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若き戦士たちの哀歌

 俺らは張り合い続けた。少しでも足がもつれようものなら……


「ダッセ」

「もう疲れたのか。だらしのない奴だ」

 という罵りが飛んでくるので無理を押して戦い続けた。


 迷宮内の移動もダッシュだ。ファトラ君が次の階層への入り口に懸賞金を掛けたせいだ。九つの班に分かれた俺らは必死の想いで迷宮内を走り回った。負けるとシェーファがグチグチうるさいせいだ。


 深層の魔物は手強かった。ここまでくると魔法抵抗力もアホほど高い魔物しかいないし、太陽の聖典に出てくる神話の魔物みたいな奴までいた。ゴロゴロいた。


 魔物は倒した端からステルスコートに収納し、素材の儲けは後で山分け。このシステムもいけなかった。途中からシェーファの千里眼は完全に魔物の密集地を探していたような気がするが、魔物が多いところに次の階層への階段もあったからダブルで美味しかった。まぁ死ぬような目にばかり遭った気はするが結果オーライだ。


 俺らは戦い続けた。俺の敵は魔物ではなかった。フェイとシェーファだったのだ。

 そして到着した百層への下り階段である。


 みんな青い顔しながらギスギス罵り合いをしている。


「びびってるのか? 私はまだまだ余裕だぞ」

「どの口が言えるんだよ、さっき魔物の体当たり食らってたじゃん」

「雑魚どもが粋がるな。僕はまだ余裕だがな」

「この中で治療の回数一番多いのフェイなんですけど……」


 みんな足がカタカタ震えている。唇も青い。たぶん何らかの異常を来している。

 たぶん俺らはみんなこう思ってる。さっさと負けを認めろ! そろそろ本気で死ぬぞ!


 しかし俺らは男の子だ。負けを認めることだけはできない。……こういう時カトリがいるとチョップで物理的に黙らせてくれるんだけどな。

 あいつは頼りになるイイ女だったよ。いないと存在感が浮き彫りになるな。俺らのような面倒な連中をまとめられるのはカトリくらいのもんだよ。戦士の王の娘だしな。


 ウルド様が呆れ果てておられる。


「この馬鹿どもが。どうせゲートを作るために百層攻略は必要じゃが、強行軍の後ではさすがに厳しいか。……まぁワシはまだまだ余裕じゃがの」


「無論我ら一族も問題ない」

 とクルーゼが同意した瞬間だ。そこいらに転がって休憩してたレスバ族が「マジかこの人……?」みたいなものすごい形相になった。


 マジな話現状で戦力と呼べるのはウルド様とレスバ族が六名ほど、あとは真竜二頭か。基本的に見てるだけで、要所要所で魔物をぶち殺してくれるイルドキア君も大丈夫だろう。この人基本的にベティ虎に乗って楽してたし。


 ベティはいつも大活躍さ。ステルス収納を活用して迷宮内でも温かい料理を出してくれる。戦闘要員としての自分を諦めたな。


 最後に出てきた、俺らの頼れるパパ…兄貴、バルバネスの旦那が言う。


「俺が本気になって倒せぬ敵などいるわけがない。倒してくるからお前らはここで待っていろ」

「ではワシとバルバネスとクルーゼ、後は……」

「俺もいこう」


 次期族長のジョナサンと数名のレスバ族がついていく。あのピンク髪のヒロインをいつも連れてるヤマトもいるなら安心だな。あいつ理由わかんねえくらい強いんだけど何なの。変なカットイン演出入るし。


 ウルド様達年長組が百層へと降りていく。

 俺らは階段の前に陣取り、99層の魔物を警戒しながらもぐもぐタイムだ。さてさて本日のご飯は何かな~?


