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ダンジョンへの挑戦

 あの夜の出来事で確信を得た。


 やはりリリウスの精神的支柱はリザだったのだ。

 どんなに辛い境遇であろうと密かに味方してくれる姉貴の存在が、俺ではない本物のリリウスを救い続けていたのだ。


 だからひどい違和感を感じている。


 俺は人のちからを舐めていない。

 どんな劣等感を抱え込もうと見返してやる、覆してやる、成り上がってやると憎悪を燃料に突き進んでいくパワーを軽んじたりはしない。

 それは他ならぬ俺が誰よりも理解しているからだ。

 でなければ二十五の若僧が起業などできるはずもないのだ。

 暗闇が深ければ深いほど光を求めて手を伸ばすのが人の本能なのだ。


 そして卑屈さや劣等感の裏返しの強い攻撃性を持つチンピラのリリウス・マクローエンという未来の姿は、深すぎる暗闇に心を折られたものに思える。


 例えば、例えばだ。唯一の救いだった姉貴を失ったりすれば……


 わからない、思い出せないどころではないそもそもリザ・マクローエンなんてキャラはゲームでは名前すら出てこない!

 くぅぅぅ、転生するとわかっていたなら設定資料集とか読み込んでいたものを!

 告知義務! 怠慢だぞ!


 あの夜から折に触れては姉貴の身に起きるかもしれない不幸について考えを巡らせてきた。

 ついでにゲーム内の出来事も可能な限り思い出そうと努めた。


 どうにか思い出せたTIPSのリリウス・マクローエンの項では『マクローエン男爵家の五男。妾の子という境遇から精神を病むも、その境遇から救い出してくれたロザリアに深く感謝している。十三の年から騎士団長ガーランドの薫陶を受けるもついてはゆけず、騎士としてその才能を見限られる』とあった。


 十三歳、その年までに俺はマクローエンを出るのか?


 なぜその年なのだ? その年に何かきっかけになる出来事でも起こるのか?


 わからん。わからないまま年月はあれよあれよと流れていって、俺は気づけば十二歳の少年となり、兄弟もまたそれぞれの成長を遂げていた。


 割愛はしたものの五年もの間に当然色々あった。


 ステルスコートの実証実験も兼ねて朝から晩まで領内のモンスター狩りという名のレベル上げをしている内に凶悪な魔物が出ると冒険者や村落の代表者が泣きついてくるようになったとか。ついでに領内の治安を乱す山賊のケツにスプーンねじ込んだりもした。


 二年前にはとある事件の際にお嬢様やデブ、閣下と再会したりもした……俺は悪くねえ。


 親父殿の隠し子も発覚した! 一人どころか他にも数人いやがったが母親が存命かつ手厚いフォローがあるので問題ない。姉貴がたまに算数とか教えてるので関係は良好さ。


 この色々の中にはマクローエン家との確執も望まぬ形ではあるものの一応の解決をみた。

 これについてはいずれ語る日もあるだろう。


 あれよあれよと過ぎていく日々は面白おかしくて、でもいつか姉貴に訪れるだろう悲劇はその影も見せない。それだけが俺を妙に不安にさせ続けた。





 真夏もほど近い灼熱の日、俺は昼間っから庭木にハンモックを掛けてお昼寝をしていた。

 妾の子にも平和な時間を愛する自由くらいはあるのだ。


 だが平和は突如奪われる、一石の投石によってだ。


 ゴン!


「いてえ、超いてえやつだ!」

「やーい、リリ兄ー妾の子ー!」


 石を投げてきたのは十歳に成長したアルドだ。


 くそ、天使のように愛らしかったお前はどこへ行ったんだ兄ちゃんは悲しいぞ。


「成敗!」


 ハンモックの反発を利用して高く跳躍した俺はアルドへとドロップキック。すかさず関節技に入る。必殺の逆エビ固めだ!


