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その頃バトラは……

 時は大罪教徒によるティト神殿占拠の翌日まで遡る。


 バトラ達グランナイツの三人プラスワンは東方移民街の銀狼団の屋敷にいた。武家屋敷だ。以前は剣聖マルディークが住んでたという曰く付き…プレミア付きの武家屋敷だ。


 北の森から逃げ落ちてくるという深夜の訪問だったがライカンスロープ達は快く歓迎してくれた。ボスのマブダチの兄貴だからだ。

 銀狼シェーファの親・兄弟・親戚・トモダチを騙る輩は多いが、本物のそれらは東方移民街では特権階級だ。ここは彼の王国であり会社であるのだ。


 バトラが一晩お世話になった銀狼団の若頭にお礼を言いにいくと、大勢に囲まれてジロジロみられてしまうのである。威圧感が……


 A級冒険者レベルのライカンの戦士ども30人がヤンキーみたいにバトラの顔面をジロジロ見てくるのだ。至近距離だ。やめろ以外の感情が出てこない。


「世話になった身で文句をつけたくはないが、顔近くないか?」

「ほぉ~~~~兄貴のほうが普通種のトールマンっぽいな」


 弟の方は異常個体みたいな言い方だ。

 ちょっとだけムッとしたバトラがつっけんどんに言う。


「弟もきちんとした人族だ」

「あ? そりゃねえだろ、ありゃあ絶対ドリアードか何かの精霊種が混じってる。あれだけの妖気だ、初めて見た時は尻尾が逆さ立ったぜ」


 他のライカンからも出てくる出てくる。


「そうそう、俺もアトラクタエレメントかと思って魔水晶を探しちまったぜ」

「俺はヴァンパイアだと思っていた。初めて見かけたのが夜の砂漠だしな」

「フェニキアか。懐かしいねえ」

「シェーファがすぐになついたのは笑ったな」

「そういやボスだけあの妖気に気づいてなかったな」

「……シェーファもまともなトールマン種じゃねえから」

「ボスレベルになるとささいな誤差なんだよ。ドラゴンが人と人っぽい何かを区別するもんか」


 リリウスを人外扱いされてムっときたバトラだったが、悪口や差別ではなさそうだと思った。ライカンスロープは半分人で半分獣と蔑まれてきたはずだ。そんな彼らが誰かを迫害するはずもなかった。


「慣れてるんだな?」

「うちバルバネスさんがいるから」

「あの旦那はすげえぞ、変身すると山よりでけえんだ」

「いっちゃんすげえのはシェーファだけどな。バルバネスさんぶっ倒して手下にしちまったんだ」


 銀狼団はボスが大好きだ。ライカンはイヌ科だから強いボスの下に付けて大喜びなので、自慢話が始まると時間があっという間にすぎていくぞ。

 だがバトラにはこいつらが何を言ってるかよくわからない。竜に変身するとかミスリルのブレスを吐くとか……


「銀狼がメタモルフォーゼ? こういったら何だがおかしいと思わないのか?」

「いや、俺らも変身するし」

(文化がちがう……)


 ライカンはそこは気にならない。彼らも狼に変身するし、群れのボスが手下にもできる事をできない方がおかしい。ボスは群れで一番強い男じゃないといけないからだ。


 ライカンは歓迎してくれた。でも北の森攻略は断られた。理由はバトラが一文無しだったせいだ。

 例えオトモダチでもお金が無ければ依頼を断る。タダ働きしたって言ったら後でボスが絶対に怒るからだ。ドケチの教訓が行き届いた、訓練されたライカンなのだ。 


(銀狼団、聞きしに勝る手強さだ……)


 依頼を断られたバトラはボスの自慢話だけ聞かされた感じで仲間達の居る客室に戻った。


 布団の敷かれた客室には疲労の抜けきらない仲間達が座り込んでいる。大怪我を負ったトキムネはオーヴハンマーのトゥールちゃんの治療を受けているし、左腕を強化グールに噛み千切られたラトファは、治療後の左腕を揉み解している。


