修行開始!
昼にダンジョン潜って帰ってきたのは翌日の夜。ダンジョンってのは恐ろしいところだぜ。
ギルドに帰るとシシリーが夜遅くまで仕事してた。
「お、顔見せたな寝ぼすけども。で昨日のダンジョンどうだった?」
「いやいや、今の今まで潜ってたわよ……」
カトリーエイル先生はお疲れモードです。
そりゃマナポーションとスタミナポーションがぶ飲みで上級身体強化と超上級攻撃スキル使ったらそうなりますわ。魔力ってぶっちゃけ生命力と互換作用あるんで、酷使すると心停止まであるからね。
「そりゃお疲れ様。で、何層まで行ったの?」
「二十層の階層主倒して帰ってきた」
「は?」
シシリーさん信じてない。そりゃ変態の発言だもん信憑性薄いわ。
「こいつドロップしたんですけど換金してください。お金欲しいです」
「……!?(ぶほっ)」
噴き出すのはやめてください。お金ください。
ってギルドの冒険者さんなんでそんな目で俺らを見るんです?
「やはりあの変態やばい……」
「強い強いとは思っていたがまさかそこまでとは……」
「え、あいつこないだギルドに登録したばかりの新人だよな? ティト神ダブルSの?」
「新人フォローしつつ二十層攻略とかキチガイすぎる……」
「実質ソロどころかお荷物抱えてクリアできる相手じゃないぞあの階層主……」
「いや、それどころかガキの方完全に無傷に見えるんだが……」
「守り切ったの? 愛のちからで? どんだけ……」
「か、カトリの姉御! うちのクラン入ってくれないか!?」
「馬鹿! 姉御はオキニの少年としか組まない! あの人超有能だけど性格に難ありだから未だにCランクなんだぞ、実質AランクだAランク!」
「新人と一緒にしょっぱい仕事しかしないから昇格しないと聞いたが……いや同じことか」
「姉御ぉ、ゲスト頼む! 二十の階層主こないだ逃げ帰ってきたばかりでうちのクランまだ倒せてねえんだ! 報酬は九・一でいいから! 十・ぜロでもいいんだ、何なら別途でも支払うから!?」
カトリたんの前に冒険者が集まり、押すな押すなの大人気。
カトリたんすごい冒険者だったんだな変態だけど。でも俺寂しいです。カトリたんとシシリーたんしか話し相手いないです。構ってください。
「君っ、ティトSSってほんと!?」
「あのアシェル・アル・シェラドを腰砕けにしたって聞いたよ!」
「お姉さんとイイコトしない!?」
「お金、お金あげるから今晩どう!?」
……うぉ、俺も大人気だな。
女の子と仲良くするの大好きだけど目が血走ってる人達はちょっと怖いわ。てゆーか俺に金出すの? 俺そんな価値ない変態の飼い犬だよ?
「恥ずかしいな……」
「「「照れてる! 可愛い~~!」」」
まいったな可愛いなんて親にも言われたことねえぜ。
困っているとシシリーの算盤弾きが終わる。ギルドの奥に一旦引っ込んで、トレイに金を積んで戻ってきた。ドロップ品全部まとめて幾らなんです?
「金貨四十六枚になります」
おおい! ミスリルソード買えるじゃねえか、短剣じゃない本物のミスリルソードだぞ!?
マジすか!?
「カトリーエイル先生!」
「リリウス君!」
「「ベストパートナー!」」
二人がっちり抱き合い財布もがっぽり。
平民の生涯年俸越えてったぜ。冒険者って夢のある仕事だな!
カトリたんのおうちに帰るとゼロ秒で熟睡。過労死するくらい疲れてたのに翌朝にはすっきりしてたぜ、金貨の魔力だな! お買い物に行きたくて仕方ないぜ!
とりあえずまだ寝てるカトリたんのために朝食くらい作ってあげようと思ったら……
食材どころか調理器具さえなかったぜ。
まだベッドでヨダレ垂らして寝てるカトリたんはステキレディーどころか、もしかして戦闘能力特化のダメな女性なのでは……
戦ってセックスして寝るだけとかアメリカのソルジャーじゃん!