「ぎゃああああ!」

「ふははは、兄より優れた弟などいねえ!」

「ギブ、ギブだからぁ!」

「んんぅ~~? 聴こえんなぁ?」


 ジャギ様ばりに悪辣な兄貴アピールも怠らない。

 人間は集団行動する動物だから、定期的にどちらが上か理解させる必要があるんだ。犬と一緒だ。


 ルドガーもバトラも帝都の騎士学院に入学したので遊んでくれる兄弟のいないアルドはいつもこうして俺につっかかってくる。

 とはいえこいつの悪戯など可愛いものだ、精々が寝ている間にベッドにミミズを差し入れするくらいだ。


 地面をバンバンタップするアルドがどのくらいまで耐えられるか試していると、久しぶりな連中がやってきた。


「お前らは変わらないな」

「なんだよアルドまだリリウスに勝てねえのか、なっさけねえな~」


 ルドガーとバトラだ。ルドガーは騎士学院の三回生、バトラも二回生だ。どちらも学院でみっちりしごかれたせいか顔つきも大人びてきて、体格も戦士と呼ぶに相応しい立派なものに仕上がっている。

 正直もう喧嘩はやりたくない確実に負ける。


「なんだよ馬鹿コンビか、ヘマして退学にでもなったか?」

「夏季休暇だ。っつか何も聞いてねえの?」

「なんの話だ?」


 すぐに家族揃っての昼食になり、ヴァカンスの話はそこで聞いた。


 家族揃って長期旅行に行くそうだ。ここから山を三つ越えた南にある海岸に貴族御用達のリゾートがあるので一月丸々遊んでくるそうだ。騎士団に入団して忙しいラキウス兄貴と俺を除いた七人でな。ナチュラルに俺を省いてるのが素晴らしいね!


「すまん」


 これについては親父殿があとでこっそり謝ってくれた。


 俺も連れていくつもりだったが正妻のリベリアに反対されたそうだ。

 野良犬と一緒でヴァカンスなど楽しめますか的な言い分だったらしい。


「いいから楽しんでこいよ。俺は俺で楽しく暮らしてるからさ」

「……お前は本当に俺を責めないな」


 責められるはずがない。養育してもらっている、愛情を注いでもらっている、何よりあんたの子ではない赤の他人なのにだ。

 リベリアの言う通りなのだ、俺は本当の意味で野良犬なんだ……


「すまない。金で済ますのは貴族の悪い癖なんだろうがこれを」


 やけに重い革製の巾着をくれたなと思えば銀貨がみっちり詰まってやがった。

 七十五枚もありやがるが、なんだ親父死亡フラグか!?


「それとこの鍵も渡しておこう。丘の向こうに別宅があるんだが」


 別宅なんて初耳だぞ。


「気に入った娘っこでもナンパして連れ込んでいいぞ」

「親指握り込んでなんだそのいい笑顔は! まさか俺生誕の地じゃねえよなそこ!?」


 最低だこの親父、女遊び用の隠れ家の合鍵渡しやがった死ね!


 そうこうしている内に旅行の準備が整ったらしい。


 ヴァカンスに同行する使用人十数名を除いた使用人勢揃いで馬車に乗り込む男爵家ご一行を見送る。


 俺の傍をリザ姉貴が通り過ぎていく。すれ違い様に意味ありげに俺の手に手の甲を当てていったリザも今年で十五、メガネっ子は相変わらずだが美しく成長した。

 目つきのきつい怜悧な容貌の金髪美人といった感じだ。

 目つきが悪いのはマクローエンの宿命なのだろう。


 最後に馬車に乗り込む姉貴が俺にだけわかるくらい小さく手を振ってくれた。


 姉貴は何も言わない。俺も何も言わない。そういう遠くて近しい秘密の味方って関係を気に入っている。

 おいアルドこの切ない気分にあっかんべーで水を差すのはやめろ。


 馬車が遠ざかっていく。その車体が見えなくなると使用人一同から大歓声。


「おっしゃー休暇だー!」


 いやあのね君達、君達の敬愛すべきご領主様のご子息様はまだここにいるよ?

 君達は休暇じゃなくて俺のお世話しなきゃダメだよね?


