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悪役令嬢の手下Aだけど何か質問ある?  作者: 松島 雄二郎
竜の谷 死竜の迷宮 編
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修業の終わり 春の訪れ

 楽しくも過酷な修業の日々の合間にはリフレッシュタイムが必要だ。シェーファと聖地の食べ歩きをしていると、かきごおり屋さんを見つけた。

 市内はともかく谷の外は吹雪いてるのに……


 男勝りな顔立ちのダージェイル系の店主さんはアルステルムでかきごおり屋を開いたが真竜に誘われて聖地に二号店を出したそうな。どこから突っ込んでいいかわからないよ。


「いやぁ、珍しい立地とは聞いていましたがまさか竜の谷の中だなんて想像もしなかったわ。アハハハハ!」

「おい、この女性おかしいぞ。絶対神経がおかしい」

「この町を何か変だなーとか思わなかったんですか?」


「お客さんは紳士だし設備はしっかりしてるし天国みたいなものよ。儲けもいいしね?」


 人間こんな環境でもタフに生き抜けるものなんですねえ。


 かきごおり食べながら湖付近の砂浜を歩いていると遭ってはならぬ竜を発見した。ボートを係留する桟橋で膝を抱えている少年は太陽竜だ。街中で気軽に会えちゃう太陽神とか最低だな。


 そういえばいつかの答えもまだだ。ストラを口説き落とすために用意した俺の切り札の話だがこいつはブラフだ。でも一応面白回答は用意したぜ。

 このまま有耶無耶にしてもいいんだが、一応声をかけてみる。


「あのぅ」

「放っておいてくれ。僕だって一人になりたい時くらい……」


 ストラがこっちに振り返る。

 ぎょっとするんじゃないよ。怪物でも出たみたいな反応だな。


「君達か。迷宮への侵攻は順調かい?」

「手間取ってるって報告くらいいってるんだろ」

「ネズミの動きなんかに興味はない。そんな報告一々させるわけがないだろ……」


 嘆息を吹き散らかした太陽竜が睨みをくれてきた。

 以前なら呼吸不全に陥るほどの圧力だと思うが俺も成長している。死竜を相手に戦ってきたんだ。実際に殺す気もない奴にビビってられるか。


「カトリーだったか。彼女の治療との交換条件だ、期限を定めなかったとはいえ契約不履行の場合はわかっているね?」

「安心しろ、必ずやり遂げる」

「君らはいいね」


 太陽竜の真夏の太陽のような、石油王のバカ息子ふうの顔に浮かんだ表情は紛れもなく羨望だ。


「女のために戦う。これ以上ないくらいわかりやすい戦う理由があってさ」


「あんたには命を懸けても成し遂げないといけないものがないのか?」

「単純じゃないのさ。たまに君達が羨ましくて仕方なくなるんだ、無知と無能がゆえに生を謳歌する君達が堪らなく羨ましい」


 馬鹿にされたな。天空から虫けらを見下ろすような悩み方をしてるな。太陽竜だもんな。

 少しばかり悩んでそうな態度なので会話に付き合ってやったが俺とこいつに折り合うポイントは存在しない。さっさと本題に入ろう。


「以前答えを保留したよな。俺があんたを動かすために用意した手札の話だが、そろそろ答え合わせをしようと思うんだが」

「……」


 きょどり始めたぞ?


「そ…そういえばそんな話もあったな。すっかり忘れていたよ。わるいがもう三日くれないか?」

「そう言って前回からけっこう経ってるんだが……」


 この程度の些事をいつまでも残していたくない。さっさと済ませておきたいんだ。


「そういうなよ、僕と君の仲じゃないか」

「どんな仲だよ」

「何か不便はしていないか。今なら一つくらい聞き入れてあげるよ」


 急に親切発言だな。交換条件のつもりか?


「じゃあ竜王樹の果実を分けてくれないか。あれがあれば迷宮攻略もスムーズにいくと思うんだ」

「わかった。今期の収穫分から融通しよう。これでいいな? じゃあ三日後に!」


 太陽竜が逃げるように去っていった。

 ぽつんと残された俺とシェーファは思った。


「あいつまさか……」

「答えがわからないから先延ばしをしているようにしか見えんな」


 あれ、もしかしてこれって太陽竜に無限に要求できる手札なんじゃね?


 太陽竜ストラは自称古代魔法王国の最後の王だ。王のプライドが言葉遊びのフィールドとはいえ虫けらに屈するのをよしとしないのだろう。

 何となく気になってシェーファの顔を見る。性格のねじ曲がったホテル王の顔してたわ。


「君だって悪魔のような顔をしているじゃないか。やるんだろ?」

「おう、使える手は使えなくなるまで使うのが俺のポリシーだ」

「さすがだ」


 俺らに太陽竜ストラとかいう金づるのできた瞬間である。


 それから俺らは修業の合間を見て、太陽竜のもとへと足しげく通った。日の出と共に太陽竜の寝室をノックするぜ。


「おおおぉーい! 太陽竜さんよ、答えを聞かせてもらおうじゃないか!」

「我々は答えを要求する。大人しく出てこい!」

「寝…寝起きで頭が回らなくてね! もう少し時間をくれないか!」

「三日やる! その代わり強い武器をくれ!」


 電子マネーを百万PL貰った!

 小躍りする俺らが方々で自慢していると金のにおいを嗅ぎつけたユイちゃんとサリフにぶん取られてしまったのである。

 泣くなよ……


「このタイミングで慰謝料を持ちだすなんて……卑怯だ!」

「ホテルごと踏みつぶした件がチャラになったんだ。よしとしようぜ」

「しかし……」

「大丈夫だ。俺らにはストラさんがいる!」


 そう、俺らには財布がいる。


 それからも三日毎にストラの下へと通い続ける。


「ストラー、ストラー! 早く出てこいよ!」

「とっ、トイレ中だぞ。静かにしてくれ!」

「そう言ってもう一時間もこもってるじゃねえか。それとトイレは必要ないんだろ、知ってるんだぞ!」

「何が欲しいんだい!?」


 そのうちストラが姿を消すようになった。毎回三日後に要求に行くからパターンを見切られたのだ。仕方ないので太陽ビルから出てくるところを待ち伏せをする。

 お、太陽竜が夜中にこそこそ夜逃げするみたいに出てきたぞ?


「確保ぉー!」

「小銭を寄こせー!」

「僕の範囲知覚を出し抜いた!? いったいどうやって!」


 俺らはストラにたかり続けた。

 修業とタカリを繰り返し、気づけば谷の外が暖かくなり始めていた。季節が移り、春が訪れようとしている。


 世界樹の枝の上で果実を齧る俺らもね、さすがに驚いたぜ。

 だって谷に来たの新年の二日か三日目だぜ。もう三月か四月になってんだもんよ。


「え、早くね?」

「もう春か……」

「長居しすぎたね……」


 コッパゲ先生も呆然としている。三学期までに帰るどころか三学期が終わりかけている。正確な日時がわからないと目をそらし続けた現実に直面したんだ。


「学院は?」

「乗りかかった船から途中下船なんてできないよ。私も最後まで付き合おう」

「感謝してますよ」


 謝意を示すとコッパゲ先生が薄気味悪いものを見たふうな顔になった。


「リリウス君が素直なのには慣れないね。何か大きな悪戯の前兆にしか思えない」

「同感」

「あははは、信用がないな君は!」


 世界樹から見下ろす光景は寒々しい雪被った山景から春色へと色づき始めた。

 そろそろ死竜の迷宮に挑んでもいい頃だ。

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