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王者の御心と小市民

 ルーデットにも情けあり。この言葉を実感するにはまずルーデットを知らなければならないが、知らないなら無理に知る必要はないだろ。関わらない方が人生幸せだ。


 ルーデットにも情けあり。暴走した迷宮に二人で突っ込まされるのかと思いきや、フルメンバーだった。カトリも言ってたけど迷宮で舐めプ絶対ダメ。


 遺跡のような通路の続くフェルゼン迷宮の気分はウィザードリィ。マップ自体は広大だが道幅はそこまでではなく、大人五人が並んで歩けば肩がこすれるね。

 この迷宮なら魔導兵団さえ揃えておけば鎮圧部隊の進みも良さそうだ。


 第一層第二層の鎮圧は完了している。第三層の入り口に陣取って砲火を連打している軍と合流する。

 えらい軍人さんがゲェって顔になった。


「……ルーデット家の方が何用でしょうか?」

「迷宮鎮圧がために来た」


 真意を測りかねている目つきだ。

 たぶん元バーネット派の軍人さんなんだろ。


「兵権を差し出せと?」

「要らん。鎮圧はこの六名で行う。諸君らは現状維持に徹するがよろしい」

「……命令は皇帝陛下からでております。如何に六公家の方と言えど聞けません」

「よかろう。どちらにせよ先に往かせてもらう」


 軍の砲火を縫って迷宮を走っていく。先頭は俺らさ。

 そんな俺らの背中に軍人さんの怒声が突き刺さる。


「たった六人で何ができる!」


 ごもっともだ。

 しかし往くしかない。往かねば迷宮コアの守護者より強いお二人がお怒りになられるからだ。


 走ってばかりで戦闘感が鈍っているのではないか?というご指摘がありしばらくはステルス禁止。つまり迷宮内をマラソンしつつ敵をノータイムで蹴散らせという命令だ。縛りプレイをすることで雑魚が相手でも戦闘勘を養おうとするカトリ式だ。元祖はこいつらか……


 俺の役割は地図を見ながら先頭で敵を蹴散らすこと。

 フェイの役割は俺の前で敵を蹴散らすこと。

 ベルクス君はさっきからうるさい。Eランにも容赦がねえ……


「うああああ! うああああ! ついてくるんじゃなかったかぁー!?」

「あいつマジでうるせえな」

「Eランにやらせる仕事じゃねえし仕方ないだろ。フェイ、そっちじゃない、右だ!」


 平均時速100キロ近くでマラソンだ。

 俺らはそろそろ慣れてきたが普通についてくるベルクス君の存在が謎だ。アシェラが何かやってんだろうけど謎だ。


 迷宮は階層を深くするごとに通路が大きくなっていく。20層を越えたあたりからアルテナ本殿を思わせる古代の神殿ふうみになった。


 フェルゼン迷宮は王都地下迷宮のような面倒な仕掛けはないシンプルな迷宮だ。十階層ごとに守護者を置いたり無限ループしたりがないので気だけは楽だ。


 出てくる魔物はビースト系列。フェスタはブラジルのような気候だから密林の大型獣っぽいのが多いな。途切れなく押し寄せる魔物を一点突破で休みなく突き進んでる内に、なんとなく察した。


「まさかルックンの特訓って迷宮攻略の予行演習だったんじゃ……」

「僕もそう考えていたところだ」


 以前ライアードが言ってたな。

 ルキアーノは何も考えていないようにみえてけっこう考えてるんだぜって。厳しさの中にやさしさを見つけた瞬間である。え、毒されてない俺!?


 最深部は事前情報のとおり24層。雑魚はなし。守護者とのタイマン勝負さ。


「フェイ君いけー!」

「お前もなんかしろ!」


 怒鳴り合いながら大型のキマイラを相手に戦う。


 真紅のたてがみの獅子の三つの頭部。尻尾は七つの蛇……というかワニという異形の怪物だ。全高は20m級。強く早く外皮も固い。……だが銀狼シェーファほどじゃねえな。


「九式―――双竜鞭」


 フェイが古銀のワイヤーを使った鞭のような斬撃でキマイラを打つ。そして怯んだ一瞬の隙を突いて瞬時にワイヤー陣を形成。動く度に傷つく空間に閉じ込められたキマイラが自らがなぜ傷つくのかも理解できずに戸惑う。

 キマイラの旺盛な攻撃欲がしぼんだ。ならこっちの出番だ。


 俺は深い天井へと空渡りで飛び上がり続け、天井の壁を蹴ってさかさまに飛翔する。

 必殺の流星落としだ。大戦斧の重さで切断するという機能を最大限まで活かした最大の一撃がキマイラの頭部一つを縦に割る!