「ね、ね、どこ行く?」

「わたし実家帰るー!」

「俺もついてこっかなー?」

「おめーんち隣だろ」


「はいはい、みなさんあまり浮かれないように。旦那様から頂いた休暇は一月、八月が終わる前にはちゃんと帰ってくるのですよ」


「「はーい!」」


 使用人のほとんどは領内の町や村の出なので、マクローエン一家がヴァカンスに出掛けている間は暇を出すらしい。つかそんなん聞いてねーんだけど。


 使用人揃って俺を無視して屋敷に消えていき、すぐに出てきたと思えばみんなして私服に着替えて大きなバッグを抱えて街道を歩いていった。

 カウントしていたが全使用人四十七名の内五名しか残ってねえ。

 つかコック長までいなくなってやがるし俺のメシどーするわけ? もしかしてあの銀貨七十五枚って飲食費も含まれてるの?


 仕方ねえ、俺もどっか行くか。

 遠出してがっつりレベル上げでもしようかな?





 俺以外の家族全員が長期旅行に出たのでこれ幸いとダンジョンに向かう。


 去年ルドガーが持ち帰った学院の資料によれば帝国内にはダンジョンが三十七ヵ所もあるらしい。ちなみにゲームでは裏ダンも合わせて七ヵ所だった。


 そのうちマクローエン領から一番近いのは南のランダーギア密林地帯にあるダンジョンで危険度はDランク、これは冒険者になって一年から五年くらいの低ランクが五人パーティーで挑んで五層までの生還率60から75パーセントとなる。


 ランダーギアダンジョンは全十五階層だというので俺はとりあえず最深部まで下りてみた。


「あれ本当に人間が勝てる奴ですかね……?」


 十五層の大部屋にはボスと思しき巨大蛇がいた。排泄物を思わせるとぐろを巻いてのんきに眠り込んでいるが、その大きさはお屋敷くらいある。むかし都立博物館で見た復元ティラノサウルスの五倍はあり、恐竜ではなく怪獣の分類だゴジ〇だモ〇ラかもしれない。


 とてもではないが剣で戦う相手ではない。バズーカやミサイルで駆除するような相手だ。

 帰ろう。


 その前にボス部屋をうろちょろして宝箱を探すが何もない。でかい蛇が寝てるだけだ。完全に無駄足です本気で悔しい! 人生初ダンジョンなんでかなり意気込んできたのに!


 ステルスコートを使ってのストレスフリーなダンジョン攻略だったがここまで二十時間掛かった。

 俺の貴重な夏休みの一日が台無しだ。一年中ホリデイだけどな。


 道中適当に魔物も狩ってきたからレベルも上がったかもしれない。

 ウキウキ気分で適当に魔物を狩りながら階層を上がっていく。


 行きにマップを付けていたので階段を探す必要はなく、行きの四分の一の時間で五層まで帰り着いた。あと三時間も歩くのか……リレ〇トとかワープクリスタル的な一瞬で帰る方法ないんですかねこの世界。


 四層への上り階段まであと少しという時、絹を裂くような女性の悲鳴が背後から聴こえてきた。


 俺に救出されたい美少女はどこのどいつだ!? あと少しで出られたのに!


 来た道を戻る。

 行きには行かなかった三叉路の左を選んでひた走ると冒険者らしき女性二人が人狼系の魔物に囲まれていた。

 コボルトにしてはでかいけど何だろこいつら、大コボルトでいいか。


 二人で五層まで下りてくるくらいだからかなりの実力者なのだろうが数は力の暴力だ。

 二対十三という人数差は絶望的すぎる。


 じりじりと包囲を狭める大コボルトはいまこの瞬間にも二人に飛び掛かろうとしている。


 だが心配ご無用!


 ステルスコートを着た俺は無敵じゃー!

 駆けつけ様にまず右端の大コボルトの頸椎をバッサリやる。


「ガッ……」


 悲しい悲鳴を残して絶命する大コボルト。そして仲間の一匹が突然死した群れが騒ぎ出す。


 でもどんなに騒ごうが探そうがダンジョンボスにさえ感知されないステルスコートの透明性を看破できるはずはない! 信じてるぞステルスコート! お前だけが頼りだ!