カトリたんは起きぬけにこう言った。
「ごはん食べにいこ!」
そして連れていかれたのはおかしなことにローゼンパーム初日に彼女と出遭ったカフェだった。
肝っ玉母さんみたいな女将さんは俺らを見るなり頭を抱えた。
「また一人毒牙に……」
カトリたん今まで何人の少年の童貞食べてきたの? やっぱり怖いから聞きたくないよ。
並んでカウンター席につくとすぐに朝食セットが出てきた。目玉焼き乗せたピザトーストのような何かと、ポタージュスープだ。はてさてこれが何のポタージュなのかを気にしていては異世界では生きていけません。世の中には知らない方が食事が美味しいことがあります。
朝食セットを食べてると女将さんがこっそり耳打ちで……
「あんた嫌だったらあたしから言ってあげるからね?」
「御心配には及ばないですよ、双方納得の上なので」
「そんならいいかねぇ……」
「おばちゃんひどい~。こ~んなに仲良しなのにぃ!」
「あんた馬鹿みたいに強いんだから、怖がって言い出せないことだってあるだろう!」
めっちゃ怒られてる。めっちゃ落ち込んでる。
女将さんは怖いというよりも口うるさい母のような人だ。
「なんか母ちゃんみたいな人だね?」
「そうなの、おばちゃんはあたしの母ちゃんなの!」
「こんなでかい娘もった覚えないよ!」
満面の笑顔のカトリたんとまんざらでもなさそうな女将さんだった。俺も仲間に入れてください。
「俺も下の子にしてください」
「あんた目つき怖いからいやだよ」
正直な人だなあ……
「でもま、悪い子じゃないんだろうねえ。見た目は子供のアサシンだけど(ぼそっ)」
褒めるか貶すかどっちかにしてもらえます?
朝食を食べ終えると今日はどうするかという話になった。
「リリウス君の実力もだいたいわかったし今日は少し難しい依頼でも探しに行く?」
「調理器具買います」
おい、本気で理解できないって顔するな!
あんた本当に自炊って単語知らない人なんだな!
「なんで? おばちゃんのごはんマズかった?」
「おうちには絶対に必要だからです。さ、行きます」
「え、でもあたし何も作れないけど? え?」
「俺が作るよ」
「え、作れるの!? 大好き!」
前から抱き着くのはやめようぜ。身長差で前が見えねえんだ。
金物屋に行って中古の鍋やらを仕入れる。
「お金あるし新品でよくない?」
「油の馴染んだ中古も悪くないよ。てゆーか金持ってるからって安易に無駄遣いしちゃダメ」
「でもおっちゃんも高い方がいいって言ってるよ?」
「いやその人商売だから……」
完全に便利な都会に慣れたダメOLだなこの人。
炭も仕入れて食材も露店で仕入れ、後は何が必要だろう?
食器だな。焼き窯工が売りに来ているといいんだが……いやいやメインストリートとかいう一等地でショーウインドー出してる店選んじゃダメだよ。絶対高いから。
「リリウス君ってばあたしよりしっかりしてるね」
「貧乏領主の庶子だったからね、そりゃ経済感覚はしっかりしてるさ」
ついでに商売D持ちですからね。
陶工の露店探しついでにメインストリートを歩いていると武器屋発見。カトリーエイル先生の馴染みの店らしいんで、修繕依頼もあるので突撃するぜ。
武器屋はけっこう広く学校でいえば一クラス分はある。壁には無数の剣や槍が掛けられ、種にも鎧に縦に鎖かたびらと豊富な品揃え。場末の武器屋みたいなワゴンセール品はないのが一流なのか。お高そうな店だぜ、へへ、帰ってもいいかい?