 キマイラが咆哮。痛みを恐れず突進を始めた。斬り飛ばされる肉体も気にせずフェイと向かう。


「フェイ君チャージタイム終わった?」

「足りねえがやるしかないだろ!」


 フェイの両腕がオーラの竜巻に包まれている。

 あれは俺にはできない。完全に己を操る術を身に着けた完成された武術家が、伝え残すためではなく、己専用の必殺技として練り上げた究極の一撃だからだ。……カトリのクラウ・ソラスを越えるためだけに練りに練り上げた必殺だ。


「九式! 天竜咆哮!」


 フェイが両腕に込めたオーラのすべてをゼロ距離でキマイラに解放する。

 一瞬の破壊の風が吹き荒れて、迷宮の守護者はバラバラの肉片になっていった。肉片が光の粒子に解けて消えていく。勝ったな。ちなみにフラグではない。


「やるじゃん」

「おう」


 裏拳どうしでごっつんこ。今俺ら最高に格好いい。

 ベルクス君は混ざりに来なくてもイイんだぞ。やっとくけど。


 迷宮攻略品は一振りの剣だ。キマイラを倒した地点に出現した漆黒の剣は俺の知らん材質に思える。仄かに白い光を帯びていることを考えれば聖銀も混じってるのかもしれんが……


「ダマスカス鋼の剣だな」

「知ってんの?」

「ほら、ここに流水紋があるだろ。この特徴を持つ剣は神聖シャピロの方の特産品なんだ」


 さすがフェイだ。伊達に長旅してイルスローゼまで来てない。

 俺も同じ経路で来たのに……


 アシェラが貸してというので剣を貸す。


「ふぅん、悪くない剣だね。重量もあるし一流と呼ばれる剣士が持っていても何ら過不足のない名剣だ。売れば300ユーベルは固いね」


 アシェラ様ステキ。大儲けだわ。六人で割るからあれだけど。


「いい剣だ、ベルクス君に貸してやってよ」

「は? あいつにこの重さの剣を使えるわけないだろ」


 ダマスカスの剣は細身とはいえ重量30キロはある。ベルクス君が普段から振ってるのは4~5キロだ。振り回されるだけだ。


「あいつにはフィジカルブーストを掛けてあるから今なら使えるぜ? キミ達のおこぼれにあずかったおかげでレベルも上がっている。しばらく貸してやってよ」

「いいけど」


 しばらくならいいけど。返してくれるならいいけど。


 アシェラの強化の術法は俺らの使うものとは別物なんだってさ。俺らは魂に宿るちからを引き出して一時的に強くなる。鍛えていればいるだけ倍率のかかりもいい。

 だがアシェラの強化は乗算ではなく加算だ。今のベルクス君はBランカーの下位程度のちからがあるんだそうな。


 これを聞いたフェイ君がリリウス君同然のあつかましさでお願いにいくのである。


「なんだそれズルぃ、僕らにも教えろよ」

「フェイ君アルテナに加護貰ってから厚かましくなったよね」

「貰えるもんなら貰うほうがいいに決まっているだろ。ヨダレ垂らしてみてたって誰も分けてくれないだろ」


 あの善良で清廉潔白なフェイ君が汚れてきている。

 と思ったけどこいつ最初からいい性格してたわ。俺から夕食代ボろうとしてたし。


「残念ながらこいつは鍛えているやつには効果が薄いんだ。強化の術法の重ね掛けにも限界値があるって知らないのかい?」

「聞いたこともない」

「じゃあ今晩にも詳しく教えてやるよ」


 アシェラは親切ですねえ。……何を企んでるんだろう?