 この五年ステルスコートの性能を精査分析してきた結果を説明しよう。

 ステルスコート着用者はにおいや気配といった存在感の一切が希薄となり究極の透明人間となるが、透明なだけで手を伸ばしてきたら触れられてしまう。

 防御性能については何も検証していないが触れられるということはダメージも受けるはずだ。


 え、怠慢ですって?

 よく考えてみてほしいんだけど壊したらもう二度と入手できない一点物で防御性能なんて検証できるはずがないよね。家宝のごとく大事にしてきたね。洗う時だって使用人に任せずに手もみ洗いさ。


 ステルスコートはその派生効果として着用者と手を繋ぐなどの一定以上の部位接触があれば透明化を譲渡できる。俺の装備品も透明化しているのはそういう理屈だね。


 そうだ、お察しの通りだ! 判明した事実は前とあんまり変わりない、むしろ余計な希望まで打ち砕かれた感がある!


 おマヌケそうな面構えでキョロキョロする大コボルトを一匹ずつ狩っていく。


 恐慌に駆られて爪をブンブン振り回す危ない輩もいたがそっちは後回し、落ち着いた頃に背後からザックリいく。


 三分ちょっと掛けて大コボルトを全滅させると女性冒険者二人組が怯えていた。

 目に見えない殺戮者って怖いよね、ホラー映画の主演張れるレベルで怖い。インヴィジブル・リリウスと呼んでくれ。


 一仕事終えた俺は念じる。透明人間解除!


「…………」

「…………」


 女性二人組からの「お前誰?」って無言の視線が突き刺さる。

 そう、俺はこの二年の間にステルスコートを着たままでも透明人間状態を解除する技術を手に入れた。これマジックアイテムだから魔力供給やめたら効果消えるんだよね。


 とりあえず警戒ばりばりの二人組を安心させようと微笑みを浮かべる。

 ほーら天使のように愛らしい子供ですよー怖くないですよー。なんで俺の天使のスマイルを見た途端に頬が引き攣るんですかー?


「怪我はないですか、五層から先はモンスターも多いんで引き返すのをおすすめしますよ」

「…………」

「…………もしかして助けてくれたの?」

「この親切そうな少年を見て他に何を想像したの?」

「暗殺者」

「絶対百人は殺してる目だもの」


 俺兄弟の中では比較的愛らしい目つきしてると思うんだけどマクローエンの血筋どうなってるの? 生まれつき百人は殺してる目を持つ子供を量産してるよ? ラキウス兄貴なんて夜中に見たら心臓とまるぞ。


「この目は生まれつきです、ほんとすいません」


「「はぁ~~~~!」」


 安心したのか二人が同時に尻もちを着いた。

 ここまで連戦に次ぐ連戦って感じだったのか疲労困憊の様子だ。


「あー、よかったあ! アンダーリカントの群れの後にトンデモナイ怪物が現れたと思ってびびっちゃったわ!」

「絶対殺すって目してたもんねえ!」


「俺そんな目つき悪いの……?」


「鏡見たことないのッ!?」

「夜中に見たら心臓止まるわよ!」


 冒険者にもビビられるマクローエンの目つき相当やばいな。

 姉貴お嫁の貰い手いねえんじゃないの?


「外に出るなら俺と同行しませんか。今なら破格の条件で安心安全にダンジョンの外までお連れしますぜ、げへへへ」


 二人はどちらもキリッとした美人。長いブロンドを三つ編みにして垂らす女騎士風とおかっぱの魔法使い風、どちらも大変好みだ。


「お金?」

「おっぱい揉ませてくださいお願いします!」


 二人が互いに顔を見合わせ、クスっと微笑んで一言。


「「いいよ」」


 話の早い女性ってステキ。胸甲鎧を一息で脱いだ二人が鋼の鎧に隠されていた、分厚いシャツ越しにもご立派な存在感を主張するそれらを胸を張って突き出してきた。ありがてえ、ありがてえ……


 このあと滅茶苦茶揉みまくった。


 気の強そうな男勝りの女騎士風の美女がリリア・エレンガルド。

 おかっぱの魔法使い風の見た事もないような絶世の美女はファラ・イースというらしい。

 自己紹介を終えた俺達は互いに手を繋いでダンジョンの外へ出るべく歩き出した。徒歩で三時間程度の脱出行の間に軽い世間話をした。そして驚愕の事実が判明した。


「へえ、お二人は騎士学院の生徒さんなんですか!」

「そ、私ら二人とも二年生なんだ」


 バトラ兄貴と同じ学年か。まさか同じクラスじゃないよな?

