激闘 泥の死竜
そして始まる第六回死竜の迷宮攻略である。
メンバーは俺、フェイ、アルルカン、ルピン、クロノス、ユイ。そしてギガントナイト『クリオサル』に搭乗するベティだ。
俺らが大伽藍に足を踏み入れると泥に沈む赤骨が浮遊する。溶岩のごとき灼熱の泥をまとった姿は泥の死竜と呼ぶほかない。それかフレイムタイラント、ミンサガ版の。
「まずはヘイト管理をする、クロノスバリアーだ!」
説明しよう。前回の攻略で気づいたが泥の死竜は生命のにおいに敏感に反応する。で、この面子の中で一番輝いてるのがクロノスだからクロノスめがけて突進してくるんだ。
俺はクロノスを抱えてジャンプ。泥の死竜の背後に回ると読みどおり俺めがけて突進してくるぜ。
「フェイやるぞ!」
「わかっている!」
大伽藍に鋼糸と夜刃による結界を構築する。竜王流の必殺陣『鋼斬糸結界陣』だ。アロンダイクの単分子ワイヤーと夜の魔王の呪具による結界だ、こんなところで高速飛翔すればどうなるかなんて誰にでもわかるよな!
俺めがけて超速で突進してくる泥の死竜から泥が剥がれ落ちていく。ワイヤーや夜刃に切り落とされているんだ。
俺はその間に全力回避。日頃イルスローゼ最速の冒険者ルピンさんと訓練してるんだ、回避に振り切れば余裕でかわせる。今回は回避だけでいいんだ。ステルス機能を使わない時だけ使える大技もいけるぜ。
「ステ子、ステルスカノンだ!」
夜の極光を高速射出! 煌く星明かりを残しながら飛翔する極光が泥の死竜と衝突して宙に弾き飛ばした。やはり最高の破壊力だ。一日一回こっきり超火力だけはある。
泥の死竜を守る泥もかなり減っている。もういけるか?
「後衛火力組、一斉砲撃!」
アルルカン、コッパゲ先生、ユイちゃんが詠唱に詠唱を重ねた魔法を放つ。
アルルカンは蛇の王リューエルの召喚魔法。コッパゲ先生は精霊などのハードエレメンタル破壊用魔法アストラルバスター。ユイちゃんは謎のグレイドランス・レインとかいう頭のおかしい魔法。
神話級に最上十二位階魔法まではまだ理解できる。しかしユイちゃんの魔法が謎すぎる。召喚された八人の暗黒の戦乙女が瞬間移動を繰り返しながら暗黒の突撃槍で泥の死竜を串刺しにしたり弾き飛ばして刺したりと凶悪な連携を加えている。
あ、地面に叩きつけられた泥の死竜に向けて、自らの身をランスに変えた戦乙女たちが突っ込んでった。地面に磔刑された泥の死竜が動かないぜ……
「ユイ君、いまの魔法はいったい……」
「ヴァルキリーの召喚だと? それも八体同時とは……」
あの二人がどん引きするって相当やべーな。
泥の死竜は動いてないけどまだ不浄の息吹を感じる。俺の魂に宿る生命と癒しの大神のちからが忌避なる魔のちからの波動を伝えてくる。
「まだ息がある。ベティ、撃て!」
「りょ!」
重粒子サークルブラスターは古代における竜種狩りの武装だ。ドーナツ状の冷却加速器を回り続けるアルゴン素子(24ym)は理論上光速の十分の一にまで加速する。月の反射光が地球に届くまでの時間が1.2秒とされているからアルゴン素子を宇宙空間に解き放てば12.55秒の後に月の大地を穿つのだ。
重粒子サークルブラスターから放たれるアルゴン素子の破壊力は実測値は……
まぁ数値なんてどうでもいいか。見ればわかるんだ。あいつの威力は電磁式レールガンなんて目じゃねえぜ。
ブラスターの引き金を引くと同時に砲把から逆噴射バーニアが噴き出し、砲身から光が―――刃のように走る。
重粒子の刃が泥の死竜の赤い頭蓋骨を両断し、そのまま背骨を真っ二つに割っていく。大破壊だ。余波が嵐となって吹き荒れる最中に先生が叫ぶ。
「権能を看破した! だがこの現実を改変する!」
コッパゲ先生の眼がグルンと裏返る。魔族のような真っ黒な眼球と赤い瞳から解き放つのはアシェラの裏秘術『改変眼』、泥の死竜に存在する権能を存在しないものへと改変する。
だが先生の眼からレーザービームのように放射される現実改変のちからが泥の死竜に弾かれ続ける。なおも照射され続ける改変眼の負担は相当なものか、先生の唇から血がこぼれる。
「うぐぐぐぅ――――若者がっ、ここまでやるんだ! 私一人だけ老いを理由に逃げ腰なんて許されるものかあああああああああ!」
「フェイ、アルルカン、先生をフォローするぞ!」
前衛三人組で揃って地面に磔になっている泥の死竜に打撃を加える。レジスト値を削り切るまでは至らなかった三連撃の後―――
ぽっちゃりクロノスが無色の剣を構えているぞ!? 馬鹿、出てくるな!
「貴様の相手もそろそろ飽いたところよ。消えてしまうのだな!」
クロノスが無色の剣を振るう。
斬撃の通過するところすべてを無に還っていく。何もかもを消去する剣が、泥の死竜に残っていた存在力まで消してしまった。……思い出した。そういえばこいつクソチート持ってたんだった。さすが未来の最高神。
そしてどや顔でピースサインをする我が息子。
「ブイというやつだ!」
「「おおー」」
みんなして拍手である。生後一年未満のくせに竜殺しとかエリート戦士すぎる。
みんなで拍手をしていると迷宮の壁から轟音。
どーん!という音と共にそれまで壁だった場所が扉になって、重々しい音を出しながら開いていく……
しかも扉は二枚あるのである。片方は閉じたままだけど。
俺たちは忘れていた。なんかもうこいつを倒せば攻略だろみたいな気分でいたからすっかり忘れていたのだ。迷宮にボス一頭ってのはありえないよね。
しーんってしてる。みんな無言だ。ここは俺から言うしかないよね。
「とりあえずどんな敵か見るだけ見にいく?」
俺が開いてる扉の方を指さして言うと、みんな疲れて重たくなった足を引きずって奥に往くのである。
神様ティト様、どうかゴブリンくらいでお願いしますよ。