 一見何も企んでそうにないのが怖いわ。見た目ただの美少女じゃん。


 アシェラはこの後迷宮コアに触れて何かやってた。過去視かもしれない。迷宮暴走の理由を突き止めようとしているのかもしれない。

 と思ったがちがったわ。


「軽くエナジーを吸引しておいた。これで暴走は完全に止まるよ」

「迷宮の暴走って守護者を倒せば止まるだろ?」

「止まる場合も多いよ。でも止まらない場合もある。迷宮の中にはダミーのコアを用意する狡猾なやつもいてそいつの場合は止まらない。用意していないやつだって止まらない場合はある」


 全部初耳なんですけど……


「こいつらは少し変わっているが生き物なのさ。キミは人間の行動を一人を見て完全に理解できる?」

「できねえ」

「だろ? できないのさ。世に誤った知識のなんと多いことか。ボクの英知をもってしても世の迷信すべてを拭い去ることはできず、人はいつだって己に都合のよい話ばかりを信じようとする。その最たるものは迷宮の資源活用だね」


「……迷宮に頼るのをやめろって話か?」

「迷宮に頼らねば生きていけない人も多いだろ? 何度も滅ぼされてきたのにそれでも迷宮がもたらす富にすがりつく。すがるしかない。人の世の繁栄は迷宮を保護することで保たれているのさ」


 何とも言いにくい話だ。アシェラは己の考えの開帳を避け、一般論に逃げた。

 その理由についてはわからない。


 ただルキアーノとルーデット卿だけが神妙に聞き入っているのだけが妙に印象的だった。


 帰り道。迷宮に残っているはずの魔物はすべて消えていた。第三層まで進出していた軍と合流してから話を聞けば、目の前で魔物が消えていくという不思議現象が起きたらしい。


 それを聞いてようやく俺にも納得がいった。アシェラのやったやり方こそが完全な迷宮の鎮圧の仕方なんだ。……イルスローゼでは今も幾つかの地域でモンスターパレードの余波が残っている。迷宮から出ていった魔物の処理はまだ終わっていない。今後数年で終わる見込みだ。

 何が救世主だって感じだ。


「世に誤った知識のなんと多いことか…か……」

「悔いても始まらんさ。神ならぬ俺らにできるのは次は誤らないように努力することだろ?」


 ルキアーノに慰められた! レア現象だ!



◇◇◇◇◇◇



 迷宮から出る深夜になっていた。

 月のない夜。集った松明の火が地上を炎の海へと変えている。


 大勢の兵隊を率いる人物が出てきた。たぶんフェルゼン市を含むこの地域の領主だ。


「貴殿らが迷宮を鎮めてくれたという冒険者か」

「ああ、そうだ」


 ちらっと見るとルーデット卿とルキアーノが消えていた。

 幽霊かよ。さっきまでいたのになあ。


「六人で突入したと聞いたが?」

「二名ほどどっか行ったようです。まぁフリーダムな人達なのでお気になさらず」


 この返答は気にくわなかったらしい。いや戸惑いのほうが強いか。


「……本当に六人で突入したのか。暴走中の迷宮は足の踏み場もないほどの魔物で溢れかえっていたはずだがいったいどうやって……?」

「魔物を殴り飛ばすじゃないですか」

「うん? あぁ、殴り飛ばすのか」

「で、吹き飛んでいった魔物が後ろの魔物を巻き込んでいくじゃないですか」

「理屈で言えばわかるが……あぁ続けて」

「で、空いたスペースを一点突破して繰り返しで奥へと突き進んでいっただけです」

「口で軽く言えるほど簡単な事ではないだろうによくもまぁ……」


「しかし他に方法はありません」

「無論承知している。ゆえに軍は慎重に時間をかけて最深部を目指すのだ。数か月という時間をかけて鎮静化させる難事を僅か半日で達成する貴殿らには敬服という言葉では足りないな。名を教えてくれぬか?」


「リリウス・マクローエン、主に太陽で活躍する凄腕冒険者さ」

「その種の自己紹介も偉業の後ではすんなりと耳に入るな。ワルド伯ラウゼルだ」


 がっしり握手を交わし、ヒゲダンディな領主さんが俺の肩を抱く。やめろとは言わない。

 松明の明かりが途切れぬ市中には、火の下には大勢の人が集っている。彼らの視線の先にあるのは俺だ。


「彼だ! 彼こそがフェルゼンのパレードを鎮めた英雄だ。ワルド家フェルゼン市は彼の名を忘れてはならぬ。リリウス・マクローエン、我らを救い出してくれた英雄の名はリリウス・マクローエンだ!」


