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大悪魔ディアンマ⑦

 長期にわたる大悪魔戦は再びの夜を迎え、深夜になる頃にはバトルフィールドに立つ面子もすっかり減った。回復に掛かる時間が増加しているのが原因だ。

 だが粘り続けた成果はきちんと出ている。


「魔力残量12パーセントッ! あと少しだ、あと一息だよ!」


 アシェラが錫杖を掲げ、神気を練りに練り上げた秘術『ホロゥ・ラニー・アカネイア』の光の矢を大悪魔へとぶち当て―――

 避けられた! この緊迫のシーンに大ポカやらかしやがった!


 大悪魔が前衛戦士部隊を蹴散らして真っすぐにこっちに向けて突進してくる。クソやべえ!


「アシェラ、クロノスのクラウ・ソラスの再構築は!?」

「もう少しかかるよ!」

「コッパゲ先生、夜の鏡の制御を代わってくれ! 俺が迎撃に出る!」

「行きなさい。早く!」


 大悪魔ディアンマと俺の一騎打ちだ。みんな、好きなタイミングで手を出してね!


 遮断し続けてきた思念が近づくにつれて強力になる。うるさい黙れ以外の何物でもない。愛だの恋だのうるせえんだよ!


「散々俺達を戦わせてきた闘争の渦がッ、今更何をほざくかああ!」


 内在神気を圧縮、拳に込めてディアンマを押し返す。

 合わせ鏡の中で魔力刃を連鎖複製する。五本や六本なんてケチは言わねえ。千も万も作り上げてぶち殺してやる。一斉射だ!


 見晒せッ、これが本場の喪失弦モルダラじゃああ!


 迎撃として放たれた黒炎の津波による全方位攻撃をトータル・エクリプスで無効化。何の障害もなく大悪魔の全身に突き立つバッドステータスの剣の数は制御している俺もよくわからない数だ。


 大悪魔が膝を折り、沈黙する。精神の破壊に成功したな。これだけちからをそぎ落とせば当然の結果だ。

 神聖存在を滅するならば魔力枯渇。封じるなら精神の破壊。これに尽きる。


 バトルフィールドが一瞬だけ静まり返り、次の瞬間には歓声が爆発する。


「リリウス、お前やったのか!?」

「同士リリウスが決めたか!」

「小僧ッ、最後にいいところを持っていきおったな!?」

「ガハハ! こいつは大戦果だ、一番いい勲章をやるぞ!」

「すっごーい!」

「リリウスぅ!」


 みんな一斉に駆け寄ってきた。ユイちゃんに抱き着かれたと思えばナルシスとルキアーノが俺を持ち上げてお空にポーイからの胴上げが始まったぜ。


 俺とユイちゃんが恋人みたいに一緒に胴上げされてる謎。レグルスとエルロンが胴上げに参加してるから違和感しかない。シュテルよ、涙ぐんでどんな立ち位置なんだあんたは。

 そんな我々を、遠くから微笑みと共に見つめるルーデット卿の存在感よ。パパか!


 そしてバトルフィールドに今更出てくるクロノスとウルド様である。


「ふっ、真打ち登場というやつだな」

「遅いよ、もう終わったよ」


 アシェラがつっこみを入れるとクロノスがずっこける。

 俺の悪い部分だけを学んでいくなこいつ。ウルド様もこの光景でお察しになられたようだ。


「なんじゃあ~~~~散々トドメはワシじゃと言っておいてあやつが決めよったか」

「無力化したとはいえ本体はまだそこにあるけどね、まぁクロノスにやってもらった方がいいだろ。切り札を使わずにラストバトルに回せたんだ。僥倖さ」


 アシェラが何でもない事のように不吉な発言をした。

 その瞬間に俺を胴上げする動きがピタリと止まり、俺はユイちゃんに挟まれる形で地面に背中から落ちた。


 みんなものすごい顔をしている。聞かねばならない。でも聞きたくない。そんな顔だ。

 わかってる組の代表ナルシス君が肩をすくめて言う。


「渡してもいいんじゃないか?」


 アシェラが苦々しそうな表情でこう返答する。


「もう少し協力的だったなら渡してもよかったけど、こうも露骨にハイエナを狙われると意地でも渡したくないね」

「だが現実的に考えて今我らには余力がない。穏便に帰ってもらうほうがいいと思うがね」

「それはボクらには明かしていない密約に起因する発言かい?」


 ナルシスとアシェラが睨み合う。

 話が読めない。こいつら何の話をしているんだ?