「シチューだぞ。あび…ゴロゴロ肉のシチューだ」

「アビスナーガ使ったな!」


 でけえ寸胴を掻きまわしているベティからの返答はない。マジで使ってやがる。

 みんなザワついてるぜ。


「あのグロい魔物を食おうとかどういう神経してんだ?」

「美食に限界はねえ。美麗に盛り付けちまえばこっちのもんよ」


 こ…こいつ、うまさで納得させる気だ。


 我々は色んな物を食べている。こんにゃく芋の加工を見ればわかるが先人はどうしてこれを食おうと思った?という謎の食材はけっこうある。生だと毒物だったり芽や変色してる部分は毒だったり、きちんと煮たのに毒で死んだりしながら、今日の料理界があるのだ。

 今日ここに新たな歴史が刻まれようとしている。それだけだ、それだけの事なんだ……


 ダメだスプーンが進まない。


 みんなスプーンが進んでない。まだ誰も口につけてない。


「リリウス、男を見せてください」

「ユイちゃん……」

「わたしはリリウスが世界一の男だって信じてます。わたしのリリウスなら、できます!」


「ユイちゃん……アビスナーガを食べたくない一心でそこまで言うの?」

「いいわけなんてリリウスらしくないです!」


 すごい、ユイちゃんの話術と図々しさが着実にレベルアップしてる。この子もいずれはシシリーのレベルまで到達するのだろうか?


「わかった、俺やるよ! やってみせるよ!」


 決意も新たにスプーンを口に運ぶ瞬間だ、ウルド様が戻ってきた。

 早いな。いや20分なら普通か。ちょろっとお疲れの強者どもがぞろぞろ戻ってくる。


「お、メシか。気が利くではないか」

「食う?」

「おうおう助かるわい。ベティは気が利くのぅ」


 いった! ウルド様がアビスナーガシチューをいきやがった!

 ブラウンカラーのシチューをごろっとお肉と一緒にパクり。よほどうまかったのかガツガツ食べ始めた。戻ってきた組も平気で食べ始めた。


 中身を知らないだけあって、うまそうに食うなあ。


「ウルド様おいしい?」

「うむ、うまいぞ!」


 この様子なら安心して食えそうだな。


「みんなー、食っても平気そうだぞー!」

「どういう反応じゃああああ! ベティ、ワシに何を食わせた!? おい、目を逸らすでない!」


「へっ、うまけりゃいいのよ。料理にうまさ以上の正解はないのさ」

「昔からその種のセリフを言うやつにロクなものはおらんかったわ。結果がすべてと語るやつは大抵過程において倫理観を無視しよる!」


 ロリババアの人生哲学は的を得ているな。

 ベティって問題のある食材をいかにユニークに使いこなすか、それでいかに人を驚かせるかに主眼を置いてるよね。ゲテモノでも工夫すればこんなにうまいんだぜニヤリみたいな。


 いやー、素敵な仲間達だなー(棒)


 色々な問題を抱えた昼食を終えて、百層に降りてみる。一面の銀世界って感じだ。バルバネスを中心に他はフォローに回る感じだったんだろ。


 彼は氷柱竜だから本気でやると味方の被害も甚大になるんだ。想像しやすいところだと大きすぎて味方が踏みつぶされちゃう。想像しにくいところだと彼が銀氷のバルバネスと呼ばれるがゆえんだ。ダイアモンドダストのせいで味方が死ぬ。

 竜化バルバネスの周囲一帯は悪意ある氷の破片の舞う毒のフィールドになるせいだ。まず肺がやられる。呼吸すると体内から切り刻まれる。低体温症などの様々なバッドステータスが山盛りつけられる。


 断言していい。人間では絶対に勝てない。竜の谷の守護番の名は伊達じゃない。聖地を守護する最終防衛ラインの守護者さまだ。


 ウルド様が大部屋の壁に生まれた光る扉の前に立ち、転移先を上書きする術式を作り上げていく。魔法で地面を削って魔法陣を描くわけだ。投射式や投影式と似てるけどちがうな。古いやり方なのかもな。


 陣を作り終えたウルド様が「うー?」って首をひねってる。失敗じゃろか?


「失敗すか?」

「そっちならマシじゃ」

「となると……」


 壊されたか。

 迷宮を攻略されたくない何者かが閉店した酒場の地下にある転移術式を破壊した。この何者かについては議論の必要性もないほど明確だ。


「ディアンマが動いた?」

「じゃろうな。幸いインタラプトは機能しておる、閉じ込められる心配は今んとこはない」


 ま、相手が相手だしな。ウルド様並みの術式理解があるならもう一個の転移先も割り出されるかもしれない。


「対処法は一つ、攻略はお早めにってわけか」

「まぁ今回はここまでにしておこう。二日三日休んでから再開でええじゃろ」


 女王の一言で休息が決定。そういえばもう一つの転移先って?

