駆け込みシシリー
今年もそろそろ終わりかな~という十一月に突入して早五日。
温暖なサン・イルスローゼといえどそれなりに寒くなり、コート姿の通行人がちらほら目につき始めた。
でも一年の半分がマイナス気温なマクローエン育ちの俺には、まだまだ半そででも余裕な冬が訪れた頃、重大な事件が起きたんだ。
あれは俺とカトリたんが、いつものように井戸端の広場で特訓している日の事だ。
「せりゃ!」
七割のちからで真正面から打ち込むと、カトリたんが受け太刀した。
腕力・技量両面において負ける相手と鍔競り合っても得はないので、カトリたんから離れる。
ひゅ―――
小石の指弾が飛んできたので回避。回避行動は次弾を警戒して最小限、カトリたんの偏差射撃能力は一流だ。
次から次というほどでもない超速度で飛んでくる七つの投石を避け切り、木刀を投げる。
「あっぶな!」
投げた木刀をカトリたんが空中で撃墜。
飛び道具のない敵からの、遠距離攻撃は彼女でさえも一瞬怯む。
最短距離で距離を詰め、地を這う水平蹴りでカトリたんの足を払う!って払えるわけねえや。予測して石畳にめりこむほど足を踏み込んでますもん。
だがそれは自ら機動力を無くすだけだ。
股貫きで背後に回り、ティト神の加護をフルパワーにする。
背中をすぅっと一撫で……
「きゃわっ」
感度を操れる俺は無敵だ。
へなへな座り込んだカトリたんが、少し悔しそうに睨んでくる。
「それは反則かな~?」
「戦場にルールはねえよカトリたん」
「戦場で女よがらす戦士見たことないわよ」
ここに人類初の戦士が誕生した。
俺もしかしてすごい?
「ま、合格としておきましょ。リリウス君もけっこう強くなってきたよね」
先生のおかげです。
「先生がいいおかげよね」
心からそう思うけど、自分から言うのはどうかと思いますぜ。
「かなり手を抜いてるとはいえ、こんなに早く一本取られるとは思わなかったわ。重し捨てたおかげで敏捷性も活かせるようになったし、やっぱりあたしってば天才ね!」
あのあの、そこまで自画自賛されると俺が褒めるところなくなっちゃうよ?
「天才のあたしに鍛えられるなんてリリウス君嬉しいでしょ~?」
怒涛の自画自賛が留まることを知らねえぜ。
一本取られたの悔しかったんですね。プライドを回復したいお年頃なんですね。頬めっちゃツンツンされてるけどクソ痛いやつだし。
「とりあえずここまでにしてお昼食べよっか! その後一本だけやっておしまいね?」
「へへ、今日はもう終わりにしない?」
「やる。絶対に殺る」
うわー、本気でボコりにくる気だー……
でもカトリたん優しいからボコった後膝枕してくれるんだ!
DV男が見せる暴力&優しさコンボかな?
井戸端からの階段をのぼっておうちに帰る間に、カトリたんがくるっと振り返って微笑みながら……
「そーいえばあのユイって子のことなんだけどぉ?」
予備知識、俺は以前カトリたんの前でクラン『グランナイツ』のユイちゃんとラブラブチュッチュな濃厚キスシーンを演じたのである。
このタイミングでそれ言い出す!?
完全にDV男が暴力振るう前兆ですね……
あれ、これ俺今日死ぬの?
「あたし、応援してるからね!」
「はい?」
カトリたんが何言ってるか理解できねえぜ。
浮気だよ? 怒っていいんだよ? 暴力ヒロインの癇癪を甘んじて受けるよ?
応援するってもしかして俺いらない子?
「あたしはたしかに変態だよ、少年のお腹に欲情する変態だよ」
「そこは否定しないけど」
「だからリリウス君の恋を応援するのっ」
はい、ふりだしに戻ったー。
理論の飛躍の前後に挟まれた部分が重要だよ? 言いにくいの?
「だってあたしさ、いつかリリウス君で欲情できなくなるもん……」
「あー、そこかー」
カトリたんは変態だ。
少年の未成熟な腹筋でキュンキュンしちゃう困ったさんだ。
つまり俺とカトリたんの蜜月にはタイムリミットがあるわけだ。
「そんなッ、カトリたん! 俺カトリたんと一緒に年重ねたいよ、一緒におじいちゃんとおばあちゃんになりたいよ!」
ノリで言ってみました。ボケてくれるかな?