 唐突にバトルフィールドが消え去り、市街地の残骸が広がる王都の光景が戻ってくる。フィールド変化を強制的に解除されたのだ。

 野営地の人々が揃って空を見上げている。夜空には、赤い月の浮かぶ夜空に百機を超える機械巨人が浮いている。


 銃口を向け、野営地を取り囲む機械巨人はどれも見覚えのないものだ。カスタム機か軍用モデルか、少なくともプライム量産型ではなさそうだ。


 中でも一際異彩を放つ黒く禍々しいサイバスター……機械巨人からやつの声がする。


「ディアンマの残骸は我らが戴こう。ひねりのないセリフで申し訳ないが退いてもらえないだろうか」


 イザール、このタイミングを狙っていたか。

 ディアンマの残骸には相応の価値がある。高密度魔素の塊であるし、幾つかの権能も抽出可能だ。もちろんそいつは適切に管理できる技術があればだ。

 仮にイルスローゼが変な欲を出して大悪魔を資源にしようと試みれば遠くない未来に復活させてしまうだろう。


 アシェラ神が何かを言おうとした瞬間に、彼女の足元にビーム砲が撃ち込まれる。


「返答は態度をもって示してほしいね。我らを相手にするか否か、簡単だろう?」

「嫌な奴だ。泥棒のようなマネをして恥ずかしくないのかい?」

「賢明なプレイングと言ってほしいね。最後の獲物が一つしかない以上これが最適解だ。無論キミ達が敗れていたならディアンマは我らが責任をもって仕留めていたよ」


 つまらない会話だ。もう意味のない事をぐだぐだと言い合って心の整理をつけるだけの不毛さだ。付き合っていられないな。


 アシェラを押しのけて前に出る。


「リリウス・マクローエン、今は大事な話をしているところなんだ。話し合いは後日にしてもらおう」


 牽制ではなく直撃コースで撃ち込まれるビーム砲を真逆に返して機械巨人のライフルを壊してやる。十機のライフルが火を噴いて、七機を空間圧縮でぺしゃんこに潰してやると砲撃が止んだ。

 舐められたもんだ。この程度で俺の足が止まると思われたか。


「……どういう事だ? キミは…キミは何者だ?」

「おもしろ回答大喜利に付き合ってやる気分じゃない。再契約の話だ」

「……」


 イザールが沈黙する。考えすぎるのは悪い癖だぜ。

 お前は昔から頭が良すぎるんだ。その頭脳の中でこの世のすべての理を紐解けると勘違いをしている。


「ディアンマの死体ならくれてやる。だからベティを返せ。あの子を何一つ欠けることなく俺の下に返せ」

「……」

「イザール、俺の要求はそれだけだ。イザール、イザール、イザール! ベティを返せ、俺に何度言わせるつもりだ。ベティを返せば見逃してやるって言っているんだ!」

「……要求には応じられない」


 価格を吊り上げるつもりか? 自分の置かれた立場ってやつを理解できないのか?


「ディアンマの残骸とお前らの首、これで足りないのなら何を足せばいい? お前の大事なゲート・オブ・エイジアも足してやろうか?」

「そういう意味ではない。ベティはもういないんだ」

「イザール、お前の言葉はいつも難解で困るんだ。そのいないとはどういう意味だ?」

「消したのさ!」


 溜めに溜めたイザールが明るい口調でそう言った。


「消したよ、ベティの人格ならもう消したんだ。キミを大好きだったあの子はもういない。人格を消して別のデータで上書きしたんだ! アハハハハハハハハ!」


 反射的に殺しそうになったが自制し、もう少し会話を続けてみることにした。


「なあそれはどういう……」

「これが新しいベティさ。さあご挨拶なさい」


 イザールの機械巨人の手のひらにベティそっくりの殺人人形がいて、ぺこりとお辞儀してきた。

 でも俺にはそいつがベティには見えなかった。


「彼女でよければ貸与しよう」

「そいつはベティじゃない」

「時を過ごせば彼女の事だって愛おしく思えるさ! 同じ経験を積ませ、同じように愛し、同じように共に過ごせばベティと同じものになる。それにこの子は以前のベティよりも格段に高性能でね!」


 イザールが新しい殺人人形の性能を語りだした。俺はもう何も聞いちゃいなかった。

 ふと足元に血の雫が零れ落ちていることに気づいたが、もう何もかんもどうでもよかった。


「イザール、イザァァァァル」


 俺の口から漏れ出した声はもはや俺の物ではなかった。

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