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王都混沌⑦

 一時間だ。一時間という時間を費やしてアノンテン中から戦力を掻き集めた。

 ラストと赤薔薇騎士団の皆さんに赤の賢者。国家に帰属する英雄級の食客も五人。プラスでイース海運の警備部もお借りした。ついでにルーデット卿もいたので泣き落としで確保した。


 王宮でスカウト合戦やってる途中で円盾騎士団の団長さんから文句が入ったがラストがどついて気絶させてくれたわ。グラーエイス王も問題だけは起こさないでくれって言って帰っていったわ。ベイグラント王家はそれでいいんですか!?


 その光景を見ていた俺は呆然としながら、ルーデット卿に心の内を明かす。


「この国ってもしかしてラストの独裁政権なんじゃ……」

「異論を差し挟む余地がないね」


 やっぱり。


「彼女を篭絡すればベイグラントを獲れると思うよ。やるつもりはないけどね」

「や…やらないでくださいね」

「とはいえ人生の目標を遂げたばかりだ。残りを国獲りに費やすのも……冗談だよ」


 卿が言うと本当にできそうだから怖いんだよなあ。だってこの人もルーデットだし。

 理性の皮をかぶって自制を覚えただけのカトリだし。ルキアーノかもしれない。豊国は早く卿に生き甲斐を与えてあげて! ルーデットに暇な時間を与えると遊び出すから!


 集めに集めた戦力をイース海運が保有する世界最大の飛空艇アドベンチャー号に乗せてさあ出発だ。

 って時だ。レグルスのジジイが不審げな目つきだ。


「まともに向かえば三日はかかるぞ。どうするつもりじゃ?」

「俺を誰だと思っている。巷で噂の義賊さんだぞ」

「義賊ふぜいに何ができる。ワシは世界一の冒険者レグルス・イースじゃぞ」


「張り合わないの。もうっ、いい年して喧嘩っぱやいんだから」


 ファラのミスリルの警棒がレグルスの頭をガツンといった。

 曾祖父へのつっこみが聖銀の警棒になるイース侯爵家の家風よ。


「まあ俺に任せておけよ」


 ちからが湧き出てくる。シェーファではないが無限のちからとつながるような全能感を感じる。

 これまで感じていた窮屈な天井に頭を押さえ込まれていた感覚が無い。

 いま俺は無限へとつながり、この惑星を覆う果てなき夜は俺の物となっている。何気なく普段使っているこの夜渡りの魔法も言ってしまえばライアードが所持する魔王の呪具ジャンプシューズと同じちからなのだろう。


 今から繰り出すのは無限射程の空間跳躍だ。夜と夜の間に遮る物がない限り、俺はどこまでも飛べる! はず! ……失敗したら二度目の奇跡を信じてティト神殿の旅の扉ギャンブルに賭けるわ。


「夜よ夜よ、我が命に従え! 我が名は―――」


 一瞬だけ己の名に詰まった。俺は誰だという疑問が俺という定義を歪め、存在の在り処を問うている。


 まぁいい、俺は俺だ。


「我が名はレザード! 夜を支配する者なり。我が命に従え、我が命を為せ、この船を跳ばせ! ローゼンパームへ!」


 異なる空間どうしが連結し、飛空艇アドベンチャー号を一瞬の衝撃が襲う。

 まばたき一回の時間のあと、この空飛ぶ船は壮麗な大都市の直上にある。飛空艇よりも低い場所にある空中都市を見下ろす俺は魔術の成功にガッツポーズである。ナイス俺!


「ガハハハ! どうだ見たかレグルス! これが俺のちからだ!」


「……く…空間転移じゃと。どうして貴様ごとき小物に失われし秘術が……」

「貴様ごとき老いぼれとは格がちがうのだよ格が!」


 ガハハ笑いをする俺に温かな微笑みを向けるファラとルーデット卿である。おい、エルロンてめえ味方面をするな。俺の利用価値に今更目をつけるな。

 赤い月のエリスの呪術師エルロンとかいう馬鹿エルフがニコニコしながら近づいてきた。優しい目はやめろ!


「小僧、イース海運に就職するつもりはないか? 今なら馬車馬のポストを……」

「うるせえ馬鹿」


 馬車の馬は役職じゃねえ。いうなれば奴隷的なポジションだ。誰が荷物を運ぶだけの奴隷になるのを承諾するんだ。


「高給は保証するぞ?」

「そんなに儲かるなら自前の商品運んで売りさばくわ」


 たしかに儲かりそうだ。ステルス収納を使っての超長距離輸送なら濡れ手に粟だろ。……セカンドライフは商人ってのもありだな。

 そういう未来もあったかもしれないと思うと胸にこみあげる感情がある。


 だが一瞬の憧憬を振り払い、今は現実を直視する。

 王都のあちこちから戦闘音が聞こえる。この大騒ぎを止めるには急所に手を打たねばなるまい。


「まずは太陽宮へいくぞ!」


 と格好よく宣言するとラストさんが小首をかしいで困ったポーズ。


「慣れないわねえ」

「ほんとですねえ」

「早く慣れて!」


 そしてやってきた黄金騎士団本部である。太陽宮はここの隔壁から空中都市内部へと入らないといけないからだ。


 騎士団本部の前ではなぜか……

 なんだこりゃ? 太陽最強の魔導師と名高いグレイド・ガランスウィードがボロ布みたいになっていて、その周りをナルシス君とルキアーノが小躍りしてやがる。


 あ、フェイ発見。みんないるわ。ファトラ君もい……なんでツイン・ファトラ君集合してんの!? ツイン・ドレイクだし!


 な…何がどうなっているんだ? と思っていたら貴族街の方向からアシェル達がやってきた。クロノスもいる。オネエの悪徳信徒のグリードリーさんもいるしアシェラ神もいるじゃん! ルルと伯爵もいるの! ナンデ!?


 この後レグルスとグレイド翁のやり取りがあり、グレイド翁がショックで気絶した。

 本当に何がどうなっているんですか?



◇◇◇◇◇◇



 太陽宮へと続く隔壁が開いていく。手動でだ。超人墓場で特に意味もなくキン肉超人が回してるアレだ。……そりゃ未開文明人どももエレベーターで大騒ぎするわ。イルスローゼの王宮ですら人力かよ。


 大きな坑道を歩いて太陽宮へと向かう最中に疑問を飛ばす。


「なあファトラ君、そろそろ教えてくれ。どうしてガレリアと手を組んだんだ?」

「黙っていたことは謝罪する」

「謝罪はいいよ」


 謝られても許せない。ベティは謝られても帰ってこない。

 静かな怒りが俺の中で高まっていく。噴火を予期しながら、会話を続ける努力をする。


「理由を聞かせてくれ」

「僕はガレリアとだけ手を組んだわけではない」

「それはアシェラと組んだという意味か?」

「いや、太陽の動乱に嬉々として集まるすべての勢力と手を組んだ」


 スケールでけえな!

 敵対組織全部と予め手を組んでいたってか!


「ど…どうして俺に黙っていたんだ……?」

「すまない」

「謝罪は……」

「同士リリウスは口が軽いからしゃべるなってナルシス兄様が……」


 振り返るとナルシス君がニヤってしてる。これはあれだ、何か文句あんのか殺すぞだ。俺はそっこーで前を向いた。


 事の起こりはどうやら秋頃まで遡るらしい。

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