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フェスタdeフェスタ①

 ラクスを慰めた後でアリオスへの加勢に向かったルーデット邸で、なぜかフェイとレイシスがシェイクハンドデスマッチしてたよ。わけがわからないよ。


「お前に僕の気持ちがわかるか!」

 すどん!


「わからねえよ!」

 どすっ!


 すげえ、握手の距離で一発殴ったら殴り返されるシステムか。なんて男らしいタイマンなんだ。しかも絶対によけないし連発もしない。男として一度はやってみたい激熱勝負じゃん。


 まぁそれはいいよ。そっちはいいんだ。

 問題はなぜかパンノア伯やらカトリがティータイムしながら見物してる点だよね。殴られてる弟を見ながらティータイムとかカトリたんマジ戦士の王のご令嬢だわ……


「あ、リリウスくんだぁ!」

「あ、再会もこんなテンションなんだ」


 カトリが一週間ぶりに会った友達レベルの気安さで手をブンブン振ってる。ヒロインぢからが大幅に欠けている。


 少し離れたところではアリオスとネルが再会のハグをしてる。両者感涙の感動的な光景だ。見えてる? あれがカトリに足りないヒロイックパワーだよ? 少しは勉強して?


「ナニコレ、何がどうなってるの?」

「さっぱり」

「え…さっぱりなのに見物してるの?」

「だって終わったら聞けばいいじゃん。ほらほら、こっち座りなよほら!」


 う…う~~~~ん。まぁいいか。

 促されるままにカトリの隣に座り、フェイとレイシスの決闘を見物する。近づくとなぜかカトリが目を伏せる。たぶん俺と向き合う準備ができてなかったんだ。


 一向にこっちを見ないカトリが決闘のほうを見つめながら呟く。


「生きてたんだね」

「俺のしぶとさは世界レベルだからな。何だよ、まさか死んでた方がよかったか?」

「うわー、面倒くさい発言だー」


 絶対にこっちを見ようとしないカトリが俺の手を探してる。迎えにいくようにこっちから握ると優しく握り返してきた。


「また会えて嬉しいよ。でも今回ばかりはダメかなって思ってた」

「俺も途中で諦めかけたよ。でも本当に最後になってお前の声が聞こえたから踏ん張れた」

「へ? なんて?」

「男なら張った意地は死んでも張り続けろって」


 噴き出しやがった。自分でもそう激励するだろうなってご納得されたようだ。

 俺の中にはカトリの形をした正しさと強さがある。離れていたって心の内に棲むカトリが俺の弱さを蹴り飛ばしてくれる。

 俺達はこれを絆と呼ぶことに何の異論もなかった。


 しかしあの馬鹿どもはナンデ殴り合ってるんだろう? フェイとレイシスの殴り合いが終わらないので話が進まない。永遠に殴り合いそうな空気がある。


 レイシスが吼える。闘気を高める戦意高揚の技ウォークライだ。……無限にも思えた魔法力が激減してやがる。レイシスを守っていた神々の秘術『魔導防壁』を削り切るとかどんだけ。


「お前に僕の気持ちがわかるか。再会した姉上が少年趣味の変態になっていた僕の気持ちが!」


 レイシスの拳をフェイがおでこで受け止める。闘気を集中させて疑似魔導防壁状態を再現するとかあいつの技能どうなってんだよ。フェイのあの格闘技能だけはマネできねえ。


「知るか! あの女は出会った時からあんなだったぞ!」

「よごれに汚れ切った姉上を―――僕はどんな顔をして陛下にお渡しできるというのだ! できるか!? フェスタ皇妃なのだぞ。百人や二百人の少年を抱いてきたフェスタ皇妃など! 無理だ!」

「あんな女が皇妃など無理があるに決まっている!」

「無理だ! 姉上は―――ルーデット家の恥なのだ!」


 すげえ、じつの弟からここまで言われるのすげえ。

 しかも事実だからすげえ。ねえカトリたん見えてる? レイシスは泣いてるよ? 反省しよ?


「あんな変態を献上できるわけがない! どう考えても無理だ! 僕はどうすればいい!?」

「知らん!」


 二人の殴り合いが続く。シェイクハンドデスマッチはどっちかが倒れるまで続く。

 ねえカトリたん、あれたぶんカトリたんのせいだよ? ちゃんと現実と向き合って。笑ってんじゃねえよ!

