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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
番外編 神々の世紀 火薬の園の魔王
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おつかい

 越冬の備蓄は十分とは言えない。もう寒波っぽいのは来ているけど男衆は総出で森に出かけ、召使いはじゃがいもを剥いている。


 そんな魔王の家で俺は内職をしている。教わったばかりの魔導錬成で大工道具を作っていて、こいつはルクレインに持ち込む予定だ。訓練校に売って家計の足しにするのさ。

 魔素から大工道具を作り出す高度な内職をしていると召使いがじゃがいもが山盛り詰まった籠を持ってきた。ものすごい目つきで睨んでくるぜ。


「皮むきが終わりましたわ」

「おう、キッチンに置いておいてくれ」


 山盛りのじゃがいもを抱えているアルテナが大口を開けたまま……

 噴火する!


「おっ、終わったら持ってこいって言いましたわよね!」

「言ってない。終わったら報告しろとは言った」

「わたくしにまたキッチンまで戻せと仰いますの!?」

「完全にそれ」


 ティトとの決闘のあと魔王んちに新たなる仲間が増えた。アルテナとかいう召使いだ。最初は性奴隷にでもしてくれって押し付けたんだが。

『我が家に変な女を持ち込むな』

 とガチめの怒られ方をしたので召使いにクラスチェンジして押し付けたんだ


 あれ以来アルテナは従順に働いている。彼女の寝泊りする犬小屋(俺が作ったった)には不満があるらしく偶に噛みついてくるのでこうしてムツゴロウ王国的コミュニケーションでご機嫌も取っておく。


 嫌がるアルテナの顎をわしゃわしゃ撫でるぜ。


「うん、きれいに剥けてるな。よくやったぞ(わしゃわしゃ)」

「うううぅぅぅぅ……どうしてわたくしが皮むきなんて」

「犬の返事はどうした?」

「ワンですわ」


 プライドが邪魔して犬になり切れない女神の悲しさが垣間見える瞬間である。いっそ何もかも放り捨てて犬になってしまえば気楽だろうに。


「ほら、ご褒美のニンジンだぞ」

「うううぅぅぅこの甘さに抗えない……幸せを感じてしまう自分が憎たらしい」


 俺の名はリリウス・マクローエン。うま味成分増加魔法を操る凄腕コックさんだ。俺の作った糖度がメロンを超えるフルーツニンジンの魅力には何者も抗えない。


 アルテナを構っていると白きアシェラがやってきた。

 何をやってるのか心底理解できないって目つきをされたわ。


「何してるの?」

「犬のしつけです」

「わからないから聞いたのに答えを聞いたら闇が深まったね」


 苦笑いされたわ。

 何か用かな?


「ちょっとイザール君のところに行ってきてほしいんだ」

「あぁ洗剤や衣類ですか」

「そんなところだね。これは追加の品を書いた手紙ね」


 手紙を一通渡された。

 受け取るも白き羽が手紙を離さない。


「未来でさ、ボクらはどんな感じなんだい?」


 中々答えにくいのが来たな。

 どう答えようかと迷っていると白き羽が微笑む。可憐で儚い、胸を搔き毟りたい衝動に駆られる微笑みだ。


「その反応でだいたいわかった。アシュリーはどうしてる?」

「世界でも一二を争う高名な女神として君臨してますよ。信じられます、俺の最後の記憶はアシュリーと屋台で飲んでたところまで何ですよ。今俺がここにいるのはアシュリーに何かされた説が有力なくらいです」

「あははは……そうか、それは面白い。キミがアシュリーを守ってくれているんだ」

「守る必要もないくらいの煮ても焼いても食えないトンデモ女神ですよ。今のところはまだ可愛げもあるんですがねえ」

「安心したよ。……じゃあその未来を守らないとね」


 今のところが聞こえなかった。

 何て言いました?って聞くと何でもないって言われた。アルテナがニンジン齧りながら尋ねてきた。


「未来? 何の話ですの?」

「あ、未来のお前は俺にキスをするぜ」

「……予知の異能は持っていなかったと思いましたが?」


 訝しがるアルテナを手振りで追い払う。さっさとキッチンにじゃがいもを持っていけ。


 軽い旅支度を整えているとオデが戻ってきた。山菜籠を背負った姿は完全に召使い一号だ。風格が出ている。

 まさかハイエルフの直系王族とは誰も思わんだろ。からのここ魔王の家だったわ。


「一人だけ楽しやがって……」

「ルクレインで売る道具作ってるんじゃんか。それより仕事だ、付き合え」

「仕事ってなんだよ」

「生活物資を貰いにイザールのとこ」

「そういや戦争のドタバタで行けてなかったな」


 遅れてアシュリーも戻ってきた。なんでずぶ濡れなんだこいつら?


