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王都地下迷宮 深層④

 王都地下迷宮を出ると通りはえらい騒ぎだった。悲鳴が行き交う大騒ぎをなんのこっちゃと眺めていたら、遠くの空から竜の咆哮が聞こえてきた。


 王都北の森の空を二頭の巨大竜が旋回している。竜って大きくても60メートルくらいだよね、っていう人々の希望をあっさりと打ち砕く高尾山クラスの竜が二頭だ。そいつらが森に向けてブレスを吐いてる。


「世界に破滅をもたらす地獄の使者かな?」

「見た目そんな感じじゃのう」


 北の森はもうえらいこっちゃだ。クリスタルの牙のような氷柱が乱立し、魔王城のあるエリアみたいな見た目と化している。

 帰宅そうそうに大罪教徒をぶっ潰してくれるホテル王パネー。


 そしてなぜかウルド様がしょんぼりしておられる。


「ワシ戻ってきた意味あったかのう」

「人生そういう時もあるって。森へ行ってみよう!」


 北の森では急行してきた騎士団とホテル王の対談が行われていた。

 っていうと誤解しかない。シェーファが静かに恫喝している。


「早く名乗れ、君達はどこの誰だというのだ?」

「いえ、その…あの、我らはただ竜が出てきたからこうして先遣としてですね、偵察に来ただけでして……」


「私達の戦闘行動は正当防衛だ。森に巣食っていた怪しい連中に襲われたから退治しただけだ。なのに君達は私を連行しようという……」

「いえ、ちがうんです、ちょっと事情を聴きたいだけっていうか……」


「いいから名乗りたまえ。早く名乗れ、名乗れ!」

「うううぅぅぅ……名乗ったら絶対ひどい目に遭う気がする」

「実家が、実家が狙われるぅ……」


「大丈夫だ、別に名乗ったからって君達が今後一切どことも商取引できなくなるなんて事態は起きないから。もちろん私のちからを用いれば君達の親族全員を飽食を享受する都市の中で飢え死にさせる事など容易いし、さらなる悲劇を行うことも簡単だが……名乗れ」


 騎士団小隊の心がぽっきり折れる音が聞こえてくるぜ。騎士は貴族階級の中でも下級の方々が多いから、大富豪による経済制裁には大変弱いんだ。

 皆さんがちらちら視線でやり取りをし、代表するように隊長さんが出てきた。


「あのぅ、もう帰りますんで。何もなかったことにしてください」

「そうしろ」


 騎士団がすごすご帰っていく。ホテル王が強すぎる。

 俺にとってこいつらはどうでもいい。問題はシェーファにお姫様だっこされてる姉貴の方だ。ハートの目してるんじゃないよ。


 弟と姉の感動の再会は割愛。シェーファとの仲人をしろと言われただけだ。やめておくんだ、奴だけはやめておくんだ。


「大罪教徒をぶっとばしてくれて助かったよ。クラウとかいうクソメガネ見かけなかった?」

「兄貴さんの仲間のメガネなら見たぞ。よくわからなかったが向かってくるからワンパンしといた」

「死んだ?」

「死なない程度にやっておいたが、もしかして殺した方がよかったか?」


 あのレベルの幻術師の生死も自由自在か、なんて頼もしいやつだ。

 この後この極大戦力を迷宮攻略に引き入れるための簡単な交渉が行われる。大金用意するだけでいい、子供でも可能な簡単な交渉だ。



◇◇◇◇◇◇



 ファトラ君がクラン『サ・トゥーリー』に約束した報酬は前金の30万ユーベルと迷宮攻略の間に手に入るすべてのドロップ品や魔力結晶。ただし条件として下請けでレスバ族の傭兵団グランキュールを口説き落とす事。

 ウルド様個人に対しては太陽の王家が秘匿する秘術を幾つか。この契約でエルフの超戦士200名を雇用した。


 ここに銀狼団をプラスすると当然問題になるのが報酬面だ。


「私達もグランキュールと同格の威風がある。この腕を安く売るわけにはいかん。よって前金30万ユーベルは当然の事として、同等の報酬を要求したい」

「迷宮攻略品を半々にしろという話はわかるがのぅ、ワシらも遊びではない。結んだ契約内容を後から変えろと言われても困るんじゃ。のぅファトラ坊や、どうする?」


 両者のこの言い分に対してクソほど簡単な解決策がある。

 戦力が二倍になったからって迷宮攻略品まで二倍になるわけじゃない。じゃあどっかから同額補填すればいいんだよ!


「ファトラ君、この交渉を簡単に締結する方法はわかっているか?」

「うむ、攻略後に査定を行い、同額を銀狼団への報酬とする」


 若きホテル王が厳しい顔つきのままだ。しかし目に見えない奴の尻尾は歓喜の形にぶんぶん振れてる。おまけが欲しいわけだ。

 買う時は必ず値切る。売る時は必ず増額を要求する。ドケチだからだ。

 例え内心ニッコリしてても一応要求する。ドケチなら少しでも多く引き出そうとするからだ! このロジック強いよ、この世のドケチのすべてがこの内容で言い当てられるもん。


「ファトラ君、プラスが必要だ。俺はレヴァティーン・レプリカントがいいと考えている」

「うむ、この場で双方に一本ずつ贈答する用意がある」


 大盤振る舞いだ!

 傭兵は雇い主の格を見定める生き物だ。そいつがケチか気前がいいか、この性質を見極めないと安心して戦えないからだ。例えば契約時に結んだ条件が後で変なふうに解釈されないかとかだ。


 遺族への見舞金や傷病者のフォロー、攻略におけるポーションや糧秣などのフォロー。こうした部分が契約によって見える化されているから安心して戦いの場にいける。

 気前のいい雇い主なら成果が良ければボーナスもくれるしね。傭兵も大張り切りだ。


「よい条件だ、契約しよう」

「噂のホテル王を雇えて僕も満足している。そのちからは結果で示してほしい」


 ファトラ君とシェーファががっちり握手。ちなみに俺も事が終わり次第ガランスウィードの宝槍を一本貰う予定になっている。さらに太陽の宝物庫から好きな物を貰う約束もある。


 ちょっと不安になるほどの大盤振る舞いだけど迷宮暴走からの復興にかかる金額と比べたら微々たるものだ。だって市民二桁万人と下層街と中層街の全損だぜ。


 双方大満足の契約成立の握手の後、シェーファの目がキラリと輝く。儲け話に敏感なホテル王の目だ。


「迷宮攻略に関してはこの条件で協力するとしてだ、女神退治の方にはどういった報酬を用意できる?」


 第二ラウンド!

 小銭王が小銭欲しさに暴れ出す!

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