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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
番外編 神々の世紀 火薬の園の魔王
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冬の訪れ

 イザールが白きアシェラとこっそり話したいらしい。

 俺はどうしたってあいつの味方じゃないので、こっそりどころか夕飯の席で正直に打ち明けてみた。もちろん全員集合している。


「いったいどんな企みを、とは考えていたが妥当なところであったな。よく報告してくれた」


 魔王様のご機嫌を考えるに正直に話した方が安心だ。これは正解だな。


「イザールは口がうまい。あいつが公主会議の内容を知り得たのもおそらくは神々の中に協力者がいるのであろう」

「いますか」

「あれは欲望を刺激するのがうまい。まぁ誰とは言わぬが同胞の中にも奴に協力する者もいる(ちら)」

「ははぁ、おりますか(ちら)」


 オデがスープを呑む手を止めて不服そうな顔つきになる。


「心外です。僕はイザールに情報を流したりはしてませんよ」

「責めているわけではない。我もあの者を嫌っているわけではない。交流がないというのが一番怖いのだ。それは協力者を隠し持たれているという意味よ」


 あいつならやるな。つまり夜の魔王がたまにイザールと交流しているのは保護観察官みたいなもんか。


「そうそうハズ、洗剤が切れそうだからイザールから貰ってきておくれよ」

「まだ箱三つはあったと思ったがな。やはり居候が二人も増えると消費が早いな」


 いやちげーわ。便利な生活用品貰いに行ってるだけだわ。

 どの口でオデを責められたんだよって思ったが責めてなかったわ。


 で、白きアシェラ様が結論みたいに言う。


「イザール君との会談に応じよう。夕飯後はみんなで洗い物に行っておいで、その間に済ますから。あぁリリウスは残るように。ボクだとその機械の使い方わからないんだ」

「了解っス」


 夕飯後、イザールにテレビ電話でコールをかける。

 出ない。あいつマジかよ。


 しつこくコールする。三分くらいしてようやく出たわ。


「いったい誰だい。今ちょっと忙しくてね、また後でかけ直してくれ」


 ホロヴィジョンの向こうから恋愛ドラマの音声が聞こえてくるんだが……

 いま車に曳かれた奴だれだよ! 重傷なのかよ! どこのソナタだよ!


「あんまりふざけているとマジで切るよ」

「ごめんごめん、嬉しくてついはしゃいでしまった。再びお目にかかれて光栄至極、幸運の白き羽よ。あの日の出来事は私も随分と後悔しているよ」

「それはどっちの後悔だろうね」

「決まっているじゃないか。何としても貴女を確保しておくべきだった。何度思い返してもあれがターニングポイントだったよ」


「それは残念だったね。イザール君がボクを軽く見ていてくれて助かったよ。じゃなかったら今頃リサイクルソルジャーに変えられていたところだ」


「遺恨はないと考えても?」

「それくらいで怒るほど狭量ではないつもりだ。あぁそうだ、いつもの洗剤セットを頼めるかな。やはり洗剤はルクレイン製よりもパカ製品がいい」

「お望みなら衣類も付けよう。そろそろ冬支度だろ」

「うん、温かいのを頼むよ。今うちには子供が三人もいるからねえ」


 外商としゃべってるマダムかな?