「り…リリウスきゅん!」
はい、真に受けて抱き着いてきましたー。
カトリたん基本冗談通じないよね。
「あたしもリリウス君と生きていきたいよ! でも、あたし、変態だからッッ!」
「カトリたん……」
変態ってのは他人様からの説得で生き方を変えないから変態なんだ。
もちろん自分の言う事も聴かないってのは俺よくわかるぜ。だってさ、俺こんなシリアスな瞬間なのにさ、カトリたんのおっぱいでムラムラしてるもん。お姉さん属性だもん。
「だからねリリウス君はちゃんとした恋人見つけなよ、あたしみたいな変態じゃない、ちゃんと一緒に年齢重ねてくれる子と幸せになるの!」
「カトリたんの幸せは?」
「あたしさ、幸せになれないんだ……」
トーンが完全に『あたし死ねないんだ……』の重さだぜ。
約十歳から十五歳までの少年でしか欲情できない十字架重すぎんぜ。
変態は変態で多くの苦しみを抱えて生きている。だからみんな、変態を見かけたら優しくしてあげてほしい。
でも中には蔑まれるのが好きな変態もいるからご注意だ。
俺と変態がお手々つないでマンションに帰ると……
おうちの前で変態の好きそうな少年が膝を抱えて座り込んでいた。捨て犬の雰囲気だ。
中分けロングのわんこ系の美……微少年がパッと顔をあげる。
「カトリーさぁ~~~~ん!」
「ハンス君!?」
半泣きの少年がものすごい勢いでカトリたんに抱き着いた。
ちょいイラっときたぜ、スプーン用意するくらいにな!
「もうダメです! 僕もう限界ですぅ~~~!」
「どうしたの?」
金髪ロングの子犬系少年ハンス君は今年の春まで、カトリたんの相棒として冒険の日々を送っていたらしい。
でも昔からの夢を諦め切れず泣く泣く冒険者を引退したらしい。
ぜったい嘘だな。カトリたん優しいけど加減を知らないからね。閣下のしごきを耐え抜いた俺でも弱音吐くレベルの修行強いるし。
話を戻そう。夢ってのはデザイナーらしい。
冒険者やめてからは服飾ギルドに加盟する親方の下で修行してたらしいんだけど、想像を絶する劣悪な環境だったらしい。
「兄弟子が五人いるんですが……」
夜になるとタコ部屋に押し込められた兄弟子にケツを狙われるらしい……
というかすでに十数回掘られたらしい……
給料も出ない職人の徒弟なんてものはとにかくモテない。
エッチなお店に行く金もなければ、貧乏な彼らの相手をするような奇特な町娘もいない。
年頃の性衝動を持て余した連中が、ちょいと面のいい少年に走るってのは理屈では理解できても実際にあるんですねぇ……
「朝から晩までコキ使われて勉強する暇なんてなくて……」
親方はメシと寝床の面倒しかみない。弟子は仕事の傍ら、親方の技を目で盗むのだ。
弟子の仕事は多岐にわたり一年目から五年目くらいまでは呼び込みに店番に接客。
少しは仕事を覚えてきたなと判断されれば商品制作の手伝いに駆り出され、出来の良い物が作れるようになれば部品などではなく一品任される。
出来上がった品には自分の名前を入れることができ、売価の何割かは懐に入ってくる。
ここまでに十年から二十年は掛かり、才能のないやつは幾つになってもタダ働きも同然。やがて自ら見切りをつけて田舎に帰るんだ。
自作の商品の評判が良ければ顧客がついて、独立資金を貯めることができるが、才能のあるやつで十五年ってところだ。
ハンス君半年で逃げ出すとか……
「もう無理ですぅ~~~あんなところにいるくらいなら、カトリーさんと一緒に冒険者してたいですぅ~~~!」
つまり冒険者が辛くて逃げ出して、職人の弟子も辛くて逃げ出して、カトリたんのところに戻ってきたわけか。
カトリ先生、ここは厳しく叱るところですよ!
甘くするとこいつのためになりませんよ!
「辛かったんだねハンス君……(涙ぐみながら)」
カトリ先生優しいぃ……
少年をダメにするマシーンか何かかなこの人?
「もう大丈夫、あたしに任せて!」
「カトリーさん!」
涙ながらに抱き合う二人の横っちょで俺は思った。
こいつは元鞘ってやつですかね?
俺もしかして用済みですか?
そして奇妙な三人暮らしが始まった。
クエストで王都近隣の草原に二日三日の泊り掛けで魔物の駆除。
ローゼンパーム近辺は特に狼系が多い、群れを形成し敏捷性に優れたこいつらの相手はチームプレーで対抗するしかない。
チームプレーにはチームプレーだ!
「リリウス君そっちのは任せたよ!」
「よっしゃ、俺のスマッシュが火を噴くぜ!」
「カトリーさんリリウス君がんばれー!」
ハンス君も何かしようぜ!?
冒険者とは名ばかりのパンピーで兄弟子にカマ掘られてた、レベル三しかない君に何かできるとは思えないけど!
