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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
砂の魔獣ザナルガンド 編
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砂の魔獣を討て①

「イルド――」

「イルドキアを救うため、砂の魔獣ザナルガンドを倒す!」


 シェーファが俺の決めセリフを取りやがった。


 剣を掲げながら友を救う宣言をするシェーファの姿はまるで勇者のようだ。しかし冷静な大人達は渋い反応をしている。アルルカンがコッパゲ先生としゃべりだす。


「コッパゲ、本当に可能なのか?」

「だから私はコパだと言っているではないですか。理屈の上では可能というだけで実際にできるとは……」


 アルテナ様に抱き締められているミニティトがゆるキャラも同然の愛らしさで手を挙げる。


「君達では難しいんじゃないかな?」


 ティトの感情を口調から判断することはできない。意図を察することもできない。悠久の時を生きる存在とはそれほどに相容れない。

 ティトは善良な存在なのかもしれない。だがそれは俺ら人間の定義する善良とはほど遠い、強大な怪物どもの語る善性でしかない。


「君達はザナルガンドと戦ったことはないだろ?」

「私はあるぞ。一度は倒している」


「そいつは宿主だろ? ザナルガンドに寄生された哀れなトールマンを倒したからどうしたっていうんだい。そんなものは無限のザナルガンドの砂粒一つじゃないか。あれは倒せない、君達もそれなりに腕は立つようだが無限には敵わない」


「ティト神よ、あなたはザナルガンドと戦ったことがあるのか?」

「あれを封印したのはぼくらだ」

「あなたの協力があれば倒せる、そう言いたかったのか?」


「……伝わらないものだね」

「必要までお省きになるからですわ」

「簡潔にわかりやすく言ったつもりなんだけど。リリウスならわかったよね?」


 ティトよ、この際だから正直に白状するけど俺お前が何言ってるのかわかってねえぞ。でも聞き返すと話が長くなって面倒くせえからわかったふりしてるだけだぞ。


「そう仰いながらも理解なされているのですね……」


 いえいえ、わかってませんよ。推測による部分が多い話って理解じゃなくて、与太話聞かされた段階ですもん。一時間後には脳から放り出してるゴミ情報ですって。


「思念を混ぜて会話しないでくれ。リリウス、今の説明でわかったのか?」

「ま、推測くらいはできたわな。戦ったのは古代の大戦、オリジナルナインを率いていた古き神々が封印した。封印ってことは倒せなかったって事で、無限のってことはザナルガンドは寄生虫のような極小の群体生命体だと思われる。予想だが数が多すぎて倒せなかった?」


「近いね、強力すぎて倒せなかったんだ」

「となれば権能か特性の関係だな。とりあえず推測できたのはここまでだ。拍手すんな」


 温かな拍手が巻き起こった。

 このぐらいで何だよ、馬鹿にしてんのかって感じだ。


「すごいな、君はやはり頭だけはいいだろ」

「ハゲすごー」

「お前はやればできる奴だと思っていたが……いつもこれぐらいやれ馬鹿」

「リリウス君は他人の意見を聞き入れないで自己完結しがちという欠点を除けば回転の速い少年だったからね。貴族社会に関する知識不足は仕方ないにしろ、順調な成長が見れて嬉しいよ」


 ルーデット卿にまで褒められてしまった。

 おいお前達あんまり俺を持ち上げるなよ。褒められ慣れてないんだから戸惑うわ。


「やはり人間不信スキルを取ったのがよかったんだろうね。人を信じ人を愛し、人に尽くせば報いがあると信じられる事、それがリリウス君の成長につながったのだろう」


 と言ったコッパゲ先生がミニティトを見つめる。


「ティト神の話術にもたしかに問題がございました」

「すまないね、話し相手もいない旅暮らしだからこっちの腕はだいぶ錆びついてるようだ。話を戻そう。ぼくらアース神族は多くの犠牲を払って封印に留まったんだ。神王級の神が七人、属神がたしか六十ほど、オリジナルナインの三種族を絶やしてようやく封印だ。意欲は買うが軽い気持ちで手を出してほしい封印ではないんだ」


