16.F meets A
気付いた時は保健室のベッドの上にいた。
頭が痛く触ってみるとポッコリはれ上がっているので多分たんこぶができているんだろう。
「・・・はぁ、アイナと会うチャンス逃したな。それにしても本当にエルフって昔と変わらないんだな」
と誰もいない保健室でぼやく。
保健室の先生位いてもいいと思うのだが誰もいない。
なんか悲しくなる。
「まあいいか、いつかまたチャンスはあるだろうし」
終わったことをくよくよしてても仕方がない。そう思って保健室のベッドから立ち上がろうとした時であった。
誰もいない保健室のドアがノックされた。
「は、はい?」
「失礼します。騎士団長のアイナです、中に入りますね」
「え!?」
適当な返事をした俺に帰ってきたのは紛れもなくアイナの声だった。
アイナは俺の返事を待つことなく中に入ってくる。
「だ、大丈夫ですか? カーテン開けますね」
アイナが保健室の中に入ってきた以上、俺とアイナを隔てているのは保健室のベッドに取り付けられているカーテンだけだ。空ければすぐに対面できる。
だが何となく、アイナにはかっこ悪い俺を見られたくなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください! 開けないでください!」
「あ、お、お着換え中でした!? ごめんなさい無神経で」
「い、いえそういわけじゃ・・・」
「そうですか。今さっきけがを負わせてしまった生徒がいるとの報告を聞いて回復薬を持ってきたんです。あ、あぁ怪しい薬じゃないですよ。私の知っている中でも一番すごい人が作った薬なので効果はばっちりです」
回復薬・・・。
今彼女が持っているのは昔俺が開発した回復薬なのだろうか。
いまでも俺の薬を使ってくれているんだな・・・。
「そうですか、ありがとうございます。それじゃあそこに置いておいてください。あとで使います」
「・・・本当にごめんなさい。私の監督不届きでした」
「いえ、そんなことはありません。俺の実力不足です。・・・ただ彼はなんか八つ当たりしてきたようにも思えましたが」
「・・・・やっぱりそうですか。いえ、こっちの問題です。彼にはあとできつく言っておきますのでどうか今回の件はお許しください。本当に申し訳ありませんでした」
部下の失態なのにここまで謝れるアイナはすごいなと思う。
だから団長にはなるべくしてなったのかもしれないな。
・・・まてよ、これはチャンスか?
「あの、申し訳ないと思っていらっしゃるのなら一つお願いを聞いてくれませんか?」
「はい、なんでしょう? できることならなんでも」
なんでも、と聞いて一瞬最悪の妄想が浮かんだけど手で払う。
ちがう、そういう事が言いたいんじゃない。
「この後、僕とも手合わせしてください」
*******
アイナが保健室を出たのを確認して、彼女が置いていったポーションを使う。
流石俺が作っただけあって飲んだらすぐに回復した。
時計を見ると時刻は16時過ぎくらい。多分他の生徒はもう下校したであろう。
保健室の先生とはちょうど入れ違いの形で保健室を後にした俺はゆっくりとアイナが待つ運動場へと向かっていった。
「来ましたね。って、どうしたのですかその顔? まさかそんなに重症だったのですか!?
アイナがそういうのも無理はない。今の俺は顔に保健室の包帯をぐるぐる巻きにまいてある。
回復薬のおかげで俺には一切の怪我はないが。
「いや、何となく顔を見られたくなかったんです。怪我はあなたがくれた回復薬で治りましたので安心してください」
「そうですか、何か見られたくない理由があるということですね。それでは始めましょうか」
アイナの声を合図にして打ち合いが始まる。
俺が彼女に勝てるはずないし、アイナはアイナでめちゃくちゃ手を抜いて瞬殺しないようにしてくれている。
だからこそ気づいてほしい。
200年越しに経験する汚い俺の剣筋を。体運びを。
そのために顔を隠した。変わってないことを知ってほしいから。
ある程度打ち終わった後最終的に疲れ果てた俺が足を取られて盛大に転ぶ。
やり切って満足げの表情とは打って変わって彼女の顔は非常に困惑していた。
まあ俺の顔は包帯で隠れてるけど。
転んで運動場で寝そべる俺を起き上がらせ、困惑したままの顔で彼女は俺に尋ねた。
「・・・・・・どうしてもその包帯を取ってもらうことは出来ませんか?」
彼女は気付いてくれた。
俺の剣筋だけで気づいてくれた。
高鳴る心臓を頑張って抑えながら顔に巻き付けてある包帯に手をかけてほどいていく。
「あぁ、やっぱり、やっぱりそうだったのですね・・・・・・・」
「こんな形で知らせることになってなんかごめん。無事帰ってきたよ」
「フィセル様!!! ずっと会いたかったです!!!」
せっかく起き上がったのにアイナに抱き着かれてまた転ぶ。
それでも彼女は腕の力を弱めない。
「ずっと、ずっとお慕いし続けておりました、フィセル様・・・」
「泣くなよアイナ、せっかくのかわいい顔が台無しだよ」
「フィセル様こそ泣いていらっしゃいますよ」
「え、あれ? 本当だ。はは、止まらないや」
沈んでいく太陽が照らす運動場の中央で、俺らは少しの間抱き合い続けた。
********
「フィセル様、他の者たちにはもう会いましたか?」
まだ涙でぐしゃぐしゃの顔のままアイナが俺に尋ねる。
俺もぐしゃぐしゃだが。
「いや、アイナが初めて。なんか皆偉くなっちゃったみたいで全然会えなかったんだ」
「そうですね・・・。ヴェルさんと兄さん、あとシズクさんはエルフの国にいますから普段では会えないかもしれません」
「ダニングは王城の料理長やってるみたいだね。この前テレビで見た」
「そうなんですよ! それにルリは今やSランク冒険者なんですから!!」
「え、Sランク!? ていうかルリは今冒険者なの!?」
「あっ、あんまり言わないほうがいいですね。私たちのルールに反しちゃうところでした」
「ルール?」
「はい。もしもフィセル様が転生に成功して誰かが遭遇したら独り占めせずに絶対皆に報告すること、そして過去の話はみんなが集まった場で話すことっていうのを決めてたんです。なので私と同じように、他の5人にも個別であっていただきたいのですが・・・」
「それは願ったりかなったりだよ。というかそれを尋ねようとしてたんだ」
「そうですか。ならまず・・・そうですね、この時間ならおそらくダニングさんに会えると思います。彼は決まった時間に自分の目で食材を見て買っていくそうなので。私もたまに待ち伏せて話しかけますし」
「それじゃあダニングの元へ行ってくるよ。場所を教えてくれないか?」
「はい、もちろんです」
そういってアイナがポケットからメモを取り出してペンを滑らせていく。
「おそらくもう今日の分は終わってしまっているので、明日の正午にこの場所に行ってみてください。多分会えると思います」
「わかったありがとう。またみんなと会えたら報告するね」
「はい、待ってます! それでは私はこれで」
「うん。アイナに会えて本当にうれしかった!!」
「・・・私はおそらくフィセル様の10倍はうれしかったと思います。それと私としたことが言いそびれておりました。
フィセル様、おかえりなさいませ」