 てゆーか二人とも大人びてるけど十七歳なのね、まだ少女じゃん。


「てゆーかそんなに驚く?」

「リリアさんもファラさんも大人びてるから学生には見えなかったんです」


「老けてる的な発言やめい」

「それ以上にさん付けされるの違和感あるわ。呼び捨てにしなさいよ」

「目上ですし」


 マナーの話である。


「……あんだけのことしておいて目上扱いされても困るわ」

「本当に揉むだけで済ませるあたりは子供なんだけどねぇ、目つきは並みの山賊より遥かに凶悪だけど」


 呆れたり貶したりと散々な扱いだけど構わない。だってエロに積極的なんだもん!

 エロいお姉さんにいじられることは全ての青少年にとって究極の幸福なのだ。


「それよりもさ、さっきからこれどんな理屈?」


 俺達の目の前を色々な魔物が素通りしていく。

 五層からこの一層に戻ってくるまでの間に計五十七体の魔物と遭遇したが、ステルスコートの透明効果の接触譲渡により三人揃って透明化しているため襲ってくる気配はない。

 何の警戒もしていない魔物をリリアが剣を振って倒しても、周りの魔物は戸惑うだけで気づく気配もない。ステルスコートは無敵だ。


「さっきも説明したと思うけど俺のスキルですよ」


 という説明にした。

 ステルスコートの真実を話して殺してでも奪い取るされても困る。正直な話すると俺本体の戦闘能力はそこまで高くないんだ。舐めプしてゴブリンチャンピオンと一騎打ちした時は一合で腕とナイフ折られたし。


「潜伏系の魔法は色々あるけどハイディングスキルなんて聞いたことないわ……」

「これだけ強力な隠密性を他人にまで被せられるのも驚きだよ、手を繋ぐだけでいいのなら軍団規模もいけそうね」


 さすが騎士学院生、すぐに軍事利用を思いつきやがった。

 お手々繋いだ完全武装の野郎ども一個旅団がスキップしながら国境を突破し、無防備な敵国首都を強襲とか恐ろしい、考えもしなかったぜ。


「いやいや、絶対に人数制限はあるでしょ。そんなのできたら無敵すぎるわよ……」


 試してないけど多分可能ですよファラさん。


「お願いだから否定してリリウス君、無理でしょ、無理だよね?」


 多分できます。


「できないよ(ニヤリ)」

「お願いだから顔と言葉を一致させて!」

「怖や怖や、恐ろしい少年に出遭ってしまったぞィ。こんな恐ろしい子冒険者にしとけない、騎士団に推薦して帝国の最終兵器にしちゃいましょ」


 リリアがそんな提案をするとファラが納得した感じで手を打つ。試してガ〇テンかよ。


「リリウス君まだ十二歳だったわね、学院には行くんでしょ?」

「いやいや、俺はいわゆる庶子ってやつでね」


 俺は聞くも涙語るも涙の苦労話をした。

 年の離れた兄どもにはいじめられ、使用人からはいない者扱いを受け、息を潜めて生きる可哀想な子供の可哀想なお話だ。いや泣いてくれよ!


「可哀想なのに欠片も泣けないのは何でだろう?」

「リリウス君モンスターの群れに放り込んでも鼻歌混じりで帰ってきそうだもの」

「事実だけどさ」


「やっぱりー」

「てゆーかだけどさ、誰がリリウス君をいじめられるの? 人間には無理でしょ」


 もはや可哀想な子供プレイは不可能と断定して笑い話に切り替える。


 五つ六つ年上の馬鹿兄貴どもを陥れて親父殿に水ぶっかけさせた話や、八つ離れた兄貴のケツにスプーンねじ込んでやった話、あいつらがお小遣いを貰う度にパクり続けたルドバト貯金でミスリル銀の短剣を買ったお話だ。


「ひどい……」

「リリウス君さすがだわ……」


 さっきの話は微妙に信じてくれなかったのにこの話だけ真に受けるのおかしくね?