 話聞いてるだけで無理なのがわかるな。

 セルトゥーラ王と同格の連中が種族単位で三つ滅ぼされてるって時点で挑むのはありえない。でも好奇心で聞いてみよう。


「封印の位置は?」

「時々君がどんな奴かわからなくなるから困るよ。ほら、前にウルド姫と一緒に会った場所だよ」

「廃都イルテュラか」

「うん、神殿の地下に迷宮を作ったんだけどその一番地下の湖に沈めてある。本当にやめてよね、今の戦力じゃ再封印なんて不可能なんだ」


 はい、はい。


「信用できない返事だなあ」


 わざとだ。


「そんならいいけどさ」


 シェーファがキレる。


「だから思念を交えて勝手に会話するな! イルドキアを助けられるのかできないのか、それだけを言ってくれ!」


「可能性はあると思うよ。ぼくもこんな事をやるのは初めてだし、再接続の危険性や接続先が別の人間になるかもしれないと不安ばかりが積み重なるが、そのイルドキア個人とザナルガンドを切り離せるかもしれない」

「教えてくれ、どんな方法だ?」


 ミニティトがクロノスを指さす。深刻な話し合いの最中にも夢中で蜂蜜舐めてる息子にみんなの視線が集中する。


「面白い子だ。まだ大したちからはないが成長次第では化けるかもしれない。彼のちからを使えば可能性はあるけど、やってみるかい?」

「……」

「……」

「……」


 無言だ。ものすごく重い沈黙だ。

 あのねティトさんや、みんなね、クロノスにどうにかしてもらおうって話をしていたんだよ?


「……そうだっけ?」


 さては話も聞いてなくて反射的に反論しやがったな?

 俺らは思った。思ったけど失礼すぎるから誰も言わなかった。この中で一番アホなのはティトかもしれない。



◇◇◇◇◇◇



 クロノスの持つ消去の権能は強力な能力だ。強力だがデメリットも多い。


 神は神を殺して神気を服従させてより強い存在へとクラスアップする。しかしクロノスは対象を消去してしまうので従えるべきちからまで消してしまう。しかも自分の神気を使用して相手を倒しているのだから補充も利かない。

 クロノスは己を傷つけながら戦っているようなものだ。


 そういう説明をしたティトがアルテナ神を見上げる。お膝にいるからだ。


「この解決方法は一つだけだ。他人から神気を分けてもらえばいい」

「いやです」


 アルテナ様が速攻で拒否なされたのでティトが焦る。


「え…いやなのかい?」

「アルテナはその子がきらいです。絶対にいやです」

「アルテナがここまできらうなんて……」


 助力を求めてティトが俺らを順繰りに見つめる。しかし相手はアルテナ神だ、生半可な説得は通じない。リリウス肩たたきの封印を解くときがきたか。しかし、背後の回るのを警戒されている今の俺にできるだろうか……!


 ルーデット卿が動いた。

 アルテナ神の御前で膝を着く伊達男卿が堂々たる態度で発言する。


「アルテナ神よ、アルトリウス・ルーデットである」

「あ、ルーデットの方でしたの。もしやカトリ様の……」


 覇王のオーラ全開のルーデット卿に若干弱腰のアルテナ様だが、卿は甘い空気など出さない。


「御高名を尊ばれるならちからを授けられよ」

「名などわたくしは……」


「名は貴女を尊ぶ万人の想いが為した物。癒しの守護星アルテナの有名は貴女を崇める神官どもの善行と献身が生んだはず、これをお裏切りなさるな」

「裏切るなんて…わたくしはただ……」


「あれなる子供をきらうというだけで一人の青年を見捨てる。説得にも耳を貸さず頑固に意地を押し通す。それが名にしおうアルテナ神の行いとはとても思えない。重ねて助言いたす。神殿の威信を貶める行いをなさるな。他ならぬ神官どものために!」


 ルーデット卿が後ろに回した指をクイクイしてる。全力でこの流れに乗っかれというサインだ!


「俺もッ、アルテナ様の格好いいところ見たいです!」

 ってヨイショした瞬間、仲間たちの瞳にお察しの輝き。


 ぴこーん! コンボがつながるよ!


