最終試練へと挑む者達③
九つに節で分かれたガラスの蛇の金属体に大戦斧を叩き込む。手応えは皆無。切断するつもりの振り落としが命中した金属体だけがクルクルと回転している。斬撃のエネルギーを完全に逸らされたのか!
ガラスの蛇が九つに分かれて飛翔する。頭上へと飛び立ったと思ったら即座に雨のように降ってきたので回避する。
こいつはガラスの蛇じゃない。九つの六角柱すべてが独立した金属生命だ。
九つの金属体が弾丸のような体当たりを仕掛けてくる。攻撃方法はこれだけ? まさかな。だとしたら弱すぎる。物理攻撃しかできない竜なんて空間系術者の餌でしかない。
まずは物理攻撃を無効化させてもらう。手札を隠しているなら晒せ!
「ディストーションフィールド起動」
空間歪曲のフィールドを全身にまとう。これにより俺に命中した物理攻撃は掠りもせずに通過する。……俺の物理攻撃も封じられたけどな。
頭上に集まった九つの金属体が散弾のごとく降ってきた。結果は地面を破壊するだけだ。何度やっても俺を通過してしまうので、ガラスの蛇が戸惑うふうに辺りを高速飛翔しながらの様子見に切り替えている。
マジで物理攻撃しかできない雑魚なのか?
ガラスの蛇が空中で連結。一本の長い槍となって垂直落下してきた。確たる理由はないがやばい気がするから回避だ! でも気になるからステルスコートの端っこに掠らせてみる。
ガラスの蛇の頭がステルスコートの端っこを切り裂いて地面に潜っていった。歪曲空間が破られた理由は不明!
ついでに地面に潜られたな。居場所は何となく掴めるけど、あの速度で地中から串刺しにされるのはまずいので空渡りで空中にあがる。
地中からガラスの蛇が出てきた。先ほどと同じ一本の槍のように連結して、空中にあがった俺の幻影身を刺し貫く。やったぜ、こいつ馬鹿そうだから引っかかると思ったんだ!
串刺しにされた俺の幻影身の周囲は歪曲空間だ。抜け出すのは簡単にはいかねえぜ。
強度透明化を解き、ストックしていた魔術の解放に注力する。
「空間を接続する。閉じた輪の中に放つは無限の痛みをもたらす秘術。鏡映しのごとき永遠に苦痛の中で死に絶えろ! 連死想カラバ!」
歪曲空間にスキル・エクリプスから引き出したエナジーをたっぷり塗りこんだ痛みの魔術を放り込む。
連死想カラバは未完成だ。制御だって甘いし、術式を理解し切れているとは言い難い。そんな魔術で竜の魔法抵抗力を貫通し、霊体にダメージを与えられるわけがない。……単発ならの話だ。
魔法抵抗力は魔法を一撃くらう度に一時的に減衰する。二発くらえばさらに減る。三発以降だって当たり前に減る。無効化能力じゃない、あくまで抵抗力だからだ。
俺の未完成な連死想カラバでも仮に百発打ち込めれば、竜のレジスト値を破れるかもしれない、そういう話をしている。
ガラスの蛇を無害通過した連死想カラバが閉じた空間をグルグル回る。永遠に回り続ける。やがて訪れるガラスの蛇の魔法抵抗力の減少した値と連死想カラバが釣り合うまで永遠に閉じた空間の輪を回る。
均衡が破れ、ガラスの蛇が光の粒子に溶けて消えていく。
「ガラスの蛇、お前が馬鹿なアンデッドで助かったぜ」
懐中時計を開いて時刻を確認する。リミットの午前10時まで4時間02分。
休憩は必要ない。意思さえあれば足は動く。残り三頭と呟く俺は笑えているだろうか。