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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
余談編其の1 神の森への再訪
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過去と未来① ウルドとスクルド

 王は玉座にあり微睡みと目覚めを繰り返す。


 王は器物でありシステムであり至高の芸術品であった。臣下は膝を着き王の目覚めを待つのだが、その時間を苦痛だとは思わない。

 普段なら王の眠りは深く十年や二十年は眠り続けるが、最近は調子が良いのか眠りが浅く、数日と待たされなかった。

 彼女は王の目覚めを待つ時間を好いているから、これを幸運とは呼べまい。


 虚ろな眼差しをする王が彼女の名を呼ぶ。


「スクルドか、どうした? イデから任された雑事を終えて戻ってきたのか?」

「建国には今少し時を要するかと。此度はイデ老の召喚に応じての一時帰国にございます」

「ふんっ、彼奴の酔狂に付き合わされるとは災難であるな」

「そのような事は……」


 王が口角を引き上げて凄惨に嗤う。只人が見ればショック死しそうな邪悪の笑みだが彼女は王の機嫌が良いのだときちんと理解している。

 王だけを見つめてきた。だから王の機嫌なら見ればわかる。だがその想いの奥底にどんな感情が潜んでいるかだけは、スクルドにもわからない。


「取り繕わずともよい。我らには生き甲斐が必要だと抜かすあれの言わんとしている理屈も分からないではないが、そのようなものは己で見つけるものだ。他者から与えられては苦役よ。面倒ならば余に明かせ、あとでこそりとアレに言い含めてやろう」

「ごほんごほん」


 彼奴とかアレ呼ばわりされてた王佐のイデ=オルクが玉座の真横から咳払いを飛ばす。

 すると王が困ったみたいに顔をくしゃりと歪める。


「なんだ貴様そこに居たのか」

「お気づきで仰せになっておられたのではなく?」

「底意地の悪い言を抜かすな。最近の貴様は可愛げがないぞ」


「もう立派なジジイでありますゆえ。スクルド、報告を」

「はい、大爺様」


 ハイエルフの女が跪いたままで応じる。その眼は誇りに輝いている。

 ポニーテイルに結い上げた金髪と東方の鎧装束。朱袴を履いた姿は勇ましい戦巫女といった様子だ。

 セルトゥーラ王は何だかすっかり東方にかぶれてしまったなあって思ってる。


「東方諸島の制圧はほぼ完了しております。残すは神根島と小豆島、九頭竜大州のみ。こちらの誘導通り反抗勢力は九頭竜の大名の下へと参集しております。九頭竜の盟主イスルギ、スメラギ、スウキは手強いと聞くゆえ兵も昂っております」

「兵…か」


 己の戦果を喧伝するスクルドに対して王はややうんざりしている。

 だが誇りをもって王の前に来ている娘に水を差すのもどうかと思ったらしい。ぼやきは小声にしておく。


「イデよ、我らもすっかり平和を愛する種になったと考えていたのだがな?」

「戦いのために生み出された我らが本能までは偽れはせぬのでしょうな。我らが凋落は戦いを捨てたがゆえかもしれませんな」

「貴様のプランが実を結んだかはまだ分からんよ。だが存外うまくゆくのかもしれん」


 大賢者イデ=オルクは若い二人のハイエルフに使命を与えた。

 ウルドには下の森人に始原のちからを伝える使命を。ハイエルフという種が滅びても彼らが生きていけるように。

 スクルドには下の森人に安住の地を与えるため東方での建国事業を任せた。言わば彼らの未来を切り開くため。

 表向きの理由は上記の通り。だが滅びを是としない大賢者の思惑は別にも存在する。


 その一つが闘争心を目覚めさせ、在りし日の戦闘種族への回帰を行い種のちからを回復する。実際スクルドは首都にいた頃よりも生き生きしている。

 過去に何度も失敗を重ねてきたが造物主の呪いも彼方の出来事。もしかしたらこのまま何もかもうまくいくかもしれない。……そのような甘い夢を見たいイデの気持ちもわからなくはない。


「大義である。かつての余とこやつのように好く戦い良く学び善く在れ」

「ありがたきお言葉! 必ずや偉大なるセルトゥーラ王の名に恥じぬ戦いをご覧に入れましょう!」


「だがしばしの逗留を申し付けねばならない。懸念については聞いているな?」

「はっ、イデ=オルク様よりお伺い致しております。大父祖レザード様の復活と大魔ディアンマの呪いでありますな」

「うむ。詳しくは……と言うても口達者なイデよりも詳しい話もできぬが後にウルドも交えて昔語りをしようぞ。戦の疲れを癒し待つがよい」


 スクルドが去っていく。

 王は玉座に座り直し、去りゆく武の娘の背を見やり、気難しい顔に戻る。


「闘争の運命からは抜け出せぬか。これも業よな」


 王の目が美しいベルサークの光景が広がるテラスに向く。

 だが王の目は何も映さず、遥か西方で復活を遂げた弟を思い出している。


「レザード、お前の目には今の世はどう映るのだろうな? 余は存外悪くはないと考えているのだぞ?」


 古代の神兵は戦いを捨て去りベルサークの守り人となる道を選んだ。

 だが奇しくも彼の子孫は闘争を得て眼を輝かせる。だから彼はいつもの口癖みたいに「ままならぬなあ」とぼやくのである。

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