クリーンウルフの団体さん駆除完了。
討伐の証代わりに耳を削ぎ落す工程も終え、街道に戻って野宿する。
他の冒険者の姿も見当たらないので堂々と火を焚けるぜ。
晩メシ作りは俺さ、ほんと働かねえなハンス君!?
「さすがに町の外はさっむいですねえ!」
「ふふーん、温めてあげるって言ってほしいの~?」
「いやぁ…そういうわけでは……あったりして?」
俺のふところでスプーンが煌めいた。
だが今やると嫉妬まるだしなのでやらない! 俺にもプライドがある!
そして十日が過ぎた……
「もう無理ぃ!」
「ど、どうしたのリリウス君!?」
ハンス君を交えた奇妙な三角関係から十日後。
ハンス君根性なしだからすぐに音をあげるとか考えてたのに、先にギブアップしたのは俺だったぜ。もう無理耐えられない!
ダッシュで駆け込みシシリーだ。もう無理ぃ、リリウス君の純情ハートはボロボロだよ!
めっちゃ早口で状況を説明するぜ。
「どだい無理があるんだよ女が一人に男が二人なんて!」
ハーレム物のヒロインになった気分だったよ。
あれなんで殺し合いに発展しないの、温厚で有名なリリウス君でさえ五回くらい本気で殺そうとしたよ!?
三人で楽しもうなんて無理だよ!?
「あたしから言ってあげよっか?」
「言って聞くと思う?」
苦笑いされたぜ。
変態ってのは他人様からの説得で生き方を変えないから変態なんだ。
「じゃあどうするの?」
「家出する」
「わあ、子供だぁ……」
子供ですからね。
大人だったらハンス君叩き出してカトリたん困らせてるよ。
「行く宛てあるの?」
「ないよ」
「そんじゃうち来る?」
この美しい置物系受付嬢は実家暮らし。
もやもや思い浮かべるのは優しそうなお母さんと強面だけど気の良さそうなお父さんのお顔である。
うん、普通に歓迎してくれそう。喜んでお世話になります。
このままシシリーたんとこの飼い犬になる。
「ところでご両親への持参物はどんな物がいいかな?」
「言ってなかったっけ、お姉さん今一人暮らし始めたのよ?」
それはそれで問題ですねぇ……
カトリたんもシシリーたんも気軽にホイホイお家に誘ってくれるけど、貞操観念どーなってんの?
年頃の少年の性衝動舐めてるの?
俺がパパなら怒ってるよ激おこですよ?
「あのねシシリーたん」
「なぁに?」
「見ず知らずの少年を家に上げるのは危険だよ、性的に襲われちゃうよ? はっきり言ってあなたのそーゆーとこ心配です。リリウス君は可愛い妖精さんだから問題ないけど、他の子は簡単にお家に連れてったらダメだよ?」
「あの変態と一緒にしないで。リリウス君ならともかく他の子なんて優しい言葉一つ与えないわよ」
マジかよ俺だけが特別なのか。
へへ、以前純情を弄ばれた感じでご実家に連れてかれた過去を忘れちまうくらい嬉しいぜ。
よろしい!
今回も年上の悪女にコロコロされてやんよ、超期待して連れ込まれてやるぜ。
シシリーたんの新居は、王都ローゼンパーム空中都市だった……
しかも警備員付きの高級マンションだった……
パパさんより良いとこ住んでるとか……
「マジで?」
家具とか高級品揃ってるし浴室は大理石だし温水のシャワー出るし魔石照明だし……
ギルドの高級職員って年俸お幾らなんですかねえ……
ファンタジーしてるけどこいつらどの程度の強さなんだ?
みたいな疑問のためにこういうものをご用意しました。
Name: リリウス・マクローエン
Age: 13
Appearance: 誰もが想像の内に思い描く暗殺者そのままの目つきをした子供
Height: 143
Weight: 48
Weapon: ミスリル銀の短剣(品質C)
Talent Skill: 剣術D 商才D ティトSS 魅了D
Battle Skill: ソードスマッシュ(熟練度A) チャージド・ストライク(H)
Passive Skill: 機眼S 危機察知B 人間不信B
LV: 28
ATK: 240(同じレベル帯における平均値540)
DEF: 68(450)
AGL: 1650(520)
MATK: 0(0 or 880)
RST: 6770(320)
戦士としての才能は凡庸ながら、ステルスコート使用による魔物狩りを継続してきたため生物の呼吸を読み取る機眼の才能が発芽している。
この評価は暗殺者としてこれ以上ない才能を示すものであり、同様に狩人スキルである危機察知も磨かれている。
またスキル人間不信の効果もあり、彼に対して奇襲を成功させる事は事実上不可能と言っても過言ではない。レジストの値が妙に高いのはステルスコートの副作用であろう。