 手痛い敗戦だった。彼我の実力があまりにもちがいすぎた。強襲してきたアンデッドの統率された動きは、騎士団を相手にしているような手強さだった。……無理を押して再戦したとしても勝ち目がないほどだ。


 上半身をさらけ出すトキムネが視線で問うてきた。バトラは首を振って……


「ダメだった。金がないと動かない」

「ま、金さえ積めば何でもやる連中が文無しの頼みを聞くわけがねえか」


 バルジ監獄帰りのグランナイツには金がない。金をたんまり持ってそうな弟は北の森だ。さらわれたリザと弟を助けに行く話をしているんだ。


 銀狼団は後金では仕事をしない。最低でも半額は先に支払わないと動かない。ドケチの教育がパーフェクトだ。あのライカンどもは帝国騎士団団長のドケチが作った精鋭養成プログラムを受けてきた猛者なので、味方になれば大いに助かるのに……


 バトラが決断する。


「銀狼団の協力を得られない以上この場に留まる意味はない。移動に障りのない程度の体力が戻り次第、ネピリムの森に行こうと思う」

「あたしの故郷に? なんで?」

「ウルド様に助力を請おうと思う。困った事があれば相談に来いと言われていたしな」

「それは異種族婚に関する問題事って意味だと思うんだけど」

「無理な頼み事と承知の上での頼みだ」


 そして一行はネピリムの森へ。足は銀狼団から借りた二頭のグリフォンだ。冒険者証を担保に銀狼貸し金からお金を借り、銀狼レンタルサービスから馬を借りたのだ。とんだコングロマリットだ。内部で金が循環してる。


 ネピリムの森へいざ出発という時だ。塀の上に覗き魔がいた。ベティだ。


「バトラ君はっけん。となると残るはハゲと姉とパッド神官だけか」

「バトラさんいんのか! 見えねえぞ、ベティ、おい手を貸せよ!」


 塀の向こうにはベルクスもいるらしい。声とジャンプ音だけしてる。……冒険者が2.5m程度の塀も登れねえってのは問題なんだろうが、バトラはそこは無視した。


「見つけてくれて助かった。よくわかったな」

「雨だしね。足跡を追えば簡単だよ」


 一旦は勝ち目がないのでベルクスの家まで逃げたベティだが休憩後に戻り、術理空間の外の足跡を辿って探り当てたようだ。


 最初に追っていたフェイとユイの足跡は途中で途切れていた。追跡防止の迷彩というよりも空渡りに切り替えたようだ。空気踏んで逃げていったやつの追跡はさすがのベティにも無理だ。空気に足跡はついてない。普段ならにおいで追えるけど雨天じゃ無理。お手上げだ。


 次がグランナイツで、こっちは何の仕掛けもなかったので素直に追跡できたようだ。これを聞いたバトラの複雑な顔はこちらだ。


 たしかにゲソ跡に気を配る余裕はなかったし迷彩もしなかった。しかし素直に追跡できる痕跡を残したと言われると複雑だ。採点をされた気分だ。しかも落第だ。


「落ち込まなくていいよ、逃亡先の選択だけは完璧だし。シェーファ君の事務所なんて例えガレリアでも手を出さないし」

「落ち度は素直に認めて次に活かす。慰めなくていいぞ」

「いいの? 言っちゃってもいいの?」

「……色々落ち着いて俺の心に余裕ができた頃に頼む」


 今はちょっと耐えられそうにないバトラだった。


 ベティと相談して各自役割分担をすることに。ベティは王都で仲間探し。バトラは応援を呼びに行く。


 そしてグランナイツは空を飛ぶ。王都の結界の範囲外に出てしまえば魔法行使権限なんて面倒な話は関係ない。

 空を飛んでる時だ。二頭のグリフォンに男女に分かれて分乗している時だ。トキムネが面倒くせえ打ち明け話を始めた。バトラにしか伝えたくないナイショ話らしいが、ラトファにも当然のように聞こえている。エルフ耳は強かった。


「じつはよ、監獄で戦ったサムライ……兄貴なんだ」

「殺した、と聞いたがな」


「ああ、オレが殺した。この手で心臓を刺し貫いた。生きてるわけがない。生きてちゃならねえんだ……」

「俺もトキムネが仕損じたなんて考えていないさ。だからまぁ、そういうことなんだろうな」

「起き上がりだ。強い想念を持つ死体は死を乗り越えて起き上がる。術者はあの時兄貴と居た女だろうなぁ……」


 ラトファは思った。

 男どもは何で男どうしでしか胸の内を語らないんだろう?