 俺も要望を出しておくか。


「すまんがレトルトカレーとカップ麺も頼む」

「メシにケチつけると魔王様が怒るんじゃないか?」

「夜食にするだけだって。うまいのを用意してくれよ」

「心得た。とりあえず適当に用意するから暇が出来たら取りに来るといい」


 注文完了。

 その後も気さくな会話が続く。こいつの話術は天才的だな。天才的な詐欺師だ。しゃべっているだけで悪い奴には思えなくなる。多くの利益をもたらす友人的な感覚さえ覚える。


 しばらく話しているとようやくイザールが本題を放り込んできた。


「預けてある娘の様子はどうだい?」


 娘? 預けてある? なんだそりゃ。


「生憎ボクはどこにいるかも知らないね。ハズが管理しているからそっちに聞きなよ」

「それが全然教えてくれないんだ。元気にしているかだけでも教えてほしい」

「だから知らないってば」

「では尋ねておいてくれないかな。貴女の言葉ならあの魔王様も従うはずだ」

「返せ、じゃないんだね」

「返せと言って返ってくるのなら言ったんだけどな。それとも白きアシェラの御言葉があれば返ってくるのかい?」


「悪かったよ。クライシェは返せない。ようやく持ち込めた休戦だ、これを壊したくない」

「もしも返してくれたなら終戦宣言を出してもいいがね」

「一発で何もかも覆せる兵器を返せば負けてくれるってか。冗談だろ? 悪いけどイザール君の言葉は信じられないな。キミってば平気でうそをつくんだもん」

「信用がないな。どのみち現状維持は難しいと思うよ」


「キミとの会話って疲れるからヤダよ。何をするつもりかな?」

「私は何もしないよ」

「キミのその発言は黒幕だって白状しているようなものだ。いったい誰を操って何をしでかすつもりなんだい?」

「すぐにわかるさ」


 また出たよ謎めいた助言者ムーブ。流行ってんのか?


「なあ白き羽よ、私の手を貸してほしくなったらまた連絡をくれよ。私たちは手を取り合えるし分かり合えるはずだ」

「本当にそうだといいんだけどね」

「連絡を待っているよ」

 と言って通信が切れる。


 白きアシェラはワイン入りのグラスを回してお疲れムードだ。理解できる感覚だ。例え会話だけで終わったのだとしてもイザールと相対するのは極度の緊張を強いられる。

 心臓は暴れ狂い、背中にはびっしりと冷や汗が溜まり、のどは乾き干される。あいつは尋常の存在ではない。王威を備えた怪物なんだ。


「アシェラ様、今の会話の要約はどんな感じですかね?」

「悪いお誘いだろ。イザール君はボクらを従えたいんだ」

「ボクらとは?」

「ボクとハズが欲しいんだ。彼の見積もりだとボクとハズさえ引き抜けたならこの戦争に勝利できると見込んでいるんだろう。実際はそう簡単にはいかないと思うけどね」


「いきませんか」

「いかないね。ってのはボクの見解でしかないけどね。彼は怖い人だよ。彼はこの戦争に勝利するためなら何をやっても許されると考えているからさ、ボクらでは想像もつかない、思いついても決して実行しない手法も使ってしまう。きっと彼はボクら以上にボクらを有効に使えるんだろうね。あぁヤダヤダ、死んでも蘇る不滅の兵隊になんかされたくはないよ」


 口調こそ軽いものの白きアシェラの指は震えている。

 イザールに捕まれば自殺すら許されない永遠の奴隷にされる。心底怯えているのだ。


「やるでしょうねえ、あいつは悪い奴ですから」

「それはボクらの側の一方的な見方だよ。彼を信じる人々にとってはイザール君は世界を救うヒーローなんだ。彼の勝利を信じいつか訪れる平和を夢見る人々のために彼は絶対に膝を折らない」


「ですがそれはアシェラ様達の滅びを意味します」

「別にボクらも黙って倒されてやるつもりはないぜ。同情はするけど負けてやるつもりはない。でもこれが厳しいんだ。彼が戦いの場に出てくるようになってからは劣勢続きさ。長い時間をかけて獲得した占領地は簡単に奪われるし局所的な勝利が大局的な戦果で覆される。勝ったはずなのに気づけば追い込まれているんだ。まるで詐欺みたいなひどい戦争だよ」


「ですが休戦に持ち込めたのでは?」

「双方とも痛手を負っての渋々の休戦さ。パカの暦で言えば大体60年くらい前になるのかな。ザナルガンドって厄介なモンスターがいてね、こいつを討伐するのにひどい犠牲が出たんだ」


「砂の魔獣のザナルガンドですか?」

「あぁ知っているんだ。そうそいつ。あの頭のおかしい生物兵器を倒すために共同戦線を張った時にね、うちのハズがイザール君の切り札を拉致ってくれたおかげでようやく一息つけたんだ」


 切り札か。何となく察するものがあるな。


「それがクライシェですか?」

「うん」

「クライシェというのはやはり創世神アル・クライシェのことですか?」


 女神様が嫌そうな顔になる。


「そう伝わっているのか。まぁ実際間違いではないんだろうけどさ。キミはどこまで知っているんだい?」

「俺も大したことは知りませんよ。だってこの時代の出来事はほぼ伝説やおとぎ話みたいなものなんです。イザール率いる殺人教団が崇めているってくらいの情報しか知りません」

