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新世紀救世主伝説リリウス① 本物を決める戦いが今始まる

 トビラを抜けるとそこはフェスタであった。

 旅行鞄を持って出てきた俺らは新婚旅行ふうだ。あくまでそう見えるかもしれないってだけだ。


「ほとぼりが冷めるまでローゼンパームには戻れないな」

「倒してしまうわけにはいかないの?」


 すげえ発言だな。冒険者の王を倒せときたか。

 バルバネスさんなら可能だと思うぜ。倒して本当に終わるんなら死に物狂いでやってもいいんだがな。


「ガレリアのリサイクルソルジャーの正体は軍事サーバー内の『エシュロン領域』に保存された人格モデルだ。ゴーストハックが一番近いかな、奴らはファクトリーで生産される肉体を得て何度でも蘇る。苦労してレグルス・イースを倒したとしてもすぐに戻ってくるのさ」

「何なのよそれ、そんなのどうすればいいのよ……」

「どうしようもないのさ。今のところはまだね」


 アシェラの見せてくれた神代の夢にヒントはあった。機械文明を知る俺だから気づけた。


 問題はイザールの不死身性だ。ネットワーク内に人格データがある限り何度でも蘇る悪霊を倒す方法なんて簡単すぎるぜ。サーバーなんて水をぶっかけてやれば一発でショートするもんだ。

 ガレリアの根幹である軍事サーバーの在り処を突き止められたなら一撃で仕留められるかもしれない。問題はそいつがどこにあるかって話で、こいつは調査が必要だ。


 今はまだ敵わない。

 俺には打つ手がない。精々そう思い込んでおくんだな。サルと踊ってるつもりのてめえの背中を一突きで仕留めてやる。


「今はまだ…ね。あなたが救世主に選ばれた理由がようやくわかったかもしれない」

「そいつは間違いだぜ。俺は救世主なんかじゃない、選ばれたのだとしたら選んだ奴の盛大なやらかしで、俺はただ自分が蒔いた種を拾うだけのしょうもない男だ。……だが皆がそう呼んでくれる限りは手を尽くそうと決めた。それだけさ」


 グリフォンを口笛えで呼ぶ。ほどなく彼方の空から飛んでくる二代目グリフォン君のなつき具合よ。

 グリフォンに乗り込む。馬よりも体高があるんでスカートのアビーには手を貸してやる。


「大仕事になる。俺に知恵を貸してくれ」

「故郷を取り戻してくれるって約束のあとのそれは脅迫に近いわねえ」


 アビーは微笑を湛えている。呆れたりお説教したり情けない俺の尻を叩いたりとメインヒロインの風格があるな。

 カトリさんはヒーローサイドなんだよなあ……


「ま、レグルス・イースなんて危ない奴にも追われてるしね。守ってくれるのよね?」

「どーんと任せてくれ!」


 グリフォンに乗って大空に舞い上がる。

 目指すは再びの帝都アシュタルト。……昨晩アビーと話してようやくこの苛立ちの意味がわかった。


 俺はただ! あの女の! 私は世界で一番不幸ですよーって面が気に入らなかったんだ! ってアビーが言ってた!


 見てろよラクス。その風にでも消えちまいそうな面をぐちゃぐちゃな笑顔に変えてやる。嬉しさのメーターが振り切れてどんな表情していいか分からなくしてやるからな!



◇◇◇◇◇◇



 戻ってきたアシュタルト旧市街は何だか騒がしい。

 どんな騒がしさかっていうと今話題のサーカスが来た系の騒がしさだ。女も男も子供たちも一斉にある方向に向けて歩いていく光景が広がっているのさ。


 聡明な女アビーの出番だな。さっそくだな。


「何だと思う?」

「さあ、サーカスでも来てるんじゃない?」

「えー、それはねえよー!」

「自分で言ったんじゃない! 発言には責任を持ちなさいよ!」


 そうでしたっと。

 住人に聞いてみよう。第一町人はモヒカン頭がトレードマークのシザリオス君だ。職業は冒険者だな。この世のすべてを憎んでそうな目つきをしている悪党だぜ。


「ひいっ!? な…なんスか、俺なにかしましたかね……?」

「なぜ怯える」

「すすすすいません! どぞ、財布っす!」


 第一町人が財布を置いて去っていった。

 ひーふーみー……けっこう入ってるな。ありがたく貰っておこう。


 財布を懐にしまった瞬間に飛んでくるアビーつっこみの強烈さよ。


「カツアゲしてんじゃないわよ!」

「だって声かけて職業と名前と年収聞いただけで財布置いてったんだもんよ」

「自分の容姿と相談してから物言いなさいよ」


 容姿って……

 アビーの出したコンパクトの中にものすごい悪そうな男がいる。なぜだろう、年を経るごとに悪党の風格が増していくぞ。

 見た目もう魔王じゃん魔王。黒い風が鳴いているとか言いそう……


「じゃあ笑顔で声かけてみるよ」

「がんばってね!」


 止められるかと思ったがセカンドチャンスのお許しが出る不思議。アビーもいい性格してるよね。


 第二町人の集団はどこの町にも存在する粋がったチンピラ少年たちだ。俺よりなんぼか年上だな。

 ガタガタ震え上がるこいつらを大通りに整列させる。


「もー、なんでこんな奴らにばかり声をかけるのよぉ……」


「この騒ぎは何だ? 命が惜しかったらキビキビ答えるんだな」

「すげえ強い冒険者の一団が来てるみたいっす。みんなそいつらを見にいってるとこっす!」


「へえ、なんて冒険者?」

「リリウス・マクローエンっす! すげえ数の迷宮を攻略したって話題になってるっす!」


 へえ、俺も有名になったもんだなあ。

 しかし住人は俺になんか目もくれない。それどころか積極的に回避しながら騒ぎの方へと走っていく。


 もしかして……


「俺の偽物が出てきてる?」

「ちょっと。嬉しそうな顔しないでよ」

「偽物って有名人の証みたいなもんじゃん」

「偽物がわるさしたらなすりつけられるわよ?」


 それもそうだな。

 嬉しがっている場合ではない。偽物はわるい文明。処罰せねば。


 しかしアビーはなぜか困ったさんなお顔で首を傾いでいる。彼女の視線の先にいるのはぴっしりと整列しながら震え上がる不良少年たちだ。


「大抵の偽物はあなたよりマシかもしれないわね」

「なんてことを言うんだ」


 どうやらこの真なるリリウス・マクローエンを決定するバトルが始まりそうだ。

 良さそうな連中だったらカツアゲした罪をかぶってもらうか……

 冒険者リリウス・マクローエンに対する世間の反応


 帝都市民A「知ってるよ! 最高にグルービーな人達らしいね! 俺たちの間じゃ彼らの名前が出ない日なんてないよ」


 帝都市民B「マジリスペクト」


 帝都市民C「知ってる? ヴェイガンズ・ダンジョンを踏破したリリウスはこう言ったんだ。報酬も名誉も何も要らない、皆の笑顔を見るだけで俺はいくらでも戦えるんだってさ。彼いいよね、最高だよ」


 帝都市民D「ビー・クール。俺は彼以上にこの言葉の似あうブラザーを知らない。彼の存在は神話だ」


 評価:好き92% 嫌い7% 興味がない1%

 総評:帝都はもう沸騰しているぞ! 来るなら今しかない。帝都はリリウス・マクローエンが来るのを待っている!

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― 新着の感想 ―
[一言] グリフォン君ってベラトリックス戦で死んでませんでしたっけ
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