 聞かぬままに転移する。


 衝撃は一瞬だ。暗転。暗黒の海から光瞬く水面を目指すような感覚は、現実の時間においては一秒のラグもない。


 眩しい。鼻腔をくすぐる森の香り。慣れてきた眼に映り込むのは昼の森だ。

 深い森の中、泉に浮かぶ石板の祭事場だ。


「ここは?」

「ネピリムの森じゃ。知らんか?」


 あぁあそこか。ラトファの故郷の森だ。いやー…いやー……

 色々あったでは片付けられないよね。最後は飲み会で楽しく終われたけども、いやーひどいバトルでした。


 クルーゼが含み笑いで訂正してくれる。


「いや、彼は知っている。去年はレスバに参加してくれたのだ」

「そーいや誘われた気がするのぅ」

「ウルド様もお越しになればよかったのだ」

「いやじゃ、レスバじゃからと言って総攻撃されるのが目に見えておるからの」

「ハイの方々の腕前を知れば皆益々励むでしょう」

「励んだ腕でまた挑んでくるのじゃな。キリがないわい……」

「ウルド様も大変だね」


 レスバ族のバトルジャンキーどもがハイエルフの女王を倒したという称号を求めて一斉に飛び掛かる光景が見えるぜ。何しろレスバは神聖な儀式で無礼講だ。無礼ぶち上げる気だ。


 一年越しになってようやくレスバ行きを断られた理由がわかってホッとしたわ。

 あれから何かビビっちゃって誘いにくかったんだよね。俺ガラスのハートだからさ。……正直ロリババア連呼したせいで怒らせたかと思ってたわ。


 祭事場はレスバ族の里のちょうどド真ん中にあるね。すぐ傍の大木がクルーゼの家で、招かれてしまった。


 エルフの家は大樹の洞を利用したものが多い。森の精霊にお願いをして木が痛まないように生活空間を作ってもらうんだそうな。精霊と対話のできるエルフは希少だ。百人に一人か二人くらいしかおらず、族長やその妻ってのはそういう希少な能力を持つから崇められているんだ。


「お客人はゆるりとしているがいい。私は里の様子を見てくる」

「フェイ、狩りにいこうよ!」

「いいぞ。僕も森歩きは好きだしな」


 自由時間になると秒で狩りに出かける狩猟カップルである。レテも森の中だと活き活きしてるし、やっぱり街の暮らしは窮屈だったんだろうな。


 なんだ、シェーファが肩を組んできたぞ?


「近くに町はないのか? 大きな町だ」

「やっぱホテルのほうがいいのか?」

「ただで泊まれる場所にケチなどつけん!」


 迫真ツッコミかよ。安上がりなホテル王だ。


「ほら、深層の魔物の素材が幾らになるか気になるだろ? じつはさっきからそわそわしてしまってな、このままだと眠れないぞ」


「たまにはお金のこと忘れようとか思わねえのかよ。せっかくのエルフの里だぜ」

「大儲けした後に楽しむよ。なあ、気になるだろぉ~~~」


 めっちゃ顎撫でられてる。テンション狂うくらいの儲けが出る見込みなんだな。


 アビスナーガの防御力を考えれば素材はかなり優秀なはずだ。精霊獣並みの値段がつけば一頭で金貨数千枚だ。それが山ほど収納されているんだ。


 ストレージとかマジックバッグとか収納スキルって超チートだよね。普通の冒険者はクソ重いワイバーンやマンティコアを担いで帰ってるんだぜ。素材の解体や加工は時間との勝負だ。早ければ早いほど売れる部分も多くなる。逆に言えば腐敗が進むと廃棄確定だ。


「何の話をしてるんですか?」

「ユイも来い、近くの町まで深層の魔物を売りに行くところだ」

「いいですねえ!」


 まだ何も言ってないのに町行きが決定してしまった。どうせグータラする予定だったからいいけど。


 王都の様子も気になるが、一先ずは仲間孝行かねえ。


「ベティ、近くの町まで飛んでくれるか?」

「いいけど町? どこの町?」


 クルーゼの奥さんのナウシカさんに頼んで地図をお借りする。……レスバ強そっ!

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