「崇めるねえ。たぶんそれ何かの間違いで、信仰のちからを盗み取っているだけなんだと思うよ。彼ならやりそうだね」


 それっきり女神様の口は重くなった。

 小屋の外で待機していた三人が戻っても口は重いままで、ふて寝するみたいに部屋に戻っていった。


 この一月後の冬の初めに来客があった。



◇◇◇◇◇◇



 冬の入り口。霧の立ち込める深い森の小川をでかいイノシシがうろついている。

 イノシシから立ち上る生命の息吹と白い吐息。圧倒的な存在感だ。美しくすらある。野の獣は美しい。彼らはこの星に祝福された悪を知らぬ聖者のごとき生き物だからだ。


 俺と魔王は茂みの裏に隠れてイノシシの動向を伺っている。


「技なんてものは結局のところ特定の動作の昇華にすぎない。我らは一つの動作を究極と呼べる領域まで完成させる事で技の完成とし、連結した技を奥義と呼ぶ」


 魔王が封印の鏡にイノシシを閉じ込める。

 もう一枚錬成した封印の鏡を合わせ、合わせ鏡の中で無限に複製されたイノシシめがけて喪失弦を叩きこむ。


 鏡が割れる。その場に残されたのはぐったりした大きなイノシシが一頭。死んではない。しかしイノシシが自らの意思で動くことは二度とない。それだけのダメージを負っている。


「二連結奥義『確命奪イストラ』、まずはこれに習熟するとよい」

「おー」


 俺はとりあえず拍手する。今の一連の連結技の有用性にいまいちピンと来ないせいだ。

 そういう感じで説明を求めると困った様子で眉根を寄せられてしまったぜ。


「自分で食らってみればわかるぞ」

「それは遠慮したい。死にそうだ」

「本能的には理解できているようだな。左様、これを食らえばお前であっても無事とはいかぬ。なぜそうなるのか頭では理解できずとも心で理解していればよい」


 夜の魔王は教師役としては微妙だ。なぜそうなるのか口で説明せず、全ての物事にあれこれと誰にでも納得できる回答を用意していない。


 彼は言う。本能的に理解していればそれでよいと。

 魔法とは想像力のちからだと彼もまた本能的に理解しているのだ。だから可能性を限定せず、術者の想像力と発展性を阻害しない。


 才能のない生徒なら路頭に迷うところだ。イルスローゼなら鼻で笑われるような教え方だ。しかし彼の教えこそが魔法の本質なのだ。理論と定義こそが魔法を万能のちからから人にも理解できる分かりやすいだけの手品に貶めているのだ。

 魔法とは何かを、神の祈りが生み出した最強の神造兵器である彼は初めからわかっているのだ。


「二連結ってことは三や四もありそうですね」

「ある、があまり焦るな。先にも言うたが……」

「わかってますって。一つ一つの技の完成度が低ければ連結技は成立しないってわけですよね」

「うむ、何事も調和が大事なのだ。こちらの方が得意だという思い込みが調和を崩す。どの技も同じだけ得意とし習熟せよ」


 簡単に言っているが難しいぞこれ。

 やはりフィーリングは存在する。アシェラがもぐのを得意とするように俺にも術の得手不得手はある。得手ならば多用し長じる。不得手ならば避けて苦手なままだ。

 高いレベルの戦闘ではこの感覚がかなり重要になる。不得手で苦手な技を一手も間違えてはいけないシーンで選ぶわけがない。


「難しいな。魔王様にはこの技は苦手だって感覚はないんですか?」

「ない、あってたまるか。お前からすれば他人の技ゆえそのような感じ方もするのだろうな」


 顔が怖い。どうやら教える難しさについてお悩みのようだ。


「我の技は我に最適化するように設計してあるのだ。誰かに使わせるために作ったわけではない。お前が苦手に感じるのは当然だ。どれほどに器用に扱えようと所詮お前の技ではないからだ」

「俺は俺の技を作るべきだと?」

「最も望ましいのはそうだな。しばらくは稽古を付き合ってやるが、己自身の技についても考えておけ」

「まだスキル・エクリプスが使えませんもんねぇ」

「……すまぬがもう少し付き合ってくれ」


 スキル・エクリプスの平均習得年数は五年や六年だ。血統スキルホルダーにとってはそれだけの年月をかけても必ず習得しなければいけないほど難しい技なんだよ。


 結論を言えばどちらも長くなりそうだ。そして長い時間をかけて習熟した技は絶対に俺を裏切らない。そう思えばやり甲斐があるね。


 イノシシを担いで空を踏んで森を出ていく。空渡りのように脚力で無理やり重力を引きちぎるのではなく、極小の魔法のちからを足裏に形成して力場のちからで歩いていく。

 種族がちがえば歩き方も全然ちがう。考え方もだ。これも中々面白いね。


 重力の存在を理解したうえで浮遊魔法を開発する。空中に足場を作って歩く。空気を固めて踏む。これらのどれとも異なる天狼足は世界の感じ方のちがいから発生したまったく別の歩き方だ。これを人間的な感性に落とし込む説明はできない。

