連結奥義『万華鏡スラン』③ 重力の井戸の底で
かつて天地を繋いだ栄光の巨大塔は苔生して森の一部と化し、もはや歴史書さえもその存在を忘れてしまった。
バファル軌道塔の奥深くにある基礎部分。エーテルリアクターの鎮座する大陥落から野鳥が一斉に羽ばたく。
鳥の舞う様を見上げるレザードの眼差しは愛おしそうだ。彼は鳥を愛している。なぜなら鳥は小さくて愛らしいからだ。
かつて愛した小鳥のように愛らしい妻の御姿を思い出せそうになるからだ。
彼は時を憎んだ。あの日、妻を連れ去られた日の激情も妻の御姿もすべてを時が奪い去っていったからだ。
無聊をかこつように鳥の羽ばたきを眺める魔王は小指の爪にピリリと走ったディスペルバックに驚き、己の指をまじまじと見つめる。
「剣が折れたか? 存外骨のある奴がいるものだ」
詳細は分からない。ただ遠くの地で己の複製が一本折れたのだけはわかった。
思考は喜びだ。謎は素晴らしい退屈凌ぎだ。もしかしたら希望があるのかもしれないと、謎を解き明かすまでは信じられるから……
「待てど暮らせど現れぬ男を待ち続けるのは退屈にすぎる。手駒を増やしたいところだが派手に動いては露見しては敵わぬ。……転生器は失敗すると教えてくれたあの者の心遣いを忘れるわけにはいかぬ」
思い浮かべる古き友の姿は茫洋とし、姿形はもう思い出せない。
ただ陽気な少年だったこと。嘘の下手な子供であったこと。その程度は覚えている。そして彼がもたらしてくれた重大な閃きとそこから推測できる教えもだ。
未来から来た救世主はオデやアシュリーの存在を知っていた。だが夜の魔王に関しては伝説で知るのみであった。つまり万が一のために残す転生装置はうまくゆかぬ。
だから転生器を作り出した後で気づいたこの事実への対処法だけは守り往かねばならない。
夜の魔王が全魔法力の半分を費やして作り出した完全な分霊だけは隠し通さねばならなかった。
潜伏の日々。分霊に残したちからさえも巡る月日が削り取っていき、残るのは僅かな余力のみ。
魔王の分霊は考える。動くか動かざるか、いつも問題はそこだけで、下手に動いて潰されてしまえば正史通りで終わってしまう。
「未来を知るからこそ手が打て、未来を知ってしまったからこそ軽々には動けない。知っても知らなくても結果的には意味がない。これはそのような性質のものなのかもしれんな」
バファル軌道塔の奥底で。零れいずる陽光の下で。
夜の魔王レザードは救世主の到来を待ち続ける。
tips:鑑定のアシェラを仲間にしたことでバファル軌道塔の奥底で運命の選択肢を選べます。
ティト神とアルテナ神を捧げることで夜の魔王の勧誘が可能です。その場合は救世主が連結奥義を習得し、強力な戦力を得られます。同時に友好的な神々からの好感度が激減します。
夜の魔王を倒すことで救世主は失われた最後の欠片を入手できます。ハイエルンへの進化が可能となります。