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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
余談編其の二 リリウス商会の旗揚げ
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順風満帆な商売と心と

 最近のシシリーは元気そうに見える。一度は自殺騒ぎまで起こした女に相応しい表現かはともかくとして調子は良さそうだ。


 シシリーには商売の話を聞いて貰っている。


「今は復興特需ってやつで何を持ってきてもすぐに売れるんだ。特に家具だね。今の王都は木材が高騰しているのに移住者が多いからさ、みんな家具やら何やら身の回りの物を欲しがっているんだ」


 王都ではガテン系が熱いね。担ぎ屋も普段よりずっと高給だから肉体労働者が活き活きしている。夜になるとそこいらの広場に青空酒場が出来て、今日貰ったばかりの給料を使っていくんだ。

 王都で今一番金を使ってくれるのは肉体労働者だ。LM商会としてもここを狙っていきたい。


 そんな話をした後にシシリーに尋ねる。ずばり次は何が来る?

 ベッドから起き上がって俺の話を聞いていたシシリーが少しだけ悩む。


「次かあ、リリウス君も立派な商人になったねえ」

「まだまだ駆け出しだって。だからシシリーの提案を頼りにしてるんだぜ?」

「ん~~~彼らのお給金ってどのくらい?」

「日当80オーラムだね」


 地方都市の肉体労働者は12~20オーラムが相場だ。

 雑魚寝の木賃宿の宿泊費が5オーラムだとして彼の生活は本当にカツカツなんだ。地方の四倍の給料だ。


「へえ、ほんとにけっこう貰ってるんだ」

「裏でナルシスが動いたんだと思う。今だけは美味しい仕事でも何でも用意して復興を急がなきゃいけない時期だし、他国からも呼ぶならそれなりの額じゃないと相手にされないから」


 LM商会では他国からの人材派遣仲介もしている。事業者と高給を求める労働者をつなぐがコンセプトだ。中抜きはしてない。給料をたくさん貰って笑顔で買ってもらいたいからだ。願わくばここが良い町だって思ってほしいからだ。


「衣食住に問題なし、それでいて地元ではない出稼ぎの人達が次に求める品物ね。ねえ気づかない、これってリリウス君にも馴染み深い職業の人達とおんなじ特徴なんだよ」

「なぞなぞっスか……」

「そんなに構えるほどの話じゃないってば。ほら、冒険者と似てない?」


 あ、そっかそっか、なるほどー。


「じゃあ問題だ。少しだけ生活力の出てきた冒険者が欲しがる物ね。もちろん武具以外だよ」

「具体的には?」

「お姉さんはヒント係だよ。商人なら自分で考えなきゃ」

「ごもっともです」


 シシリーには色々相談に乗ってもらっている。彼女はいつも頼もしくて、目が離せないくらい脆い。

 一人にしてしまうと誰も知らない内にまた首を吊ろうとするかもしれない。


「もう行くよ。また近いうちに来るから」

「うん、いってらっしゃい」


 シシリーのご両親にも挨拶して彼女の実家を出る。

 自分のほっぺを叩いて気合いを入れ直して次に来る商品を考える。


 商館までの歩きタイムに思いついたのは幾つか。


 1 やはり美食、プチ贅沢スイーツ

 2 世界中のうまいもんを集めたワールドワイド居酒屋

 3 最終的に行き着くところエッチなお店


 どれも成功する気がする。小銭を手に入れた男のやることなんてこの三つの内どれかだ。現代日本ならここにサブカルが入る。なお異論は認める。俺にも週末登山に命を懸ける日々もありました。


 さあどうしよう?

 これをLM商会幹部連に放り込んだところ答えがこれ。


「僕も美食には興味がある。ワールドワイド食事処に一票」

「わたしもー!」


 フェイとレテがすぐに決めた。

 一択!


 ちょうど祈りの都支店から戻ってきたナルシスにも放り込んでみる。


「良案だな。審議にかけるまでもない、全力でやってみろ」

「はい、ありがとうございます!」


 ナルシスが三冊の企画書をまとめて机に放る。


「これは私からの提案だが一つに限ることはない。全部まとめてやってみろ」

「これ三つ全部っスか? でも値段は控えめにするつもりですよ?」


「毎日来てもらう必要はない。週に一度の贅沢でいいんだ。そうだな、お前ふうに言えばプチ高級店化しろ。ただし一つ一つのコースは抑えめだ。わかるな?」

「なるほど、大人のワンダーランドにしちまうわけですか。じゃあ一つ一つの価格設定はこんなもんで」

「ふんっ、わかっているじゃないか」


 最近ナルシスとの付き合い方もわかってきた。

 シシリーと一緒だ。こいつは他人を操り人形にするつもりはない。相手にもきちんと考えて答えを出す機会をくれるんだ。


「丁度その種類の経営に明るい女を雇い入れたところだ。後でこちらに送る」

「助かりますよ」


 まさかその女というのが元東方移民街の四大巨頭の一人レイリー・チェンだとは……

 そして騎士団内のしつような外様いじめに耐えかねたトキムネ君がうちの店の用心棒になるとは……

 最終的に妻から三下り半を突きつけられて娘を連れて実家に帰られてしまうとは……


 今の俺は知るよしもなかった。


 幸い商売は順調だ。……ただ胸にぽっかりと空いた虚しさだけが、どうしたって、一人になると押し寄せてきた。

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