 精霊を視る眼を有するハイエルフの目から見た世界は、トールマンの見る世界とは別物なんだ。


 まだ朝も早い草原は昭光のプリズムライトに照らされて綺麗なものだ。イノシシ担いでいる身ではロマンチックもクソもないが悪くない。

 最近めっきりと冷たくなってきた丘の下の小川でアシュリーとオデが水浴びをしている。イノシシぶん投げとこ!


「おっしゃああああ!」

「朝から元気だなあ!」


 イノシシをキャッチしたオデが勢いそのまま仰向けにどぽんした。全力で投げたからな。倒れたのにクソほど笑ってるぜ。

 へいへーい。ハイタッチを交わしていくぜ。


「大物だな。朝食に間に合うかな?」

「夕飯でいいだろ。魚は?」

「うん、罠にかかっていた」


 お、俺の手製の罠にはウナギが二匹かかっていた。これなら全員分いけるな。白焼きにしよう。


「……ウナギは好かぬのだがな」

「任せてくださいよ。うまい調理法があるんですって。アシュリー、串作るから手伝ってくれよ」

「朝食だよ。もうすぐに作るんだよ?」

「串なんてすぐ作れるってば」


 ホームステイ生活は極めて平穏だ。楽しくすらある。

 朝食はウナギの白焼きと果実水だ。近くに豊かな森があるから果実も新鮮で素晴らしいね。今日の話と明日の話。それだけあればみんな笑顔で過ごせる。ビバ、スローライフ。


 穏やかで楽しい食事が終わる頃、魔王様が急に明後日の方向へと振り返った。


「お客さんで?」

「うむ」


 家の外に出て待ち構える。凄まじい魔力圧が接近してくる。遥か彼方の空が真っ黒に染まり、雷鳴が轟いている。野良の魔王でも来るのかな?


 落雷と共にそいつが草原に降り立った。

 新緑の色を写し取ったローブを纏う気難しそうなハイエルフだ。げぇ!?


