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王都地下迷宮再び

 翌朝というか昼。目覚めるとアシェルがスレンダーなお腹を大事そうに撫でていた。


「動いた♪」


 いやいや動かねーよ。妊娠一日目で動かねーよ、どんな化け物だよ俺の息子。


「一度言ってみたかったんさ」

「心臓に悪いジョークはやめろ」


 堕胎キックかますぞ。


 しかし小六にしてパパになってしまうとは恐ろしい事態だ。

 生活力皆無の低ランク冒険者の子供とか将来いじめられそうだな。仕方ない、まずは薬草採集でも頑張って低ランク脱出を図るか。


 身支度を整えて階段を降り、ギルドの一階に行くと……


 バトラらグランナイツの面々がいた!

 あっぶねー、亜音速でステルスしてやったぜ。


 クエストボードを眺めているところを見ると仕事探してる感じか。そりゃ二日続けてダンジョン籠るのなんて馬鹿のすることだよな。この連中見てて面白いけどリリウス君はクールに去るぜ。


 ギルドを出……


 カトリたんまだ飲んだ暮れてたのん!?

 まさか昨夜からずっと此処で!?


「うぅぅぅ、リリウス君が戻ってこないよぅ……シシリー! もう一杯!」

「だ~め、しょうもないオヤジみたいに真昼間っから飲むんじゃないの。仕事の一つでもしてきなさい!」

「でもリリウス君が迷子になったらどうしよう……」


 やべっ、こいつはギルドにお泊りさせちまったやつだ。迷子のフリしたせいで家にもたどり着けない可哀そうな子だと勘違いされたままだったやつだ!


 フードを被って透明解除!


「「リリウス君!? いつの間に!?」」


 やべえええええ! バトラがこっち向いてるじゃんやばいじゃん。


 ぷるぷる、ぼくはわるいマクローエンじゃないよ。あんな家とっくに縁切ったからね。


「気のせいだな。あいつがいるはずがない」


 セーフ。

 危ないところだった。正面戦闘だと勝てる気しねえんだ今のバトラには。


「お二人ともちょっと小声でいい?」

「いいけどぉ睨むことないじゃない」


 目つきは生まれつきです。


「実はあそこの目つきの悪いオールバックとは因縁がありまして、できれば俺の存在を知られたくないんです」

「因縁ってどんな?」

「どんなってそりゃ……」


 思い返してみるとどんな因縁だっただろうか。


 奴が十二歳の年から学院に入って帝都に行くまでの間、毎月お小遣いを貰った端からパクってきたな。逆さ吊りにして石ころぶつけたりもしたな。夜間に侵入してベッドをひっくり返してやったりもしたな。口の中に昆虫詰めたわ。極めつけは好きな女寝取ったな。しかも帝国貴族の地位剥奪されて国外追放までされてるな。

 以上を吟味した結果……俺殺されそう!?


「見つかったらマジ殺されるくらいの因縁なんだ」

「なにやったの……?」

「悪いこと言わないから謝罪してきなさい」


「なにやったと言えばアシェル様と何をしてたの? お姉さん心配してました。変なことされてないよね? 何されたの? お姉さんに全部教えて!?」


 はぁはぁしないの。説得力ないよ!


「変なことはしてないよ」


 そう、生命誕生に関わる神秘的な儀式でした。


 さらなる追求を逃れて薬草採集にレッツゴーと思ったら……


「リリウス君ダンジョン行きたいんだよね? 今から行く?」


 二日連続ダンジョンに籠ることになりました。

 だからフラグ回収早いんだよ! 俺お疲れだよ!?

 ああもうっ、スタミナポーションさーん! たすけてー!





 ステルスコートを使わずにダンジョンに挑むのは初めてだ。

 緊張するぜ。


「前方三体、たぶんコボルト」


 斥候のカトリたんが地面に耳をつけ、振動で魔物を検知。

 へへ、腕がなるぜ。ダブルSクラススキルホルダー舐めんなぁああああああああ!


