誰にも邪魔されたくなかったの、汚されたくなかったの輝かしい記憶を。あれは私たち6人だけのもの。国なんか知ったもんですか、私はご主人様第一で動いている。ご主人様の夢をかなえる過程で偶々国がうまいこと回っている、ただそれだけ」
「おーい、それ以上はもうアウトだ。頼むからこの状態のヴェルをほかのエルフに見られないでくれよ。すべてが終わる。というか酔っぱらったらここまでになるんだね。いつもはみんなの前で『私は全てのエルフのために立ち上がりました。他のだれのためでもなく、誇り高きエルフのために』って大声で言っているのに」
「当たり前だ、私が阻止する。この阿呆は何をしでかすかわかったもんじゃないからな」
「なっ! 阿呆はあんたのほうでしょ!! ご主人様の後ろ姿見ただけで泣いてたくせに!!!」
「ははは、すまんな体が反応してしまったようだ。なんせご主人と交わったのは私だけ・・・」
「あああああ、何も聞こえないーーー!」
「なんで二人とも主が絡むとここまで馬鹿になるんだ・・・。まぁいいじゃないか、どうやらご主人がまだ会っていないのはルリだけみたいだしその後またじっくり話そう。あの小さな森の中の小屋であの頃のように7人で」
「・・・・そうね。6つの星が集まったらまた会えるもの、あの場所で。そこですべてを話せるものね」
「そのためにも早くルリと接触してもらいたいものだな。あいつは今帰ってきているのか?」
「ああ、それならさっきアイナから連絡がきていたよ。明日にでも人間の王国のギルドに着くって」
「まだあの子アイナにべったりなのね。まぁ昔からあの子の面倒見てたのアイナですしね」
「あと一人で俺たちは200年かけて作り上げた仮面を取って会えるんだね。200年前のあの頃のように」
「・・・バンも飲みますか?」
「少しいただこう」
こうして俺らが主に再会した日の夜は更けていった。
******
家に着いてすぐさまベッドに横たわる。
時計をちらっと見ると午後8時くらい。
ドラゴンで飛んだだけあってめちゃくちゃすぐにつくことができた。
ようやく静かに考えられる状況になった今でも正直な話あまりよくわかっていない。
今の俺を取り巻く状況が。
ただ一つ言えるのはあの場では仲良く会話できなかったという事、そして全員のエルフと再会出来たらまたみんなで集まってそこですべてを話すという事。
これが今までのみんなとの再会でわかったことだ。
そしてもう一つ、エルフと人間の間には大きな溝があることも分かった。
200年前とは真逆ではあるが。
恐らくだがヴェルとはこの先対等な目線で話せることはないのかもしれない。
だって一国の王になんかなっちゃってるし。
そしてもうひとつ問題が発生した。
・・・ルリの出現場所を聞いていない。
アイナか誰かが確かSランク冒険者になってましたよみたいなことを言っていた気がするが、冒険者は神出鬼没だし普通にいって会える気がしない。
アイナを使ってうまく連絡できればいいけどそもそもアイナとすらちゃんとコンタクトが取れるかどうかも怪しい。
一応騎士団長だし。
「・・・まてよ、冒険者ギルドに行って伝言かなんか残してもらえばいいんじゃないか?」
ベッドに寝転んで考えていた俺の頭に一つの名案が浮かんだ。
そうだ、そうすればいい。
ちょうど明日も休日だし、明日冒険者ギルドに行ってそこで受付の人に伝言を頼めば多分うまいこと行く気がする。
そう結論付けて俺は明日のために寝ることにした。
ただ寝ようと思って目を閉じても浮かび上がるのは今日の冷たい空気。
人間を軽蔑しているあの空気。
「・・・確かに夢は実現したかもしれないけど、・・・すべてが逆転しかけているじゃないか。多分それを防ぐためにダニングやアイナがこっちに残ってるんだろうけどいつか、いつかは・・・」
200年前と逆の事にならないようにと願って俺は眠りに落ちたのであった。




