リターナー・リベリオン⑥
俺は正座でベルクス君とベティが怒りの仁王立ち。
俺はめっちゃ早口で事情説明をしている。
「はあ? たった七日でメンタル逝っただと? 雑魚すぎんだろ」
「世界の終わりみたいな顔してたと思ったらそんな理由で……逆に驚いたわ」
「いやいや、仲間が全滅したと思ったらメンタル死ぬって。普通こうなるって」
「他の女とよろしくやる余裕はあるじゃん」
ぐぅの音も出ねえ。
キメ顔はやめてくれ。お前が生きてて喜んでいるんだ、素直に喜ばせてくれ。
「私はみんなを信じてたぜ。だから戦う意思をつないでいる」
「超戦士みたいなセリフ吐きやがって。でも安心したよ、お前が生きててくれたなら他の連中の生存も信じられる」
ベティを交えて情報交換する。
ベティは空中都市を中心に捜索活動をしていたらしい。
「なんで空中都市なんだよ。俺ら絶対いかねえじゃん」
「過去視できるハゲ先生捜したほうが早いじゃん」
そりゃそうだ。
でもコッパゲ先生は見つからなかったらしい。ベティでも追跡できないとは先生もやるねえ。その有能さは別のところで発揮しろよ。
バトラ兄貴とグランナイツ組は発見したらしい。銀狼団の武家屋敷だってさ。そういや東方移民街は行かなかったな。盲点だったわ。
「シェーファは?」
「ライカン村からまだ帰ってないみたい。バトラ君ならウルド様連れてくるって森に向かったよ」
名案だな。ファトラ君でも自殺行為と断言する術理空間を最強種族のパワーで打ち破る気か。突破できなくても助言はくれそうだしナイス。ウルド様の趣味って魔法の研究だしね。
翌日、久しぶりにファトラ君が顔を出した。
ベティを見るなりギョっとしたファトラ君だがガレリアと散々敵対してきた経緯があるから仕方ない。敵対組織の暗殺者が目の前にいると身構えるのは当然だ。
「不安要素は抱え込みたくないのだが……」
「ファトラ君、ベティは俺の仲間だ、信じてやってくれ」
「女性に関する同士リリウスの目は信用ならんと歴史が証明しているのだがな」
歴史て。
たしかゴースト先生は寝取られマスターとか呼ばれていたんだったか。交際期間は長くて三か月。破局にはいつも女性側に新しい男の影があり、振られる度にドレイクとファトラ君を呼んで破局パーティーやってたんだったか。
ベティがずいと前に出る。
「もし私が裏切ったらハゲの頭皮を焼いてもらって構わないから信じてほしい」
「こんな事を言う娘を信じるのか?」
「悪いジョークではあったけどねえ。ベティ、空気を読んでユノ・ザリッガーでも賭けとけ」
「えー」
愛剣と俺の頭皮で愛剣を惜しむんじゃねえ。
「まあ裏切る予定ないからいいけど」
「そこにもっと早く気づけ馬鹿。惜しまれると裏切るつもりがあるって勘違いするだろ」
「お小遣いくれたら裏切る意味もないほど遠くでヴァカンスしてるけど?」
「羨ましいだけだからやめなさい」
「けちー」
ベティが信じる神の名に誓い、信用問題が解決した。ハゲ神ってのは誰の事だい? 俺もそろそろ怒るよ?
ファトラ君が本題に入る。
「ディアンマだが相変わらず動きがない。ここ一週間は屋敷にこもったっきり出てこないのだ。使用人の前にも姿を現さず、部屋からは絶えず咳が聞こえてくるそうだ」
「季節の変わり目だし風邪でも引いたかな?」
「実際そうかもしれん。あれも肉体的には普通の人間だ、器の強度はそこまでではない」
女神が思ったより雑魚い件について。
風邪をこじらせて死んでくれると楽なんだがな。
「活動的だったディアンマが引きこもっている今が好機と言いたいところだが、妙なやつが台頭してきたせいで王都内でのレジスタンス活動の支援だが旗色が悪い」
「妙なやつ? 未来の知識にない人ってことか?」
「そうだ。シャピロ方面の諜報活動に出ていた三等魔導官のルーザーという男が反抗勢力狩りの任についてから、レジスタンスを密かに支援していた貴族がやられている。僕の世界においてルーザーという魔導官が台頭したという史実はない。おそらくは同士と同じく変化の揺らぎによって現れた者だ。同士にはこの者の素性を洗ってほしい」
「おっけー。倒す必要は?」
「判断は任せる」
じゃあ俺の当面の標的はルーザー三等魔導官か。
方針が決まったところでファトラ君が新たなカードを一枚切る。これが中々の爆弾発言だった。
「僕が支配下に置く王都守護結界の緩和を行おうと思う」
「以前はナルシス君が管理者をしていた守護結界は別の人が管理者になったと思っていたけど、ファトラ君だったの?」
「いや、現在は王都魔導院の一等魔道官六名による管理となっている」
???
ファトラ君が何を言ってるかわからないぜ。俺の知識を超える難しい話ですか?
「僕も遊んでいたわけではないという事だ。王都守護結界を僕の支配領域として書き換える準備が整った。騎士団と魔導院のみが魔法行使を可能とする不利な状況への一手として、限られた形ではあるがレジスタンス側にもパスを明け渡す」
「その言い方だと、騎士団側のパスも残すって聞こえるけど?」
「騎士団・魔導院は今まで通りだ。僕が許可を出した者にのみ秘密裏にパスを解放するだけだ」
ファトラ君が悪い策士の顔になる。
あの可愛くも恐ろしいファトラ君がこんな顔をするようになるなんて世も末だな。
「同士リリウスよ、隙は突くものではない、策を練り生み出すものなのだ。こちら側は魔法を使えないという思い込みが、ただの思念波ネットワークを架空の情報漏洩に見せてくれるのだ。……どれほどの混乱が起き、いったい何人の味方を投獄するか、楽しみであるな」
「あ…あの可愛いファトラ君の性格に歪みが……」
なんで太陽の王家の人って成長すると可愛げがなくなるんだろう。
あんなに可愛かったファトラ君が氷の策士みたいな顔になってんもん。全国のショタコンのお姉さん達の悲鳴が聞こえてきそうだよ。
「これより王都内の反政府組織を束ねる上位組織『リターナー』の結成をここに宣言する。末端の参加者が互いを認識し合う合言葉を作ろうと思うが、これは同士に決めてもらいたい」
「俺? 主導者はファトラ君なんだから好きに決めちゃいなよ」
「漏洩時に思想や性格を分析されたくない。迷彩の意味でも同士に頼みたい」
「なるほどね」
合言葉…合言葉か。
名付けのうまさには定評のあるリリウス君とはいえ急には出てこない。可能なら俺が関わっていると仲間達に一発でわかるものがいい。未だ消息の掴めないフェイやユイが安心して接触してくるような……
ルナちゃんと目が合った。オーヴのルナちゃんと目が合った。
俺の視線に気づいてベティもルナちゃんを見ている。よし、決まったな。
「じゃあ合言葉は―――」
この後俺はめちゃくちゃルナちゃんのひんしゅくを買い、三日間口も利いてもらえなくなった。