「ふっ!」


 カトリたんの投擲した投げナイフが闇の中から現れたコボルトの額に突き立つ。


「よっ! はっ!」


 次々と投げたナイフが眉間に刺さり、コボルト三体がヘッドスライディング。ちょいと蹴って反応を見るがすでに絶命している。あれれ、俺の出番は無しですか?


「カトリたん普通に超強いんですね?」

「ま、これでもCランクだしね」


 どや顔ですねわかります。後輩の前でいいとこ見せたい感じなんですね。


 ダンジョンに入り慣れている先輩の指導もあり一層二層は一時間半で抜けられた。しかし魔物との戦闘回数は三十七回、計九十七体と遭遇した。これがけっこう疲れる。ステルスコートさんの偉大さを再認識したぜ。


「リリウス君もけっこう戦えるみたいだし、とりあえずいけるところまで行こうか!」


 その言葉通り俺達は六層まで行きます。

 ダンジョン内のご休憩所で一休み。のんびりしてから九層まで来ると……


「リリウス君ピンチって言葉知ってる?」

「そろそろ危ないよ!」


 ドドドと土煙とともに現れたジャイアントアント軍団にスマッシュ!

 一匹仕留めると同時に後ろにやつに飛び乗ってスマッシュの嵐。へ、てめえらの面は見飽きたぜ。


「奥義、ファイナリティ・ブラスト!」


 という名のチャージド・ストライク!

 へっ、爆発どころか衝撃波さえ出ねえぜ。中級攻撃スキルのインパクトスマッシャーでも使えれば恰好は付くんだけどなぁ。


 アリさん軍団の八匹を仕留めて青春の汗を拭う……いやこりゃアリさんの体液だわ。


「そろそろピンチですぜ」

「いやいやピンチのピの字も見えないんだけど。この先階層主だけど……行ってみる?」


 カトリーエイルが十層へと下る階段を指差す。

 昨日はこんもりした畝が五部屋分もあったが今はない。昨日潰したおかげかな?


「ところで階層主の再誕時間ってどのくらい?」

「三日」

「となると昨日倒しておいたからまだ出てない計算になるね」


「昨日倒した!? 迷子ってダンジョンで迷子になってたの!?」


 十層には階層主どころかアリさん一匹いなかったぜ。


 昨日は反対に潜った緑光の大扉を前に潜り、未体験ゾーン突入だぜ。へへ、カトリたん頼りにしてるぜ。なにしろ昨日グランナイツがあれだけ苦労していたアリさん軍団も物ともしない猛者だから頼りになるぜ。


「ちなみにカトリたんは何層まで行ったことあるの?」

「二十七までかな。あの時はけっこう強いクランに混ぜてもらってたけどね」

「じゃあ目指すは二十七層だね!」


 意気揚々と前進したはいいが……

 十五層の事である。


「スマッシュ!」


 ガキーン!


 くそ、この魔物固え!


 グラードトロルという巨人ふうの魔物は体表のあちこちが金属質な肌で覆われ、一撃で仕留めるは困難だった。チャージド・ストライクなら問題ねえがあっちは三秒キャストタイムがある。当然ステルスコートなしではそんな時間待ってくれるはずがねえ。


 躍動する魔物の金属に覆われてない部分を狙えば当然ダメージが通る率も半々程度。地道にコツコツ削るしかねえ。


「せいっ!」


 ズドン!


 カトリーエイルたんの投げ放ったミスリル銀のナイフがグラードトロルの頭部を爆散させる。


「よっ! はっ! とうっ!」


 ズドン!


 ズドドン!


 すげえ、全部一撃ですね。しかも十五層まで全部必中です。


 この御方もしかして俺が想像してた以上の猛者です? 素足きれいきれいします? 俺の腹筋でよかったら幾らでもペロペロしてくれていいよ!