「おっちゃん、これお願い」
カトリーエイルがいかにも強面のハゲ親父の前のカウンターに装備を出す。
鞘からナイフを出したハゲ親父が丹念に点検する。
「ひでえ使い方しやがって。手入れする身にもなってみやがれ」
「研ぎ直しくらいならあたしにもできますー、だからお金出してるんですー」
「わかってるよ、ったく。そっちの坊主もか見せてみろ」
お願いします。
うわ、こりゃひでえやって顔やめてください。わかってますんで。
「見りゃわかんが坊主は基本からなってねえな。カトリ、相棒ならしっかり教えてやんな」
「ラジャ!」
ダメな子はすぐ敬礼するよね……
「んじゃこいつらは預かるよ。代替え品はいるかい?」
「「ください」」
「仲いいなおい。わかったからそこいらから持ってけ」
ミスリルじゃないと言っても武器って安いのでも金貨一枚二枚はするもんだけど簡単に言うなあ。では遠慮なく。
「坊主ッ、もってけとは言ったが高いのばっかり十も持ってくんじゃねえ! 戦争でもする気か!?」
ごめんなさい。ちょうどいい長さの鋼の重ね打ち持ってきます。
「……いいの選ぶじゃねーか。そいつは東方諸島の刀を模してるんだ」
この後めちゃくちゃウンチク語られた。
店を出て鍛冶師のおっちゃんが教えてくれた安い食器屋で一式揃え、家に戻るとカトリたんが木刀を投げ寄こしてきた。
「おっちゃんに言われたからってわけじゃないけど、稽古しとく?」
「先生、攻撃スキルが欲しいです」
「はいはい、そっちも教えてあげるから」
家の裏手は井戸端になっていた。幾つもの家々の影に塞がれた影の谷底みたいな井戸端で、カトリたんが手招きしている。
掛かってこいってわけね。いいぜ、俺の真の実力ってやつをみせてやるよ!
うおおおおおおおおおおおおお!
「はい、ダメ!」
ポカン!
真正面から叩きにいってリーチの差で叩かれてしまった。よっしゃ次だ!
「いいじゃん♪」
怒涛の攻撃をするが軽やかにかわされていく。イカン少しも当たる気がしない。
ちょいと反則まがいのチャージダッシュで距離を詰めて横に薙げば飛んでかわされる。だが好機だな!
空中に逃げ場はねえ。おもっくそ本気で突きを入れるが二段ジャンプでさらに上に!? いま何やりました!? スーパー〇リオかよ!?
「くそぅ、こうなったら何がなんでも一発入れてやる!」
「あはははは、こっこまでおっいでー!」
カトリーエイルは壁を蹴って駆けあがる。
それ正直人間の技じゃないけど俺も壁走りで追いかける。指弾で飛ばしてきた小石がもろに命中する。痛いが負けるものか! ってこれナイフだったら即死してますね。
十分くらい稽古つけてもらった結果よくわかりました。
うそ、俺の強さ低すぎぃ!
レベル差とかではない技量差ってやつをたっぷり思い知らされたぜ。基本高いレベル補正もりもりによるスピード&パワーでやってきたのでそこで負けると勝ち目ないんだよね。師匠とかいなかったし、騎士団でも技術以前の問題だといって筋トレしかやらせてもらってなかったし。
先生、わかってるけど酷評をどうぞ。
「悪くない、でも良いところもないかな?」
「優しいぃ……」
俺、憎しみで強くなる方なので厳しくしてくれませんか?
怒りと憎悪が原動力です。不公平と不平等がガソリンです。破壊と蹂躙だけが願いです。
あれ俺もしかして悪魔なのでは?
「まずは基本からいってみよっか!」
「先生お願いします!」
カトリーエイルは優しすぎて師匠向きじゃない気がするぜ。
とか思ってたらこの後めちゃくちゃ厳しい訓練を受けた。
先生、型稽古高速素振り一万回は人間にはできません。あと型が崩れたら十倍して追加はひどすぎます。
素振りを終えると夕方だったぜ。おかしいな、昼前には家に帰ってきたはずなんだが時間経過おかしいな……俺の知らない間に一日十二時間とかになってねえ?
「うん、刃筋はまともになってきたかな? こっちは明日ダンジョンで試し斬りしよっか」
「うす!」
「リリウス君チャージ苦手?」
あ、これ答え間違えるとやばい選択肢だ。
先生アフターファイブは寝る時間です。座学や夜間訓練の時間ではありません。
「苦手だけどそれは今後の課題にして時間に解決させましょうぜ、へへへ」
「そうだね!」
カトリーエイル先生優しいぃ……
閣下なら絶対怒るところだよここ?
俺この人の下でゆっくり強くなろう。スパルタダメ絶対、閣下思い出すから。
もう思い出して胃がキリキリしてきたから。