 もしかして危ない子だと思われてる?


「ま、そんなわけで実家と早く縁を切りたいから冒険者になりたいんだ」

「才能がモッタイナイのぅ」

「でも伝説的な冒険者になりそうだわ。もしかして今って伝説の冒険者リリウス・マクローエンのサインを貰っちゃうチャンスかもね」


 二人が同時にハッと表情を変える。何かに気づいたご様子だ。


「「あ!」」


 やはりバトラを知ってたか、ルドガーかもしれない。


「バトラ・マクローエンの弟くん!?」

 

 はい、びしっと指差してきたリリアが正解。


「うわぁ、あのバトラのかあ……でも納得、エロって感染するんだね」

「最悪。どこかで見たことある目つきだと思ったわ」


 あいつマジ何したの、あいつの親族だとバレた途端に俺の好感度まで下がったよ!?

 あのあの、微妙に距離を取ろうとするのやめてもらえます? 手を離しちゃうとステルス解けちゃうよ?


「リリウス君は知らないと思うけどさ、ファラってば入学初日にバトラにコクられてるんだよ」

「初日とは大胆なやつだな」

「おいお前、俺の女になれ! 突然これだよ、断ってもストーキングするしさ」

「夜に窓から外を見ると女子寮の下に立ってたのまだ悪夢を見るわ……」

「馬鹿兄貴が迷惑かけてごめんなさい。今度あいつのケツにもスプーンねじ込んどくから許して!」

「いやいやそこまでは可哀想というか……」


「お願いねリリウス君!」

「ファラ!?」


 ファラ嬢の恨みは深いと見た。悪夢に見るくらいだからなぁ。


 そうこうしている内にダンジョンの外に到着。

 くそぅ足が棒のようだぜ。もう歩きたくない、さっさとバイアットに乗って宿に行こう。


 俺は三年前に産まれた仔馬にデブことバイアットと名付けた。

 立派な駿馬に成長したバイアットは文字通り馬車馬となって働く偉い奴だ。さあ働けバイアット、俺を乗せてキリキリ働くんだバイアット。


「って、俺のバイアットがいない!?」


「誰?」

「馬」

「「馬ァ~~~~~!?」」


 え、なんで驚いてらっしゃるの!?


「馬なんてこんなところに繋いでたら盗まれちゃうわよ!」

「そーよ、盗まれなくても魔物に食べられちゃったらどーすんのよ!」


「え、えぇ……じゃあみんなどうやってダンジョンに来てるの? 馬を飛ばしてもけっこうかかったのに」


「「歩き」」


「何時間かかるの……」

「三時間くらいだったかしら?」

「そのくらいよね」


 マジで? 冒険者過酷すぎね?

 町から三時間かかるダンジョンまで歩いてダンジョンでも歩いてまた町まで戻るわけ? え、一日が軽く終わるよ?


「ようやくリリウス君の子供っぽいとこ発見したわ」

「楽観的って部分だけしか欠点がないって性能どうなってるの。学習したら完全体になるじゃないの」


 困った。本当に困った。これはもしかしなくて……町まで歩かにゃならんのか。


 町に着く頃にはすっかり夜になっていた。


 町の正門を守る守衛はお役所仕事なので日中しか働いていない。

 次に正門が空くのは夜明け過ぎで、六時か八時か十時かは門番の今晩の飲酒量しだいなのさ。


 正門が空くのを待つ商人の行列に混じる俺達は、ファラの毛布に入れてもらって夜を明かした。

 バイアットの行方はどこへ……?


 一方そのころ人間のほうのバイアットはリゾートでバーベキューをしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] バイアットがバイアットでバーベキューをしていたに違いない! 己バイアット!!
[一言] >養育してもらっている、愛情を注いでもらっている、何よりあんたの子ではない赤の他人なのにだ カッコウみたいですね 排除する側ではなくされる側ですが カッコウも排除に失敗して 一緒に育つこと…
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