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新世紀救世主伝説リリウス④ 違うそっちじゃない

 時は一旦巻き戻り、リリウス達が救世主さまご一行を見物している頃。

 アシュタルト新市街に並び立つアパルトマンの屋根に潜むアルトリウス・ルーデットは微笑みを浮かべながら逆にリリウス達を見下ろしている。


 リリウスには合流するつもりがないらしい。そして傍らにはアビゲイル嬢。これはまた何か厄介ごとを抱え込んだなと思えば微笑みも零れだすというものだ。


「いいぞ、ルーデットにとって試練は食事だ。日々の食事が魂も肉体も磨き上げる。敵は多ければ多いほどいい。男児は敵を喰らった分だけ強くなる! ふふふ、彼は本当に楽しい少年だ」


 ルーデット卿は一般人の感覚に照らせばクソやべえ奴なのでバトルとかトラブルに忌避感がない。むしろ男児たるものトラブルには首を突っ込めとか言うタイプだ。


 そんなルーデット卿のいる屋根に―――

 どーん! 着弾音が鳴り響く。屋根をガガガと削っていった見えない何かが土煙の向こうにいる。


 見えない何かとは潜伏魔法を使っているルキアーノだ。


「ルキア、ルーデットなら事はすべてエレガントに行え!」

「まったく返す言葉もありませんね。たかだか6~7キロの着地でミスるとは」


 ルーデットは時にわけのわからないことを言う。

 まさかリリウスを追って旧市街からジャンプしてきたなんて誰も思うまい。


「あいつの空間転移は異常ですよ。転移先を特定するのにここまで苦労するとは……」

「神々の術法だ、そう簡単に読まれては彼も立つ瀬がないよ」


 アルトリウスやルキアーノであっても夜の魔王の術法は理解不能だ。暗闇の属性と同じく異なる世界の異なる物理法則に準拠した謎魔法であるからだ。


 異世界の魔法は習得が難しい。常識の固まる前の少年期ならともかく彼らのような大人では頭で原理を理解したとしても習熟は不可能という場合も多い。彼らは無意識に魔法の可能性を制限してしまう。

 子供の心は柔軟だ。かぼちゃが馬車に変わることを受け入れられる心の柔軟さが魔法を真の意味で万能のちから足らしめる。


 そういった意味ではリリウスには大きな伸びしろがある。アルトリウスはそう見ている。


 眼下ではリリウスとアビーがパレードの見物列から離れていくところだ。


「行ってしまいますよ、よいのですか?」

「よい。今回の我らは裏方だ、彼の行動を制限してはならない」


 アルトリウス・ルーデットはクライスラー家で起きている事を知らない。ネルという少女の存在も、ラクスの存在も知らない。


 だがリリウスに立ちはだかる敵の名前だけは最初から知っている。

 だから彼を鍛え、試練に立ち向かえるだけのちからを与えた。


「助言もなしですか。それはさすがに厳しいのでは?」

「彼も察しているさ。なにゆえルーデットのちからを見せられ、これについて来られるように仕向けられたかを考えれば当然思いつく。敵はルーデットなのだとな」


 ルーデット卿はこう考えている。マジでだ。

 だからルキアーノは肩をすくめる。


(気づいてるかな? あいつたまに察しが悪いから気づいてなさそうだが……)


 ルキアーノの鳶色の眼が見つめる方角にはルーデット公爵邸がある。あそこにいるのは彼の弟であり、神代の魔術を修める魔王級の術者だ。

 レイシス・ルーデットは間違いなく最強クラスの大魔導だ。現代魔導の正道を往くナルシスや砂の呪術を用いるベラトリックスとはちがい、古く非効率だがすこぶる凶悪な夜の魔王の御業を使うホーリーオーダー。


 古き魔術への対抗手段は現代の魔導師は持ちえない。だがリリウスが相手となればレイシスの強みは一つ潰れる。

 共に同系統の魔術使い。となれば勝利に近いのは欠点の少ない方だ。


 完全で完璧なルーデットの大魔導。これに挑むは莫大な魔法力を持つだけのピーキーな若き英雄リリウス。

 どちらが勝つか、こればかりはルキアーノにも読めない。


「レイシスは手強いぞ。さあ男を示せよリリウス、英雄の王の血族に名を連ねるつもりなら俺らを納得させるだけのちからを見せてくれ!」


 色々と大問題ばかり起きているような気がするフェスタであるが、話の根幹はやっぱりカトリ嫁取り大作戦なのであった!

 リリウス・マクローエンはルーデット家の男足りえるか? 彼らにとって問題はそこだけなのである。



◇◇◇◇◇◇



 見渡す限りが青い海。陸地が見えねえ大海原のド真ん中に強制転移とはな……

 いやはや流石に驚いたわ。初手からこれは驚いたわ。俺じゃなかったら絶対死んでるぜこれ。

 カトリの弟だと思って平和的路線で解決しようとしたらこれだ。……キレちまったぜ。


 俺を海のど真ん中まで送り込んだ転移術を強制再起動する。一方通行の術式を開いて解析して逆のベクトルへの術式に改変する。その間僅か二分!