「僕もアルテナ神は慈悲深い女神だと聞いているぞ!」

「美しく聡明で!」

「海のごとく深い愛情と慈しみを持っていると聞いたね!」

「子供が生意気を言っただけではありませんか。いつまでも気にしているなんてアルテナ様らしくないです!」


 怒涛のコンボが連なっていく。

 上げて上げて上げて天高くまで気持ちよくなってもらう! 見え透いたお世辞と思われようが何だ、お世辞だって百回言えば真実になる!


 しかし徐々にみんなの勢いが衰えていく。まさかボキャブラリー切れか?


(フェイ、シェーファ、合わせろ!)

((任せろ!))


 アイコンタクトからゼロ秒でビールジョッキを用意したフェイが投げる。ジャンピングキャッチしたシェーファが秒でワインを注ぎ、俺が華麗なるターンを決めてジョッキを差し出す!


 まるでお姫様に剣を差し出す騎士のような華麗な構えからの―――


「アルテナ様の!」


 リリウスコールじゃああああああ!


「ちょっといいとこ!」

「見てみたい! はい!」


「「イッキ! イッキイッキイッキ!」」


「えっ、え? え? え……?」


 戸惑う処女神。手本を示すかのようにシェーファが注ぐ酒をイッキしまくる俺。なぜかイッキコールに瞬時に対応するルーデット卿。コールかけてから二秒以内に参加してくるとかすげえな!


 戸惑うアルテナ様がおそるおそるジョッキを口にする。


「えーい!」


 見事なイッキ飲みだ。神の名は伊達ではないな。

 しかし恐れ多くもいくぜ! おかわりだ!


「あれー?」

「どうしたリリウス」

「フェイ君聞こえた?」

「いや、そういえば聞こえなかったな」


 この慣れた猿芝居にきちんと引っかかってくれるアルテナ様である。


「な…なにが聞こえなかったのです?」


「ふっ、ごちそうさまさ」


「「ごちそうさまが!」」

「聞こえない~~~~~~~!!」


 みんなして両手を突き上げての大コールである。ベティの暗躍もあってみんなにコールの流れが行きわたっている。さて幹事の適性があるな?


「さあジョッキを持ってぇ!」

「ワインを注いで!」

「さあいってみよう! イッキイッキイッキ!」

「えーい!」


 アルテナ様がイッキ飲み! 大好物はニンジン酒というだけあってけっこう強いです。つまり! まだまだ飲み足りないってことですね!


「んくんくんく……ごちそうさまですわ!」

「ルーデット卿、どうでした?」

「タイミングが少し遅れたのではないか?」


 賭ける気持ちで卿に振ってみたら完璧な難癖が返ってきた。


「「SOSOUだァー!」」

「エス・オー・エス・ユー、粗相!」

「エス・オー・エス・ユー、粗相!」


 みんなの手拍子が飲みたい気持ちを高めてくれる!


「え? ええぇぇぇ……不正ではないですの?」

「審判は公平だよ」


 さらっと嘘をつくルーデット卿ぱねえ! さすがカトリパパ!


 みんなの想いがつないでくれたコンボだ。これを切らすのは男じゃねえ。もう何をやっても抜け出せないイッキ飲みループだ。お酒のちからで気持ちよくなったところで快諾していただく!


 アルテナ様はこの後七杯飲んですっかり良い気分になられ、クロノスの強化をご快諾なされた。

 ジョッキを掲げるアルテナ様が宣言する!


「まだまだ飲むらお~~~~~~!」


 宴会はまだまだ続くぜ!



◇◇◇◇◇◇



 いやぁ昨晩は盛り上がりましたね……

 お酒に強いアルテナ様が並居る強豪どもを酔いつぶした後に始まった神と俺との飲み比べ、あの世紀の名勝負はご覧になられましたか?