 ケラケラ笑ってるカトリまじカトリ。これ楽しい見世物じゃねえぞ。


「姉上の汚点は消し去らねばならない。そのためにもリリウス・マクローエンに消えてもらう!」

「身勝手な理屈をぉぉおおお!」


 あー、ちょっとわかったわ。俺の影武者ベルクス君を誘い出して始末しよう的な考えから始まった戦いか。

 レイシスから黄金の輝きが放たれる。ルーデット家の権能ヒーローズ・ブライトか。


「あんな姉上を外に出すわけにはいかない。姉上には生涯当家に居ていただく!」


 すげえ、魔力を使い切ったはずなのに血統スキルから無理やり神気を抽出してやがる。

 黄金に輝くルーデットの英雄化スキルが暗黒に染まっていく。


 スキル・エクリプスが熟達の域に入るとこういうマネもできる。抽出した神のちからを用いたオリジナル技の構築だ。


 戦士の頂点である英雄をも超越する魔王化、そう呼ぶべき現象が起きている。


「そうだッ、姉上は僕が娶ろう。どこにも出せないのなら僕が姉上を妻にしよう。そうだ、それがいい、そうしよう。つらい外の世界など忘れて僕とこの屋敷で暮らせばいい。永遠に僕と姉上の二人で……」

「お前マジか……」


 そして飛び出す監禁発言である。フェイですら果てしない困惑の中にあるな。

 俺にはシスコン発言にしか聞こえなかったわ。美人の姉がいると弟の性癖が歪む。俺が言うんだから間違いはねえ。つまり原因はカトリ。


 とうのカトリをちらりと見るとにやにやしてやがる。喜怒哀楽ではないね。猫が獲物を弄ぶような目つきだ。


「いやぁモテる女って辛いね」


 そういう話じゃねーよ。


「なあ、あんなこと言ってるけどいいの?」

「お仕置きが必要かな」


 カトリがヒーローズ・ブライトを発動する。以前はアルテナの手を借りていたはずだがコツを掴んだのか。この女の才能はやはり桁外れだな。


 このあとカトリ・ダブルアイアンクローが行使され、野郎二人の悲鳴がルーデット邸にこだまするのである。



◇◇◇◇◇◇



 レイシスが泣きそうな顔で正座させられてる。彼ルーデット公爵なんですよね?

 しゃがみこんだカトリがほっぺをつんつんしながら尋問してる。光景が完全に兄弟喧嘩の後です。


「なぁんでネルちゃんを誘拐したの?」

「以前彼女と契約をした際にアリオスと自分をクライスラーの手から逃がしてほしいと嘆願されたのです……」


「ハハハ!」


 突然響き渡る高笑い。ルキアーノが変な野郎を引きずりながら現れたのである。

 ここルーデット邸だし違和感はないな。


「おいおい、そいつはもう通じないぜ。アリオスに刺客を送ったんだ。逃がすってのが理由ならおかしくなるよなあ?」

「ぐぅっ、どうして兄上が……」

「レイシス、お前もルーデットの男なら往生際は弁えるんだな。アリオスを消そうとした理由はなんだ?」


 狼狽えるレイシス。完全に家族裁判です。


「ドルガン殿から非公式に打診があったのです。アリオス殿は色々と足りんやつだから少しばかり気にかけてやってくれと」

「そのような打診があったのは把握している。でもね、そうなると時系列がおかしくならないかね?」


 ルーデット卿まで来ちゃった!

 完全においたしたレイシス君を叱ってる感じになってる!


 あー、泣き出しちゃったよ。


「姉上を誰にも渡したくなかった……」

「どうやら本音のようだ」

「ですね、最初から素直にそう言えばいいものを」

「レイシスあんたねえ!」


 ルーデット親子勢ぞろいによるお説教が始まってしまった。

 何だかポカーンとしているアリオスに言っておいてやる。


「アリオス、自分が六公として足りないとか卑下することはねえぞ。六公なんて言ってもあんなもんだ」

「う~~~~む、そうだな、そうかもしれんな」


 色々あった今回の事件はどうやらレイシスがシスコンこじらせていたのが原因のようだ。これを理解した上で最初から読み解けばレイシスの不自然な行動も読み解けるかもしれない。

 まさかアリオスに刺客を送ってたのがレイシスで、理由が姉好みの精神的に不安定な美少年だったからなんてなぁ……


 いつもながらバカバカしい事件だった。ルーデットが関わるといつもこうだな。

 カトリーエイル・ルーデット

 英雄適正120%

 ヒロイン適正5%

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