「どうして我の後ろに隠れる」

「以前殺されかけたことがありまして」

「何をやったのだ何を」

「盗み食いと不法侵入を少し」

「盗み食いの王様とか言ってたもんねー」


 アシュリーがうるせえ。

 草原に降り立ったセルトゥーラ王がむすっとしたまま近づいてくる。外見的には現代とさほど変わっていないんだな。


 ギロリギロリと俺らを睨んでいくセルトゥーラ王が深いため息をつき、重々しい声で命じてきた。


「我はこやつと話がある。ぬしらはどこかに行っておれ」

「そうだな。そうせよ」


 アシュリーが俺の腕を引く。


「行こう」

「そうだね、どうやら僕らはお呼びじゃないみたいだ」


 家から離れる。とりあえずは森へと向かう。

 風の音に二人の会話が乗る。


「何があった?」

「ろくでもない事よ。細君はおられるよな? 意見を聞きたい」


 深刻な何かが起きたって感じだ。


 小雨の降る森へと出かけて川沿いに奥を目指す。目的地があるわけじゃない。大人達の相談事が終わるまでの時間つぶしだ。

 アシュリーとオデがしゃべってる。俺はじっと考え事をしている。


「何があったんだと思う?」

「公主会議で何かあったと考えるべきだろうね。父上も参加していたはずだ」

「何だろうねえ」

「後で教えてくれるといいんだけど大人達は秘密が大好きだからさ。いつもの大人の話に口を挟むな!ってやつで一蹴されるね」


 わぁ、この時代からあるんだそれ。

 いにしえの昔から存在する子供の好奇心を打ち滅ぼす物理攻撃は本当に古の昔から存在するらしい。クッソどうでもいいな。


「どうする?」

「子供らしく遊んでようぜ。殴り合いと魔法で殴り合いのどれにするよ?」

「それ子供らしいのかい?」

「大人がやってたら怖いけど子供なら絵面的にセーフじゃん」

「あんた達と同じ価値観で考えてほしくないんだけど……」

「僕もリリウスと戦いたくはないんだけど……」


「謙遜するなよオデ。お前は伝説の大将軍になる男だぞ」

「今まで絶対に聞くまいと避けてきたのに軽くバラしやがった!」


「ついでに俺に武器作ってくれるんだぜ」

「おいぃぃぃいいいい! その情報を今の今まで黙っていたのか!? よく黙っていられたな。会ってるのかよ!」

「会ってる会ってる。未来のお前もいい奴だったよ」

「くっそ、聞きたくないけど気になる! でも言うなよ、それ以上は絶対に言うなよ!」


「ね、ね! あたしはあたしは!?」

「お前には殺されかけたぞ」

「嘘でしょ何があったのよ……」

「当然ながら俺の過失ゼロでした」

 ってのは嘘でこいつの神殿に乗り込んだわ。しかし誘いこまれたようなものなのでセーフ。


「未来のお前は中々いい性格をしたクソ女で可愛いボクのために頑張ってねとか腹立つ発言をしたりと中々のクソ女だぞ。それと俺の最後の記憶はお前と屋台で呑んでたところまでだ」


「あ、仲良いんだ。殺されかけたなんて敵同士なのかってびっくりしたじゃない」

「仲は良くないけども。あ、それと未来のお前ゼニゲバの神殿そっくりのクソ神殿に住んでたぞ」

「いやあああああ! やめてぇええええ!」


 そんなに嫌なのかゼニゲバ・ゴールデン・テンプル。俺もあそこに住めと言われたら家族を人質に取られても断ると思う。うちの親父殿が人質なら銅貨一枚の支払いでも渋るけどな。


 オデが言う。


「キミの情報は僕らにとっては精神死魔法か何かだ。頼むからやめてくれ」

「信じなきゃいいじゃん」

「でも事実なんだろ?」

「うん」

「……無茶言うなよ」


 暴露大会はここまでにしておこう。本気で嫌そうだし。

 この短い間に轟いた悲鳴の回数を考えたらイジメじゃん。


「まぁ安心はしたかな。もしリリウスが元の時代に帰ったとしても僕らはまた会えるんだ。悲しい別れじゃない、それが分かっただけでも安心できるよ」

「かもな」

「……帰っちゃうの?」


 悲壮な声音だった。一発でわかった。こいつ……

 煙る滝を前にアシュリーが立ち尽くしている。揺れる瞳でじぃっと見つめてくる。目線を外せない。


「帰らなくてもよくない。ほら、ルクレインに学校建てたじゃない。他にもやることあると思うし別に帰らなくてもいいじゃない。ストチル同盟とかさ、色々投げっぱなしになってるしさ……」

「帰るよ」

「何で帰るの!」


 アシュリーが飛びついてきた。こいつマジか……


「お別れなんてヤダよ。こんなに仲良くなったんだよ。なのにお別れなんて寂しいよ……」


「やめろよ、お前はそんな可愛げのある女じゃないだろ」

「それは誰?」


 誰って……

 泣くなよ。女の涙には弱いんだぞ……


「最近よそよそしいよね」

「そんなつもりはないけど」

「嘘! 距離を取るようになったじゃん。それってあたしの名前を知ったからでしょ!」

「それはあるけども……」


 でも仕方ないぜ。仕方ないじゃん。英知と鑑定のアシェラ神だぞ。世界でも一二を争う超有名女神様じゃん。

 今までと同じようにとか無理じゃん。


「あたしを見てよ。リリウスの知ってる誰かじゃなくてあたしを見てよ……」

「そ…そう言われても……」


 困り果てた俺はオデに救援を求めたがいない。

 空気を読んで逃げていくとかさすがすぎる。


 アシュリーが泣き出した。俺は慰めることもできずに両手を掲げたまま、痴漢やってないですポーズのまま延々と泣かれ続けた。……これ完全にフォーリンラブな奴ですかね?


 タイムスリップの結果俺と鑑定のアシェラが結ばれるのはやばくね?

 もうタイムパラドックスどころじゃねーぞ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イザールってパカからするとマジで大英雄だったのか。 [気になる点] そもそもリサイクルソルジャーの作り方は? あとこの時代ティトは強い神だったんですか? [一言] 時間軸が本編なら結果が…
[良い点] リリウス君は相変わらずもてるなぁ [気になる点] アルザインの権能が使えるのは、転生者だからなのですか?それとも肉体的的に生まれ変わりだからなのですか?
[気になる点] 神がリサイクルソルジャーになると権能も使える? リサイクルソルジャーは強ければそれだけイザールの素体と同じようにコストがかかる感じですか? [一言] まさかのアシュリー攻略とかラケス…
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