リターナー・リベリオン⑤
順調に体制強化に努めるアルシェイス派と、彼をよく思わない者どもの戦いは、表向きは平穏に見える王都の、水面下で激しさを増している。
旧シュテル・ナルシス派は黄金騎士団や王都貴族に未だ多くのファンを抱えており、彼らは来る決起の日に向けて着々と準備を進めている。
俺は彼らをとりまとめるロード・ディスワードと接触して、騎士団の砦から盗み出した武装を渡す等の物資支援をする。
本日はディスワード邸の地下室で密会だ。
ステルスコートから取り出した木箱を積み上げていく。砦一個分の武器だから相当なもんだぜ。
「謎の義賊は凄腕だとは聞いていたがここまでとはな。よく騎士団の倉庫から盗み出せたな。見張りはどうしたんだ?」
「見張りもこの中だぜ」
「空間収納とはちがうのか? いやはやさすがは義賊だな」
ん? 空間収納魔法だと人間は入らないのか?
マジな話すると俺も原理的は知らないんだ。どう考えたってこのコート一枚にトレーラーや砦一個分の装備が入るのはおかしいもん。ありえないよ。いやー不思議だなー……
そういや便利だからって人間もホイホイ放り込んでたな。フェイ迎えに行った時の竜騎兵とかだ……
…………
……
生きてるかな!?
「ところで、見張りは生きているのかね?」
「ロード・ディスワードはさすがだ。俺もちょうど今気になりました」
「もっと早く気にならなかったのかね……?」
「色々と忙しかったもので。ほーらステ子、見張りの兄ちゃんを出せー」
コートの袖をぺしぺし叩きながら催促するが出てこない。
反抗期かな?
「ほら、出せ! 出しなさい! 早く出しなさいってゆってんでしょ!」
ぺっ!
コートから装備品だけ出てきた。
「な…中身は?」
「ステ子、中身どうしたの? 怒らないから言ってごらん?」
沈黙するステルスコート。最低の予感が俺らを貫いた。
「中身の人間をどうしたこの野郎! ステルスコート、正直に言いなさい、どうしたの!?」
俺は追及した。説明責任を果たすように野党のごとく責め立てた。しかしステ子はどこぞの総理大臣のように沈黙を貫いた。
俺の声だけが空空しく響く地下室に、マウザーちゃんのお声がぼそっと響く。
「あーあ、こりゃやってますわね」
さらばだ。
俺はステルスコートをひるがえし、颯爽とこの場から逃げ去ったのである。
俺は様々な勢力に支援物資やF情報を流し続ける。たまに約束した数に足りなくて俺が疑われたりしたが全部ステ子のせいだ。
支援は物資のみに留まらない。反政府パレードの鎮圧に来た騎士団に高所から黄金水をぶっかけてヘイト管理をしたり、政府要人の浮気現場を押さえてアルシェイス派から離脱させたり、まぁ色々やった。
でも仲間達の居場所は一向に掴めなかった。
北の森には毎日のように通い詰めた。だが森は相変わらず俺の侵入を拒み続けた。クソメガネがベッドの下に隠してた官能小説の朗読会までやってやったのにだ。
「クラウ、明日はカスペルの小窓の嬢を並べてお前の性技の感想を大声でバラしてもらうから覚悟しているんだな!」
指令のない時は可能な限り街を歩いた。グランナイツのハウス。フェイの昔住んでた家。ルピンさんの宿屋。俺達のクランハウス。でも仲間達の行方はいぜんとして掴めない。生きているか死んでいるかさえ分からなかった。
ギルドに行けば誰かしらに会えたけど、ギルドを失った時に俺らの絆まで消えてなくなってしまったように思えた。
「くそっ、あのメガネめ! 今度会ったらメガネ叩き割って3の目にしてやる!」
最近は何だか独り言が増えた気がする。
何だかよくわからないけど最近不安で堪らない。抜け毛も驚くほど増えた。……いつからかルナちゃんと肌を重ねるようになった。
きっかけなんて別にって感じだ。ただ不安な夜を過ごすには独りは辛すぎて、俺も彼女も孤独に耐えられるほど強い人間ではなかっただけだ。
最近自分が何をやっているのか分からなくなってきた。
今が現実なのか、夢なのかさえ最近じゃあ判断できない。
冷たい夜に抗う方法なんて、互いの体を手放すまいと抱き締め続けることしかなかったんだ……
「ルナちゃんは居なくならないでくれよ」
「はい、この身はずっとお傍に……」
俺とルナちゃんが見つめ合いながら最高にトレンディしてると……
ガシャアン!
なんだ、窓ガラスが割れたぞ!?
「いたいた、やっと見つけた」
なんだ、ベティが窓の向こうの屋根にいんぞ!? キックの態勢してんぞ!
え? ベティお前死んだんじゃ……?
「おーい、ベルクス君いたぞー!」
「マジかよ。森の方探してた意味なかったのかよ!」
え、ベルクス君もいんの?
窓から外を見ると見慣れに見慣れたFランの兄貴が石畳の裏通りを走ってきているところである。
そして俺の目の前にはベティのおへそがある。
「ベティ、お前死んだんじゃ……?」
「どこに話しかけてるの。つかメガネごときにやられるわけないし」
「でも死体見たし」
「あれフェイクだし。この肉体一個分の体積をダミーで出すくらい簡単だし」
なんとまあ。
どうやらメガネの相手が面倒くさいことに気づいたベティはやられたフリをして幻術空間の壁に擬態してやりすごしたらしい。器用なやつだな。
森から出た後はベルクス君んちに行って回復を待ち、俺らを探していたようだ。
そういう説明を聞いてる俺は呆然としている。死んだと思ってたやつが生きてたんだ。呆然くらいするもんだ。
「おいハゲ、ちゃんと聞いてるのか?」
「聞いてるに決まってるだろ」
ちゃんと聞いてるから嬉しいんだぞ。
いつもクールな金髪のじと目ロリを抱き寄せて、おもっくそ顎を撫でまわしてやった。もちろん愛情表現の一種だ。
「おかえりベティ」
「うん」
俺達は感涙。……泣けよ、そういうキャラじゃないの知ってるけどさあ。
「ところで……おハゲさん」
「なんだよ」
「これはいったいどういう感じ? カトリに通報案件?」
ベティの視線の先にはシーツで裸身を隠すルナちゃんの姿がある。はてさて、いったいどういういいわけをしましょうかねえ。
愛ってむつかしいね!