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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
余談編其の二 リリウス商会の旗揚げ
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リリウス立志伝③ 悪の城

 ハンス君は避難民用の仮屋で暮らしている。ジェスト親方とアンナマリーとの三人暮らしだ。親方がパパにしか見えないよ。

 明日の競売のパンフレットを広げてあれこれ相談し合っている親方とアニーを背に、ハンス君に色々教わる。


「僕も詳しいわけじゃないんだけどねえ。リリウス君はどんな品を扱うの?」

「特に限りはないな。需要があるなら何でも扱うつもりなんだ。ほらイース海運みたいに遠隔地の珍しい品を運ぶ感じさ」

「マジックアイテムも?」

「あー、それはどうだろ。マジックアイテムの扱いは何か制限があるの?」

「魔石コンロくらいなら要らないけど等級によっては魔導協会の免許が必要になるよ」


 なるほど、ハンス君に聞いておいて正解だな。


「僕も詳しくはないんだけど魔道具取り扱い免許を持つ管理責任者が必要ってだけだから、必ずしもリリウス君が取得する必要はないよ。ただイルスローゼで扱うなら支店に必ず一人は必要になるんだ」


「支店の話は早すぎない?」

「でも交易業なら支店も作るんでしょ。何事も早めに準備しておくべきだよ」


 ハンス君が頼もしい。

 俺の人生においてハンス君が頼もしい事態が起きるとか欠片も想像しなかったが、さすがは先輩商人というべきか。彼女とデートする時は女装を強制される受け素材なのに。


「ちなみにジェスト親方は?」

「引き抜きはやめてよ」

「すいやせん、あたしも下級免許だけでして」


 一応持ってるみたいだ。冒険者用の防具も作る親方だし当然か。

 親方は自身は魔法を使えないけど正しい取り扱いや保管方法を学ぶ講習を受けて免許を取得したようだ。金さえ出せば受けられる講習なら問題ないな。年に三回ほど魔導協会でやってるんだってさ。

 職人が武具を作り、魔導師が魔法を付与し、職人が売る。このサイクルに必要な講習なんだ。


 商売を始めるために必要な基本的な情報を整理しよう。

 無し、以上。


 冗談だと思うかもしれないけど本当に無いんだ。必須ではないんだ。

 商業ギルドに加盟すると王都に入る時に検問で入市税を取られない。特定の商品や持ち物には税が課されるけどそれだけだ。冒険者もそうだ。冒険者証に記載がある装備に関しては免税措置を受けられる。冒険に必要なポーション類や野営具に非常食なんかも免税の対象だ。こちらは申告が不要。

 王都の検問は厳重だ。でも厳格ではない。ちょくちょく出入りしてると顔を覚えられて手荷物改めなんかはスルーされる。法律は厳格に作られているけどそれを使う側には情があるのさ。冒険者の手荷物検査なんてイチイチやってらんねえよって見方もある。


 じつは見逃されているだけで税金ってのは色々な物に掛かっている。

 商人をやるからには今までのようにはいかない。これまではどうせ大した額にならないって見逃されていたけど、商人が馬車一杯に積載した商品となると真面目に調べられる。

 商業ギルドに加盟するメリットはここでの減税にあるわけだ。


 ついでに商業区の物件を所有していると課税される。百分の一税だ。民政局が試算した物件の価格の百分の一の金額を年に一回年末までに納めなければいけない。これに30%の減税が入る。


 加盟すると良い事尽くしの商業ギルド。デメリットは年末に今年行った商取引の帳簿の写しを提出しなくてはいけない。ギルド加盟費と更新費もある。

 もちろん良い事の方が多い。商業ギルド経由で仕事を貰えたりするし、加盟していれば登記会社として官報に記載される。信頼できる商人に仕事を頼みたい貴族はここから探すから思わぬビッグビジネスにつながる可能性もある。

 だが必ずしも加盟する必要はない。王都に野菜を下ろしに来る農家の人がギルド会員になってると思う? ならない。マジな話その程度の小規模な取引なら入らない方がいい。加盟費ってのがけっこう高いんだ。

 加盟費が年間100ギルダ。金貨3枚と言えばそれだけだけど、それだけと言い切れる商人はけっして多くない。


 商売を始めるために必須なのは商品だけだ。極端な話ゴザでも敷いて露天商をやってもいいんだ。


「ありがとう、ハンス君のおかげで色々わかったよ」

「お礼を言われるほどの話じゃないよ。何なら商業ギルドで聞いたって教えてくれる内容さ」

「商業ギルドで聞いてギルドに加盟する必要はないなんて話を聞けるとは思えないねえ」

「そこはそうだろうねえ。でもリリウス君の想定する規模の商売ならギルドに加盟した方がいいよ」


「でもハンス君、俺は空間系魔王なんだよ?」

「リリウス君魔王だったんだ……」


 納得したみたいな顔するなよ。

 ステルスコートから色々な物を取り出してみせる。どんどん取り出す。次第に三人の顔が引きつっていく。


「旦那、まさか密輸でやすかい?」

「みなまで言わないでくれ」

「……リリウス君がまっとうな商売するわけがないから法の抜け穴でも突くのかなーって思ってたけど、法の網を引きちぎる気まんまんだね。さすが姿の見えない賊徒」


 リリウス・マクローエン商会はまっとうな商会ではない。

 最初から脱税を念頭に置いて荒稼ぎするために作られた、いわば悪の城なのである。

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