 翌朝、俺は運河までルーデット卿の見送りに来ている。午前三時まで飲んでたから朝日が目に辛いぜ……


 時刻は午前四時半。もうすっかり明るいが、まだ早朝の人気のない街並みを肩を並べて歩いてく。


「楽しい酒だったね」

「マジすか? 卿もまだまだお若いですねえ」

「はははは。状態異常無効化フィールドを貼り付けている女神に飲み勝つリリウス君ほどではないよ」


 アルテナ様は不正を働いていた。というか酩酊などの状態異常がある一定値まで来ると自動回復する権能をお持ちなのだ。そんな女神に飲み比べで勝つ方法はただ一つ、アルテナ様のお腹がパンパンになってもう飲めなくなるまで耐久戦を仕掛ける事だけだ。


 大橋の脇道がスロープになっていて、こいつを下って運河通りに入る。

 運河沿いの直線をのんびり歩く。


 この先に大きめの船が入れる桟橋があって、ベイグラント海軍の迎えが来るらしい。


「卿はどちらで海軍総督を?」

「ノース・エディンバラで北海を担当するという話だったが、ウェルゲート海で艦隊を持つことになったよ。ウェンディゴ市は知っているかね」

「ええ、立ち寄ったことがあります」

「南に大きな軍港がある。豊国の最後の防壁と呼ばれるガフガリオン大要塞だ。まずは副司令からと頼まれてしまってね」


 いきなり国防の最後の砦の副司令官とは恐れ入る。

 敵だからこそルーデットの怖さと頼もしさをわかっているつもりなんだろうな。敵側から見てるだけじゃルーデットの怖さは絶対わからねえって! 味方でも怖いんだぞ!


「遊びに行ってもいいですか?」

「遠慮なくきたまえ。そうだな、カーライル級の操船でも仕込んであげよう。本来五人で乗り込む船だが熟練の船乗りなら二人でもできる」


「いきなりハードな訓練はやめてくださいよ」

「君は呑み込みが早いからすぐに慣れるよ。海では心が自由になる。陸の面倒くさい悩みなど海と向き合えば吹き飛んでしまうよ」


 大きな桟橋が見えてきた。豊国の国旗を掲げた軍艦がすでに入港している。あれはオーグ級巡洋艦かな?


 どばん! 軍艦の船室のドアが蹴り開かれたぞ? 室内から出てきた美しい王女様がキョロキョロしておられる。あいつは……


「ラストが出迎えとは剛毅ですね。ルーデット卿?」


 あれ? 今まで俺の隣にいたルーデット卿がいなくなったぞ?

 代わりにラストがこっちまで走ってきた。


「わあ、リリウス君久しぶりぃ!」

「久しぶりってほど久しぶりではないような?」

「半年ぶりは久しぶりよ。ねえねえ、ルーデット卿を知らない?」


 どう答えるのが正解なんだろう?

 とりあえず知らんぷりしとこっ。


「いいえ、知りません」

「そうなのねえ……」


 残念そうに項垂れるラストさんである。

 この後軽く世間話をすることになる。なんかもう普通の世間話だ。竜の谷から直でこっち来たって言ったら「相変わらず変な冒険してるわねえ」って呆れられた。

 カトリの政略婚の話をすると悔しがり始めた。喪女同盟の話マジだったのね。


「でもわたくしにも希望はあるの!」

「まさかルーデット卿を旦那さんにするつもり?」

「うん!」


 満面の笑顔で言い切られたぁ……

 ラストはカトリをお姉様というふうに慕っている。将来的に義理の妹……いや戸籍上は義母になるのか。そういう形になるだろうと踏んでのことだったのか……


「誰もいなければカトリ様と結婚しようと思っていたのだけど」

「色んなものが面倒くさくなるからそれはやめてくれ」


「お願いリリウス君ッ、わたくしとルーデット卿の間を取り持って!」


 なんやねんこの板挟み!

 ラストから逃げ出した、この事実だけでルーデット卿のスタンスもわかる。さすがに娘より年下の奥さんはいやなんだろ。


 ルーデット卿がラストを恐れている線だけは確実にない。なぜなら卿の二人の子供も似たような人種の怪物だからだ。むしろ怪物の扱いは得意まである。


「まぁその件に関しては前向きに善処するということで」

「急におじさんみたいなしゃべり方しちゃってっ! そういえばリリウス君って聖域にはいつからいるの? もうココアには会ったかしら?」

「ココアって……」


 無実の俺らを追い回した挙句北の修道院に送られたルナココアか。ラストの妹の!