「兄さんに引きずり込まれた」

「雪庇を踏みぬいた僕を笑うからだ」

「微笑ましい喧嘩してんな」


 こいつらもう完全に兄弟だろ。喧嘩の理由がしょうもねえ。


 一緒に帰って来た魔王様にお願いしてダージェイル大陸行きの転移陣の構築を教えてもらう。今のダージェイルには特殊な結界が張ってあって魔王様以外は空間転移を使いにくい状況なんだ。あちこちの空間の裏側にワンダリングブレードを仕込んであるとかいうワイヤートラップだ。知らずに転移すると首が飛ぶらしい。

 これもうオデを殴っても無罪だろー。先に教えろよなー。


 魔王の術で飛ぶ。一瞬の衝撃のあと、俺らはどっかの砂丘にいた。首都エイジアのエリアではあるんだろ。イザールの空間知覚に引っかからないギリギリの辺りなんだと思う。


 空識覚である耳を動かして周囲の地形情報を取得する。

 なんとなく北の方に大きな建物が密集している気がする。


「アシュリーわかる?」

「たぶん北」

「じゃあ北に行くか」

「なぜ僕には聞かない」

「ニヤニヤしながら黙ってるやつに聞くのは癪だし」


 困ってる俺らを見てニヤニヤしているオデはとりあえず砂丘から蹴落としておいた。

 ゴロゴロ転がり落ちていく奴の悲鳴を聞きながら俺らは北を目指し、約三時間ほどで首都エイジアに到着する。


 久しぶりにニューロリンクの電源を入れる。イザールと連絡を取るためにメッセージアプリを立ち上げると新着が50件あったぜ。


『頼まれていた物資の用意ができたぞ。いつでも取りに来てくれていい』

 から始まる新着の羅列である。


『おーい』

『無視するなよひどいな』

『あれ、何か怒らせたっけ? ごめんごめん』

『え、もしかして機材の調子が悪いの?』


 この後もときたま新着が来ていた。無視されている可能性があると考えたわけだ。

 よし、待望の返信をしてやろう


『ラーメン三銃士が来たよ』

『おっと本気で無視していただけか』

『電源を入れ忘れていたんだ』

『なんだそりゃ。連絡用に渡したんだから小まめに確認してくれよ』

『いやこれ慰謝料で貰ったやつじゃん』

『それが建て前だというのは理解してくれていると考えていたがね。それで今はどこにいる?』

『位置情報なら特定しているはずだろ』

『わかった。迎えに行くから動くなよ』


 首都と砂漠の境目にあるハイウェイの高架下でバスケットボールやってるとイザールがやってきた。

 登場時のノリでダンクを決めに来たから空中でボールを奪ってオデウープを決め返してやったぜ。


「無駄にうまいじゃないか……」

「俺には裏設定の元国際強化選手ってのがあってな」

「裏設定があるのかい?」


 ありません。


「これアシェラ様からの追加のリストな」

「人質を取られている身だ。精々健気に貢いでやるよ」


 イザールがリストを読んでいる。

 読み終えてから浮かべた爽やかなスマイルは俺の危険センサーに反応するものだ。イザールが自制をミスほどの何かが書いてあったわけだ。


 奴は普段通り振る舞っているつもりらしい。陽気な笑みを張り付けたままこう提案する。


「調達には時間が掛かりそうだ。数日はかかる、ホテルを用意するからのんびり観光でもしているといい」

「やった!」


 アシュリーが無邪気に喜んでいる。

 可能なら俺もそっち側でありたかったが気づいちまったからなあ。


 イザールは大富豪のお兄さんみたいなものだ。何でも買ってくれるし楽しい遊びを提供してくれる。だからこいつを嫌いになれる奴は少ない。

 気づいた時には泥沼にはまっている。はまり込んだら手遅れでもうこいつのいいなりになるしかない。そういう危険な男だ。


 オデがさ、未来のオデがこう言ったんだ。ガレリアに多くを望んではいけない。

 あれはイザールに捕まった男の悲鳴のようなものだったよ。


 ホテルには車で移動する。通常の三倍速そうな赤塗りのスポーツカーだ。サングラスを掛けて鼻歌まじりで運転するイザールがやはり普段より機嫌が良さそうだ。白きアシェラからどんな提案があったかは知らないが……


「オデ」

「なんだよ」

「イザールとの付き合いは控えろ」

「……それをここで言うのかい?」


「もっと早く言っておけばよかったな。イザールとの付き合いは控えろ、お前は必ず後悔する」

「え、なに? 怖いんだけどどういう意味?」

「イザールに多くの望んではならない。お前がくれたお前自身の悲鳴だ」


 無人の首都を走る車はやがて大きなホテルにたどり着いた。これをホテルと呼ぶのはおかしいのかもしれない。

 首都エイジアの大名物である軌道塔は低階層は商業施設。中階層はホテルや賃貸マンションフロアだ。

 俺らにはここの80階のスイートを割り当てられた。案内人にはお世話人形六体が与えられ、貰ったカードに限度額は無い。


 新しく貰ったおもちゃに無邪気に喜ぶ二人を置いて、俺はそっとイザールを追った。


 不思議な予感もある。この奇妙な不思議な旅の終わりが近づいている。そんな予感だ。

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