「ちょっとした怪物みたいに強すぎない?」

「上にはもっとやばいのがゴロゴロしてるわよ、特に三大クランの連中とかあたしから見ても化け物揃いよ」


 なにそれ怖え。絶対に喧嘩したくねえ。


「とはいえリリウス君もそろそろ厳しいみたいね。まぁ新人冒険者が十五層のモンスター倒してる時点でおかしな話なんだけどさ、そろそろ帰る?」

「諦めるのかい? 諦めたらそこでおしまいだよ」

「へへっ、根性ある子もしゅき」


 大切なところで噛むなし。わざと? そのどじっ子アピールわざとなの?


 いや落ち込んでるからちげーわ。なんていうか色々愛らしい人だなぁ、見た目は美人女子アナなのに。


 ステルスコート先生出番です! 俺を二十階層まで連れてってください!

 というわけで以降の雑魚はスルーするぜ、ヨロシクな!


「リリウス君がやばい……」


 凶悪そうなワーウルフがウロウロする中を素通りして十七階層へ!

 どんどん行くぞ!


「すごい潜伏魔法持ってるんだね。五感の鋭いビースト系モンスターに全然気づかれないとか、そんなのローゼンパームにも何人いるか……」


 たぶんそいつらの誰よりも強力ですぜ。


「しかもそれを他人にまで被せられるとか聞いたこともない……」

「古き神々の魔法と同じやつですし」


 というか古き神々を絶滅させかけたやばい魔法使いのものですし。


「リリウス君ナニモノだし?」

「そいつは秘密ってやつですよ奥さん」


 そんなこんな二十階層到達。


 どでかい部屋の天井でわさわさしてる、でけえムカデが階層主です。防御力とタフネス全振りで、ミスリルも溶かす溶解液吐くという厄介なやつです。


「階層主にも気づかれないんだね……?」


 その恐ろしい化け物見る目はやめてもらえます?

 カトリたんの方が強い変態だよ?


「なっ、なんで恐ろしい変態見る目するかなあ! あたし無害な変態だから!」


 いえあなたは慎重な変態です。

 変態先生お願いします!


「んじゃ、グロウアップ≪炎≫!」


 カトリーエイルの全身が真っ赤に輝き出すぜ。上級身体強化まで持ってるんかいな。しかも火属性付与を……たっぷり二分掛けてチャージしちゃうんですね。三秒が限界の俺とは技量が違いすぎる。


「我が一撃は炎神の一撃なり、我が敵を射抜け―――クラウ・ソラス!」


 ズドーン……!


 投擲した長剣に打ち貫かれた大ムカデが悲鳴をあげながら天井から落ちてきた。

 炎に焼かれながら暴れ回るというか痛くてじっとしてらんない感じだ。危険なので一旦階段へ退避し、五分後に戻ってくると……


 大ムカデは部屋の真ん中で丸まっていた。キチキチと弱々しく鳴きながら、その複眼は明滅している。あ、これは瀕死ってやつですね。


「カトリーエイル先生お願いします!」


「う…うーん? こ、攻撃ぶち当てても気づかれてないけど? なんで、なんでこんな魔法使えるの? なにかおかしくない!?」


「先生だけが頼りです!」

「どうしよ、リリウス君が怖くなってきた」

「俺は領民に慕われる善良な子供ですよ。悪党にはケツにスプーン突っ込む悪魔って恐れられてましたけど!」

「善良じゃなかった!?」


 つっこみはいいんでトドメおねしゃす。


 カトリーエイル先生の超上級攻撃スキルが炸裂し、思ったよりしぶとかったけど階層主七発で終了でした。一発目で瀕死に見えたのは誘いだったのかな?


「先生さすがです!」

「さすがなのは……う…うーん、深くは考えないようにしておこうかな」


 さすがです先生。


 へへ、階層主のほとんどは土に還ったけど、ギザギザの牙がドロップしたんでギルドで換金するか。幾らで売れるかな?

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