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凍りついた王都①

 俺も色々考えている。

 まず普通にラクスを自由にしろとか言っても「は?」ってなる。クライスラー公の姫を自由にって何だよ。廃嫡しろってことか?ってなる。


 自由気ままな旅芸人に戻りたいと言った彼女の願いを叶えようと思えば、どのような形であってもクライスラー公爵家から引き離すしかなかったんだ。

 建前としてやった結婚宣言は大成功。ただ一つの誤算は……


「結婚かぁ、うふふ、じつは憧れていたんだ。ねえハネムーンはどこにする? わたくしねえ」


 嬉しそうにはしゃいでるラクスに言えるか! 悪魔か俺は!

 まぁ彼女が楽しそうならいいか。いつもの厭世的なところもストップしてるしね。いいのさ、彼女の笑顔のためにやったんだ。


「どうした、背中が煤けてるぞ?」

「気にしないでくれフェイ、ちょっとしたマリッジブルーだ」

「贅沢な悩みだな」


 じゃあ太陽に戻るか。

 光り輝く一枚の扉を潜り、いざティト神殿へ。


 ティト神殿は相変わらずボロいし暗い。冒険の序盤で来る遺跡感がある。そしてじつは重要な遺跡だと発覚して終盤に来る場所っぽい雰囲気を出している。まあまあ当たってるか。


 俺は気にならなかったが他の連中は寒さに震えている。


 シシリーとカトリも震えて身を寄せ合っている。


「うはー、久しぶりのイルスローゼはやっぱり寒いわねえ」

「フェスタで言えば真冬の気温だもん。うにゃぁ、あたしもこれは堪えるわ」


 ルーデット卿とルキアーノも顔をしかめ、手をこすり合わせている。


「我らもやはりフェスタ人ということか。慣れたつもりであったがやはり太陽の寒さは堪えるな」

「豊国の寒さはこの比ではありませんよ」

「嫌な事実だ。二十年か、長いな……」


 生粋のフェスタ人には堪える寒さらしい。俺? 平気。むしろ過ごしやすい。


 ラクスもブルブル震えているのでステルスコートの中に入れてやる。収納という意味ではない。


「たたたた太陽ってこんなに寒いのね。太陽ってくらいだしもっと温かい土地だと思っていたわ」

「太陽の王家が治めているだけで緯度はかなり高いからねえ」


 皆このように大騒ぎをしているが平均気温は東京程度だ。ブラジルの人が騒いでるだけだ。

 つかシシリーとベルクス君はこっち生まれでしょうが。


 じゃあ作戦会議を始めるか。


「じゃあ改めてご説明をば。レグルス・イースがガレリアの契約者となっている可能性が高いです。ぶっちゃけあのジジイを真正面から倒せるのはルーデット家のお二方くらいなので、しばし護衛をお願いしたいです」

「うむ、心得た」

「俺と父上を護衛とは剛毅な弟分だ。おーけい、きっちり守ってやる」


「あたしは?」

「勝てんの?」

「うぐぅ」


 カトリ撃沈。さすがにレグルス・イースには手も足も出ないでしょー。


「ナルシスには事前に協力を要請している。まずは太陽宮へ行きます、その後で改めて方針を決めましょう」

「段取りがうまくなったね」

「成長してますから!」


 ティト神殿を出る。森が凍りついていた。

 カチコチに凍りついた森に俺らの白い吐息が漏れる。神殿を出た瞬間に感じた寒さは四月の太陽としては異常な……

 いや、この気温はマクローエンに近い。肌によく馴染んだ零下30度の痛みだ。


 雪を被らぬ森は凍てつき、生命の息吹を感じぬ死の森と化している。神殿へと這い上がろうとする煌めく白い霧が、真昼の日差しに照らされて、何か得体の知れない怪物に見える。


「凍結の魔法力の塊だ、あれには触れないほうがいい」

「イースの手の者でしょうか?」

「かもしれないね。幸い空は空いている、リリウス君の空間転移で天の梯子まで跳躍するべきだと思うね」


 よしきた!

 魔力を練り上げる。……中々集まらない。収束が遅い。え、遅すぎない!?


 なんだこれ、夜渡りの発動に必要な魔力が溜まらない。なんだこれ?


 アシェラが肩ポンしてきた。取り込み中だ!


「不調かい?」

「わかってんなら静かにしてろ」

「無理はするなって話さ。空中都市へはボクが転移を使うよ」


 アシェラがそう言った瞬間に景色がブレる。

 お、空中都市だ。さすが鑑定の女神様、バトルでは置物のくせにこういう時は役に立つ。


 王都空中都市の正門手前。天の梯子と呼ばれるスロープから見下ろした光景にはさすがに声を失った。

 王都が見えない。雲のような真っ白な霧に覆われて何も見えない。

 見えるのは雲海のごとき白い霧だけだ。不穏な空気を孕むみたいに時折稲光が煌めいている……


 ラクスちゃんよ、なぜに目を輝かせて。


「わあ、これが噂に聞いた空中都市なのね。ほら見てリリウス、雲があんなに下にある!」

「ちゃうて」


 上を指さす。

 上を見上げるラクスちゃんがわかってない顔で感激している。


「すごい! 雲に挟まれてる!」

「ちゃうて。下の雲じゃなくてさっきの霧なんだって」

「あっ、そういうことね。……もしかしてトンデモナイ事態が起きてるのかな?」

「ようやくお気づきになられましたか」

「意地悪な言い方する! 今のもう一度言ったら離婚するからね!」


 短期すぎる。結婚生活の意味で。


 しかし何が起きているんだ?

 ふとどこかから狼の遠吠えが聞こえてきた気がした。その遠吠えには聞き覚えがあるような気がした。


「シェーファ?」

「リリウス君、太陽宮に急ごう! 魔導院なら正確な情報を掴んでいるはずだ」

「はい!」


 みんなが空中都市の正門へと歩いていく。

 でも俺は振り返って白い霧に覆われた王都を見下ろす。この霧のどこかであいつが泣いている気がしたから……

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