 女にも女どうしにしかしゃべらない事があると、振り返りもしないラトファであるが、ナイショ話をされると腹が立つ。こっちにも相談しろ! 頼れ!


 って思ってるラトファがグリフォンの首を辺りをさわさわして、注意を惹いてからバトラフォンの方を指さす。グリフォンは賢い生き物なのですぐに意図を察してすぅっと近寄っていく。


「名案があるんだけど聞きたい?」

「げっ、聞いてたのかよ」


「聞こえるんだもーん。ねえ、あんた自分で兄貴を倒してやりたいんでしょ?」

「できりゃあそうしてやりてえがよ。兄貴はオレには目もくれなかった。ってことは狙いはイース財団か、レグルス・イースだ」

「でも兄貴強かったよね?」

「まぁ…な。オレも訓練は欠かしてなかったが兄貴の野郎だいぶ強くなってやがる。悔しいが……」

「すぐにバレる嘘はやめろ。お前が訓練してるところなんて見たことないぞ」


 いつになくキリっとしていたトキムネの視線が横に泳いでいく。

 自覚はあるようだ。


「じつはな、鍛錬をやろうとは思ったんだ」

「やれ」

「やりなさいよ」


「ちょっと走ったらよぉ、わき腹が痛くなって……つい休んじまうんだ」


 若い夫婦は思った。

 ダメだこいつって思った。空気は最悪だ。トゥールちゃんなんて本気で蔑みの目をしている。雰囲気の悪さを感じてバトラが話題変更!


「で、奥さん、名案ってなんだ?」

「わー、この空気でこっちに振るぅ?」

「ラトファならできると信じての決断だ。頼む、この空気を変えてくれ」


 皆の期待の視線を一身に集めたラトファが人差し指を突きつけて迷案を出す。


「修業してあいつを倒しちゃおうよ!」

「修業って、あんな奴トキムネに倒せるわけ……」


 トキムネが信じていた親友に裏切られたような目つきになった。


「すまん、口が滑った」

「いや、いいんだ、実際勝ち目なんてなさそうだなってオレもわかっちゃいるんだ……」


 空気がやべえでござる。彼の弟の空気全入れ替え職人の不在が響いている。

 しかしラトファは不敵に微笑んでいる。まさかの二段構え!


「いい場所があるんだってば。前にリリウス君からいい修業場所聞いたの。そこでは二年修業したってたった一日しか経たないの!」


「あ~~~なるほど、助けを求めるんじゃなくて自分らでどうにかしようって案か。俺ららしいと言えば俺ららしい案だな」

「いや、その前になんだが……そのいい場所が怪しくねえ? あいつ話盛るじゃん」

「大丈夫だと思うわよ。その場所ウルド様から聞いたことあるし」


「じゃあ決めるのはウルド様に聞いてからにするか」


 ネピリムの森はもうすぐ傍だ。

 迷宮攻略の箸休めとしてレスバの里でのんびりしていたウルド様から話を聞き、ガルダとお金を借りて三人は旅立った。

 旅立った連中を、森林浴の陽だまりの中から見上げるウルド様は……


「……金とファミリア借りて出ていきおった。あいつら何をしに来たんじゃ?」


 バトラ痛恨のミス。救助要請を忘れる。

 旅立ったグラナイが帰国するのはもう少し後になる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 遂にトキムネ君の本気が見れる? バトラも修行して魔剣本来の力出せるようになるんだろうか? [一言] トキムネ君誰かに似てるなーと思ったら個人的にこのす○のダストに似てると思いました。…
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