おわかれと決意と旅立ちと④ フェスタへ!
豊国の大使館に行くとルーデット卿とルキアーノはすでに身支度を整えていた。すごい、仕事が早い!
旅装に身を包んだ二人はすでにソファでのんびり紅茶を飲んでいた。すごい、完全に俺を待ってた!
「やあリリウス君、遅かったね」
「卿の行動力には脱帽っすわ。もちろん行き先は……?」
「フェスタだ」
ですよねー。すげえ、お見通しじゃん!
ルキアーノとナルシス君はマブ友だ。そっち経由で情報を得たんだろうな。
「私は豊国の軍籍にある身だが此度はラスト姫殿下の計らいがあり、フェスタへの使者として遣わされるのだ」
「ルーデット卿が全任者に?」
「式には姫殿下もご出席なされる。私は護衛要員だね」
ラストさんも考えたな。ダンディなおじさまと結婚式を見物し、私も結婚したいわとかウェディングドレスを着てみたい的な可愛い女路線で攻める気か。
「計らい…計略では?」
「可愛い計略だね」
まったくの同感です。ラストさんの作戦は結婚大作戦だから安心だ。ただしオチで爆発する危険性があるから要注意なんだが……
俺はルーデット卿のご尊顔をじろじろ見る。何もかもお見通しで微笑む総艦長なら大丈夫だろ。あのトンデモねえ息子と娘のパパだ。
ルーデット卿がブリーフィングルームでの将軍のように作戦の説明を続ける。
「私はすでにルーデット家の当主ではない。フェスタへの働きかけも本国に残ったレイシスの風評を考えれば避けたい。よって私は静観の立場にある」
「卿のお考えは以前にも聞いておりますので……」
ルーデット卿自身はこの婚姻に賛成だ。
十年続いた内戦の終結はストレリアの死だけでは足りない。元凶である簒奪皇帝が死んだ、だから仲直りしようなんて簡単に手を取り合えるはずがないほどの血が流れた。
「うん、話はしたね。バーネットとルーデット両家による血の同盟は長きにわたる内乱が終わったと皆が心から信じられる祝賀だ。現政権は共同歩調で結束しているが、この喜びは希望となってフェスタ全土に広がり、多くの人々に安堵を与えるだろう」
俺の悪者感がすごい。
みんなの希望をさらいに行くとか魔王か!
「卿が俺とカトリの関係に反対なのは理解しています」
「反対はしていないよ」
?
「政治的にはライア以外の選択肢はありえないが心情的にはライアにもリリウス君にも味方をしたくもあり、親の気持ちを言えば両者のどちらであってもカトリを任せていいと考えている。……だが以前誓いをしたね?」
「誓い…ですか?」
「ルーデットは永遠にリリウス君の味方だと誓いを立てた。覚えていないかね?」
そういえばザナルガンド退治の後にそういう言葉をいただいたな。
単純に友へのおわかれと再会を約束する言葉だと思っていたけど誓いだったのか。
「どうやらリリウス君はこの言い回しを知らないようだ。これはウェルゲート海に古くから伝わる誓いでね、国家や立場を超えて個人や一族という範囲で友情を約束するものだ。今後リリウス・マクローエンがどこの誰になりどんな立場につこうと我らルーデットはこの誓いを反故にしない」
しかしルーデット卿は静観すると言ったような?
卿が隣に座る破天荒息子の背中を押す。あ、やべえ流れだ!
「我らルーデットの誠意の証としてルキアを預けよう。上手く使ってくれ」
「「ひえっ」」
俺とフェイののどから悲鳴が漏れた。それというのも俺らは事態を正しく認識しているからだ。
頼もしい仲間が増えた×
制御不能の暴走兵器が増えた〇
フェスタに行きたくないとかルキアーノを突き返したいとか言えない雰囲気だ。どーしよ?
本章はここでおしまいとなります。
予定されていた断章『神々の時代 火薬の園の魔王』はちょっと体力的な都合で後回しに……
いえね、松島の心の中のレディが言うんです。
「コブラッ、このままでは今年中に最終章までたどり着けないわ!」
そいつはまずいぜぇ、とっつぁんという事で断章は先送りにあいなりました。
クラウの過去を知るグランナイツ結成の物語をやってないせいでやや腑に落ちない感じのした大罪の使途編の二の舞をやらかす前にはできるといいのですが……
次の章は『太陽の落ちる日』と『旅の終わり』となります。レッドブルの準備はできています!