 爆発するみたいな大歓声が巻き起こる。

 何だか気恥ずかしいけど俺は胸を張って歓声を受け止めるように仁王立ちする。……感謝されるのも悪くないな。素直にそう思えたんだ。



◇◇◇◇◇◇



 演舞場は大きな町なら一つや二つは必ずある。旅芸人の一座が講演をしたり演劇が行われたりするここが今宵の酒宴の会場だ。


 舞台の上では領主さんとその弟、そして俺らが席を囲んで食事をする。軍のえらいさんもいる。


 話題は尽きない。どのような勇気をもって迷宮の暴走に挑んだか。どのような戦略をもって突き進んだ。武勇を、勇敢さを、賞賛する声は止まらなかった。


 話題はなんとなく俺やフェイの身上にまで及び、アシェラの存在についてはまぁ適当に濁した。世界でも一二を争うほど有名な女神様だぞ。誰が信じるんだよ。


「ほぅ、幸運のアシェラと同じ名か。君達にとっての幸運の女神というわけだな!」

「ははは……」


 適当に腹も膨れて酒も進んだ頃に報酬の話になった。ギルマスから報酬は要らないとは聞いていたらしいが、ワルド伯爵家の威信にかけてそれはならんから受け取ってほしいと言われた。

 明日には正式に館に招待したいとも。


 食事会は友好的に終わり、ワルド伯は諸事情というか鎮圧後に待っている仕事を処理するために席を外した。明日にはギルド宛てに迎えの馬車を寄こすとも言っていたね。


 宴は終わらない。市民総出の宴はこの感じだと明け方まで続くな。

 冒険者たちが次々と挨拶に来る。助かったぜとかありがとうとかそんな言葉を残して去っていく。もちろんジョッキを二杯ずつ持ってくるもんだから大変だ。まぁ飲めるけど。


 演舞場をはみ出しての大きな宴だ。テーブルに並んだメシは別のテーブルだからといって替わり映えがするわけでもなし。


 広場の隅っこに固まっている色っぽい娼婦のお姉さん達が投げキッスをしてきたぜ。今夜はいけるな。って思ってたらフェイの指が肩に食い込んだぜ。


「いくのか!?」

「……」


 フェイ君よ、ストイックな君も嫌いじゃなかったよ。

 今の俗世にまみれたほうがだいぶ付き合い易いけどね。


「いくよな!?」

「お…おう」


 フェイが俺を盾にするみたいにお姉さん方の方へと突き進む。

 ルピンさんのお世話をレテに頼んで正解だったな。こんな姿見せられないよ。


 そんな時だ、娼婦のお姉さん方と一晩やらかそうと思ってる俺らの前に立ちはだかるルーデットが!


「なんだよ、楽しそうだな?」

「ルックンどこ行ってたの?」

「俺らがいるとどうしたって俺らの手柄になっちまうだろ? それじゃあ意味がないからどっか行ってた」


 ルーデットの伝えるちからの低さよ。

 なんで俺らの手柄にしたいのかを知りたいんだよ?


「フェスタの地は未だリリウス君の名を知らない。知らしめるには絶好の機会だ」

「卿!」


 すげえ、宴で大勢の人がイモ洗い状態になってるのに卿の周辺だけモーセの十戒になってる! 正体がわかんなくてもオーラだけで人が避けるってすげえ!


