闘争の箱庭①
俺とラクスには騎士団本部内の客室を与えられた。シュテルに結婚したって言ったらヘンテコな顔をされたが、多くの疑問を飲み込んで「そ…そりゃめでたいがな」と一応祝福してくれたのだ。
帰るなり面倒な事態に巻き込んだにも関わらず我が妻ラクスはいつも笑顔だ。
いやぁさすがクライスラーの姫。何だかんだ言いつつタフだ。
「俺もようやくお役御免でね、明日からは観光に行こう」
「へえ、解決の目途がついたんだ」
「発生源と術者を特定したからね。後は軍の出番さ」
おしゃべりが弾む。しゃべることは幾らでもある。甥っこのファルコがワンパクで相手をするのが大変だと言えば、サーカス仕込みの芸を見せれば夢中になってマネしたがると教えてくれた。
さっき行った約束のレストランは食材の仕入れができずにメニューが限られていたらしいが、そんなの全然関係ないくらい美味しかった。
明日はフェデル市に行って世界一のワインを飲もうと約束した。前太陽王アルビオンが作っているカクテルの話もしたので、期待ばかりが膨らんでいくね。
何だか勢いで結婚してしまったけど、やっぱり結婚はいいなあと思うのでした。
「じゃあそろそろ寝ようか。」
「ええ、あ、そうだ一つ言わせてね」
なんじゃろ?
「このままだとアンフェアになるしこの際言っちゃうね。あなたって嘘がドヘタクソなの」
「ディスりが強烈すぎない!?」
「ちがうってば。分かりやすいんだから注意なさいってこと。嘘をついてもいいわ、浮気したっていい、大いなる使命を持つ貴方の足を引っ張ろうなんて思わない。でもどうせならうまく騙してね」
「俺そんなにわかりやすい?」
「読心能力に目覚めたのかと思ったわよ」
妖怪サトラレかよ。
「ちなみにこれ次回からね。今回は見逃してあげるから……って言うとえらそうね、嫌な女みたいだわ。ま、ここは素直にいってらっしゃいって言うところね」
「ありがとう」
本当は眠ってから黙って行くつもりだったけど我が妻は賢いな。
透明化して騎士団本部を出ると、桜の街路樹の並び立つ大通りでアシェラが待ち構えていた。さすが鑑定の女神さま、お見通しってわけか。……妖怪サトラレの特殊能力だわ。
「キミの不調の理由は夜の魔王を強く否定したからだ。夜の魔王であることを否定しリリウス・マクローエンであると断定したから魔王のちからを喪失した。今のキミはハイエルフですらないタダの人間だ。……だから封印に留めておけと言ったんだ」
わかっている。今の俺は本当に人並みだ。昔みたいなちっぽけな人間だ。
でもそれとシェーファを見捨てるのは何の関係もない。
アシェラとすれちがう。鑑定紙のような物を渡して来ようとしたが無視する。自分の限界を決められたみたいな気がするから数字は嫌いだ。実際数字は良くない。
魔法は無限のちからだ。発想と理解と閃き次第では弱いちからでも奇跡を起こせる。だが理を理解すれば奇跡から遠ざかる。学び理解を深めれば奇跡から遠ざかるんだ。まったくトンデモねえちからだ。
限界など知るもんか。可能と不可能なんて話じゃねえ、やるしかねえならやるんだよ。
「銀狼には勝てないぞ!」
「勝てるさ」
「あの辺りにはガレリアの殺人機械がうじゃうじゃいるんだ。キミではたどり着くことさえできない!」
「できるよ」
「キミは馬鹿だ!」
もはや交わす言葉もない。街並みを通り抜けて正門を物質透過で潜り抜け、天の梯子から見下ろした王都は白い霧に覆われている。
空を踏んで東方移民街の方向へと走る。




