冬に咲く青いバラ(08)
ケツを押さえながら「ぐぉぉぉ」と苦しむ事務員の若者は放置。
お嬢様が焼かれる前の書類を押収して内容を確認してる。俺とデブは屋敷を回って色々搔き集めてくる係だ。
知能のお嬢様! 手足のチンピラ&デブ! みたいな役割分担ノリでやってるけど、じつはこの三馬鹿トリオに知能担当はいねえんだ……
だって肝心のお嬢様が脳みそお花畑の恋愛脳だからね。
「大した資料はないわね」
「マジすか?」
「ほとんど帳簿みたいな物よ、いついつにどのくらいの量の資材を搬入したとか、何日に騎獣何頭をどこそこに出荷したとか。出荷先も暗号化されてて解読表がないと特定は難しいと思うわ」
俺なら暗号の解読表みたいな重要資料まっさきに燃やしてるぜ。
ま、一応押収しとくか―――
ギィン!
背後から襲い掛かってきたハゲに迅速対応!
広間の床の一か所が開いてやがる。地下室か、見落としたぜ。
ハゲが特殊部隊みたいなテクニカルなナイフ術を繰り出す。
ギィン! キン! カァン! このハゲ強え!
「騎士団の斥候……には見えねえな?」
「よくわかったな、通りすがりのパンピーだぜ」
「抜かせ!」
分が悪いぜ。
三十代前半に見えるスキンヘッドの巨漢が振るう得物は肉厚なダガーナイフ。沿海州の暗殺ギルドが用いるシターラという殺人ナイフだ。
何合か打ち合って理解した。俺じゃ勝てない。
まだ生きている理由は、ハゲがキョロキョロしながら室内に騎士が潜伏していないか警戒しているってだけだ。俺ら三人だけだと確信された瞬間に殺される。
「ウェーバーさん、今です!」
と叫んでからお嬢様とデブの下へとダッシュして透明化!
敵の疑念に全力で乗っかる、これが賢い隙の作り方ってやつさ。
無敵のステルスコート先生のおかげでハゲが俺らを見失ってキョロキョロしてる。やがて「クソッ」と毒づいてから室内を出ていった。
「イレギュラーな事態にあっては逃走が最優先か。手強そうなハゲだぜ」
「わたくしが仕留めてもいい?」
俺とハゲの戦闘シーンを見てもなお、可能性を感じてるお嬢様が怖い。レベル三のくせに。
もしかしてレベル19の俺より戦闘力高いの?
色々面倒なので騎士団の本陣まで戻りました。
本陣では騎士が次々やってきて色々な報告をしているぜ。……閣下はなんでまた血の涙なんて流してるんですかね?
「戻ったか(最高にドスの利いた重低音)」
「…………」
やべーよ閣下めっちゃ怒ってんよ!
なんで!? お嬢様のおっぱい、肘でこっそり触ったのバレてるの!? それとも髪の毛の香りクンカクンカした件!?
「一つ問い質したい。夏頃にお前はフォルセ子爵を訪ね、この森の魔物を退治させろと言ったらしいな? なぜだ?」
「カトル村の村長に頼まれたからでっす!」
俺は正直に白状する。面子を潰されたフォルセ子爵が今後カトル村に対してどんな嫌がらせをするだとか色々脳内を駆け巡ったけど正直に洗いざらいしゃべった。いのちだいじに!
最初は普通な面持ちで俺の正直話を聞いていた、本陣に集まった貴族のご当主連中や閣下の顔色がどんどん赤みを帯びている。お怒りモード!?
「フォルセ子爵は兵を出していない?」
「門前払いだったみたいです。村長に頼まれた俺が交渉を持ち掛けた時点で、そういった問題が発生していることさえ知らなかったですもん」
「ほう……!」
閣下が殺人ビームを出しそうな目つきでフォルセ子爵を睨むぜ。
「つまり子爵の六度にわたる騎士団派遣の話は虚言であったと」
「騎士団派遣してるなら、そもそも俺が呼ばれるわけないです」
「理解した」
「子爵、今度こそ本当の事をしゃべってもらえるな?」
「はい……」
物事ってのはシンプルなものだ。
つまり子爵が盛りに盛った創作からは、ありもしない精霊獣なるやべー魔物の影がチラついてたけど、事実を事実のままに見ると森にはちょっと強い魔物が住み着いたってだけのシンプルな事態なんだ。
「帝都守護竜まで動かしてこの結末とはな……!」
と言いつつ、なぜか嬉しそうに笑う閣下。大きな悩み事から解放されたみたいなすっきりしたお顔だぜ。
「総員に告ぐ、現時刻をもって作戦の破棄を命じる。作戦を森に住むガイアルビーストの捕獲に変更し、戦闘捕獲行動を継続せよ! 可能な限り捕獲せよ!」
と閣下が号令を発した瞬間に、お嬢様が挙手。
「どうした?」
「ご報告が遅れてしまったのですけど、森で青の薔薇の軍事拠点を見つけましたの。ね、リリウス」
「森の深部、約二キロメーター地点に帝国革命義勇軍の中規模軍事拠点がありました。どうやら軍用魔獣の育成を主とする施設のようで……」
ええ!? なんでそんな恨みがましい目つきで睨むんですか!?
閣下が悔しげに腕を振り上げ―――下ろす。
ずしー……ん!
丘全体が震度六並みに揺れた。
ずしん! ずしん! ずしん!
何度も何度も何度も! めっちゃ悔しそうに地面を叩く。
閣下の周囲だけ地面が陥没し、地割れも起きる。なんで怒ってるの!?
「先の命令を撤回する……! 捕獲は……中止、テロリストの捕縛に全力を尽くせ!」
だからなんでそんなに悔しそうですのん!?
俺のせいですか!?
逆恨みだけはやめてくださいよ!?
精霊獣討伐……ならぬ帝国革命義勇軍『青の薔薇』の軍事拠点殲滅作戦は日が暮れる前に終わった。
カトル村北部の森林100エーカーは焼け野原と化し、カトル村の平穏は守られ、財源は永遠に失われたのでした。めでたしめでたし……え!?
そもそも村長は森に入れなくて困ってたよね?
「何もめでたくねえ……」
なお閣下は事前に話をつけており、カトル村の住人はバートランド伯爵領にまるごと移住するらしい。無利子・無担保・分割返済の開拓援助金も出るらしいので村長はほっこり。よかった、ちょっと気にしてたんだ。
今回の事件で損をしたのはフォルセ子爵くらいのもので、税収がちょこっとだけ減り、今回の騎士団の遠征費用を供出させられる程度で済んだ。特権階級様々だぜ。
俺はこの事件はもう終わったものだと、すっかり安心してしまったのだ。