「ふざけやがって! 空間系魔王に空間系魔法で来るとは舐めてんのかあああ!」


 秒でルーデット邸に舞い戻る。150秒だから合ってる!


 セーフ。アリオスらとレイシス公は扉一枚を隔てて睨み合ってたわ。アリオスが叫ぶ。


「リリウス、今までいったいどこに!?」

「うるせえ俺は負けてねえ!」

「そ…それは負けた奴のセリフではないか……」


 まだ負けてねえんだよ。

 俺の16000を越えるレジストを初手から貫通してくるなんて普通にありえねえんだよ。


 ルーデット公レイシスが爽やかに微笑んでやがる。邪悪な闇の住人らしくない笑みだ。


「転移術式を解析したのか。……実は名のある魔導師なのか? その見た目で?」

「冴えない見た目で悪うございますぅ」

「言い方が悪かったか。面構えは悪くない、だが脳みそまで筋肉でできてそうに見えてね」


 驚いたことにフォローしてるつもりらしい。

 さてはコミュ力低だな?


「そういうお前もいい目をしてるよ。漁港で木箱に詰まってる奴にそっくりだ」

「品のない言い回しだ。下民は所詮下民か」


 わぁい、仲良くできる気がしなーい。

 する気もねえけどな。初手空間転移で確殺狙ってくるような性格の悪い友達はいらねえ。


 レイシスも同じ気持ちのようだ。俺から興味を失くし、視線はアリオスへと向いている。


「アリオス殿、先に問われた件の回答をしよう。娘を取り返したくばちから尽くで来られよ」


 え、ネル誘拐を認めてんのこいつ?


「ただし貴殿一人でだ。余人を伴うことはまかりならん」

「いったい何が目論見でこのようなマネをしでかした!」

「さぁて、何が目的だろうな。来られよ、来ればわかるかもしれんぞ?」


 すごいなこいつ。罠の前で手招きしてやがる。しかも悪びれない。

 このベクトルの人は初めてだなー。


 アリオスが一歩踏み出す。騎士が彼の歩みを阻む。


「わかった。往こう」

「なりませんアリオス様、これは罠です!」

「だが!」

「屋敷に踏み込むは自殺と同義。今はご辛抱なさいませ、生きておれば救い出す機会は幾らでもあります!」

「くっ、たしかに……」


 たしかにじゃねーよ。行けよ、男なら行くところだろ。


 お前のそういうところ直してやりたかったけど地獄が足りなかったか。……目に見えてルーデット公の機嫌が悪くなったわ。


「お前達は邪魔だな」


 再び放たれた強制転移の光をエネルギー対消滅の魔法トータルエクリプスで破壊する。

 やらせねえぞ。


「僕の魔術と似ているのに僕も知らない術を使うか。君も邪魔だな」

「邪魔ならどうするよ」

「……心底嫌いなタイプだな」


 これを捨て台詞にしてレイシスが屋敷の奥へと去っていく。

 アリオスが待てと叫ぶが彼の足は止まらない。


「小娘を取り返したければ後日一人で来るのだな。あぁ今日は遠慮してくれ、大切な客を招いているのでな」

「ふざけるな、ルーデット公、ネルを返してくれ!」

「ふざけるな? どちらが? 命も懸けられぬ愛など偽りよ。命を惜しむならそれは己を最も愛しているのだ。アリオス殿、僕はお前が大嫌いだ」


 レイシスの姿が闇に溶けて消える。

 よくわからない奴だ。ネルの誘拐を認め、アリオスに自ら取り戻しに来るように挑発をし、来ないとわかったら不機嫌になった。


 俺が取り戻しに行ってやってもいいんだが……

 がっくり項垂れて四つん這いになってるアリオスを見つめながら思った。こいつには根性とか色々足りない。クライスラー公以前の問題として愛する女のために命を懸けられないのはダメすぎる。


 ここは女性陣の意見を聞いてみよう。まずはアビーだ。


「アリオスを男としてどう思う? 忌憚のない意見だけが彼を強くすると思ってはっきり言ってくれ」

「もし仮にわたくしがネルさんだったとしたら、こんな姿を見せられたら金輪際この男には何も期待できないと思ってしまうわね」


 思った以上に強烈な刃が出てきたわ。

 じゃあお次はラクスだ。ハードルが無駄に上がってしまったんで聞くのが怖いまであるが聞いてみる。


「今後の関係に差し障りそうだからやめておくわ。……でも自分がさらわれた時もこうなるかと思うと彼に身を預けようなんて思えないわね」

「ナウで政略婚させられかけてるもんねぇ」


 状況は逼迫しているはずだ。恐ろしく強大な魔導師がネルの誘拐を認めたのだ。

 しかし何故だろうか、問題はこっちじゃなくてアリオスの男気にあるような気がする……


 こいつルーデットの試練与えられてね?

 なぜか自分が試されていることに気づかないリリウス。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかどんどん話の風呂敷が広がっている気がするのは気のせいでしょうか?
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