「大勢の感謝は人伝手に君の名を広めていく。誇りと共に呼ばれる君の名が王都まで届いたなら誰も君を捨て置きはしないよ。無論ライアードもだ。リリウス君、君はフェスタの英雄となるのだ」

「あ、カトリの嫁取り作戦の一貫でしたか」


 さすが卿だ。さす卿だ。ルーデットのくせに伝えるちからが高い。

 つまり有名になってカトリ貰っちゃえよ大作戦だ。


「勝率はどんなもんスか?」

「現状は無に等しい」


 ルーデット卿が優しげに微笑む。


「武勲がこれ一つでは市井のヒーローが精一杯だろう。だから積み上げよう」

「塵も積もればって奴ですか?」

「例えは悪いがそうだね」


 武勲一個じゃ足らねえから積み上げろときたもんだ。さすがルーデットだ。理屈の根底にパワーが存在している。


「さあ行こう、フェスタの地にはまだまだ君の救いを待つ人々がいるのだ」

「……今晩一晩くらいは休みません?」


 フェイの背中をどんと叩く。フォローしろだ。


「そっ、そうだ! 領主にも屋敷に招かれているし一晩や二晩は!」

「罠だ。行かない方がよい」

「罠だと?」

「貴族の館に招かれるというのは取り込むつもりがあるという意思表示だよ。フェイ君、君は貴族のやり方を知らない。微笑みの裏に隠れた人心掌握の手管は知らぬ者に対して強力な武器なのだよ。例えばそうだね、君らの若さを見て取り娘を寝所によこすかもしれない」


「わ…罠だとわかっているなら突き返せばいいはずだ」

「行ったという事実が問題になる。夜中に男に部屋に向かった娘は汚されたと考えられ、貴族にとって娘の純潔は財産なのだ。初めから罠だとわかっていて飛び込むつもりかい?」

「ぐ…ぅ……」


 ぐぅの音が出た。無理だな、舌戦でルーデット卿に敵うわけがない。パワーでも勝てないし。


「評判が欲しいのだよ。敵を作りに行くわけではない。さあ行こう、次なる戦場が君達を待っている」


 俺らはジャンプで山中へと戻り、深夜の森を駆けていく。

 もう慣れたわ。明かり一つない夜の山を走るのも慣れたわ。


 並走するルーデット卿に、これまで疑問には思っていても尋ねる暇のなかった話を聞いてみる。


「MAP兵器と言いましたね。モンスターパレード兵器という解釈でいいんですか?」

「うむ、砂のムハンマドが仕掛け人だ」


 砂の予言者か……

 次代の砂のザナルガンドが育つまで、イルドキア君の死を隠蔽するために最大の努力をするとは言っていたがこんなマネに出るとはな。


 ちなみにモンスターパレードと広範囲攻撃を掛けてMAP兵器だそうな。スパロボか思ったわ。


「しかし何故ムハンマドはフェスタを? この国にジベールに仕掛ける余力がないことは誰の目にも明らかではないですか」

「彼の仕掛けはフェスタのみに留まらない。五大国へと同時に仕掛けを施し、ジベールを除く四国の国力低下が狙いだ。彼はこの一手で今度数年から十数年というスパンでの対外戦争縮小を為したのだ」


「スケールの大きな話ですね」

「五大国の王族とはそのレベルの視野で世界を見ているものだ。……とはいえ気に食わぬやり方であるのは確かだ」


 戦争は貴族階級の仕事だが支えているのは平民だ。流通があり、商業があり、生産があり、そうして戦争ができる。

 食料がなくて戦争ができるものか。武器もなく戦いに行けるものか。差し向けるべき兵は国内の混乱鎮圧に向けるしかない。MAP兵器は国家の根底という部分への攻撃だ。


「フェスタ・イルスローゼはアシェラ神からの助言がありこうして先んじて手を打てているが、他はどうだろうな。豊国もトライブも今頃はひどい目に遭っているはずだ」

「卿は……」


 俺は聞けなかった。聞けるわけがない。

 だが言いたいことは汲んでくれた。


「君の言いたいことは理解できるつもりだ。その答えは私が生を受けたのはこのフェスタの大地なのだ」

「はい……」

「今は呑み込んでくれとは言わぬ。だが王侯に生まれたからにはこのような視点と精神を持たねばならぬのだ。カトリを妻とするのなら君も怪物にならねばならぬ。心では泣いても非情の刃を振るう手だけは止めてはならぬのだ」


「それでも泣くのは罪のない人達です」

「さて、罪のない人などいるのだろうか……」


 不意に覗き込んだルーデット卿の心の内は怪物だった。

 貴族という名の怪物とは、どこまでいっても無縁とはいかないのだろう。

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