其々の現在② その頃のお馬鹿コンビは
一方その頃、フェイ達は北の森から逃れ、王都郊外のスラム街に逃げ込んでいた。
練度の高いエスカートの暗殺者に追い込まれ、逃げ込んだ先が森の外であり、どういう理由か再び森に入ることはできなかった。
フェイはこれを結界の管理者に拒まれていると理解した。いわゆるおま入である。
この説明を聞いたユイが小悪魔ふうに首を傾いだ。
「おま入ですか?」
「おう、お前が入るのは気にいらねえってやつだ」
「リリウス語録の影響がありありと見えるようです。ベティといい毒されすぎじゃないですかー」
「わかりやすくて何が悪いんだよ。高尚なだけの長い名称よりはマシだろ」
「怒らないでくださいよ、もうっ」
森から逃れてきた二人は以前カトリーエイルが住んでいた家で一晩の休息を取った。
鍵をこじ開ける必要はなかった。隣の部屋のおばちゃんとは顔見知りなので鍵を貸してもらえたのだ。
フェイは毛布をかぶって床に座り込みながら警戒をし、ユイはぐーすか熟睡する。
そんな夜がようやく明けて、お隣のおばちゃんに朝ごはんをごちそうして貰い、のんびりご飯食べてる時にユイがようやく言う。
「どうします?」
「合流したいが森に入れないんじゃな。昨晩は焦ってたから妙案が思いつかなかったが今ならどうにかできるかもしれん。もう一度アタックをかけてみよう」
「フェイのそーゆー楽観的なところは危ういと思います」
「なんだと?」
フェイが怒りかけたが一旦冷静になる。ユイは天才だ。天才の後に肌とかBAKAとか色々付くかもしれないが、追い詰められてからの閃きはリリウスと同等の挽回力がある。
冷静になれた理由は、ユイは困った時には頼れる女なので、一応聞いてみようと思い直したのだ。
「危ういって何がだよ」
「あれ多分アーティファクトだと思います。箱庭迷宮っていう人工迷宮を作り出すアーティファクトがあるって昔どこかで聞いた覚えがあるんです」
「詳しい性能はわかるか?」
「そこまではわからないですけど、もし本当にアーティファクトなら簡単に突破できるわけがありません」
一般的にアーティファクトは古い時代のマジックアイテムがそのように呼称されている。
学者に言わせれば現代では複製不可能な高度な魔法技術で作られた品をアーティファクトと呼び、その多くは魔法文明期や古き神々の遺産だとされている。
フェイは結界を解析して無効化してから突破すればいいのだと考えていたが、アーティファクトとなると話が変わってくる。
文字も知らぬ子供が難解な専門書を読み解くような話だ。
「どうすればいいんだよ? なんで偉そうな顔すんだよ!」
「ふふん、わからない時はわかる人に聞けばいいんです。ギルドに行ってルーに聞きましょう」
「ルー…か。あいつが知ってるとは思えないが」
「じゃあS鑑定のファティマさんです」
納得の代案である。
「そっちなら知ってそうだな。よし、さっさとメシを食っちまおう」
この後二人は冒険者ギルドへと行き、ガレキの山になってるのを目撃してからまたスラムに戻ってくるのである。……もう二時間遅かったならリリウスと合流できていたのに。
同じく森を逃れたバトラ達は東方移民街の銀狼団詰め所に逃げ込んでいた。
打ち合わせもなく再会するには王都はあまりにも広く、歩き回る自由もなかった。