 そういやそんな奴もいたな。


「なんでココア? あいつ北の修道院に放り込まれたんじゃなかったの?」

「先月からこちらの教会でシスターやってるはずよ」


 北の修道院はとても良いところだったらしい。

 孤児という境遇にも関わらずけなげに生きてる素直でいじらしい子供たち。皆を愛する慈愛溢れる同僚たち。そんなみんなを暖かく見守る修道院長のおばちゃま。そんな素晴らしい環境の放り込まれた狂犬剣士のルナココアである。


 ある日の夕方、子供たちと一緒に干したシーツを修道院内に運び込む瞬間に、鼻歌を口ずさんでいる己に気づいたらしい。で、ルナココアはこう思ったそうな。


『ダメっ! このままでは牙が抜け落ちる!』


 ルナココアは聖アルテナ教会のおえらいさんに頼み込んで聖域の教会に移籍させてもらったそうな。で、こっちで布教活動にいそしんでるんだってさ。


「変な奴だなあ。そんな環境なら俺が住みたいわい」

「ねー、せっかく評判のいい修道院見繕ってあげたのに」


 ルナココアの戦い方は命を投げ出すような苛烈なものだから、姉として騎士はさせたくないんだってさ。


 このあと教会に行って礼拝堂の掃除をしてるルナココアと雑談。騎士団への復隊を希望するルナココアを拳で黙らせるラストの狂気ブチギレを見物してからそっと俺だけ抜け出してきた。


 教会を出ると何もない場所からルーデット卿が出現する。この人の潜伏魔法も神懸ってるよね。


「さてと、ザナルガンド退治だったね、私も同行しよう」

「え、ベイグラントから来ているお迎えはどーすんすか?」

「ささいな行き違いがあって私はレイクバードを離れていたのだ」


 そういう筋書きですか。


「そこまで嫌なんですか、噂とちがって心根は優しい女性ですよ」

「であればこそ、こんなおやじで渋々手を打つのではなく、きちんとした青年と結ばれるべきだと思うよ。それにね」


 卿が見つめる方向は真東。王都のある方角だ。


「私の復讐に十年も付き合わせてしまった女性がいる。責任だけは取らせてほしいのだが……」

「シシリーは取らせてくれないでしょうねえ」

「取らせてくれなかったよ。王都に戻ったらカトリの行方を伝えてあげてくれ」


 ギルドに辞表を出してフェスタに渡航するシシリーの姿が目に浮かぶぜ。


「わかりました、シシリーのことはお任せください」

「うん、頼むよ」


「……まるでお別れみたいな雰囲気になっちゃいましたね?」

「まさかこれからザナルガンドを倒しに行こうなんて、そんな雰囲気ではないね」


 とはいえ行くのである。

 ドンの家に立ち寄って仲間を招集。みんなあの宴会の後だからひどい顔だ。


 湖のど真ん中に聳え立つアルルカンの屋敷からローゼンパーム北の森のティト神殿を経由して……

 以前ジベールの王墓につながっていた扉が消えて、ただの壁になっていた。


「あちらから出入口を塞がれたな。となればフェニキアのユーディーンからイス・ファルカに行くほうが早いな」


 便利すぎる。どこにでも行けるティト神殿の有能さがティト本人の無能を打ち消している。


 フェニキアの王都ユーディーンも久しぶりだ。クロノスを連れてアシェルを尋ねたけど留守だった。間が悪いことにローゼンパームへの外遊に出ているらしい。


 クロノスがラサイラの学生寮にいる事は伯爵が手紙で伝えていたので、おそらくは宗主国のご機嫌伺いついでに迎えにいったものと思われる。これ聞いてクロノスが一気に不機嫌になった。


「……仕方ない、いま少し愚物どもに付き合ってやるか」

「このまま帰るつもりだったのか」

「余はイルドキアなどどうでもいい」

「ま、人助けだと思ってもう少し付き合ってくれよ。これが終わったらアシェルのところに行こう」


 順調に事が運べば二日とかからないはずだ。

 作戦スタートである。

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